48【間宮vs暁月】※
「ちょっと、あの二人全然帰って来ないじゃない」
膨れた間宮遥香はこぼれ落ちそうな胸を震わせながら頬を膨らませては悪態をつく。そんな彼女の言葉を聞いては、暁月海月が悪戯に微笑む。
「これは夏の魔法だね〜、にしし」
「へ、変なこと言わないでよっ。あ、あの二人がそんな関係になる訳……マリア、捜しに行くよ!」
遥香が歩き出そうとするのを海月の手が引き止める。振り払おうとするが、海月はその手を離そうとしない。
「な、何よ暁月さん!? わたしは漢路君のところにっ! はなしてよ!」
「離さないね」
「何なのよ!?」
「やめなよ、分かってるでしょうに。今間宮マングローブが行ってもお邪魔虫だって」
遥香は渾身の力で海月の手を振り解きマリアを見やる。マリアは尻尾をピクンと反応させ目を逸らした。
「……そんな、マリア?」
「ご、ごめん遥香〜。多分、今行くと遥香が傷付くんじゃないかな〜って」
「マリアまで……そ、そんなことない。わたしは行くんだから!」
「い、いい加減にしなよっ!」
海月の声が夜の海に響く。聞き慣れない声に田中と小野、太田も振り返る。
場の空気は一気に緊迫する。海月は視線に気付いたのか強張らせた顔をいつもの表情に戻すと、おちゃらけた声で言った。
「いや〜、ごめんごめん。何でもないよ〜。あ、そうだ間宮さん。一緒にお手洗いに行こう」
「な、何よ!?」
「……いいから来いよ。そんなに見たいなら、自分の目で見ればいいさ」
「……あかつき、くらげ……っ……」
「顔がこわいよ? そんなので彼が振り向いてくれるのかね」
「……ふん、行くわよ」
マリアの制止を無視して二人は闇へ消えて行った。
「……あ……遥香〜」
『こりゃぁ一悶着ありそうか?』
ゼムロスがマリアの頭に着地する。そこに
『人間も魔物も、恋わずらいってのは厄介だにゃ』
『グェッヘッヘェ』
「リリィは特例らの。でも、リリィはあのご主人のこと、多分好きだと思う」
『……だろうにゃ。乗り越えるチャンス、にゃのかも知れないにゃ』
マリアは尻尾を振りながら、徐に言葉をもらす。
「遥香よりも、多分……」
「どうしたお?」
ココも尻尾を反応させてマリアに問う。しかしマリアは、はぐらかすようにココを愛で始めた。
「ぬぎゅ!? へ、へんらとこ触らないれれっ!?」
『……だから、落ち着けにゃ』
「お〜、ココのおしりはプリプリだな〜! どれどれ、尻尾の付け根は感じるかな〜?」
「これが落ち着いてられるかぁっ!?」
『お、噛まなかったにゃ』
一方、海月に連れられて海の家の裏まで来た遥香。
「ちょっと、何処まで行く気よ?」
「……あのさ〜、間宮さんは鈴木ングのこと、好きなのかい?」
「あ、当たり前のことを聞かないで」
「ほ〜、鈴木ングは隠れモテ男だからね。でもさ、少しばかり異常だと思うんだよね、おじさん」
「異常……どこがよ。それと、その変な話し方やめてよ」
「それは無理だね。間宮マングローブ、君は鈴木ングの存在で自分の何かを埋めようとしているように見えるのだよ」
暁月海月、彼女の視線は真っ直ぐに間宮遥香を見据えている。遥香は目を合わさない。
「……わ、わたしはただ、漢路君が好きで……もっと近付きたくて、わたしを愛してほしいだけ」
「違うよ。身体を求める理由が他にあるんだろ?」
「……アンタさ、あまり勘ぐるのはやめなさいよ」
遥香は海月を睨み付ける。しかし海月は怯まず言葉を放つ。
「図星、かな。そんな気持ちで彼に近付こうなんて。教えてあげるよ。鈴木ングはリリィのことが好きだよ。それにリリィも。二人は両想いなのさ。つまり、間宮さん、君の入る余地はないということだよ。傷付く前に諦める方がいいよ」
沈黙が走る。
その沈黙を切ったのは遥香だった。
「……ご忠告、ありがとうね。でも、わたしの気持ちは本物。アンタの言ってることは一理あるわ。でもね、それをアンタに話す気なんてないから」
「そうかい」
「……せいぜい仲介役を楽しみなよ」
遥香はそう言い残し去ってしまう。
黙り込んだ海月は親指の爪を噛む。フラフラと遥香とは反対に歩いて海を眺める。
船着場には、二人の影が見える。
暁月海月は一人呟き、その場を後にするのだった。
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