2【大鎌ソウルイーター】
僕と淫乱委員長間宮さんの前で、声高らかに名乗りをあげた、自称由緒あるショコラティエ家の御令嬢は小さな胸をピンと張り、おしりから生えた尻尾を左右にゆっくりと振っている。
あの尻尾は動かせるようだ、どういった仕組みなのだろうか。それはそうと、これはまた『痛い人』に出くわしたと内心頭を抱えた僕は、平気でサキュバスと名乗る痛い子に合わせる事にした。
「へ〜、サキュバスなんだ〜、凄い〜」
「……もしかして馬鹿にしてる? まぁいいわ。そうよ、サキュバスよ。アンタ、人に名乗らせておいて自分は名乗らないの?」
あーぁ、せっかく可愛い声してるのに、色々と残念な子だなぁ。とりあえず名乗るか。
「僕は鈴木、……鈴木漢路。二年A組のモブキャラ担当です」
「すずきぃ? 変な名前ね。で、アンタは?」と、サキュバスちゃんは標的を間宮さんに切り替える。
間宮さんは一瞬怯み身体を震わせたけれど、すぐに立ち上がると小さなサキュバスちゃんを見下し腕を組む。
腕を組んだことで、間宮さんのたわわな果実は行き場をなくしてムニュッとはみ出し気味に。
後ろから見てもわかるのだから、彼女のそれはさぞかし大きくて柔らかなのだろう。というか、さっきまで顔面を覆っていたのだから、その柔らかさは確認済みではあるけれど。
普通に窒息死すると思った。もはや凶器。
「間宮遥香よ。君、見ない顔だけど何年の何組? チビだし、どうせ一年でしょ? ぷっ…そんな貧相でペラペラな身体でわたしに魅力がないって、どの口が言っているのかな?」
間宮さんは笑っていて笑っていない。
間宮さんの言葉で、あからさまに動揺したサキュバスちゃんは顔を真っ赤にして反論する。
「ひ、貧相って……これはスリムって言うのよ! アンタみたいに馬鹿でかい脂肪の塊ぶら下げるほど、太ってないんだからっ!」
貧相もキツいけど、脂肪の塊もヤバいって!
「はぁ〜? 太ってるだぁ? お前調子こいてんじゃねーぞ? わたしは胸は大きいけど、ちゃんと痩せてるチート級美少女なんだよ! お前みたいな貧乳お子ちゃまボディは引っ込んでやがれゴルァ!」
ま、間宮さん!? く、口調が変わってますよ! というか、こっちが本性? あぁ、なんて事だ!
「ひ、ひ、貧乳お子ちゃま……!?」
どうやら、その小さな胸にかなりのコンプレックスを感じているみたいだ。俯いちゃったよ。
突然現れた謎の二次元美少女も、淫乱委員長間宮さんの前ではただの貧乳お子ちゃまボディか。
……これは勝負あった、かな。
「お前しかいねぇ〜だろうが! 尻尾なんか付けて、ばっかじゃねー?」
「……言いたいことは……それだけ……?」
「な、何よ……!?」と、口ごもる間宮さん。
貧乳お子ちゃまボディは顔を上げ、そんな間宮さんを睨み付けた。
「遺言は言い終えたかしら?」
その瞬間、貧乳お子ちゃまボディは赤黒い瘴気のようなものをスリムな身体に纏い右手を振り上げた。すると、その右手に巨大な鎌のようなものが召喚された。
真紅の大鎌——
正直、目の前で起きている事が信じられないのだけど、まるでアニメで見るような出来事が実際目の前で確かに起きている。
「……デス……サイズ……?」
僕はそれを見て、死神の大鎌を連想した。
「失礼ね、私はサキュバスよ? この大鎌はデスサイズなんて野蛮なものではないの、敢えて名前を付けるなら……そうね、皆んなこう呼ぶわ?
——————ソウルイーター、と」
ソウルイーターも大概野蛮かと思います! あの魂を喰らうやつですよね!
「アンタを助けたいわけじゃないけど、この女は気に食わないわね。少し遊んであげる! 安心しなさい? ちょっと魂を喰らい尽くすだけだから」
喰らい尽くされたら死にますって!
喰らい尽くされたら、ヒトは死にますから!
しかし、考えている暇なんてなかった。
大鎌を振り上げた悪魔は、瞬時に間宮さんの懐に入り、躊躇なく得物を振り下ろした!
