23【測るぞひゃっはぁ!】※



 五月十日、金曜日。本日、夢咲高等学園では身体測定が予定されている。午後から始まるプライバシー侵害イベントは、クラスの女子達のテンションを下げるのにはもってこいのイベントである。


 とはいえ、あまり気にしていない女子も中にはいる。その一人が転校生マリアだ。

 マリアはリリィの机に張り付いて尻尾を左右に振る。なびくスカート、その度に見えそうで見えないナニを覗きそうになる男子達。


 マリアは殆ど男に興味はない。サキュバスとしてたまに相手はするが正直好きなのは女の子、もっと言えばリリィ一択だ。

 そんなマリアだが男子の人気が異常に高く、中々リリィに近付けない日々を過ごしていた。そして今、やっとの事でリリィの机に張り付いた訳だ。


「リリィ、今日は身体測定だな。いったい何処を測られてしまうのか、ドキドキしない? 尻尾の長さも測ってくれるのかな、人間界は?」

「アンタね、何を興奮してるのよ……馬鹿じゃない? それに人間は尻尾生えてないんだから測るわけないじゃないの」


 リリィは頬杖をついたまま冷めた目で変態を睨む。マリアは突き刺さるような視線を浴びて幸せそうな表情を浮かべている。


「身長伸びたかな〜? おっ○い大きくなったかな〜? 今のままじゃまだまだ挟めないんだよなぁ。もう少し膨らんでくれたらプレイの幅が広がるんだけどなぁ、リリィはどう思う? 挟んでみたい?」


 そう言って自らの尻尾を胸に押し当て、挟むような仕草を見せるマリアをリリィは睨む。


「アンタ……私にケンカ売ってんのかしら?」


 そんな会話に入って来たのは、委員長間宮遥香。遥香はリリィの机に自慢の胸を乗せるようにして悪戯な笑みを浮かべる。


「あら? 浮かない顔だけどどうかしたの? ……あ、ごめんなさーい、そんな貧相な身体を測らないといけないものね」

「アンタも体重計で発狂しなさい」


「……ち、このクソチビ……」と、遥香は漏らす。


 遥香が立ち上がると、リリィは巨大な球体二つを見上げるようにして言った。


「あっちに行って」

「あれ〜? もしかして怒ってるのかな?」

「な、何をよ?」


 遥香はリリィの耳元で小さく囁く。


「わたしと漢路君が抱き合ってたの、まだ怒ってるんでしょ? ふふっ、かぁわいいね〜……やきもち? 妬いてるのかな?」

「なっ! そ、そんなのどうでもいいんだから!」


 リリィは立ち上がり両手で机をドンと叩いた。勢いよく立ち上がった事で遥香の胸に激突したリリィはその弾力ではね返され後頭部を打ち付ける。


「いった……い……」

「だ、大丈夫?」


 驚き心配そうな表情を浮かべた遥香。


「あ、謝られると余計に惨めじゃないの馬鹿……その脂肪の塊に栄養偏って、脳細胞に栄養足りてないんじゃない?」

「あぁん? 人が心配してやってんのにぃ……」

「本性が出ちゃってるわよ? 淫乱委員長?」


 遥香は周囲に気付かれていないか確認した後、すぐにリリィの耳元で囁く。


「漢路君はわたしのモノだからね? お子ちゃまボディちゃん?」


 それだけ告げた間宮遥香は自分の席に戻ると、前に座る漢路を舐めるように視姦する。溢れるよだれが机を濡らしている事にも気付かない間宮遥香の漢路愛は異常と言えるだろう。


「うわ、マジでアレの何がいいんだか。普通に引くわ。……で、マリア? アンタもそこ邪魔だから退いてよ」

「リリィ、頬を赤らめながら悪態をつくキミも可愛いな〜! その顔が快楽に溺れていく様をボクは見たいのさ!」

「アンタも大概キモいわね。はぁ……ウザいわ」


 その時だった——

 ガタンと音を立て教室のドアが開いた。ドアの先、つまりは廊下、そこには他クラスの男子達が群がっていた。


 彼等は口々に、「マリアちゃんがいたぞ!」「うわ、やっぱ可愛いな!」「先に尻尾を掴んだ奴が会話する権利を得るのはどうだ?」「よっしゃ負けないぜ!」と、勝手な事を言ってマリアに迫る。


