51【悪魔×浴衣③】
リリィの顔に金魚、いや、出目金の放った水しぶきが盛大にかかる。
「ふにゃんっ! くーやーしーっ!」
「一番大きな出目金なんて狙うから反撃されるんだろ? そこの小さいやつにしとけよ」
まるでリリィのような小さい金魚を指さした僕をリリィは膨れて睨みつける。
「い、嫌よ! あの使い魔がいいの!」
「いや、だからあれは金魚、さかなだよ」
「あんなに気持ち悪い顔してるのに、それがお魚なわけないでしょ! 間違いなく使い魔よ!」
という事は、これは使い魔すくいか?
そしてリリィの中で使い魔は気持ち悪い顔なのか?
ゼムロスさんとクロウは確かにキモいけど、
「も、もう一度よ!」
「はいはい、これが最後な」
リリィはポイを構える。もう必死過ぎてお尻とか突き出して、尻尾もこの上なくピンと伸びてる。
「とぉぉりゃぁっ!!」
突然リリィが激しく水面を打ち大きな水しぶきを起こす。そして、その混乱に便乗して尻尾を水の中へ。そのまま目当ての出目金を絡めとり自らの皿に放り込んだ。
「ふん、どんなもんよ!」
いやいや、金魚すくいのおじさん、完全に気付いてるぞ。反則だ、反則。
と、僕が返品させようとした時、おじさんがリリィに声をかけた。
「お嬢ちゃんの気合いに免じて、今のは見なかった事にしてやる。持って帰んな、その出目金!」
「な、なんのことかしら……?」
「ガッハッハ! お嬢ちゃん、ブレないな」
「ふふっ、おじさまも私がお嬢様だと分かるのね? 中々見る目があるわ。さ、かんじ。このキモいのはアンタが持ってなさいよね?」
嫌なら影に入れろよな。仕方ない、持ってやるか。
次は射的、輪投げとまわり、スマートボールも久々にやった。クジ引きではリリィが大当たりを引いて周囲を驚かせた。
景品はなんと最新のゲーム機本体だった。
「変な箱ね。それより可愛い奴が良かったわ。かんじ、コレはアンタにあげるわ?」
「え……いいの?」
いや、コレ、買うと四、五万はするぞ!?
「私からの愛のしるしよ」
「リリィ……」
「なんてねー、馬鹿。何顔真っ赤にしてんのよ? 私にドキドキしてんの? ねぇ?」
「茶化すなよ……」
「もう、これだから童貞さんは」
「お前も処女だろーが。いやでも、本当にいいのか?」
リリィは数歩前を向いて歩き、くるりんと振り返って僕を真っ直ぐに見やる。
「どうせ一緒にいるんだから、かんじが持ってても変わらないでしょ? 今度私にやり方をレクチャーしなさいよね? そして勝負よ!」
リリィなりの、照れ隠しか。
でも顔が真っ赤になっててバレバレだ。
「ありがとな、リリィ」
「ふ、ふん。どういたしまして」
その時、空から大きな音が聞こえた。花火だ。
打ち上げ花火が空を綺麗に彩っている。音に反応したリリィの尻尾はピンと伸びた。
それも次第に上機嫌な横振りに変わる。ゆっくり、左右にフリフリするのは機嫌の良い証拠だ。
「ねぇかんじ?」
「どうした?」
「綺麗、ね」
「そうだな。綺麗だな」
祭りの夜も終わりを告げ、人もかなり少なくなった頃、僕とリリィも帰路についていた。
リリィはとても満足そうに僕の前を歩く。
「中々楽しかったわね、また来ましょう?」
「あぁ、また来年も。一緒に来れたらいいな」
「来れるわよ。だってかんじと私は離れられないんだから。ちゃんと責任とりなさいよね?」
そう言ってリリィは悪戯に笑った。闇の中のその笑顔は最高に綺麗で、正直、可愛かった。
『ソウイウコトカ。ゴシュジンニホウコクヤ』
何だ? この声は?
『ワイノニンムハカンリョウヤ。ホナ、イッタンズラカルデ〜!』
僕の持っていた出目金入りの袋が突如弾ける。そしてそこからあの気持ち悪い特大出目金が飛び出しては僕達の前にフワフワと浮いている。
どういう事だ? まさか、本当に使い魔!?
「ちょっとアンタ! 何勝手に逃げようとしてるのよ! 任務って何よ。誰の使い魔なの!」
『ビービーウルサイショジョヤナ。シンパイセンデモチカイウチアエルワ。ホナサイナラ』
「ま、待ちなさいっ……っ……消えた……」
まさかまた一人サキュバスが増えるのか?
「リリィ、大丈夫か?」
「ふぇっ!? あ、うん……大丈夫……」
どうした、そんなに驚いて。あれ、右手に何か紙切れを持っているな。
僕がその事を口にしようとした時、リリィはそっと紙切れを影に落とし何食わぬ顔で言った。
「か、帰りましょ?」
まぁ、何でもないか。
使い魔がいるのも今となっては珍しくもないしな。
あまり遅くなるとうるさいし、今はとりあえず帰る事にしよう。
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