[キタキツネ] モノクロームきつね憑き <中>






 まず始めに謝るね、ごめんなさい。


 キミがこれを見ている時、すでにボクはパークに存在していないと思う。今ボクは温泉で、泣きながらこれを書いている。


 この内容は助けを求めるものではない。ただこのまま黙って終わってしまうのが悔しい。

 だからせめてここに書き残しておこうと思う。頑張って伝えるから、どうか見てて欲しいな



    ┈┈ ❄️ ❅*°


 まずどこから説明しよう。

ボクは "ゆきやま" に建つ、おんせん宿を住処にして過ごしている。


 ここにはゲームも置いてて、遊ぶに事を欠かない。ボクが遊び好きなのもこれのせいなんだ。


 元々あまり外に出ないボクだけど、最近それに輪をかけて引きこもっていた。

 ゲームに夢中で・・・と言うより、全てにおいてどうでも良くなった感覚が強い。


 理由は二つある。

 まず一つは疲れやすくなったから


 だけど実際は、もう一つの出来事こそがボクにとっての決定打だった。


 "カピバラ" がどこを探しても見当たらなくなり、それから数日して今度は "ギンギツネ" が消えたから。

 しかも、目の前でね


 フレンズとして、二人は寿命を迎えた。先ほど「疲れやすくなった」と言ったのは、つまりボクも終わりが近いから。


 でも、怖いとは思っていなかった。

もう無くすものなんて何もないし、言ってしまえば「怖いものさえ怖くない」そんな気持ち。



 ボクは毎日を遊ぶことにした。「先にお風呂っ」とかもう言われないから、その意味でもボクは嬉しいはずなんだ


  なのに、涙がぼろぼろ止まらない



 ギンギツネが終えて、一週間足らず。

ゲームの椅子にボーッとむなしく座っていると、窓からお昼の陽が射してくる。


 陽光はボクを照らし、沈んだ気持ちとは裏腹に身体がぽかぽか暖かい。ふと全身の力を抜く

 いつの間にか、意識が飛んでた。



 どれほど経ったか、誰かに揺すられている感覚があった

「..ぇ キタキツネよね、大丈夫!?・・・」


 投げやり言うようだけど、残念ながらまだボクは終わっていなかった。


 ぼんやり振り返ると、うつつな視界に二人の姿。赤い格好と黄色い格好・・・

一瞬 "かばん" と "サーバル" を想像するが──



「おぉ 起きたっ よかったんですけど~!!」

「寒い中、来た甲斐があったわねっ」


 居たのは眼鏡をかけたネコの娘 "マーゲイ"🟡 に、鳥の娘 "ショウジョウトキ"🎈 という何とも意外な組み合わせの二人だった。


 マーゲイが寒さに震えていたため、ひとまずお部屋へ案内することに。ただボク、宿にいるくせして出迎えが慣れてない。

 ギンギツネに任せっきりだったことを後悔しつつ、どうにか二人を迎え入れた。


 二人には今も会えてよかったと思っている



   ┈┈ 🌑 ❄️❅*°


 かなり遅い時間に二人は来たらしく、窓の外は真っ暗だった。いや──


「真っ白ではない、珍しくゆきやま晴れてる・・・。もし吹雪いてたら二人とも、此処に辿り着けなかったよ!?」


「だからこそ無理してここまで来たの。私たちの時間もわずかだし、貴方も一人より...絶対いい」


 ボクの言葉に、マーゲイがしみじみ返す。

よく見るとこの娘、サイズが小さな意味でも格好に合わないジャージを羽織っていた。


  緑色の目が合い、彼女は続ける


「これ、PPPのジェーンさんが着てた毛皮なの。最期の寸前に合意の上で拝借した・・・。

 おかげで、寒さも少しはマシだったわ...」


「マーゲイ、そんな萎れた顔しないで欲しいんですけどっ...」


 二人の言葉から、外の娘たちも続々とフレンズを終えた事を知る。

 この娘たちは自分の残された時間を、かつての娘たちを巡るために使っていたと言う。



  巡りの発端も ショウジョウトキ とのこと。


「つまり、私がリーダーなんですけどっ。

・・・なーんて威張れたもんじゃない。カフェに誰も居ないのが耐えられなかったの」


 彼女の「ドヤッ」に元気がない。ちなみにこの娘は寒さが平気なものの、マーゲイは本当に覚悟のうちだったと言う。


「あの広いステージに独りでいるくらいなら、最後に私も付いて無理しようと思ったのよ」


  ほんと、よく思い立ったと思う・・・。



 その後ボクたちは三人共同で数日を過ごし、色んな話もした。空からこうざんを見つけたお話や、アイドル活動での事とか。


 ボクもここの温泉を堪能させ、二人は旅館での暮らしをとても快適そうにしていた。

 半面、少し寂しげにこうも漏らしていた


「私も険しい道を付いてきた。寒さ苦手なネコの終着点が此処なのも、きっと悪くないわよね」


「そもそも、フレンズは群れを指す言葉。

せっかくここまで来れたんだし、"独り" を恐れた私の行動は正しかったと胸を張りたいな・・・」


 二人の言葉が儚く、尊く聞こえた。



 彼女らが来て一週間が過ぎたお昼のこと

 この日こそ、ボクにとって転機の日。


  (ブラシ折れて疲れた、腰が痛い~...)


 お風呂の掃除をしているとなぜか道具が壊れた。何とか終え、でもどこか不吉なものを感じつつ部屋の襖を開けるボク。


「おっ ほんとに帰ってきましたね」

「おかえりキタキツネ。少し、いいかしら」


 部屋では二人がテーブル越しに、左右向かい合わせに座っていた。マーゲイはボクの気配をけもの耳で既に察知していたみたい。


 ところが、部屋へ踏み込もうとして...


「・・・ どうしたの、 二人とも」

 入り口で、ボクは思わず足を止めた


 二人とも口元を固く、視線をこっちにまっすぐ向けて何かを決心したような顔つきだったから。

 すると マーゲイが、こう切り出してきた。



「ねぇ キタキツネ。もし・・・もしもよ?

