27【特訓】
「えっと、猛特訓って……」
「アンタが心配だって、すずきが言うから仕方なく練習に付き合ってあげるんだから、感謝しなさいよね?」
間宮さんは一瞬ムッとした表情を見せたけど、少し膨れながらも「あ、ありがとう」と口先を尖らせる。
「まず、アンタは跳ぶのに向いてないわ。そのデカいのが邪魔なのよね。はい、マリア?」
「はいはーい! 遥香、ちょっとバンザーイしてくれる? ほら」
後ろで息を荒げる変態に戸惑いながらも、言われた通りに両手を上げた間宮さんの制服のシャツをパッと捲り上げるマリア。
間宮さんの柔肌とブラに包まれた胸がバインと露わになる。僕は思わず凝視した。
その瞬間リリィに睨み付けられ、泣く泣く目を逸らしたのだけど、まぁ凄かったね。
「マリア!? い、いきなり何を!?」
「つれないな〜遥香〜、これくらいいつもの事だろ〜?」
「きゃっ、ちょ、誤解を招くようなっ」
間宮さんはそれこそ驚きを通り越して完全にパニック状態になっている。そんな事はお構いなしにマリアは持っていた包帯を彼女の胸に巻いていく。
「あっ、ちょ……んっ、マリア!?」
「ハァハァ、いい声出すね、遥香〜」
身体をビクッと震わせながら、されるがままに包帯を巻かれた胸は締め付けられていく。そうか、さらしの要領か。これなら胸の揺れを最小限に抑えられるって事だな。
「キツい……」と、間宮さん。
「我慢しなさいよ、そんなものぶら下げてたら跳べないでしょ? これで少しはマシになるわよ」
「何よ、自分がないからって、そんなものそんなものって……」
「な、なな何ですってぇ〜? 人がせっかく親切にしてあげてるのに!」
「わたしは漢路君との秘密の特訓を期待してたの! なんでリリィまでいるの!」
「はぁ〜? 最低でも三人は人数がいるでしょうが! アンタ馬鹿じゃない?」
また喧嘩が始まってしまう。マリアが仲裁して何とか休戦に持ち込んでくれたけれどこの二人は事あるごとにぶつかり合うから大変だ。
リリィとマリアが縄を回し、僕が間宮さんの横について一緒に飛ぶ事になった。
一回、二回と跳ぶ度に間宮さんの胸が跳ねる。あれだけぐるぐる巻きにしたにも関わらず揺れちゃうとか、どれだけデカいんだ間宮さん!
とはいえ、グラウンドで練習している時よりは回数が伸びている。十回も越えてきた。
「はぁ、はぁっ……」
「大丈夫? 少し休憩しようか?」
肩で息をする間宮さんは首を横に振りリリィに続けてくれと促した。リリィは少し驚いた表情をする。
「アンタもしかして……」
何か言いかけて言葉を飲み込んだリリィは、再び縄を回転させた。
何度かそれを繰り返し、回数が二十を越えた時だった。間宮さんは体勢を崩し、かけていた眼鏡を地面に落としてしまったのだ。
「あっちゃぁ……ごめんなさい漢路君……またわたしのせいで止まっちゃったね」
そう言って眼鏡を拾おうと屈んだ間宮さん。しかし落ちた眼鏡を拾ったのは縄を回していたリリィだった。リリィはその眼鏡をブレザーのポケットにしまい、間宮さんに言った。
「これは預かっておくわ」
「か、返して!」
「返してほしかったら三十回を越えることね」
「はぁ!? ふざけんじゃねぇぞゴルァ!」
「そうそう、やっぱアンタは素のアンタじゃないとね? こんなものかけて、自分を押さえ込んでいるから本気になれないのよ?」
間宮さんは立ち上がり制服の砂をはらう。そしてリリィに言い放つ。
「とっとと縄を回す! 三十回くらい軽く越えてあげるんだから! こうなったらとことん付き合ってもらうからね、お子ちゃまボディちゃん!」
「面白いじゃない! 望むところよ!」
特訓は夜の十時半を過ぎても継続していた。かれこれ五時間は跳び続けていて、僕の体力も流石に限界が近付いている。
しかし危険度Aの間宮さんに変化した事で回数が飛躍的に伸びたのは事実だ。
最高五十回越えもマークしたくらいだから、とんでもない進歩だ。そして十一時を過ぎた頃、やっとの事で二人の体力も限界に達し、真夜中の猛特訓はこれにて終了となった。
「ありがとう、何とか足を引っ張らずに済みそう。漢路君、それに……リリィもね」
「ふん、これで本番速攻で引っかかったら腹抱えて笑ってやるんだからね!」
「リリィもわたしより先に尻尾を引っ掛けないようにね? マリアもありがと、さ、帰ろうか?」
間宮さんは眼鏡をかけ直し地面でペシャンコになったマリアに手を差し伸べた。マリアは大きな瞳を瞬かせると、その手を取りピョンと立ち上がる。
リリィに振り返った遥香は、誰にも聞こえないくらいの声で「ごめん、また明日」と溢した。
「疲れた〜遥香〜ジュース飲みたいよ〜」
「ふふっ、仕方ないな。買ってあげるから家まで頑張って歩ける?」
「うん、歩く〜……リリィ、漢路、またあした〜、ねぇねぇ遥香〜、今日もツンツンしてもいい〜?」
「……それは駄目」
「そんな〜」
僕達は二人と別れ急いで帰路につく。何とか日付の変わる前に帰宅した僕とリリィはすぐに汗を流し部屋へ。リリィはすぐにベッドにダイブすると、そのまま小さな寝息を立てた。
「あ、リリィ? ……寝ちまったか?」
『どうやらお疲れのようだぜ? どうする、兄弟? 寝てるリリィに直接注ぐか?』
「そんな事出来る訳ないよゼムロスさん。確か三十時間は大丈夫なんですよね? 昨日はかなり遅い時間にしたから、朝の八時くらいまでは大丈夫な筈なんだけど」
『こりゃ朝一からハッスルするしかねぇな。間違っても出し忘れちゃいけねぇぜ?』
今日は僕も疲れた。とりあえず早めに寝よう。ルーティーンワークは明日の朝でいいや。
おやすみ、リリィ。
何となく、リリィの優しさに触れられた、そんな一日だったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます