40【二人きり】



「うおおぉぉっ!?」ぴーん!

「ひょえぇぇっ!?」ぴぴーん!

「はわわわわっ!?」ぴぴぴーん!



 花火に火がつくと同時に尻尾をピンと硬直させる三人のサキュバス達は腰が引けて何だか変な格好になっている。

 というか、マリアはいかにも知ってそうだったのにひょえぇぇっ、とか言ってるし。本当、適当な性格してるわ。


 そんな彼女達を横目に僕は間宮さんと暁月とで花火に火をつける。太田もそこに参戦する。

 赤や緑、白といった火花を散らす花火はとても綺麗だ。それに照らされた二人の笑顔もいつもより可愛いく見えたりする。太田は別として。


 だと言うのに、向こうでは使い魔達に花火をけしかけるサキュバスが……


(※)危険ですので、絶対に真似しないでね。 使い魔は大事にしましょう。



『おいこらリリィ、やめろって熱いっ!』

『にゃらすらばっ!!』

『グエッヘッヒャァーー!?』



「お、鈴木ング閣下。あれを見たまえ。あの二人、中々いい感じだと思わぬか?」

「ん?」


 あれは……田中と小野か。二人で仲良く花火なんか見つめてやんの。あの二人、そんな仲良かったっけな?


「夏の魔法だよ、鈴木君もリリィちゃんと二人でどうだい?」


 太田が肉を震わせる。すると間宮さんがその肉を引っ張り出す。


「よ、余計なこと言わないでよ太田君!」

「ブッファン!?」

「漢路君はわたしと一緒に花火を楽しんでるんだからさ」


 間宮さんがムキになってしまった。そんな彼女を横目に思い付いたかのように立ち上がった暁月が間宮さんの手を掴むと言った。


「いや〜、間宮マングローブさん、ちぃとトイレについて来てくれやしないかい?」

「え〜、一人で行けばいいのに……」

「だってほら、暗いし、女の子一人じゃ」

「な、なら太田君に頼めば……」


 そう言って太田の肉を摘もうとした間宮さんの指が空を切る。よく見ると、太田がサキュバス達の馬になっていた。遂に駆り出されたようだ。


「んじゃ、頼むよおっぱいちゃん!」

「そ、そんな呼び方しないでよ……し、仕方ないなぁ……もう」


 間宮さんは心底迷惑そうに連行された。僕としては少しホッとしているけれど。

 ん、向こうから馬が近付いて来るぞ?


 馬は背中に乗せたAAサイズのピンク悪魔を僕の前に振り落とし再びマリアとココに突撃、そのまま向こうへ連れて行ってしまった。


 ……えっと、どうしようか。



「いたた……おおたのやつぅ、乱暴なんだから。な、何見てんのよ、すずきのくせに」

「そりゃあれだけ見事に飛んで来たら見るって。……花火、するか?」

「仕方ないわね、付き合ってあげるわ?」


 リリィはそう言って手を出し、尻尾を左右に振る。花火を寄越せの合図だろう。

 僕は線香花火を取り出しリリィに手渡した。


「なんだか小さいわね?」

「これも風情があって悪くないんだ。長く光ってた方の勝ちって事で、勝負だな」

「ふん、望むところよ」


 こうして僕とリリィの線香花火対決が幕を開けた。

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