[キタキツネ] 白黒写真のつかいかた <短>







 夜の温泉でボクは今、どうにか気を保ちながらコレを書いている。

 裸んぼで、湯灯りと近くの岩を頼りに...。

 もう立てないし紙もフヤフヤだよ。


 さっきより気分の方はラクになった、気を抜けば意識がトびそうだったからね・・・。



 ボク キタキツネはもうすぐ寿命を迎える。

でも悔しいの、このまま終わるのが。こう見えてボクって悔しいまま諦めたことはない


 ・・・旅館にあるゲームの話だけど。



 さて、実際みーんな消えちゃった。マーゲイやショウジョウトキ、そしてギンギツネ達も。


 ほんとはもうお終いだけど、皆お話でだけは再び戻って来てくれる。

 フ.フ.フ.フ... ああ可笑しいな なぜか


 さてと繰り返すようだけど時間がない。じゃあ、お話を続けようかな



   ─┈ ⛄❄️*°


 お部屋のテーブルを隔てて左にマーゲイ、右にショウジョウトキが座敷に座っている。終わった娘を呼びだすおまじないについて話すという。

 二人の存在も、今となっては懐かしい


 朱い娘が言うにはモノクローム (白黒の写真) に "ある手順" を加え、ソレをこっちへの通り道にする。

 でも、生きてる側が通ることは出来ない


 ──と言う内容まで教えてもらった。

ここからショウジョウトキは「でもごめんね」と一旦間を置き、このように断ってきた。



「あえて手順は詳しく教えないようにしてるの。私はざっくりと伝えるだけ。

 それを結び付け、後はキタキツネ自身が本当にソレを行なうか決めて欲しいのでっ」


 今まで教えてきた娘たちにも同じ対応だとのこと。決意の強さと、せめて思い留まらせようとしているんだと思う


 あと多分、朱い娘自身の葛藤。

「自分は教えて大丈夫なのか・・・?」ってとこか。


 もう先が長くないからか、ボクにしては勘が冴える。磁場もビンビン感じちゃうほどに

 そして、このように教えてもらった



・会いたい相手の写る "モノクローム" を

・"大切な物" と共に

・"暖かくて目に付かない暗所あんしょ" にしのばせる


「三つ目については部屋とかを言ってるのではなく、そういった『箇所』ですけど。あと、仕舞ったら二度と見つけてはいけないので」


「二つ目は "貴方が大切にしてる物" か、"相手が大切にしてた物" よ」 マーゲイも補足する。


 物に宿る、想いの念を使うとのこと。



 ・・・ざっくりと言ったわりに、意外と二人は細かく教えてくれる。お節介さん...なのと、本心は教える構えなんだろう。


 モノクロームと一緒にしまう大切な物は、あの娘から "奪い取った物" を使うことにした。

 ボクは胸ポケットから、ソレを取り出す


「...それ、毛皮よね。どちらか二人の??」


 ネコの娘が眉を寄せ、こちらに尋ねる。

ギンギツネが付けてた黒いリボン。ちなみに、持ってないけどカピバラのは茶色だ。


 あの時ボクとギンギツネは、些細な事で取っ組み合いになるほどの喧嘩をしてしまった。その際、あの娘からひったくった。


 先にイったカピバラの件もあって、相当ボクはカリカリしていたんだ。後悔してる


 それっきりギンギツネとは口も利かず、何日か気持ちの整理をしてからやっと謝ろうと決めた。

 廊下へ出ると彼女を見かけた。背を向けて蹲っていた。

 ちょうど、消えていく最中だった...。


 でも、このリボンだけは遺ってくれた。

マーゲイの件も同様、その娘が終わる寸前に盗る──もとい、拝借すれば残る場合があるよう。



「てか、何したらそうなるんですかソレ...」


 少し考え込んでいると、朱い娘が引き気味に尋ねる。リボンの事を言ってるらしい

 歯形とかがメチャクチャ付き、おまけに何か乾いた痕でカピカピしていた。


「気づくとこうなってた」ボクは答える

実のところ、ギンギツネの最期を見てからの事はよく覚えていない。どうかしてたのかも


 けど もう今さら気にする事でもない。


  フ.フ.フ.フ.フ...... はぁ


 カピバラはまたいずれ・・・。一人しか呼べないとの事だから。



 場面を戻すけど、"暖かい暗所" が分からない。聞けば教えてくれるだろうけど、げーまー魂と言えばいいのかボクは意地を張る。


 ふと目線を下へ移すと、足元に湯たんぽが転がっていた。

 何となくピンと来て「これじゃダメなの??」と二人に聞いてみる。念のため用途も説明した。


 これはお湯を入れ、布団や座布団、枕などを温める物。そこで <お湯とモノクロームを入れて封印> と、思いついたわけ。

 二人はまじまじとそれを観察して答える


「お湯・・・じゃないのよね。だけど惜しい」

「うん、確かにキタキツネの発想はとてもいいセン行ってますけど!」


 正解ではなかったものの、特に朱い娘がほめてくれた。「普段げぇむしてるおかげだよ」とボクは少し照れながら言葉をにごす。


 結局答えとしては── "枕下にモノクロームと大切な物を入れる" 。

 なるほど確かに惜しい。手前みそ


