50【悪魔×浴衣②】




 フリフリ、フリフリ、うん、リリィはこの上なく上機嫌だ。尻尾がそれを物語っている。

 荷物はリリィの影に収納してある。この影システムは本当に役に立つよな。ま、その代わり出してもらう為には、リリィにお願いする必要があるけれど。


「う〜ん、かんじ〜」

「どうしたんだよ?」


 リリィは少し歩きにくそうにしては足元のつっかけに視線をやる。


「慣れない靴で歩きにくいのよ。く、空気読んでゆっくり歩きなさいよ、馬鹿」

「わ、悪かったよ。ならバスにでも乗ろうか。歩いて行けない距離じゃないけれど」

「えっと、かんじ……」


 どうしたんだ?

 リリィは頬を赤らめ小さくなってしまった。


「……む……かんじ、アンタは本当に何も分かってないわね!」

「痛っ……蹴るなって、もう……!」

「馬鹿かんじ、とっととバスをつかまえなさい!」

「バスをタクシーみたいに言うなよ。バス停までは歩かないと」


 僕とリリィは少し歩いた先のバス停からバスに乗り隣町へワープした。


 バスを降りると目の前に大きな公園が見えた。屋台が所狭しと並んでいて、既に人々がひしめき合っている。お祭りなんて久々だけれど、何だかテンションが上がるな。それに……


「何、ジロジロ見ないで?」

「はいはい、んじゃ、とりあえず歩いてみるか!」

「ふん、ちゃんとエスコートしなさいよね?」



 公園はカップルや友達同士、子供連れとごった返している。適当にイカ焼きなんかを食べながら歩いていると、大人数の幼女を連れた少し目付きの鋭い男の姿が見える。

 大変そうだな、あれ、皆んなあの人の子供か?

 いや、それはないよな。


『のんよ〜!!』


「うわっ!?」


 その中の幼女一人が僕の前を凄い勢いで走り去って行く。恐ろしく速い小走りだったな。


「……あの子……いえ、気のせいよね」

「どうかしたかリリィ?」

「ううん、何でもないよ。ほら、次はアレが食べたいわ!」

「おう、フランクフルトか」


 イカ焼き、たこ焼き、りんご飴からの綿菓子、で、更にフランクフルト、今日のリリィは良く食べる。

 しかし分からなくもない。お祭りの屋台で食べるのは何か特別な感覚がするものだ。

 普段から食べているたこ焼きさえも一際美味く感じるし。

 もう少し歩いてみるか。


「リリィ、そろそろ食べ物以外も……って、あれ?」


 リリィがいない。逸れてしまったか?

 と、僕が辺りを見回していると、近くで強烈な玉砕音と男の悲鳴、いや、断末魔が聞こえてきた。

 人混みの中からスポンと抜け出して来たリリィは不機嫌そうに僕を見上げて頬を膨らませた。


「馬鹿かんじ、置いてくから変な男に絡まれたじゃない……」

「ごめんリリィ」

「こ、怖かったんだから……」


 え、ほんとに?


「……かんじ」

「おう、他もまわろうか?」

「そ、そうじゃないわよ……こ、これよ」

「……ん、手だな」

「だーかーら……ん!」


 あ、そうか。

 逸れないように手を引けって言ってるんだな。


 僕は差し出された小さな手を握った。ほんのり温かいリリィの手が、僕の手を握り返してきた。

 リリィは満足そうに口元を緩めては尻尾をゆっくり左右に振る。


「つ、次は何するの?」と、リリィ。

「そうだなぁ、クジ引きとか射的とか、あと輪投げ、金魚すくいなんかもあるな。何にする?」

「そうね……か、かんじに任せるわ」


 毎回思うけれど、リリィって意外と受け身なんだよな。よし、ならまずは金魚すくいでもやらせてみるかな。反応が面白そうだし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る