ギンギツネかカピバラに、会える方法があると言ったら......試してみようと思う?」


 間を置かず、今度は ショウジョウトキが言う


「ほんとは貴方も、ずっと泣いてたんだよね。私ある "おまじない" を知っていて、教えるべきか考えていたの。

 私たち、キタキツネに感謝しているから」


 感謝とかおまじないとか、もういない娘の名前を急に言われ、色々ワケが分からずボクはその場で立ち尽くしてしまった。でも、思った



 ボク自身が若干おかしくなってたのもあるけど、「たまらなく好きな相手」にまた会える方法とか言われたら・・・聞く以外ないよね。


 二人は棒立ちのボクを席に招き、まずどうしてそれを知るのか ショウジョウトキが教えてくれた。



「私がフレンズになりたての頃ですけど、なぜか "糸でんわしている夢" を見たの。

 結果から言うとその相手から『もう居ない娘に会える方法』を教えられたんですけど


 思えば、あの声 "トキ" に似ていたな...」


 ボクは糸でんわ・・・という物が何か分からなかった。でも今それは重要なことではない。


「その「糸でんわ」がおまじないなの?」

 場繋ぎのため、とりあえず聞いてみる


「いいえ、そっちはショウジョウトキが見た夢でのお話。大体私も糸でんわって分からないし」

 マーゲイ が答えてくれた。


 ショウジョウトキ はずっと夢での事を覚えていたけど、ソレを実際に行なう機会はなかったらしい。

 そりゃそうだ。夢でのことだし



 だけど、あるキッカケによって試さざるを得なくなったと言う。二人が内容を話す


「マーゲイを連れて間もない頃、まずとしょかんへ行ったの。でも既に助手の "ワシミミズク" しか居なかった」


「彼女、早くハカセの所へ逝きたがってたのよ。もっと本音でお話したかったと漏らしてたっけ...」


 ・・・察した。助手がおまじないの事を聞いて、二人に頭を下げたんだ。その後ダメ元でソレを行ない、そして成功してしまったんだろう。


 多分、二人がボクに教えたいのは──


・ギンギツネ達の所にイく方法

・おまじないだから危険だと言う事


 ・・・そう予想した。

 でもあいにく、ボクは何も怖くない


 後の話はほぼ予想通りだったのでハショらせてもらう。ただ途中で マーゲイが、少し気になることを言ってた


「私もおまじないに "必要なもの" を持ってたんで、助手に尚更せがまれたのよね...」


 それから二人が図書館に来て三日後、助手は満足げに彼女たちを送り出してくれたと言う・・・


「あれ、そのお呪いって会いたい娘の所にイかせるんじゃないの??」

──助手の最後が、ボクの考える予想と少し違っていたので思わず聞いてみた。



「むしろ逆、こちらに呼んで憑かせるの」

 そう朱い娘は答えた。


 なるほど助手が満足そうだったのは、ハカセが憑いたから...なのか。てっきりお呪いで助手を逝かせたのかと思っていた。


 でもそれだと ショウジョウトキがとんでもない事をしでかしたことになるから、そもそも有り得ないか


「でも憑かれた娘にしかその感覚は分からないようだし、霊もこちらには視えない。

 なので、私が幻覚を見せるような・・・そんなお呪いを掛けてしまったのではと心配でもある...」


