15【抱っこする許可を獲得】




「きゃぁっ! なになにっ、おっ○い触らないでーっ! ……って、あ、カッピーさん!?」


 だから、おっ○いはないだろう。と、そこは置いておくとして、リリィの異様なまでの暴れっぷりで怯んだカッピーさんは、慌ててリリィを降ろすとお決まりのポーズでセクハラを誤魔化した。


 多分、リリィを小さな子供と勘違いして、不用意に身体に触れた事を反省しているに違いない。というか、小さな女の子でも簡単に事案が発生するこのご時世に中々踏み込んだ真似をしたカッピーさん。


 内心、心臓バクバクであろうカッピーさんは、くるりと回転して見せたりおどけて見せたりと何とかリリィの機嫌を直そうと奮闘している。

 カッピーさんは先ほどの決めポーズを決め、うんうん、と頷くジェスチャーでリリィを慰める。


「カッピーさん、慰めてくれてるの?」


 リリィは大きな瞳でカッピーさんを見上げている。カッピーさんは、ヤッホー! みたいな格好で飛び上がり、異様なテンションでリリィの周りを駆け回り、再びリリィを抱き上げた!


 再びリリィを、持ち上げた……


「きゃ、ちょっと……また!?」


 人形みたいにプラプラと足の着かないリリィと、調子に乗ったカッピーさんがグルグルと回転した。そして、ピタッと停止してリリィをゆっくりと降ろしたカッピーさんは、自慢げに決めポーズを……


 ——玉砕っ!


 カッピーさんは、絶対に出してはいけない筈のこもった悲鳴を漏らし、その場で天に召された。悲鳴を周りにバレないくらいのトーンに抑えたアンタは、プロだと思うよ。

 ……安らかに眠れ。


「はぁっ、はぁ……あ、やっちゃった」

「おいリリィ、ちゃんと謝った方がいいんじゃないの? めちゃくちゃ苦しんでるぞ」

「だって、カッピーさんが悪いんだし。私のおっ○い二回も触るから」


 リリィはツンと口を尖らせ頬を染めた。

 いやだから、おっ○いに拘るなって。聞いてて悲しくなるからさ。とか言葉に出したら僕も玉砕されるんだろうな。


「何? すずき、何か言いたそうね?」

「あ、いや別に? ……そうだ! そろそろパレードの時間じゃないか? 六時過ぎてるし」

「パレード? 何、それ?」

「とにかく騒がしいやつだよ。迫力あるし、アイスでも食って始まるの待とう」




 こうして辺りが暗くなり始めると、遠くから豪華なファンファーレが鳴り響く。中央通路が閉鎖され通路脇に集まった人々は、スマホやカメラを構えてパレードを待ち構えている。

 リリィは人混みで潰れそうになりながら、なんとか僕に付いて来て、不機嫌そうに悪態をつく。


「な、何が始まるのよ……暑苦しい」

「リリィ、アイスが溶けて服に付いてるぞ……」

「あぁぁっ!? なんて事してくれんのよ、すずきの馬鹿! 高かったんだからね、この服!」


 僕の所為じゃないし、買ったのはお前じゃないだろうが。そうこうしていると、パレードが近付いて来て爆音のメロディと共に周囲が盛り上がり始めた。

 目の前でこんなパレードを見た事は僕もないかも知れない。一緒に来る人がいなかったのが原因だな。


 行った奴が凄い凄いと言っていた事を思い出す。その時はなんて事ないと聞いていたけれど、

 ——本当に凄いな、これは……!


「み、見えないじゃない! ……むぅ……」


 そうか、リリィは背が低くて前が見えないのか。

 でもどうしようか、不用意に触れるとカッピーさんの二の舞いになりかねない。するとリリィは僕を見上げ頬を膨らませながら言った。


「すずき? ……えっと、だ、抱っこをすることを……き、許可するわ」


 尻尾がフワフワとしている。


「いや、でも触られるの嫌なんじゃ?」

「だ、だから特別に許可するって言ってるの」

「そ、それじゃあ……け、蹴るなよ?」

「蹴らないわよ……はやく!」


 僕はリリィの両脇に手を回し、持ち上げようと力を入れた。僕の指に何かが挟まった気がしたけれど、気にせず持ち上げようとした瞬間、

 ——玉砕っ!

 僕の顔面にリリィの裏拳がめり込んだ。


「ば、馬鹿ぁっ! どこ挟んでんのよ! こ、腰よ! 腰に手を回して抱っこしなさいよ」

「なっ……約束が違うぞ!」

「蹴ってはないでしょ、ふん! 大体アンタはデリカシーがないのよ!」


 僕は朦朧とする意識の中、リリィを持ち上げた。軽いな。小さなリリィは羽のように軽い。


 リリィはパレードを見てテンションが上がっているみたいで、尻尾が僕の顔をブンブンと打つ。というかバシバシビンタするから痛いのだけど……

 もはや僕の視界にはリリィのおしりと尻尾しか見えないけれど、まぁいいか。リリィは楽しんでくれてるみたいだし、フワッと良い香りもするし。


 パレードもクライマックスを迎え、夜空には無数の花火が上がって僕達を照らす。僕はリリィを肩車の状態にして、自らも空を見上げた。


 僕の頭を掴み、リリィは花火を見ながら何を思っているのだろうか。僕の首元にキュッと巻き付いた尻尾が小さく震えていた。

 ここがテーマパークじゃなけりゃ尻尾をしまえと言いたいところだけど、ここなら仮装で通るしいいかな。何より、花火が綺麗だし。



 ——

 リリィは疲れて眠ったみたいだ。あの後、ディナーを楽しみ大浴場で汗を流した僕とリリィは、いつものルーティーンを卒なくこなし、今に至る。


 今夜のリリィは少しだけサービス旺盛だった。何度見ても慣れないけれど、辛そうにされるよりはいい。


 大きなベッドで眠るリリィを横目に、僕はソファで横になる。……天井にもカッピーさんのイラストが。その他のキャラクター達も飛びっきりの笑顔で僕を見ていて落ち着かないけれど、ゆっくりと目を閉じ僕は今日という日を終えたのだった。

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