[フェネック] 通り道から助けてくれたあの娘 ─後編─ <中>







 外に出たアライさんの悪い意味で驚く声

"ここ" ってことは場所が・・・何だろう。私も追いかけて穴から出たけど....



  ──・・・暗いしそれに 何これ 


 出た先で目に入ったのは、

夜の景色に "赤い光" を出す "鉄の棒" と、明らかに違う場所。私も殆どアライさんと同じ驚き方をしていた。



 鉄の棒は "街灯"って言うらしい・・・。

道の端から上へ伸びて逆U字にまた下を向き、上から赤い光を落としている。不気味にジィー...って音を出しながら。


 向こうの光を見ていると圧されるようで眼が痛い。それとバスてきの下にいる時、隙間から外を見ても何故か光なんて見えなかった。


 光を浴びるとヤバい、勘がそう言ってる



 夜も明けていない。アライさんと交互に見張りをしたり眠ったり、かなり時間は経った。朝になっていないとおかしいのに。



 周りが森ではなくなっている。

見通しの良い平地に、大きく四角く掘られた土の場所がいっぱい・・・荒れた畑と田んぼが広がっていた


「ここ、どこさ....」と思わず独り言を漏らす私に、アライさんも言う。



「こんな場所見たことないのだ...

帰れると思った...のに あんまりなのだ...」


 大きな碁盤みたくなった道に、ぽつんと私達はいた。黒い霧を避けたのに、飲み込まれてしまったんだ・・・


 まだ終わってないという状況に、アライさんは相当参っている様子。私もだけど....



 ちなみに私も田んぼや畑を初めて見た。

後にツチノコが詳しく、石灯籠と一緒に教えてくれた。でも──


 夜の田んぼ道に赤光り街灯・・・ありえない



 「・・・はぁ、あんまりなのだ」


 アライさんがまたため息交じりに言う。

私のせいだと思い「.. ごめんね」って言いにくそうに謝った。いっそ思い切り責めてくれれば楽とさえ思ったけど・・・



「フェネックは悪くないのだっ・・・赤い光に当たっちゃダメなのだ!」


 でもあくまで責めないでくれた。

どうも予想はしてたことが確信になって、ため息が出たとのこと。


 いや、それより・・・!アライさんにはまだ何かの声が聞こえているらしい。


 赤い光、これ当たるとどうなる?

楽になるのかな....ダメだ、変な考えを起こすと頭がおかしくなる。


 道はバスてき二台分あまりの幅があり、赤光街灯はその左右交互に離れて立っている。バスてきに乗りながらでもジグザグに動けば光を避けて進めそう。


 道の左右には深い堀があり、水?が張っている。落ちると今度こそバスてきは連れて行けない、これは。



 「フェネック向こうを見るのだっ」


 急にアライさんが前を指差す。見ると夜に染まった森の影が遠くに見えた。最初の場所に似ていて、元の場所かもしれないと思った。そう考えないとやってられない


 アライさんにも伝え、まず向かうことに

 ・・・その時だった


  ─..ォーン  

       ドーン....


     ┈┈┈┈?


 バスてきの席に座って漕ごうとすると、遠くから太鼓を叩くような音。・・・後ろから聞こえる。


  何だろうって気になった──



「──! 後ろ見ちゃダメなのだっ!!」


 絶叫のようなアライさんの呼びかけに、思わずビクッとして首を戻す・・・と言うよりアライさんの方へ向く。後ろを見る寸前だった。

 アライさんは前を見ながら言う....


「ハァ..ハァ....危なかったのだっ..!! 連れて...かれるらしいのだ....」


 ・・・危なかった。アライさんには聞こえたらしい、 "振り向いてはならない" って



「....ありがとう助かったよ 行こう・・・」

「...何でこんなことになったのだぁ...」


  ──キコ...  キコ..

     キコ....  キコ...



 私たちの何かがスり減る中、また漕ぎ出す....



  ───

  ─────けれど・・・ね



 それからずっとずーっと漕いだ。赤い光を避けて、休んで。


 でも先に言うと私達では帰れなかった。

漕いでも漕いでも森にたどり着くことが出来ない。しかも夜が明けない



 それと街灯の光は確かにヤバかった。

漕いでる間、バスてきから顔を出し様子を見ようと・・・


    ┈┈ヒイィィ....


