24【ダークキャットとの遭遇】
卑猥な身体測定も終わり、もうかれこれ一週間が過ぎた。そして面倒な中間試験も乗り越えて平和な時を取り戻した僕とリリィは、いつものように徒歩で帰路についていた。
ゲームセンター『デビルダム』に入り浸っていたら、いつの間にか午後六時を過ぎている。ゾンビに少し白熱し過ぎたか。
暫く歩き駄菓子屋付近まで来た時、ふとリリィが素っ頓狂な声をあげた。
「あ! 鞄忘れちゃった!」
「ゲーセンに? 僕が取ってきてやろうか?」
「違う学校! 私が自分で取りに行くから、す、すずきは先に帰ってなさいよ」
「なら、僕はこの駄菓子屋で待ってるから行ってこいよ。道は分かる?」
「あ、あったり前よ! 子供扱いしないの!」
そう言って再び学校に走って行ったリリィを見送り、僕は駄菓子屋前のベンチに腰掛けた。
すると駄菓子屋の中から、リリィよりは背が高いけれど、似たり寄ったりな背丈の女の子が顔を出した。駄菓子屋の店番をしている『メル』という名前の女の子だけど、少し変わっている。
まだ寒い頃だっけか、道を尋ねられた事もあったな。確か図書館に行くとか何とか。
「何も買わんのならベンチの使用権はないのじゃ。しっしっ、なのじゃ」
語尾が『のじゃ』な少女は大きな人形みたいな瞳で僕を睨む。
肌は病的な程に真っ白、胸は身体の割には申し訳無さ程度に膨らんでいて、覗けば顔が映り込みそうな真っ黒な艶髪は腰のあたりまで伸びている。
「はいはい、じゃぁ何か買わせてもらうかな」
「おお! いらっしゃいませなのじゃ!」
メルちゃんは満面の笑みでお客様を店に招き入れた。導かれるがまま店内へ。
昔ながらの駄菓子屋、懐かしい匂いがする。しかし、このメルちゃんはここ最近、確か一年前くらいから姿を現した。
それまではお婆ちゃん一人でやっていたのだけど、この子は孫か何かなのかな。
僕は適当に駄菓子を取ると、レジで待ち構えるメルちゃんに商品を渡した。
メルちゃんはレジを、チーン! と開けて、
「二百円なのじゃ!」
と、元気に言った。
そのレジ壊れてますよね。ま、いいか。
僕は二百円をメルちゃんに渡し、駄菓子をゲットした。これで外のベンチに座る権利を得た訳だから、堂々とリリィを待つとしよう。
暫く待っていると、僕の前を茶トラ猫が横切っていった。どこからくすねて来たのやら、鯖を咥えている。この町で最近良く見かける猫だ。
更に、待つ事数十分、次は黒猫が……
「なっ……こ、これはっ……!?」
黒猫じゃない? これって、まさか……?
黒猫? は立ち止まり、真っ赤な瞳で僕を真っ直ぐに見つめてくる。——間違いない。
——こいつはアレだ。……使い魔の類いだ。
『お前……におうにゃ?』
ほら、喋った。使い魔だよコイツ!
黒猫っていうか、影猫だな。
「僕は臭くない」
『にゃ? ……ニャァを見ても驚かにゃいにゃ?』
「まぁ見慣れているし。君も魔界から? 主人はサキュバス?」
『にゃっはは、面白い奴だにゃ? どうやら、この町で間違いにゃいみたいだにゃ
また会うにゃ? 因みに、ニャァのご主人はお寝んね中だにゃ。夜も遅いしにゃ』
いやまだ早いぞ。まだ午後六時半だぞ?
と、そんな考えを巡らせていると、目の前の影猫はスッと姿を消してしまった。
……また会うって、どういう意味だ?
「すずき?」
影猫……またマリアの時みたいに面倒事が起きるんじゃないだろうな。
「……ち、ちょっとすずき〜?」
「ん? あー……リリィか。遅かったな」
「あー、じゃないわよ! すずきのくせに! ち、ちょっと部活終わりのたなかに話しかけられてただけよ!」
「そっか、バスケやってる時の田中は別人なんだぜ? リリィも田中と仲良くしてやってくれよな。アイツいい奴だからさ」
「ま、まぁ確かに。たなかがいい奴なのは認めてあげる。馬鹿だけどね」
照れくさいのか、尻尾がぎこちなく動いている。
「中間試験前に田中ん家で勉強した時も、リリィにボロクソに怒られてたしな。その甲斐あってか、今回は補習を一科目に抑えられたって喜んでたぞ
リリィが頭良かった事に僕は驚いたけどな」
「ふん、私は夢魔ランクが上がらないだけで、成績はトップクラスよ? アンタ達平民とは教養が違うのよ、教養が」
次の週には体育祭が待っている。
我が校の一学期、最大イベント体育祭。それが終われば退屈な梅雨、そして夏か。
今年の夏は騒がしくなりそうだな。リリィと出会った事で僕の周りに女の子達も集まって来るし、現に暁月と小野とは一気に距離が縮まった。
田中ん家での勉強会も盛り上がったし、今年は少しばかり期待が膨らむな。
この体質さえなければ、もっとエンジョイ出来そうなんだけど。
とはいえ、まずは体育祭か。
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