最終話 異世界で婿養子になって

 「・・・・・・こうして、宝石巨人はマガイダー卿により倒されました」

 お腹の大きくなったラヴィニアがソファの上で、小さいハーフエルフの子供に

絵本を読み聞かせる。

 「父上、すご~い♪」

 小さい金髪のハーフエルフの少年が、福太郎を尊敬のまなざしで見つめる。

 「息子よ、恥ずかしいから父をそんな目で見ないでくれ」

 恥ずかしがる福太郎、そんな中呼び鈴が鳴りチャラい声が響く。

 「福ちゃ~ん、皆で飯食おうぜ~♪」

 シルバードこと、冴村涼児さえむら・りょうじだ。

 彼もルミナースと地球の行き来をして、異世界にしれっと馴染んでいた。

 ドアを開けて迎え入れる福太郎、涼児の手には酒と地球の総菜が抱えられていた。

 「まったく、いい加減お前も嫁さん見つけろよな」

 文句を言いつつもしかたなく受け入れる。

 

 「いや~、姫騎士のお姉ちゃんが固くてさ~♪」

 こちらでもシルバードはチャラかった。

 「良いではないですか、子供も喜んでますし♪」

 ラヴィニアもが笑顔で夫をなだめる。

 「そうそう、俺らもうファミリーみたいなもんじゃ~ん♪」

 調子に乗る涼児。

 「息子がお前の影響を受けるのが、嫌なんだよ俺わ!」

 涼児のポーズを真似する息子を抱いて下げる福太郎。

 「いいじゃん、俺と福ちゃんを足せば丁度いい性格になるって♪」

 涼児のセリフに呆れる福太郎。

 「お前が自分で言うな!」

 父親の威厳のために、涼児に怒っておく福太郎。

 彼らが幸せな日常を満喫している理由は、五年前に遡る。


 マガイダーに変身した福太郎とラヴィニアは、宝石巨人の討伐に向かった。

 「あれが宝石巨人か、色取り取りだな」

 赤青黄色と全身を虹の七色の宝石で構成された怪物、それが宝石巨人だった。

 

 一体で、街が五年間無税にできるほどの価値の宝石が三体もいた。

 「そ、そんな! 宝石巨人が繁殖してるなんて!」

 ラヴィニアが驚く、宝石巨人は単体生殖で増えることができるらしい。

 「大丈夫だ、全部倒して街を潤わせれば良い!」

 マガイダーが跳ぶ、殴りかかってきた宝石巨人の剛腕を体当たりで粉砕する。

 「どうやら、俺の鎧の方が堅いな」

 宝石の雨が降る中、マガイダーが独り言を言う。

 落ちた宝石の回収方法はどうしようか? と、マガイダーが一瞬悩んだが

その問題はラヴィニアが解決してくれた。

 「神の鍋よ、世に散らばる富を我らが糧として集めたまえ!」

 大地に散らばった宝石達が、ラヴィニアが作り出した黄金の鍋に吸い寄せられる。

 それはラヴィニアの呪文だった、後で聞いた所によると強制的に悪人やモンスターから布施を集める魔法らしい。

 

 マガイダーが飛び回り、ラヴィニアに向かわないように敵をすべて引き付けているのだが流石に敵の攻撃のすべては避けきれなかった。

 「ぐは!」

 宝石巨人に握られ呻くマガイダー、そんな彼の窮地を天は見捨てなかった。

 ただし、彼が最も望まない形での天の助けでもあった。

 

 空に穴が開き、穴から出てきたのは剣に似た戦闘機だった。

 「……何だ? ここは地球じゃなくね、ってありゃ福ちゃんじゃねえか!」

 その戦闘機の名は、ブライトセイバー。

 マガイダーの相棒、シルバードの愛機である。

 「そ、空を飛ぶ剣?」

 ブライトセイバーを見たラヴィニアが驚く。

 「待ってろよ福ちゃん、セイバービーム!」

 ブライトセイバーから放たれた光線が、マガイダーを捕えた宝石巨人の腕を切り落とす。

 皮肉にも、宝石巨人の手がマガイダーを落下のダメージから守り解放した。

 「マガイダー様!」

 ラヴィニアが駆け寄りマガイダーに回復の魔法をかける。

 「すまないラヴィニア女史、あいつがこっちに来たのか?」

 空を舞う剣型の戦闘機を見て、マガイダーはげんなりとした。

 「あれは、マガイダー様の世界のものなのですか?」

 ラヴィニアがマガイダーを担ぎながら聞いてくる。

 「そうだ、あれは空を飛ぶ乗り物で乗っているのは俺の相棒だ」

 苦々しく答えるマガイダー、せっかく腐れ縁が切れたと思ったら向こうからやって来やがったと心の中で毒を吐く。

 「あいつにばかりやらせはしない」

 マガイダーブレードを取り出して構える。

 構えた武器に力を集める。

 「決めるぜ、マガイダーバースト!」

 マガイダーブレードから闇のエネルギーを武器から放出し、宝石巨人の胸を撃ち抜いたマガイダー。

 その一撃は、宝石巨人の心臓を破壊し大量の宝石へと変えた。

 「お、福ちゃんやるねえ♪ 俺も行っちゃうよ~♪」

 シルバードも、ブライトセイバーで宝石巨人に体当たりをかまして粉砕する。

 

 かくして、マガイダーとシルバードは宝石巨人を倒すことに成功した。

 それらの宝石は、ラヴィニアが魔法を使いすべて回収した。

 ブライトセイバーが着陸し、シルバードが下りてくる。

 「福ちゃん、無事だっ……ぐはっ!」

 下りてきたシルバードにマガイダーの拳が炸裂した。

 「自分だけ先に逃げて何を抜かしやがる!」

 助けられても恨みは忘れていないマガイダーであった。

 「ごめんよ~! でも、助けに来たじゃ~ん!」

 謝りつつも抗議するシルバード。

 「やかましい、お前にはまだまだ貸しが溜まっとるわ!」

 言い返すマガイダー。


 これが、絵本には描かれていないマガイダーの宝石巨人退治の真相である。

 この後、マガイダーこと福太郎はラヴィニアと無事に結ばれ現在二人目の

子供の誕生を待つ身となる。

 「いや~、異世界ってのも悪くないな~福ちゃん♪」

 酒を飲みながら笑う涼児。

 「やかましい、人ん家に馴染むな! 息子の教育に悪い!」

 突っ込みを入れる福太郎、異世界で婿養子となり落ち着きつつ

用があれば地球に行くという二重生活を送る日々。


異世界だろうが地球だろうが、彼の受難はこれからも続く。


 

 

 

 

  

 

 

 

 

 


 

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マガイダー、異世界で婿養子になるってよ ムネミツ @yukinosita

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