31【リリィの気遣い】※
賑わうグラウンドから、今も継続している他クラスのカウントが聞こえる中、校舎裏で一人小さくなっている少女がいた。
間宮遥香、彼女は校舎の壁を背に座り小さくため息をついた。
「わたしって、ドジだなぁ……」
「そうね、どうしようもないドジね」
「あ、リリィ……何よ、わたしを笑いに来たの?」
「はぁ、アンタね、人が心配して見に来てやったのに、その言い方はないんじゃないの?」
リリィは座り込み俯く遥香の前に立っては尻尾をピンと立てる。
「だってさ、あれだけ練習では調子良かったのに……本番で三回ってないよ」
「ま、確かにないわね。でもね、それはアンタが万全の状態だったならって話よ? ちょっと左足首を見せなさい?」
リリィはしゃがむと遥香の左足首に手を伸ばし、少し強めに握った。遥香は「いっ」と悲鳴のような声を漏らし、瞳に涙を浮かべる。遥香の左足首が赤く腫れているようだ。
「アンタ、なんで怪我してるって言わなかったのよ? こんな状態で跳べるわけないでしょ?」
「……ごめん」
「騎馬戦で頑張り過ぎちゃったみたいね、ほら」
「え?」
「え? じゃないの。保健室行くよ?」
「大丈夫だよ……これくらい……」
「いいから来なさい! 最後のリレーまで休んで、そこで逆転よ! アンタも早く帰って来て応援しなさいよ? そのデカパイ揺らしてね。勝負はまだ終わってないんだから!」
リリィは尻尾で遥香を簀巻きにして軽々と保健室まで運んで行った。
そんな姿を校舎の屋上から見ていたココは金色のツインテールを風に
「何あのリリィ? 玉砕らしゅくない。あの孤高のリリィが青春してるなんて信じらんにゃい……らんない!」
『お前噛みすぎにゃ、落ち着けにゃ』
「お、落ち着いてりゃわ、あ……もうっ、
ココはプイッと横を向いてしまう。
使い魔の影猫、真黒はやれやれといった表情でピョンと跳ねると、ココの綺麗な金色頭に飛び乗る。
『羨ましいにゃ?』
「そ、そそ、そんなわけないでしゅっ……う、羨ましくなんて……リリィもマリアも馬鹿よ。このまま魔界の学校サボってたら退学処分になっちゃうかも知れらいのに」
『リリィ嬢に関しては出席日数完全にアウトだからにゃ。手遅れにゃよ』
「リリィ……なんで魔界から居なくなって人間なんかと仲良くしてるのかな」
『さぁにゃ。にゃにはともあれ、ランクA以下のサキュバスが人間界に一日以上滞在し続けるのはタブーだにゃ。ココ、お前も例外じゃにゃいにゃ?』
真黒は声のトーンを少し下げる。
「わ、わかってるわよ……だからちゃんと毎日帰ってるでしょ?」
『それならいいけどにゃ。毎回迎えに来させられる従者は気の毒で仕方にゃいけどにゃ』
「それはいいの! 従者なんらから!」
『お前、もしかしてだけど……変にゃこと考えてにゃいにゃ?』
「な、何よ……」
『お、見るにゃ。二人三脚が始まったにゃ!』
グラウンドに目をやるとリリィに引きずられて砂埃を立てる漢路の姿が見えた。どうやら保健室から帰って来て競技に参加しているようだ。
見事に一着でゴールしたが、その代償は大きい。
そんな漢路のダメージは御構いなしで楽しそうに笑うリリィを見て、ココは頬を膨らませる。
『そろそろお迎えが来るにゃ?』
「もう少し見て帰る」
『ま、好きにしたらいいけどにゃ。帰った後はにゃぁに任せろにゃ。ちゃんと見張っててやるにゃ』
「うん、ありがと真黒。ふわぁ〜ぁ」
『まだ三時だにゃ? 欠伸には早いにゃ。本当にココはお子ちゃまだにゃぁ。ま、そんな所が可愛いんにゃけどにゃ』
「はぅ、馬鹿にしらいれ……はわぁ……」
言葉と反して眠そうに頬を染めるココは、頭の真黒を抱きしめて必死に眠気と戦いながら体育祭を見学する。
「……にんげん、かぁ。変な生き物」
そして今、
体育祭最後の競技、クラス対抗リレーが始まろうとしている。
得点はB組がトップ、A組は二位だ。点差は僅か、つまりはこの競技の結果で優勝が決まる。
A組の走者は教師を含め六人、
第一走者、
第二走者、
第三走者、
第四走者、
第五走者、リリィ
アンカー、
果たしてA組は見事勝利を勝ち取ることが出来るのか。遂に最終決戦が幕を開ける。
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