4【夢魔ランクとカップサイズ】
リリィは体育倉庫でも見せた、あの禍々しい瘴気を纏い真紅の大鎌ソウルイーターを呼び出した。するとソウルイーターは奇怪な雄叫びをあげる。
この大鎌は相当お腹を空かせているらしい。
そして今、僕の魂を喰らわんと、その切っ先を光らせている。——冗談じゃないぞ!
すると、おっさんコウモリのゼムロスさんが肩に着地する。そして、僕に耳打ちをした。
——いったい何を? と僕は眉をしかめたのだけど、もはや考えている場合じゃない。ゼムロスさんの言う通り、僕は『その言葉』を口にした。
「オ、オーダー! お、おすわり!」
「っ!? サ、サイテー! きゃっ!?」
目の前の悪魔から、とても可愛らしい「きゃっ」が飛び出した。そしてリリィは、僕の言葉通りソウルイーターを床に捨て、その場におすわりした。
まるで犬がおすわりするかのような格好で、僕を下から睨み付けるリリィ。短いスカートはめくれ、可愛いピンクの下着も丸見えに。
「ちょ、ちょっと! ……すずきのくせにっ……な、なんで私がこんな惨めな格好をっ!」
虚勢を張っているけど、その格好じゃ本当に惨めなだけだ。すると、ゼムロスさんがリリィの頭の上に乗り彼女を叱りつけた。
もはやどっちが主人か分からないレベルだ。
『契約者を殺すとか馬鹿かお前はっ! そんな事したらリリィ、お前も死んじまうんだぞ? ……それにこの格好だってそうだ! お前がさっき、そこの兄ちゃんにさせようとしたのがこの惨めな格好だぜ?
逆におすわりをさせられた気分はどうだ? これを強要したんだぞ、お前はっ!』
「あぅ……そ、そんなに怒らなくても……」
『いいや、この際だから言わせてもらうぜぃ! ショコラティエ家の令嬢なのは確かだが、貴族は貴族でも落ちぶれ貴族だろうがっ! お前がサキュバスの癖にセックスの一つも出来やしねぇから、その評価は更にガタ落ち! 劣等生として同級生達にまで馬鹿にされる始末じゃねぇか!』
「あ……ゼムロス……」
『それに頭を悩ませたお父上が、お前をオールドファッション家の嫁に出す決意をしたんだ! 苦渋の決断だったんだぞ? ……それが嫌だってワガママ言うから、わざわざ人間界まで逃げて来たんだろうが! 人間界で男を堕としまくって、父上を見返す筈が、忠誠を誓っちまいやがって! どーすんだこの先!』
「……その……」
駄目だ、流石に可哀想になってきた。
「あ、あの。ゼムロスさん? でしたっけ? 反省してるみたいだし、これくらいに……」
『悪いな兄ちゃん、いや、鈴木。こうなった以上、リリィには鈴木の従者として夢魔ランクを上げてもらうしかねぇ。付き合ってもらうぜぇ?』
「意味が良く分からないんだけど、夢魔ランクって何ですか?」
『夢魔ランクってのは、サキュバスの階級だ。最下位ランクはF、続いてE、D、C、B、A、の順に上がっていくんだぜ。Aランクの上にはAAランクってのがあるが、それは現時点では一人も存在しねぇ。過去に一人だけ、そのAAランクに達した伝説のサキュバスがいたが、それも昔の話だ』
「因みに聞きますが、リリィのランクは?」
ゼムロスさんは頭の上で翼をパタつかせ、
『んなもん決まってら! 最下位のFだ! 胸のサイズはAAカップだけどなっ、はっはぁ〜!』
と、リリィを馬鹿にして影なりに胸を張ったようなポーズをとると陽気に踊り出した。
一瞬、静寂が走る。
そして、何か啜るような声が聞こえてきた。
声の先に目をやると、おすわりをしたまま、ポロポロと涙を流すリリィがいた。
あーぁ、泣かしちゃったよ……
「うっ……何も、そ、こっ……まで……」
それを見たゼムロスさんは、
『ぬあっ……リリィ!? す、すまねぇ! 泣かせるつもりはっ……オ、オレ様が悪かったよ言い過ぎたっていうか、その……お、お前の気持ちも分かるんだがそろそろ……あー、すまん! 泣くんじゃねぇやい……』と、リリィの周りをパタつき謝罪の雨を降らせた。
ゼムロスさんも女の涙には弱いのか。僕は少し意地悪な質問をしたのかも。反省しないとな。
「リリィ、ごめん。僕も悪かっ……」
——「うるさい黙って! すずきのくせにっ!」
えー……
「モヤシ! ミジンコ! ドーテー! とっとと命令解除しなさいよっ! 私を誰だと思ってるのよ!」
えっと、落ちこぼれ貴族のFランクサキュバス、胸のサイズはAAカップ、でしたっけ?
そうこうしている内に、どうやら母さんが帰宅したようだ。とにかくリリィを匿わないとな。
「……命令の解除はどうするの、ゼムロスさん?」
『キャンセル、と唱えてやればオッケイだぜ』
オーダーで命令、キャンセルで解除か。何がなんだか、さっぱり分からないな。
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