[フェネック] 境目にある石灯籠に黒い霧 <長>








 私達には "かばん" という友達がいる。

さん付けしているよ。前にアライさんと一緒に彼女を探し、そして会えたんだ。


 それから少し色々あって──

かばんさんのバスを直すため "まんまる" を私たちで探すことに。イザコザで壊れたからね。


 それと海でも動くようにするつもり。

船あったけど、それも壊れちゃって。こっそりと皆で乗れるようにもしたい。



  バスは、直せるからいいよね。

  本当によかったよ・・・。


 まんまるの場所に心当たりはあった。

"ゆうえんち" と "みずべ" の間、森だけど細道が続いてて、意外と途中まではバスてきでも進めそう。



   詳しく言うと── 


・パークの中心に"かざん" がある

・ゆうえんちはかざんより5時の方角

・みずべはかざんより大体1時の方角

・その5時ゆうえんちから1時みずべの方向へ、大体1時の向きで向かっている


  ごめんね、説明が少し難しいな。



 かばんさんを追って "みずべ" から "ゆきやま" へ行く途中、偶然ガラクタ置き場を見つけた。 と言うかアライさんと迷い込んだ。



 あと1ヶ月足らずで "ゆうえんち" に皆集まる、それまでに見つけないと。



 でもだめなんだ 夜に森なんて・・・。

最初に言ったね、田んぼとかこういう場所は奇妙な事が起こるんだ。


  改めて言うけど、いいかな。

これは "まんまる" を探すまでのお話。


 信じるか信じないかは、きみ次第だよ。


  ──

  ─┈┈



 深夜の森でセミの黒い霧を見てしまった。

不吉なものを感じ、飲み込まれないようにやり過ごす。再びアライさんと二人漕いで出発する。


  ──キコ キコ...

      キコ キコ....



 暗い木に囲まれた中を静かに響く音。

鳥バコにセミが潜んでいたけど、アライさんが言うにセミではないという。


  じゃあ・・・何だったのだろう。



   ┈┈┈サァー....


 天気も怪しく、後ろの月は夜霧で遮られている。暗いのは慣れているのに・・・少し切なく思う。



「その、フェネック...またお話ししながら行かないかぁ?こんな暗闇で静かなのは・・・やっぱり怖いのだぁ...」


 アライさんが声を掛けてくれる。

怖いと言うけど、きっと私の様子を察してくれたんだと思う。


 考えてみるとここまで彼女の背中ばかりみていた。今は横並び、お互いの様子はすぐ分かる。



「・・・そうだね、私もちょっぴりそう思ってたよ。お話ししながら行こうかー」


「ふっふーん♪ もちろんなのだっ!じゃあそうだな~──」 


 こちらも甘えたくなってしまった。

アライさんは元気に返事をし、夜道を二人で静かに話し漕ぐ。これならだいぶ怖さもマシ。



  ──キココ  キコ

      キコ   キココ....


  ・・・

  ・・・・・・



「かばんさんが海へ旅立つ前に、次は "おんせん" へ行きたいのだ。キタキツネやギンギツネともまた遊びたいのだ~」


 前に立ち寄った "ゆきやま" のお話。

海を越えるとしばらく戻れないだろうし、今度は皆でおじゃましたいなって。



 話してるうち、上り坂が見えてきた。

険しく距離もあるけど、まだバスてきで行ける傾斜。慌てず口調で 少し大変そう みたいなことを私は言ったんだったかな。



「よーし、アライさんに任せるのだ!

空飛ぶ勢いでやるからフェネックは無理せず漕ぐのだっ ふぎぎいっ」



   ──ギッ  ...ギッ

      ギッ.. ギッ....


 アライさんが相変わらず頼もしい。

彼女のすごいところは、空元気でもそれが分からないところ。長い道のりだったけど、上ればきっとガラクタ置き場に着く。


 けど今思うとこの上り坂こそ、どこかの境目だったのかもしれない。



 坂の真ん中辺りに差し掛かった時だった

 いきなり・・・



    ──ぐぅ〜....


