3【契約解除の為に死んで?】



 ……連れて帰ってしまった。



 女の子を部屋に持ち帰ってしまったのだけど、どうしたものか。

 ひとまず、ベッドに寝かせておこう。


 幸か不幸か現在、家には僕しかいない。

 自室のベッドに女の子が眠っている。これはあり得ない光景だ。今まで女の子と付き合った事すらなかった僕の部屋に、ロリとはいえ女の子がいる。ロリだけど。


 それはそうと、寝顔は結構可愛い。

 ——性格は別として。

 そんな思考を巡らせていると、


「……んっ、こ、こは?」


 悪魔が目を覚ました。いや、覚ましてしまったと言うべきだろうか?


「えっと、とりあえず……大丈夫?」

「ちょ、アンタ! 私に変なことしようとして、へ、部屋に連れ込んだわね!? 触った!? アンタ私のおっ○い揉んでたんでしょ!」


 ——いいえ。揉むほどないだろ。


 確かに寝顔を拝見してはいたけど断じて貧乳お子ちゃまボディを堪能しようとした訳じゃない。そんな勇気は持ち合わせていないのだから。


「別にお前の身体に興味はないよ」

「なっ……何よモヤシのくせに。お前とか言うなっての、き、興味ないって……何よ……モヤシ!」


 やっぱり、この子は意外と打たれ弱い。強がってはいるけれど豆腐メンタルを隠しきれていない。


「ふん、童貞のくせに」

 貧乳ロリボディは言った。

「な、何故それを!?」

「あれ〜? 本当に童貞なんだ?」

 目を丸くして僕を見る小悪魔……しまった、やられた。

「はめられたっ!?」

「アンタが勝手に自白したんじゃない」

「もはや自爆だぁぁっ!」


 ロリ悪魔は僕を見て腹を抱えて大笑いする。笑顔は可愛いけれど極めて憎たらしい。

 すると、体育倉庫でも聞いたおっさん声が僕の部屋に響き渡った。


『リリィ! 笑ってる場合じゃねぇだろ! お前も処女だろぉがよ!』


 おっさん声のコウモリだ。体育倉庫でも見た。黒い影がコウモリのような形をしている。

 コウモリは部屋を飛び回りロリ悪魔ことリリィの頭の上に乗る。


「ちょっとゼムロス!? 何バラしてんのよ馬鹿っ! こぉらぁっ! 頭に乗らないでよ!」


 リリィは頭のコウモリを捕まえようとしたけれど、それを軽くかわしたゼムロスさんはひとしきり飛び回ると部屋の天井で落ち着いた。

 コウモリらしく逆さまで、僕とロリ……いや、リリィを見下している。


「もう、使い魔のくせに生意気よ!」

『うるせぃ! さっきも言ったが、男の一人でも堕としてから物を言いやがれってんだ! わざわざ人間界まで来たんだ! サクッと従者を作ってランクを上げるんだよ!』


 

 使い魔、魔界、従者? ……ランク?

 それより何より、彼女が、……サキュバスであるリリィが、処女だということが一番の衝撃だ。

 サキュバスって言えば男を魅了しちゃう系のエロい悪魔だろ? 夢に出てきたりするやつ。


 それなのに処女とか、ちょっと笑える。


「ちょっと童貞! 何を笑ってんのよ! 生意気よ、この私をショコラティエ家の令嬢だと知っての冒涜かしら?」


 顔を真っ赤にして、肩で息をするリリィは何だか可愛らしくもある。だって処女だし。


「まぁまぁ、落ち着いて」

「黙って! ……えと、そう、すずき! 黙りなさい! ……決めたわ、アンタを私の従者に……いいえ、奴隷にしてやるわ!」


 この上ないドヤ顔で僕に指をさし、僕の制服の上着から覗く黒い尻尾をフリフリするリリィ。


『はっ、リリィ! 腹決めたようじゃねぇか! なら、この兄ちゃんを従者にしちまいな!』

「も、勿論よっ! 私はサキュバスなんだからっ……これくらい……なんてこと……」

 と、リリィは細い身体をよじらせ頬を赤らめる。


『へいへい? 怖気付いたか? リリィ!』

「そ、そんな訳ないでしょ! ゼムロスは黙って見てなさいよっ! すずき、届かないから屈みなさい!」


 ——ん? 届かない?