大鎌が間宮さんの首元に迫る……!
思わず尻もちをついた間宮さんの胸が揺れたのはこの際どうでもいいとして、このままだと間宮さんが大鎌で真っ二つになる。
それは、……それは駄目だろ流石にっ!
「やめろぉっ!」
僕は咄嗟にロリボディを跳ね除けた。彼女の身体はとても軽く僕の体当たりで見事に吹っ飛んでしまった。持っていた大鎌は地面を跳ね、スッと消滅した。間宮さんは僕の後ろで腰を抜かしている。
「……いっ……たいわ、ね……アンタ……」
駄目か、気絶くらいしてくれたら良かったけど。このロリボディ、見た目よりタフみたい。まさか本当にサキュバス……悪魔なのか?
再び瘴気を纏うロリ、いや、悪魔は右手を振り上げる。また、アレを召喚するつもりか?
これは僕の責任だ。僕がこの悪魔に助けを求めてしまったから、こんな事に。
「ま、間宮さんっ! ここは僕が! 間宮さんは早く逃げて!」
「えぇっ!? でも、儀式は!?」
「いいからっ! はやく!」
この状況で儀式の心配してんじゃないよ間宮さん! 頼むから逃げなさいっての!
そりゃ僕も逃げられるなら逃げたいけども、このロリ悪魔が簡単に逃がす訳ない。どちらかが囮にならない限り逃げきれないだろう。
あの速さを見ても一目瞭然だ。
人間の速さじゃない。……コイツは悪魔だ。
こ、これはマジで駄目なやつ、かも。
「わ、わかった! ……す、すぐに先生呼んでくるからっ……漢路君、死なないでね! あと、儀式は後で執り行うから!」
これほど『死なないでね』という言葉がリアルに感じられるシチュエーションはない。
あと、儀式の事は諦めてくれ間宮さんっ!
間宮さんは着崩れた制服を整え、胸の谷間からホカホカの委員長メガネを取り出す。それをサッとかけると体育倉庫を後にした。
……これで淫乱委員長からは逃れられたけれど、目の前にはロリ悪魔がいる。一難去ってまた一難とは、正にこの事だ。
「アンタね、自分で助けてって言ったくせに……その女を庇うっておかしくない?」
「あ、あんな物で攻撃したら……間宮さんが死んでしまうだろ……馬鹿か!」
正直なところ、僕は敵を一人減らしただけだ。
「はぁ? 馬鹿ぁ〜? アンタ死にたいわけ?
理解出来ないわ、人間って変な生き物なのね。まぁいいわ、代わりにアンタの魂をコイツに食べさせてあげてよ? お腹空いてるんだって」
ロリ悪魔は再び大鎌ソウルイーターを呼び出し、片手で握りしめた。そして一歩、また一歩と、僕に迫ってくる。大鎌は奇怪な雄叫びのような、極めて不快な呻き声をあげている。
体育倉庫で、
『デビルにソウルをイート! yeah!』……されるとか、完全に詰んだぞ人生! YO!!
どうする、どうする、……駄目だ、何も打開策が浮かんでこない。
僕が諦めかけた、その時だった。
ロリ悪魔の纏う瘴気が突然消滅、ソウルイーターは弾けるように消えた。
そして、ロリ悪魔は力無く地面に膝を落とし虚ろな瞳で僕を見る。かなり息が荒い。顔が真っ赤だ。
「だ、大丈夫かっ? おい?」
「……アンタって……ほん、と……の……ば、」
ロリ悪魔は、……いや、リリィは何か口にしようとして、そのまま気を失った。そのまま前に倒れてきたのを思わずキャッチしてしまったけど。
……それにしても軽いな。
相手が悪魔とはいえ、女の子に抱きつかれているこの状況は、女性恐怖症の僕としては苦痛……な、筈なんだけど、不思議と拒否反応が出ないな。
間宮さんに迫られた時は、身体中が拒否していたのだけど、
————何故?
僕は気を失ってしまった自称サキュバス、リリィを抱え上げ、誰にも見つからないように校舎の裏口から外にでる。僕は不審者に間違われるのを防ぐ為、着ていた制服の上着をリリィに羽織らせる。
リリィは小さいからすっぽり収まった。その小ささに、少しだけ心が和んだのは内緒だ。
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