 その枕で眠る娘 (今回はボク) の想念を写真が吸い、数日でそこが別次元の出口になる。

 でもそれを、誰も見ることはできない


 ・・・とのこと。


 ぜひ試そうと思った。そして妄想はなはだしいけど、残りの時間を呼び寄せたギンギツネも含めて四人で過ごせればって


「結局また、全部教えちゃったなぁ。」

 朱い娘が独り言のように呟く。


「そうやってまた貴方は、終わった後でそんな顔する!一緒にちゃんと考えたでしょ~」

 ネコの娘がショウジョウトキを優しくおこる。

 ボクも聞けて良かったと思っている。やり取り楽しかったし


 そしてその日のうち、ボクは教えられた通りそれらを仕込んだ。

 自分の枕下に "白黒写真" と "毛皮リボン"

正直な感想として「たったこれだけでいいの?」。でもこの枕はもう二度と動かせない


 改めて考えると枕の下が別次元になるなんて、不思議な気持ちだ。

 

 就寝時、今までは別々だったけど、この日は三人で一つの大きな布団に潜った。

 ボクを真ん中に、朱い娘が左で右にネコの娘。寄り固まれば効果が上がるかもって理由。


 吹雪で窓がガタガタと音を立てている


 ふと気になって、ボクは尋ねてみた

「そういえば二人とも、自分に対してはおまじないを試してないの?」


 そもそも彼女たちは独りじゃないけど、別れた娘にまた会いたいって気持ちはあるはず。

  右隣で布団を被るマーゲイ は言った


「私はね、PPPの五人から誰を選ぶかなんてできなかった。だからモノクロームに留めておくことにしたの。ほら、これよ」


 そう言いつつ白黒写真を差し出す。ペンギンの娘たち5人が、みずべのステージ上で跳ね踊っているものだった。

 ただボクは写真ではなく、今居るマーゲイ自身に目が行った。何だか、儚く見えたから。


 朱い娘もボクに答えてくれた。

「私は試してみたの。教える側がソレを行なわないってのは何だか不公平に思えたので」


 聞く前からトキかアルパカを呼んだと思った。こうざんで一緒に居たと聞いてるし、マーゲイならあの娘たちの写真は絶対持ってる。


 ところが彼女は、このように続けた


「だけど私が試しても、何故か呼べなかったの。でも教えた内容は本当ですから!他の娘たちは来てくれたと言ってた!!」


 ショウジョウトキが強く言う。会えなかったこと自体を、残念に思っている顔だった。

 それとボクはウソだなんて思っていない。あくまでおまじない、必ず成功するわけでもないはず。


「・・・大きな声だしてごめんね。多分、糸でんわの相手が何かヘマしたんだと思う」

 急に予想外のことを朱い娘は言いだす。


「そういえば貴方さっき、その声トキに似てたとか言ったわよね??」

「えぇ、あの娘みたいに大人しい声だった」


 二人は話を続ける。一方のボクは割り込める言葉が思いつかなかった。


「わざわざ私にできない事を、伝える必要ないでしょうし。こう言うのもおかしいですけど、肌で感じたの」

「貴方が夢での当事者なんだし、言ってることは間違ってないはずよ」


「ありがと、それでこう思ったの。

"向こう" のトキかアルパカが、何かミスをしたから呼べなくなったんじゃないかって」


 きっと、朱い娘は何か察知できるのだろう。ボクの知れる範囲のことではないと思った。


 それから何とかボクも会話に混じり、3人で話した。その内いつの間にか眠りに落ちていた


  そして次の日に、二人は消えた。



 ふと、朱い娘が言ってた事を思い出す

< "助手の件" があるまでは、私は自分さえ寂しくなければよかったんですけど...>


 今思うと彼女は、初めこそ独りに耐えかねて各地を周っていたんだろう。

 でも、お呪いに成功してからは、他の娘を一人にしないことが使命と思ったのかもしれない。



 2. 憑く


 二人の姿が無くなった事で何かが吹っ切れたのか、ボクは一人遊びに明け暮れていた。


 主に "げぇむ" だけど、ネコの娘が遺したジェーンのジャージ、朱い娘からは玉の付いた髪留めもギってたから遊びに困らなかった。

 ニオイたっぷり。でもナニしてたかは内緒


 ただ マーゲイ本人からは何も盗れなかったのが残念。唐突に居なくなったからね...。



 さてと、あれから三日ほどが過ぎた。

「ほど」って言うのは色々ふさぎ込んでたんで、時間の感覚が正確ではないって意味。


 おまじないの件は信じ、夜は必ず布団に潜ってた。モノクロームを枕にしまい、3回目のおやすみでのこと


 夜中、ふっと目が覚めた。

 ボクは仰向けの恰好で布団にいた。何気なく寝返ろうとするけど── (あれっ...?)


  なぜか、身体が動かない


 暗い静かな部屋に、独特な甘いニオイと、枕から強い熱を感じた。

 目が慣れると "反対向きの山らしき物" が仰向けの先に見えた。青色っぽいと分かった



 ボクの中で、ある予感が湧き上がっていく。

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