『うっ..しまっ ・・・!』

『フェネック!!!』


 注意力が欠けてたのか、上からの赤い光に気づけなかった。幸いアライさんが、すぐバスてきに引きこんでくれて髪の先だけで済んだけど・・・


 光の当たった髪先が "真っ黒" になった。

私の髪って白と黄色だけど、髪が黒いのは別に普通だと思うでしょ?



   問題はそこではない。



 身体を起こすと、髪が引っ張られた。

"痛いっ" ブチって音を立てて髪が何本か私から抜ける。


・・・が、抜けた髪は落ちず浮いたままだった。黒くなった部分の時間が止まったように。



  この時わかった 浴びると終わる


 ここからもう動きたくないと思い、実はアライさんと少し喧嘩をした・・・でも止まるとそれこそ帰れないって私を叱ってくれた。

結局ゆっくり少しずつ慎重に漕ぐことに。



  ほんとにごめん、アライさん。


 途中で何故かガラクタ置き場を見つけた。

道の堀にソレがあり、前にみずべから入って見たもので間違いなかった。・・・場所違うのに


 "まんまる" もあり、持っていくことにはした。この時も ドンッ...ドンッ....って音は聞こえ続けていた。


     振り向いてはいけない


 今欲しいのはまんまるでは無く、出口なのに。 "多分" 三日くらい経っていた

ずっと夜で時間が分からないから "多分" 。



 アライさんが言うには、ココの物を口にしてもいけないらしい。私たちが持ってきた水やジャパリまんで何とかしたけど、そろそろ尽きる...


 もう疲れちゃってどうでも良くなってた。

 水尽きたらもうこの場所の水ススる


  ───

  ─────



 元の場所で言うと四日目の夜か・・・

田んぼ道の端で、赤い光に当たらないようバスてきの中で二人、横になる。

 私はアライさんに言う


「...ごめん 帰り道探すの疲れ..ちゃったよ・・・」



 身体が、ではない。もう精神的に疲れた

 アライさんも私に言う



「アライさんも.. 何だかもういいのだ...。

...やっぱり動かない方が・・・フェネックごめんなさいなのだ....アライさんはまた間違えてしまったのだ...」


 あのアライさんが諦めた様子で、喧嘩した時のことを謝り出す。謝らないでと私は言った、投げやりこそ正しくないから。

 アライさんは少し嬉しそうにして、私にあるお願いをしてきた・・・。



「 "しっぽ枕" をしたいのだ 一緒に...そしたらきっと..きっと元気になるのだ...」


 どこで覚えたのか、お互いにしっぽを枕にしようと言う。なんか涙出てきた、嬉しくて。一人ぼっちではないって思えて。



「ふふ..もちろんだよー..じゃあ一緒...」


 中でお互いの尻尾を枕にして寄り添う。

二人で頭と足を逆向き背中合わせに・・・アライさんに触れてると安心する。



 「お互い、次に起きても・・・元気でね」


 お腹も空いてるくせして、泣きながらウトウトし...眠気には勝てなかった。二人で旅は出来た、もう今はいいや・・・。




・・

・・・・┈けど、不思議な事が起こった



「┈─..ェネック!すぐ起きるのだっ フェネックー!!」


 アライさんが私を起こしてくる。

甲高い声・・・まさか本当に元気になるとは。後で聞いたんだけど、尻尾をヌいた時に頭を床に打たせてしまっても私は起きなかったらしい。


    ──!?


