6【これもある意味、昇天】
絶対に部屋からは出るなと念を押して来たけれど、あの跳ねっ返りサキュバスは言う事を聞いてくれるだろうか。
不安要素はあるけど、まずは夕飯だ。ちゃんと食べてこれからの事を考えるとするか。
一旦、精○の事は忘れよう。沢山食べて精力を蓄えるとか、そんな事ではなく、ただただ夕飯を食べるだけだ。
僕がリビングに降りると、母さんがキッチンに立っていた。僕に気付いた母さんは、出来たての
「漢路、二階が騒がしかったけど、どうかしたの? ……はい、これ。ご飯は自分で好きなだけついで食べなさい。いっぱい食べて、モリモリ性欲、じゃなくて青春しなさいなっ!」
今、一瞬性欲って言ったよな母さん……
「何でもないよ。ちょっと筋トレしてただけ」と、僕は炊飯器を開けてご飯を盛る。
炊き立てのご飯に回鍋肉、確かに、これはナイスな夕飯だ。育ち盛りには尚更。
僕は席に座った。
そして一つ違和感を覚える。
まず、僕はひとりっ子であり、夕食に限らずリビングではこの席、——冷蔵庫側のこの席にいつも座っているのだ。因みに母さんはその対角線上の席、父さんが帰って来たら僕の正面に座る。
とはいえ、父さんはいつも帰りが遅く、殆ど顔を合わすことはないのだけど。絵に描いたような仕事人間、という言葉が良く似合う男だ。
話が逸れたが、違和感、そう、僕の隣の席は基本的に誰も座らない。三人家族なのだから四つ目の席に誰かが座ることがないのは言うまでもない。
——しかし何だ、僕の隣の席にも回鍋肉がよそわれていて、空の茶碗が配置されている。
「漢路、何を呆けた顔してるの? はやく食べないと冷めちゃうでしょう? それとも筋トレとか言って〜部屋で一人青春してたんじゃないの〜? いやんもう、漢路ったら〜!」
なんなんだこの変態は!
……僕の母さんだよ!!
足音、足音、……足音、はい、足音ですね。
二階から確かに聞こえる。足音と、羽音。絶対に降りて来てはいけない存在が、このリビングに迫って来る気配を確かに感じる。
……何を考えてるんだ! あのロリ悪魔!
僕の不安をよそに、無情にもリビングのドアが開いた。そして何食わぬ顔でリリィが現れたと思うと、僕の隣の席に置いてあるご飯茶碗を手に取り、炊飯器を開けて日本昔話風にご飯を盛る。
一瞬僕を流し目で見たリリィはすぐに目を逸らし、隣の席に座る。
「あら、リリィちゃん。今夜も大盛ね」
何故か母さんは驚くことなく、リリィに話しかけている。しかも、これがいつもの事かのような口ぶりだったのだけど、これは一体全体どういうこと?
「
何故リリィが母さんの名前を? いつもって? というか呼び捨て!?