 アライさんのお腹の音が聞こえた。

一瞬だけ面白く感じ、でも張り切る彼女に感心する私。 けど・・・


  "おや...?" って顔をしながら先を見てアライさんは言う──



「上に、誰かいるかもしれないのだ」


     ・・・?


 私の位置では人影どころか先も見えない。

周りも木々があるだけ。実際、何か居てもなかなか怖いけど・・・

  アライさんも何だか鋭いような──



 と思ったけど鼻・・・匂いがするらしい。

確かに彼女は鼻と手が敏感、目はあまり良くないけど。


 気になるのは誰・・・それか 何がいるのか。



 「えーと 分からないのだ・・・ただ──」


 何故か "甘い匂い" がするって言う。

お腹の音はそれが理由、でも食べ物では無いらみたい。あと私の耳は気配を拾ってない。


 夜の森に知ってるフレンズがいるなら心強い。

 でも甘い匂いの娘? ...考えづらい。


 考えるうち、何故だろう・・・したくてしたくて......先を確認したくてどうしようもなく思えてきた。




  ──ギィ ギィッ 

     ギィ  ギィ....


「なっ フェネック・・・!?

どうしたのだ、急いじゃだめなのだ!慎重に 慎重になのだっ」


     ┈┈?? ・・・!


  

 ボーッとした感覚、ハッとして漕ぐ足を緩める。アライさんの言う通りだ、何故か私は急いでた。彼女に慌てないでと言われたのは、これが初めてかもしれない。 



「怖がらせること言って悪かったのだ...」


 アライさんが謝るけど、そうではない。

私にしては変・・・どこかが一瞬、違うくなった感じ。


 自分への得体の知れなさで気持ち悪さを感じながら、また漕いで上を目指す。この時、首の後ろに変な冷たさを感じた。



     ┈ ・ ┈

 

 坂の上近くに着き、覗き込んで向こうを見る。

 ・・・誰もいない。 けど



 「何なのだあれ!? ...おわっ!」

 「アライさん待って!!」


 代わりに、奇妙な光景が広がっていた。

急に飛び出そうとするアライさんの膝に、右手を置いて制止。


 普段は身体で引き止めないけど、これは状況が違う。私が止められて少し安心する。



 それで、向こう側の状況だけど・・・

紫色のモヤが掛かり、しかも怪しくほんのり明るい。普通は警戒するのに、どうしてアライさんは飛び出そうとしたのだろう。


 さらにその手前、道の真ん中にも何かある。石で作られた、また鳥バコみたいなもの。



      "石灯篭いしどうろう"


 というらしい、後でツチノコから聞いた。

上は三角の屋根、その下が丸形、その真ん中も丸く穴が空き、下は太い石柱。


 足元に気をつけ、ゆっくり降りるようアライさんに促す。

 

「了解なのだ..ぅ~何だか気分が変なのだ・・・」


   ──キコ キコ

          キコ...


 平地まで漕ぎ、一度バスてきを降りる。

アライさんの様子も少しおかしい。バスてきに待たせ、私がまずは石灯籠を見に行くことに。



「ああ 置いてかないで欲しいのだっ」


 けど結局降りて来て、私の手を後ろから引く。ひんやりした手の感触に目が少し冴えた。


 今思うと上り坂でのことで、アライさんは私に危なっかしいものを感じたのかもしれない。


   ・・・

   ・・・・・・


 石灯籠の様子は、鳥バコみたくまた顔の高さにあるけど中には何も居ない。



   ┈┈┈....何だこれ


 この石灯籠、青い石で作られている。

はっきり言って不気味。さらにその場で向こうの様子も見るが・・・紫に霞んで先が見えない。


 「フェネック・・・? どうしたのだ─┈」


  どうしてか とても綺麗と思った






  ┈┈

  ┈──..クン ......ッ あれ!?