 それより!ボーッとしててもある違和感に気づく。ずーっと暗い場所にいたのに、急に白い太陽の光が目を差した。懐かしくすら思った


 嬉しさより、まず意味が分からなかった



「早く起きるのだっ なんか戻ってこれたのだー!ほら周り、元の細道で "まんまる" もちゃんとあるのだっ!」


 何故か分からないけど、五日目の朝を迎えて急に元の場所に戻っていた。

ぱあぁっと寝起きで喜ぶアライさん。



 見回すと、後ろ向こうに鳥バコ・・・

つまり黒い霧を穴掘りで避けた場所に戻っている。掘った穴も残っていた。


 田んぼ世界をかなり漕いだけど、いざ戻ると元の場所を全く動いていなかったんだ。



 ┈┈この事、博士達に聞いてみよう


 少ない水を二人で飲み...一旦 "ゆうえんち" に戻った。待ち合わせ場所は決めておらず、ゆうえんち と としょかん に博士と助手が二手に待ってくれていた。



 ゆうえんちには助手がいた。

けど何故か助手は浮かない顔をしている。

が、こちらはこちらで戻って来れた嬉しさから


「遅かった?大体1週間ほどだけどー」


「ほら "まんまる" 見つけたのだ、死ぬ思いしてピカピカなの持ってきたのだぁー!」



 私は少し嫌味ぽく言ってしまった・・・

アライさんの方はこれでもかって程に助手へまんまるを見せる。


   けど──



「いやお前たちよくやったのです・・・

少し待ってもらえます? "としょかん" に博士と、話を聞いて欲しいやつがいるので....」


助手の興味はまんまるより、相談事の方らしい。


「なんだ行ってしまったのだ....」


 アライさんは不機嫌そう、私もだけど。

 それから大体二時間ほどして


 

    ──バザッ バザッ....

       バザッ バサッ 


「ふぅ 待たせたのです・・・」

「お前たち、よく帰ってきてくれたのです....」


 博士と助手が再び飛んで戻ってきた。

二人とも疲れていると言うより、困った顔をしている・・・?あるフレンズも一緒だ。

 いたのは──



  「お前たち、お疲れだったな・・・」


 "さばく" の地下にいたツチノコだ。

聞くに彼女は博士たちを通し、1週間ほど他の娘たちにある聞き込みをしており、私たちにも聞きたいことがあるという。



「その・・・お前ら、ソレ探してる途中 "スナネコ" を見なかったか?この遊園地で "ある物" を見つけてから、居なくなっちまったんだ」


 「え、スナネコが・・・?」


  行方不明らしい。

私もさばく出身、彼女と知り合いだけど...。当然見てないし、 一緒にいたアライさんもスナネコを見ていないはず。 だが、



  アライさんは少し妙なことを言い出す



「...紫のモヤを見てからの声、多分スナネコだったのだ・・・」



     ┈┈え?


   ワケが分からなかった。


 アライさんにだけ聞こえた声が、今考えるとスナネコの声だったと言う。何故か思い出せなかったらしい。



「待て、紫のモヤって・・・あの森か!?

 しかもスナネコの声が・・・」


 ──ツチノコに心当たりがあるみたい


 地図を皆に見せてルートを説明した。

この場所からみずべまで、道ではなく森になっている所。ツチノコが言うに通った森の細道は・・・



     "ナメラスジ"


 って言う、霊の通り道らしい。

ヒトの世界でそう呼ばれ、このパークにも存在する。あと紫モヤの先は、もちろん帰り道ではないとのこと。



「一度スナネコのことは置いて、無事に帰ったお前たちに説明する必要がありそうだな...それに二度も入ってたのかよ・・・」


 ツチノコもスナネコが心配なはず。

でも私たちが通った場所の説明を優先してくれた。彼女なりの敬意だと思う。



  ──

  ────


 変になったのは鳥バコを見た時。しかもアライさんは、穴に潜む何かが見えていた。


 ツチノコとアライさんがやり取りをする。


「いいか "鳥バコ" は汚れモノの溜まり場だ・・・穴から見えた目もな。ましてや霊の歩く道でロクでもない!

 もしかしてアライグマは、気の明るさを霊に僻まれたのかもな・・・」


「そんな・・・アライさんは何も悪いことしてないのだぁ...!」


 勝手で迷惑な話、怒りが湧いてくる。謎のセミも負の集合体らしい。



「オレもセミの黒い霧なんて初めて聞いたが・・・霧も別の場所に通じやすい。お前たちが見た田んぼ地帯も、このパークにはない場所だ」


 田んぼはツチノコが詳しかった。風景を口で説明するのが難しかったけど・・・。

 さらにツチノコは言う。



「黒い霧は避けて正解だ・・・お前たちが直接飲み込まれたらどうなってたか分からないぞ」


 運が良かったらしい。

この調子で "青い石灯籠" の事も聞いた。

名前が分からず、絵を描いたり "石で出来てー" って説明からで少し面倒だったけど。



   ──カリカリ....