「う、うわぁっ!? ボクは男子には興味ないんだって〜! ひえぇぇっ!」


 マリアは男子達に追われて教室から消えた。リリィは、ふぅ、と一息つき再び尻尾を萎びかせた。

「なんで胸囲なんて、なんで胸囲なんて、なんで胸囲なんて……ブツブツ……」


「おや? リリィちゃん? 元気がないね〜? どれ、あたしがツンツンして元気付けてやろうぞ? えい!」

「きゃんっ!? ち、ちょっとくらげ!?」

「おほっ、いいね〜その顔! 脳内のデータベースに今すぐ保存だべ!」


 暁月海月は脳内データベースに恥じらいの悪魔を保存して、アホ毛を揺らした。そして笑顔でリリィの頭を撫でた。


「大丈夫、気にすることないよ。ほら、あたしだって大したことないんだから。見る?」


 海月は自身の控えめな胸をピンと張る。確かに、高校生にしては小振りで可愛らしい胸だ。しかしながら、リリィのそれよりは女性的なのは否めない。


「……うぅ……なんで私の胸はずっと小さいままなんだろ。くらげも小さいけど、ちゃんと柔らかそうにぷっくりしてるからいいじゃない」


 リリィは膨れては口を尖らせる。


「なんなら、ツンツンしてみるかい?」

「む……ツンツン」

「うにゃっ!? ……そんないきなりっ!?」


 海月のアホ毛が激しく揺れた。


「くらげはいつも突然ツンツンするじゃないの! お返しよお返し!」



 ——

 そして無情にも身体測定の時間がやってきた。

 夢咲高等学園の身体測定の項目は以下の通り。


 ・身長

 ・体重

 ・座高

 ・視力

 ・胸囲


 その他諸々、


 昨今では胸囲を測る学校は減ったのだが、同校は古い体制が残っていて胸囲も測る事になっている。

 一部の女子からは毎年大ブーイングが起きるのだが、一向に廃止される気配がない。


 それには確固たる理由がある。


「ふふふ……ふはははっ! 遂にこの時が来たぁ! 身体っそくってぃえい! 一年の間、この時の為だけに拙者は生きているようなものだ! さぁ、測るぞ触るぞ揉むぞ突くぞ〜! はーっはっはっはぁ!」


 保健の先生が変態だからだ。


 大原里子おおはらりこ、彼女こそが百合よりの性癖をお持ちの保健室の先生である。

 毎年身体測定で女子生徒達の半裸に悶える変態の大原は、勿論女子担当。


 因みに男子は体育の先生が担当している。


 ——

 身体測定は滞りなく進み、リリィの身長を測る時が来た。


「はい、次はショコラティエちゅぁん!」


 大原に言われ、リリィは渋々身長計に立つ。リリィやマリアの体操服は特別製で、ちゃんと尻尾の出せる仕様になっている。


「はい、百四十三センチね」


 あまりの小ささに周りからクスクスと笑い声が聞こえる。リリィは頬を赤らめ膨れてしまった。

 その後もひたすら計測は続き、胸囲を測り終えた女子生徒達は色々と大事なものを失って、半分ほど魂の抜けた状態になっていた。


「きゃっ……せん、せ……っ!?」

いではないか、良いではないか!」


 間宮遥香の身体を堪能する大原を横目にリリィは自らの順番を待っていた。

 次々と大原の毒牙が女子達を襲う。流石の暁月海月も、女の子らしく身体を捩らせる始末だ。


 そして遂にリリィの番が来た。

 リリィは顔を真っ赤にして大原と対面で座る。


「はい、ショコラティエさん、脱ぎたまえ?」

「あ……あの……」

「大丈夫、女子しかいないから恥ずかしくないさ! さぁ、脱ぎたまえよ〜!」


 リリィは渋々体操服を捲り上げる。大原はその未開拓の大地を見て瞳を輝かせる。


「おおおおっ! なんて素晴らしいっ! ヒャッハァ、これはもはや……! もう我慢出来ん!」


 その後、

 大原里子は保健室送りになった。



 こうして身体測定は終わりを告げた。


 リリィは結果の記されたプリントを見て、小さく溜息をつくのであった。


【身長143・2】

【体重32】

【座高79】

【視力2.0】

【胸囲61AA】


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