44【リリィの夢③】


 サキュバスの学校で学ぶ事は人間界、つまり僕達の通う学校で学ぶものとは大きく違っていた。

 確かリリィが言っていた。これくらいなら授業でもやった事あるとか。


 それを当たり前のようにこなすサキュバス幼女達。聞いていたとはいえ、いざ目の当たりにすると少しばかり困惑する。いや、少しばかりではなく、のけ反りかえって奇声を上げてもいいくらい衝撃的な事だけれど、なにぶん身体は自由に動かない訳だ。


 一年生のリリィは周りの誰よりも早く成長、技能を習得していった。劣等生というより、どちらかと言えば優等生に見える。


 そこでまた場面が変わる。



 ……あれは、イケメンボーイじゃないか。


 リリィは海辺で黄昏れる彼を後ろからじっと見つめている。尻尾がフワフワと揺れている。頬を染めて瞳は蕩ける。

 そうか、リリィは。


 すると彼がリリィに気付いたようで優しく微笑んだ。リリィはピクンと反応してはゆっくりと彼の横に座った。その顔は完全に恋する乙女だ。

 幼いながらにリリィは彼に恋をしているようだ。


 会話が聞こえてくるな。



「——は海が好きだね?」

「うん、海を見ていると何だか解放された気分になるんだ。あの波に流されて何処までも遠くに行けたらなって」

「……やっぱり、お家が厳しい?」

「正直、息苦しいよ。こうやってリリィに会っている事もバレると大変だしね」

「……ご、ごめんなさい……」


 リリィの尻尾がフニャッと萎びてしまう。そんなリリィに対して首を横に振った彼は言葉を続ける。


「謝る事なんてないよ。こうしてリリィといる時間は俺にとっても息抜きになるし。それに……」

「そ、それに……?」

「俺はリリィがだから」


 リリィの尻尾はピンと跳ねる。顔は真っ赤で動きもカクカクとぎこちなくなった。


「な、なな……何をっ……」

「リリィは俺が嫌いかい?」

「き、嫌いじゃないよ……す、好き……ちょっと、意地悪しないで!」

「ははは、ゴメンゴメン。リリィの照れた表情がおかしくてね。ついついイジメてしまうんだよ」



 あのリリィの扱いを完全にマスターしている。


「ねぇ——、わたしも一緒に遠くに行きたい。そして私の初めてを——にあげて、そのまま忠誠も誓うの。——以外の男なんて知りたくもない」

「リリィはサキュバスなのに?」

「サキュバスでも……ちゃんと人を好きになれる」

「そうか、リリィは他のサキュバス達よりも早く真実の愛に目覚めた訳だね。うん、約束。いつか二人であの海を越えて、静かに暮らそう…………約束だ」


「ほんとに?」

「あぁ」

「じゃぁ……してもいい?」

「束縛って、あのおまじないかい?」

「うん、わたし以外の女に近寄れなくするの」


「リリィらしいな。……いいよ、好きにしてくれたら。それでリリィが信じてくれるなら」


 リリィは小さく微笑み彼の背中に指を突き立てた。


「ふふっもう逃げられないからね」

「……だから、逃げないって」

「お、男なんて口先だけなんだから、多分。先生が言ってたもん」


 彼の背中に魔方陣が吸い込まれていく。やがてそれは完全に彼の身体に馴染みスッと消えた。

 いったい今のは何だったのだろうか。


 そこで再び視界が暗転。

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