19【えっちな刺客】※
「幸せにする、か。何も知らないくせに、生意気なんだから。たなかのくせに」
屋上で一人、まだ明るい空を見上げるのは、
ミニマムデビルこと、
リリィ=ホイップ=ラ=ショコラティエその人。
彼女は田中のナニを玉砕した後、教室には戻らず校舎の屋上で雲一つない空を観察していた。
「……たなかの馬鹿のせいでホームルームサボっちゃったじゃない……」
と、悪態をつきつつも、
「でも、ここは良い風が吹くわね」と、リリィは目を閉じる。
「どうせすずきの事だから、リリィは何処だ? なんて言ってソワソワしているに違いないわ。
下校時間には下駄箱前に降りてあげないとね」
と、その時——
「浮かない表情で空なんか見上げて、魔界が恋しくなったのかい? それとも……」
「む……アンタ……いつの間に?」
「ボクが恋しくなったのかぁ〜い?」
マリア=マリン=ル=ブランシェ——
魔界でリリィが通っていた学校の同級生、褐色の肌と真っ白な髪が特徴的な彼女はいつの間にか空を仰ぐリリィの前に立っていた。
高校入学と同時に、処女のリリィに目を付けたマリアは、それ以来ずっとリリィの処女を奪おうと目論んでいる、所謂GLサキュバス。
夢魔ランクはC、種族上、数人の男は経験済みだが、男より女、女よりリリィを溺愛したい。
夢魔ランクを女の子の処女を奪う事で飛躍的に上昇させちゃったイレギュラー的な存在でもある問題児だ。
マリアは真っ白なショートヘアを風になびかせながら頬を紅潮させる。真っ黒なマント、否、ローブのようなものを羽織ったマリアは使い魔のカラスを影に忍ばせてリリィに視線を送った。
「な、何しに来たのよ……アンタ……」
「キミを愛しにだよ? ボクのリリィ?」
マリアは尻尾を振りながらリリィに迫る。リリィは起き上がり、一歩後ずさった。
「ア、アンタと遊んでいる時間はないの、それに私はアンタのものじゃないわよ!」
「またまた、ボクがご主人様より気持ち良くしてあげるからさ? 人間なんて捨ててさ、ボクと気持ちいいことしようよ」
「ばっかじゃないの? 女同士でどうしようってのよ! アレもついてないくせに……!」
頬を赤らめて言葉を放つリリィの尻尾はピンと立ち小さく震えている。
「だから〜、コレでシテあげるよ〜?」
マリアはリリィの耳元で囁いて、頬を紅潮させながら尻尾をリリィの身体に擦り付けた。
距離は拳一つの距離。マリアは魅了を発動してリリィと目を合わせようとする。
リリィがなんとか目を逸らして抵抗していると、マリアは思い付いたように口を開く。
「あ、そうそう! 今頃、キミのご主人様もお楽しみ中だよ? おっ○い大きな美少女と。だからさ、気にせずボク達も楽しもうよ?」
「ど、どういう意味よ……?」
「そのままの意味だよ?」
「ちょ、苦しいっ……やめて……!」
マリアの尻尾がリリィの細い身体に巻き付いていく。必死に振り解こうと抵抗するリリィだが、しっかりホールドされていて抜け出せない。
「はぁ〜ぅ、良い顔だよリリィ? 頬っぺが赤いよ? もしかして、こうやって縛られるのが好きだったのかい? ほら、もっと締め付けてあげようか? あ〜いいよリリィ!」
「ゔぅっ……はな、して! な、なんで振り解けないの……よ! ちから、が……抜け、る……」
「ふふっ、力自慢のリリィも、この状態じゃ形無しだね。ボクの作戦勝ちだよ、リリィ」
普段のリリィなら、このくらいの拘束は簡単に振り解く事が出来る。しかし何らかの力でリリィの身体の自由が奪われている。
足元、——足元の影が羽を広げた鳥の様に形取られていて、
その影から伸びる黒い触手のようなモノがリリィの足首に絡み付いていく。どうやら、この影の仕業でリリィは力を解放出来ないようだ。
影の正体はマリアの使い魔である影カラス。
……しかも……
『グェッヘッヘ……真っ白パンティ……』
しかもこのエロガラスは思いっ切りリリィの下着を覗き見ていた。
「ちょっと!? 見てんじゃないわよ!」
『真っ白パンティ、真っ白パンティ、どれどれ、シミはついてないかな〜グェッヘッヘ!』
