41【リリィと線香花火】
線香花火って、なんかアレだな。
「……」「……」
何か話した方が良いのか。リリィの線香花火を見る瞳に火花が映り込んでいる。
「む……じろじろ見ないでよ……あ」
悪態をついたリリィの線香花火は地面に落ちる。リリィは膨れて尻尾をピンと立てた。
「これで僕の四連勝だな。そろそろ負けを認めたら?」
「す、すずきのくせに生意気よ。もう一度よ!」
リリィは線香花火を二つ取り一つを僕に差し出した。本当に負けず嫌いな性格だな。
でも、これだけはわざと負けたり出来ないしな。何とか一回くらい勝たせてやりたいのだけど。
「何よ。すずきのくせに憐れみを帯びた顔で私を見ないの。……ほら、火をつけなさい?」
「わかったよ」
僕は気付かれないように先に自分の花火に火をつけ、少し遅れてリリィの線香花火にも火をつける。リリィは少しムッとした表情を見せたけれど、プイッと向こうを向いて花火と睨めっこを始める。
「……ねぇ、アンタって女性恐怖症なのよね?」
「ま、まぁ……多分。小さい頃からずっと、それこそ母さんにまで懐かなかったみたい。触れられると拒否反応が起きる」
聞いているのか、聞いていないのか。リリィは僕と目を合わす事なく、ふーん、とだけ言って花火を見ている。
少しするとリリィは再び口を開く。
「なんで私は大丈夫なのよ……」
「そ、それは……僕が聞きたいくらいだ」
リリィの尻尾はゆっくりと左右に振られている。あまり見た事ない、少しぎこちない動きだな。
「なんで、アンタなのよ……」
リリィの花火が消えた。その後すぐに僕の花火も消え一気に視界が暗くなる。
「なんでよ……」
「……おい、リリィ?」
小さな身体は震えている。俯いたリリィは下唇を噛み締めた。
「何言ってんだよ、勝負は勝負だろ?」
「……うるさいっ、すずきのくせに、すずきのくせに、すずきのくせにぃっ……なんでアンタが……アイツの……こんなの……」
リリィは持っていた線香花火のゴミを僕の顔面に投げつけて立ち上がった。そして一人走り去ってしまった。どれだけ負けるのが嫌いなんだよ。
しかもちょっと熱いし……と、そんな思考を巡らせているとゼムロスさんが僕の肩に降り立つ。
『兄弟、追いかけてやらねぇのか?』
「ゼムロスさん。怒ったリリィのややこしさは使い魔のゼムロスさんが良く知ってるだろ?」
『そうじゃねぇやい。兄弟、どうやらリリィとお前が巡り合ったのは偶然じゃぁねぇかも知れねぇ』
「ど、どういう意味ですか……?」
『リリィに直接聞いてみやがれ。兄弟、お前はリリィの主人だろうが。リリィが話さなくてもオーダーで口を割らせることも出来るんだぜ』
ゼムロスさんはそれだけ言って僕の肩から飛び立ち、
『真実を知った上で、お前がどうするかは自由だぜ。リリィは限界だぜ、楽にさせてやってくれると助かるが……お姫様は船着場の方にいるぜ』
「……真実、限界……よく分かりませんが、船着場ですね。少し行って来ます」
僕は花火のゴミをバケツに入れ、リリィの走って行った方へ足を向けた。振り返ってみると、使い魔達がゼムロスさんと何か話しているのが見えた。
何を話しているかまでは分からない。
とにかく、今はリリィを探すことを優先しよう。
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