「フェネック上手なのだ・・・」

「だてにアライさんと旅してないよー」


「我々もこんな物初めて見たのです」


 私の絵をアライさんが褒めてくれる。

その横で博士が唸り、助手は静かに眺め・・・ツチノコはさらに教えてくれた。



「こんなのもパークにはないぞ。石灯籠はな、さっきの鳥バコとは逆に悪いモノを寄せ付けない物だ。青い石ってのはオレも分からないが」


 ──? でもそれだと何だかおかしい。

灯篭の向こうは紫のモヤが掛かっていてとても危なっかしい感じだった。

私たち少し引き寄せられてたし。


 ただ、どうやら石灯籠は結界らしい。

もし鳥バコの先にソレがなかったら、ハコを通り抜けた地点でアウトだったとか。



「けど何故急に帰れたのでしょう、本当は夢だったのでは?」


 茶色の助手が言う、確かに一理あるけど。

・・・何か私たちの言葉をあまり信じてない様子。確かに助手は怪奇な物を信じないと、博士が教えてくれた。


 戻れなかったら、私とアライさんは本当に終わってたかもしれないのに。ただ、私は言う。


「田んぼ地帯からコレ持ってきたんだよ?」


 コレって言うのはまんまるのこと。

 持ってきた以上、夢ではない。



「その帰れたことだが、スナネコがどうにかしてくれたのかもな...」


 とうとう話の内容も最初に帰ってきた。

スナネコに何があったのか、改めてツチノコに聞くと・・・また変な答えが返ってきた。



「この遊園地 "地下" があるんだ。

そこにコレがあってな、食べてアイツはおかしくなった・・・」


 そう言って見せたのは "赤い実" ・・・

リンゴや桃ではない。私たちのこぶし程の大きさの実で、一口カジったあとが。


 としょかんにあったビーカーに入れられ、ラップでガチガチに包んである。

 聞くと "プラム" って言うらしい


 変なものを食べておかしくなった・・・?

 一瞬、冗談かと思ったけど──違った。



    ──ぐぅー....


「この匂い、どうしてか音が出るのだ...」


 アライさんのお腹が鳴った。

博士や助手は一瞬コケてたけど・・・最近こんなことあった気がする。 まさか


 私もその赤い実を見ると・・・やっぱり。

アイスクリームのような甘ったるい吐き気のする匂いがした。やっぱりスナネコはあの場所に・・・?


「この実は別に変では無い、中のムシがヤバかったんだ」


 中の生物は・・・器官で見れたらしい。

ただ口で言えないほど普通とは違う形で、を隠したのにスナネコは見つけてカジってしまったという。憑かれてたのかもしれない。


  つまり体内に入り込んだ・・・。


 ここからは聞いた話なんだけど、

地下は迷路みたく変な儀式場もあり、そこに実があったらしい。中のムシはたくさん共食いをする儀式に使われ、普通ではない力を秘めたという。



   何かもう、目が回ってきた。


 ソレは願いを叶え、今スナネコはきっと何らかの願いが叶っている状態だという。



「けどそういうのは代償が伴うんだ....だから早くスナネコを見つけて中のムシを追い出さないといけない・・・」


 ツチノコがオロオロしながら訴える。

それからは私たちも情報を交換して、パークの娘たちにも助けを求めることにした。



  ┈┈┈┈

  ┈──


 一応、私たちのお話はこれでおしまい。

でも別の現象が起きててさ・・・苦労は尽きないよ。


 ゆうえんちでかばんさんのパーティを開くのはあと3週間ほど・・・皆集まらないと楽しくないのに。


 スナネコは何処行ってしまったのだろう。

今までのことから、きっと彼女が私たちを助けてくれたんだと思う。だから絶対に見つけないと。



「フェネック早く乗るのだーっ

バスてきと一緒にスナネコを探しに行くのだ!」



 ・・・よし、それじゃ行くよ。またね

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