 ショウジョウトキは、葛藤しているんだと思う


 でもマーゲイによると今までソレを終えた際、相手周りの気温が少し低下するんだと言う。

 元々ネコ種とは、そういう感が鋭いようで彼女がそう言うのだから間違いなさそう。


 再びまとめると──


・逝った娘を憑かせるため、呼び寄せる

・自分の体調に、異変が起きるかも



「長く喋っちゃったけどそろそろ。これは孤独を抜け出す方法、でも身に何が起こるか分からない。

 改めて、それでもしようと思う??」


 朱い娘の言葉を聞いて、ふと無意識に窓の方へ目が向く。お昼なのに吹雪だった

 もちろん、会いたいという気持ちは変わっていない


 ・・・でも、一つ引っかかった。

 言っとくけど怖くなったとかではない


 孤独を抜け出すって意味だとボクは何だか違う。今いる二人と一緒なら寂しくない。

 すると ショウジョウトキが、このように言った


「私がこの方法を教えるのは、貴方を独りぼっちにさせたくないから。

 正直 "助手の件" があるまでは、私は自分さえ寂しくなければよかったんですけど...」


 朱い娘は、遠くを見るような目だった。

ここでのボクは、彼女の言っていること全体の意味をイマイチ理解できなかった。


 それから二人はボクの了解のもと、おまじないの方法を教えてくれた。


 ネコの娘が、ある物を差し出す


「ボクと、ギンギツネが写ってる...?」

「これはね "モノクローム" とも言うんだって。ゆうえんち集まった時に撮りまわってたの」


 ネコの娘が出したのは「白黒の写真」

 先ほど言ったおまじないに ”必要なモノ”。


 タイルに観覧車、コーヒーカップ...周囲の背景にもどこか懐かしさがあった


 マネージャーと言う立場のマーゲイは、どこで得たのかそのカメラで「カメコ」と言うのをやってたらしい。なんなら、皆の写真を持ってそう


 今度は朱い娘が言う。


「白や黒は目に付きづらい色。故に視えないものを引き寄せる力がある。・・・糸でんわの相手が、そう言ってたんですけどね」


 これに、ある手順を加える



  ┈─でも、ごめんね。


 長くなるからひとまず区切ろうと思う。

最後に順序が前後するけど、二人がこの後どうなったのかを書いておく。



 次の日の朝


 部屋から出ると、廊下にネコの娘が大切に羽織っていたはずのジャージが乱雑に落ちてた。

 以降、二度と彼女が現れることはなかった


 外は吹雪。朱い娘には伝えなかったけど、彼女も察してるようだった。


 さらにその日の夜。

 おやすみ前に朱い娘が布団へ潜り込み、無言でボクを抱きしめてきた。ワケ分からなかったけど嬉しい気持ちになり、そのまま眠りについた



 次の日、朱い娘は布団に居なかった


 その瞬間、ボクは朱い娘の言ってた「貴方を独りぼっちにさせたくない」の意味がやっと分かった。


 自分たちはもうすぐ終わる。でもボクはもう少し長生きする


 この日はずっと布団の中で泣きべそをかいた。でも残念、ボクのお話はまだ終わらない。

 最初に言ったけどこれは温泉で書いている


 もう少しだけ続く



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