30【最強タッグ誕生】



 夢咲高等学園の体育祭は折り返しを迎えていた。得点はほぼ横這いで、一進一退の激戦。そして今、遂に後半戦が始まろうとしていた。


 後半戦には目玉競技が目白押しで、必死に特訓もした大縄跳びや騎馬戦もある。


 この辺りの競技を制する事が優勝への近道だ。


 次はいよいよ騎馬戦だ。

 クラスの女子、しかも騎馬戦に参戦する筈だった女子が貧血で倒れてしまった代わりに間宮さんが参加する事になった。


 クラスメイト達の勧めで眼鏡を外しての参加となった訳だけど……大丈夫かな。

 あの夜中の特訓を見られてしまった事で、眼鏡を取るとオラオラ系に変化する事もバレた訳だ。しかし、当の本人、間宮さんは何だかスッキリした感じにも見える。


 本当の自分を隠さず、それでも受け入れてもらえた事が嬉しかったのだろうか。

 何はともあれ、危険度Aの間宮遥香、

 最強のミニマムデビルこと、リリィ、

 この二人がいれば正直騎馬戦はもらったも同然だ。


 ついでにマリアもいるし、暁月と小野も頼りになるスポーツ万能タイプだからな。


 ……そして、結果。


「あははははっ弱い弱いっ!」


「全員私にひれ伏しなさいってのー!」



 言うまでもなく、圧勝だった。

 ミニマムデビルの伝説に新たなる一ページが加わり、この日をもって間宮さんに対する皆の認識が百八十度変わった。


 圧巻の無双っぷりは運んでいて気分が良かった。まさか、この二人がタッグを組む日が来るとは思ってもいなかったしな。


「やるじゃない、脂肪……じゃなくて、はるか。アンタそっちの方がモテるかもよ?」

「どういたしまして、お子ちゃ……おほん、リリィ? えっと、大縄跳びも足引っ張らないようにしてよね?」

「言ってくれるじゃない、はるか! 後で校舎裏に来なさい? その胸ぐるぐる巻きにしてあげるから。マリアも手伝いなさい?」


 二人は相変わらずだけど、それでもかなり距離が縮まったな。案外いいコンビかも。


「ちょっとすずきぃ! いつまで私の太ももを堪能してるのよ! とっとと降ろしなさいよ馬鹿!」


 えー……


「か、漢路君っ!? 柔らかさに飢えてるならわたしがいるのにっ!」


 間宮さんも何を言ってるんだよ。リミット解放されたのはいいけど、エロ方面は隠した方がいいよ間宮さんっ! いや、マジで、本当に。ネジをしめるんだ!!


 体操服がはち切れんばかりの胸をキュッと寄せた間宮さんは口を尖らせた。すると、背後からマリアが飛びつき、そのたわわな果実を堪能する。もはやカオス。


 向こうでは田中と小野がハイタッチで勝利を噛み締めている。


「やったな小野! 俺達の完全勝利!」

「田中君、や、やややったね!」と、小野も顔を真っ赤にして喜んでいる。


 喜ぶ田中と小野に、腹を揺らしながら太田がブヒィと鳴いた。


「田中君の上で小野さん、幸せそうにし……ブグッファォーン!?」


 ——まさかの正拳突き!!!!

 太田は物言わぬ肉塊と化した。


 その後も借り物競走、綱引きなどの競技を消化して遂に大縄跳びが始まろうとしていた。


 間宮さんは緊張しているのか落ち着かない様子で大きな胸に両手を当てている。

 すると暁月が僕に言った。


「やぁ、いよいよだね。この競技をとればうちのクラスの優勝は揺るぎないものになるのだよ」

「アカツキング、そうだな、頑張ろう」


 始まりの合図と共に、太田と小野が縄を回し始める。いち、にの、さん、と掛け声をかけて、大きく縄が天をつき、僕達の足元へ迫った。


 とにかく跳んだ。縄が回ってくる度に、ひたすら跳ねた。出だしは好調、三回目を跳び流れを掴んだその時だった。



 僕達のクラスの縄が、止まってしまった。



 それも、足を引っ掛けたのは間宮さんだった。一瞬、沈黙が走ったけど田中が「ドンマイ、次を頑張ろうぜ?」と場を和ませる。

 間宮さんはすっくと立ち上がり、「ごめんっ」と一言漏らすと、さらしで巻いても迫力満点の大きな胸をこれでもかも揺らしながら走り去ってしまった。


 クラスの皆が顔を見合わせる中、マリアが間宮さんを追いかけようとする。それを制したリリィは、キョトンとするマリアに言った。


「わ、私が行くわ。あの馬鹿、誰も気にしてないってのに……マリアは次の競技に出ないと駄目でしょ、ここは私に任せなさい?」

「リリィ……そっか。わかったよ、遥香のこと頼むよ。彼女、ずっと張り詰めていたから」

「ふん、世話のかかる女ね」


 悪態をつきながらも間宮さんを追っていくリリィの後ろ姿を見て、少し胸が熱くなった。リリィは悪魔だけど、優しい悪魔なんだな、と。


 ……

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