「きっも!? じ、冗談じゃないわよ? このまま上がってきたら……やめなさいよエロガラスッ……!」
影の触手はリリィの細くも肉づきの良い太ももの辺りまで伸びる。
「い、嫌っ! や、め……っ」
リリィは何とか暴れて脱出を試みるが、マリアの尻尾に締め付けられた状態では身動きが取れない。
マリアはそんなリリィの顎を掴み、ふいに魅了を発動させた。思わずその瞳と目が合ってしまったリリィは小さな身体をビクンと弾ませ、瞳の光を失った。虚ろになった瞳は
「……ゔぁぅっ……マリ……ア……?」
「ほら、我慢しないでボクに堕ちちゃいなよ? キミの身体を隅々まで味わい尽くしてあげるからさ」
「だ……れがっ……アンタなん、か……に!」
抵抗も虚しく、エロガラスの触手が無情にもスカートの中に突入する。リリィは細い身体を仰け反らせるように抵抗する。
「っ⁉︎ ……は、入って……来てんじゃ……っ」
リリィは心の中で叫んだ。
使い魔を強制召喚する為、ありったけの魔力を込めて、雲一つない空に向かって、大声で叫んだ。
「入って……来てんじゃ……な、な、……ないわよぉっ! このエロガラスーッ! ゼムロス! 今すぐ来て!」
瞬間、リリィの影からポンと使い魔ゼムロスが召喚された。
『はっはぁ〜呼んだかリリィっ! ってお前!? 何、ヤラれそうになってんだ?』
何とか強制召喚は成功。ゼムロスはリリィの悲惨な状況に驚き辺りをパタついた。
「い、いいから助けて!」
『よく分からねぇが、まずはそこのエロガラスを何とかしねぇと駄目だぜ! 超音波でも喰らえってんだぜぃ!』
ゼムロスは超音波を放って足元のエロガラスを退ける。触手から解放されたリリィはその隙に力を解き放ち瘴気を纏い、目の前のマリアを躊躇なく蹴り飛ばした。
「んじゃ!?」
急なゼムロスの登場に不意を突かれたマリアは見事に蹴り飛ばされて後方のフェンスに激突した。
ガシャンと音を立て、ひっくり返ったまま翡翠色の瞳を瞬かせるマリアはあまりにも滑稽だ。
「か、覚悟しなさいよね? この……エロマリアとエロガラス〜!」
リリィは顔を真っ赤にして怒りを露わにする。赤黒い瘴気がリリィの周囲で激しく渦巻き、それだけでその怒りの強さを計り知る事が出来る。
「リリィ!? あ、その……ちょっとタンマ!」
そんなマリアの言葉は聞こえないとばかりにリリィは右手を振り上げ、ソウルイーターを召喚。
そして、
「ゼムロス!」
『あいよ! 少し痛い目に遭ってもらうぜ? サキュバス同士の性行為はタブーなんだからよぉ!』
ゼムロスは召喚されたソウルイーターと同化、ソウルイーターはその姿を真紅の大鎌から、漆黒の大鎌へと変えた。
持ち手の先端にゼムロスの翼があしらわれた、漆黒の大鎌、ソウルイーター=ネロ、リリィの現段階での最高位戦闘スタイルがこの状態である。
「アンタはそれだけ私を怒らせたのよ……死んでも文句は言えないわよ!」
「ち、ちょっと待ってくれリリィ!? サ、サキュバスがエロくて何が悪いのさ〜!?」
リリィはソウルイーター=ネロを軽く一振りする。それと同時に、
「ひぃっ!!!!」
マリアの直ぐ後ろのフェンスが形を変えた。それこそ、見事に天を仰ぐように、グニャッとひしゃげ見るも無残な事に。
「次は当てるわ」
「そ、そんな……ボクはただ、リリィが好きで、好きで……ただ……リリィの中に……というか、リリィの中を、というか……その……あ……」
「遺言は言い終えたかしら? マリア?」
マリアは起き上がり、影に潜んでいる使い魔に「ちょっと、クロウ!? キミも力を貸してくれよ!」と助けを要請。
しかし反応はない。使い魔クロウは居留守を押し通すらしい。
「お、おい……なんて薄情な……じ、自分だけリリィの真っ白パンティを覗いて逃げるなんて! 自分だけパンティの中まで入ってズルいぞクロウ!? ボクだってもっとハァハァしたかったのに!」
「……茶番は終わり? マリア?」
マリアの目の前で漆黒の大鎌を振り上げたミニマムデビルは、それを躊躇なく振り下ろした。
——
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