 リリィは頬を赤らめ僕を見上げる。僕は言われた通り、リリィと同じ目線まで屈んでみる。


「か、感謝しなさいよね。わ、私がシテあげるんだから……光栄に思いなさい?」

「……えっ?」


『あ、おいリリィ!?』


 ——!


 僕の唇をリリィの唇が塞いでいる。


 幼い顔付きの割にぷっくりと柔らかな唇の感触が、僕の思考を止める。

 身体が硬直する。目の前に、リリィの琥珀色の瞳が見える。謎の高揚感が僕を狂わせる。

 無意識の内に僕は彼女の腰に両手を回している。


 ——触りたい、触りたい……触りたい。


「んっ……?」


 ——身体が勝手に?


 僕は興奮に抗えず、リリィの小さな身体を弄った。小ぶりながら柔らかなおしり、キュッと締まったウエスト、そして更に上へと撫で回し、


「……あれ?」

「んっ、ちょ、そこっ……おっぱ……んっ!」


 まさかここまでとは。

 僕は念のため、再確認する。しかし、


「……ない」


「な、ななっ、何がっ、……な、ななないって?」


「…………胸が」



「…………ぶっっっ、殺す!」



 リリィは僕の腕を振り解く。その瞬間、僕の大事な部分に彼女の小さな膝小僧がめり込んだ!

 ——玉砕!

「ぬがぁぁっ!?」


「アンタが悪いんだからね? 胸が小さくて悪かったわね! ふん、胸が何よそんなもの……ブツブツ」


 ブツブツとひとり言を言ったと思うと、リリィは悶絶する僕の前で腰に手を当て、不敵な笑みを浮かべる。そして自慢の尻尾をフリフリ。


「まぁいいわ。これでアンタは私の従者、つまり奴隷になったわ! ご主人様に酷いこと言っちゃう奴隷には、お仕置きが必要ね。ふふっ、そうね、

 オーダー! ……おすわり!」


 一瞬、部屋に沈黙が走る。


 鏡に映せば恐らくキョトン顔であろう僕の顔を見てリリィは驚き目を丸くする。


「な、なんで言うこと聞かないのよ? ほら、おすわりよおすわり! ケルベロスみたいに舌出して間抜け面でおすわりしなさいよ!」


 リリィは首を傾げ、尻尾はハテナマークの形に。すると、天井で見ていたゼムロスさんがリリィの周りを飛び回る。


『おいリリィ、お前は重大なミスをしてるぜ?』

「え? な、何? ミスって……?」


『お前がしたのは従者を作るための、誘従の契り、ではなく、サキュバスとしての役割を終えた者が、一人の男に忠誠を誓う為にする、忠誠の契りだってんだ!』


「忠誠の契りっ!? そ、そんなっ……あぁっ!」

『気付いたか? お前は、をしちまっただろ? それじゃ忠誠になっちまうんだよ。誘従の契りってのは、相手からキスをさせねぇと成立しねぇってんだ! こんな事、サキュバスなら小学生でも知ってるぞ?』


 僕はこの会話の意味が殆ど分からない。


「嘘……うそよね……私、こんなのにっ……忠誠の契りを? 嘘って言いなさいよ、すずきっ!」

「知らねーよ!?」

「知らないじゃないの! ……あ、そうだ!」


 リリィは思い付いたように手を叩き、今日一番のとびきり笑顔で言った。悪魔とは思えない、輝くような天使的笑顔で。



「契約解除のために、とりあえず死んで!」



 ……何それ、絶対嫌なんですが!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る