「もう、リリィちゃんったらお世辞が上手いんだから。さ、盛り盛り食べてね? いっぱい食べたらきっと大きくなるわ〜リリィちゃんのお胸も!」
「あ……ありがとうございます……佳子」
あ、コレは、ちょっとだけ怒ってるよね。
「え、と……リリィ?」
「……何?」
「これはどういうことだ?」
僕は小声でリリィに言った。しかしリリィはそれを無視すると、美味しそうに回鍋肉を食べ始める。
ゼムロスさんはリビングを飛び回るし、リリィは普通に母さんと仲良しだし、もう意味が分からない。
——
食事を終え、一旦部屋に戻った僕は何食わぬ顔で一緒に部屋へ戻って来たリリィに思わず言い寄る。
「これはどういうことだ? リリィと母さんが知り合いだったなんて聞いてないぞ!」
耳を塞ぐようにして眉をしかめたリリィは「ふんっ」とか言って横を向いてしまった。……代わりと言ってはなんだけど、ゼムロスさんが部屋の天井から僕に話しかけてくる。
『オレ様の力を使えば、ざっとこんなもんよ』
「ゼムロスさん、母さんに何をしたんですか?」
『ちょちょいとな、催眠かけといてやったぜ! これならリリィも自由に行動出来るってことよ! はっはぁ〜!』
「何それ、何でもアリですね……はっはぁ〜じゃないですって」
ゼムロスさんはリリィの頭に乗り、
『これくらいは出来ねぇとサキュバスの使い魔は務まらねぇってやつよ。やれるサキュバスは成人したら人間界で好き勝手に遊ぶんだからよ〜! オレ様的には知ったこっちゃねぇが、人間の生命力、つまり精○はお肌にいいとか何とか、どっかのサキュバスが言ってやがったぜぃ!』
「え? お肌に? そ、そうなんだ」と、リリィは大きな瞳を瞬かせる。
『おうよ、リリィも鈴木から生命力摂取して、いい女になれるかもだぜ?』
「な、何よ。私がいい女じゃないみたいに言わないで! 使い魔のくせに生意気なんだから!」
『リリィにはいい女は早いぜ? せいぜい、いい幼女だな、はっはぁ〜! ……っ、ぬがっ!?』
あ、捕まった。リリィの尻尾がゼムロスさんをミシミシと締め付けている。……めちゃくちゃ苦しそうだけど、大丈夫かな?
ま、自業自得だな今のは。幼女は言い過ぎた。せめて少女にしとかないと。
『ま、まぁなんだ、契約を交わした以上はさっき言ったように、やる事やって、出すもの出さねぇと始まらないぜ? 二人共、シャワーを浴びて来い!』
——
そして時刻は、午後十一時過ぎ。夜が来た。
僕とリリィはそれぞれ入浴を済ませ、部屋で向かい合って座る。しかも正座で。僕達の間にはキッチンからかっさらって来た一枚のお皿。
——沈黙が息苦しい。
そんな空気を斬るように、僕達の間で羽ばたくゼムロスさんが言った。
『二人共、見つめ合うだけじゃ出るもんも出ねぇぞ? わかってんのか?』
「わ、わわ、わかってるわよ……うぅ……」
リリィの尻尾はあからさまに萎びている。因みにリリィは今、僕のパジャマを着せているのだけど、ブカブカでちょっとだけ可愛い。尻尾が出せるように穴を開けて細工もした。
いや、そんな事はどうでも良い。
「す、すずき! は、はやく……出しなさいよ」
「と、言われましても」
出しなさいよって……今、ここで、精○をか!? めちゃくちゃだ! 何プレーだよ!?
『オカズが足りないってよリリィ! お前の顔を見てるだけじゃ無理だって主人は言ってんだ。従者なら何とかしてやりな!』
「は、はぁ!? オカズって……マジキモいんだけど」と、リリィは僕を睨み付けた。
これは僕が悪いのか!? というか、オカズ云々とかの問題じゃないんだよ。
この儀式は何なのだ。淫乱委員長の儀式もヤバそうだけれど、この儀式も大概だ。
何せ、僕の生命力、所謂精気なるもの、——つまり精○を、この目の前のお皿に出せと、そう仰るのだから。流石にお皿に出した事はない。
皿射なんて新ジャンル聞いたこともない。
誰か助けてくれ……
「はぁ、し、仕方ないわね……すずき?」
リリィは大きなため息と共に僕を見やる。
「な、何だよリリィ」
「私の目を見て?」
「え、……目を……? ……っ?」
……謎の高揚感。リリィの瞳の淡い光を見ると、無性にムラムラしてくる。あ、駄目だ、また我慢出来なくなってきた……
「きゃっ……ちょ!?」
気が付けば、リリィを押し倒していた。
細い手首を掴み、硬いフローリングに押し付けるように。リリィの服がはだけ、真っ白な肩が露わになる。……このまま、やってしまいたい、という気持ちが僕の身体を突き動かす。
『ひゅ〜、こりゃ思ったよりリリィの魅了が効いてやがるぜぇ! いっそこのままゴールしちま……』
僕の意識は、一旦そこで途絶える事となる。例によって例の如く、僕のナニにリリィの膝小僧がめり込み、ある意味での昇天を味わったのである。
……とりあえず続きは、
僕が夢から覚めてから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます