39【ビーチバレー対決】※


「うおおおー!!!!」

「ヌギャァァ!!!!」


 早泳ぎ対決は田中とココの独壇場と化していた。もはやその勢いについていけない太田、小野、暁月はプカプカとその様子を伺っている。


「いよっしゃぁ!! ジュースゲット〜!」


 勝者は僅差で田中だった。ココは心底悔しそうに下唇を噛む。


「悔しいっ! ちょっとくらい手加減しなさいお?」

『だから落ち着くにゃ……』


「勝負の世界は甘くないんだぜココちゃん? 駄目駄目、尻尾フリフリして可愛い顔してもジュースは貰うからな?」


 田中は意地悪に笑って見せた。無駄に白い歯がキラリと光るとココのおデコに反射する。

 砂浜には無言のカキ氷デート中の漢路とリリィの姿が見える。


「あちゃ〜、全然駄目だね〜」と、暁月。

「あの二人はあれでいいんだよ、きっと」


 太田は知った風なことを言っては肉を震わせた。田中は悪戯にその腹肉を摘む。


「今度の勝負は何にするの?」


 ココはまだやる気のようだ。すると小野が提案する。


「み、みみ皆んなでビーチバレーは?」


 小野の提案に皆が快諾、一度砂浜へ戻る事にした。途中で絡まり合う遥香とマリアも回収。


 こうしてチーム対抗ビーチバレー対決が始まった。



 チーム分けは……


 Aチーム、


 鈴木漢路

 リリィ

 暁月海月

 間宮遥香



 Bチーム、


 田中強彦

 小野礼奈

 ココ

 マリア


 審判、太田細海。



 ……


 太田は肉という肉をこれでもかと震わせながら開始の合図を出す。


 田中のサーブは見事に相手コートの海月の頭にヒット、バウンドしたボールを何とか拾おうとする漢路は華麗なバックステップで移動した。


「はっ!? 漢路君チャーンス!」


 遥香はここぞとばかりに海月を飛び越えると、そのたわわな果実で漢路をホールドした。


「ぐわっ!? ま、間宮さん何してんの!?」

「何って、抱き締めてるんだよー?」


 するとそこにリリィが割り込み乱闘が始まる。


「ちょっと離れなさいよね!? すずきが苦しんでるじゃない!」

「はぁ!? ペチャパイは黙ってなさいよ! ゴーヘル!」

「くっ……アンタ……遺言は言い終えたかしら?」


 漢路をめぐって乱闘中の二人を無視して海月が自らフォローに入る。何とか相手側へ返ったボールはフワフワとしたチャンスボールだ。

 それに反応した小野礼奈が高く跳躍、強烈なアタックが砂浜をえぐった。


「やった!」

「やるな小野〜イェーイ!」

「い、いい、いいえぇ〜いっ!」


 ラッキーハイタッチに胸を躍らせる礼奈は頬を紅潮させながら屈託のない笑顔を見せる。田中も白い歯を光らせた。海月はそれを見て、「ほう〜」と唸り、太田は肉を震わせた。


「やったね、小野さん。田中君とタッチ……ブグッファォーーーーーン!?」


 太田は審判と言う名の肉塊と化したが、試合は続く。両チーム一歩も譲らないラリーが続く。


 ココは尻尾でアタック。その強烈なボールはリリィの顔面にめり込み、場の空気が激変する。

 遥香が腹を抱えて笑う中、リリィは真っ赤なオーラを身にまといココを睨み付けた。


「こんの……チビ!」

「ひっ……チ、チビって殆ど同じらないお!?」

『ココ、言葉がめちゃくちゃにゃ』

「こんの……ペチャパイ!」

「サイズ同じれひょっ!?」

『落ち着けにゃ』


「こうなったら……ルール変更。ドッジボールよ! 死んでも文句は言わないでよね!?」


「の、ののの、望むとこりょ……ところひょっ!」

『……』



 もはやビーチバレーではなく、ただの喧嘩と成り果てたソレを皆で見学。死闘の果てに二人のサキュバスが伸び切ったのを確認した漢路達は海の家で昼食をとり、再び海ではしゃいだ。


 次第に日は暮れ始め、楽しかったひと時も終わりを告げようとしている。


「おーい、みんな花火しようよ〜!」


 マリアは尻尾を振りまくりながら花火の入った袋を手に取った。


「暗くなって来たし、そろそろ頃合いかもな」

「バケツに水を入れてくるよ」


 田中と太田も準備に取り掛かる。リリィは瞳を瞬かせ漢路を見上げた。


「花火?」

「知らないの? ま、やれば分かるよ。マリアですら知ってるんだから」


 そこにココが割り込む。


「花火が何か知らないけど、勝負よリリィ!」


 漢路はココの頭に軽くチョップをかまし、


「花火で勝負は駄目だココ。怪我したら大変だろうに」

「む、リリィのご主人め……ふんだ!」

「ほんと、お子ちゃまなんだからココは」

「むむっ、リリィのくしぇにっ!」


『だから噛み過ぎだにゃ……』

『いや、そのツッコミ、もういいんじゃねぇか?』

『グエッヘッへ!』


 ——正に現場はカオスである。

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