 ある匂いに気づき、ビクッとする私。

さらに紫色を見てから匂いに気づくまで、記憶が一瞬飛んでることにも驚いた


 アライさんが言ってたこの匂い、私にとっては・・・



「なっこれ...胸が..悪くなる....!」

「フェネッ..どうしたのだ大丈夫かぁ!?」


    "ひどく" 甘ったるい匂い


 前に こうざん を訪ねた時だったか

アルパカ達と白い "アイスクリーム" を食べた。それに似た感じ・・・


 けどコレは、キツくて気持ち悪くなる・・・

誰かの出す匂いとはとても思えない。何故かアライさんは平気そう



  ──....うぶっ ...はぁ はぁ....ッ


 「うぬぬ..大丈夫かぁ・・・?」


 ・・・

 ・・・・


 石灯籠の脇を抜け、一度バスてきへ退く。

アライさんが肩を貸してくれたけど・・・胃と頭がぐるんぐるんする



  ──はぁー... ふぅー....


深呼吸し、大丈夫と伝える私にアライさんは言う



「とても大丈夫には見えないのだ!どうしてフェネックこそ、先へ進んだのだっ!?」


    えっ──


 確かに気づいたとき石灯籠は私の後ろにあった。いつの間にか・・・紫の先へ歩いていたらしい。ゾッとした


 アライさんも私を妙に思い、必死に呼びかけたり引き止めていたという・・・。


 二人揃ってどこかが違ってきている気がする。引き寄せられてるような、取り返しがつかなくなるような──



「・・・?あれ何なのだ ほら、あの木...」


 どうしようか考える中、アライさんが先を指さす。見に行くと前方、木の割れ目に折ったジャパリまんの包みが・・・


   ──これ見覚えがある


 前に "みずべ" から入り、ガラクタ置き場から引き返すまで、包み紙を蝶々の形で木に仕込んだことがある。道しるべのため。


 つまりここ、前に来たことある場所。


 挟まってるそれを抜いてアライさんと確認するが、確かに私の折った物だ。さらに紫掛かった先にも微かに刺さった包みが見える。

 なら、これを辿れば出口に行ける。

 それで一度 "としょかん" へ戻り事情を... 



   と、思ったけど


「・・・この先が帰り道に見えないのだ。フェネックはどう思うかぁ?」


 私もうん...と首を縦に振った、そう思う。

それに "ガラクタ置き場" はここまでに見つけていないとおかしい。


 だってみずべ側の入口から、ガラクタ置き場まで刺したんだこの紙は。ここまでに、分かれ道はなかった。


    ── ....! そういえば


 さらにまた違和感の正体が分かった。

こんな青い石灯籠、前は無かった。やっぱりこの先は別次元──



「 ....聞いて欲しいのだフェネック」


 突然アライさんが真剣な顔で声を掛ける。どうしたのかと心配になる私に、彼女は続ける──



「アライさんだときっと間違うから、

ここからどうするかはフェネックの判断に任せようと思うのだ。


 その先が危ないと思ったら教えるから・・・実はな、あの鳥バコの中が見えた時から、良くないモノが見えるのだ...。 "視界" にも何か──


 今も紫の方から緑のホタルが飛んで、

"こっちに来い" って引き込もうとしてる・・・先は行けないのだ!」


 アライさんが道しるべを出してくれた。

黙って考え込む私に、痺れを切らしたんだと思う。



 つまり彼女が言いたいのは、自分は何かに憑かれてるけど、それを脱出に利用して欲しいってこと。


 アライさんの覚悟だ、私も答える。


「今もさっきもありがとう。ハコの中が見えてからってことは、ここまでずっと我慢してくれてたんだね。


 心配しないで、絶対に私がどうにかする」



 ありがとうには色んな意味を込めた。

教えてくれて、一緒に居てくれて、引き止めてくれて、冒険してくれて・・・後は色々。

それとホタルの光は確かに見えない。


・・・私はこの時、アライさんが "視界" のことで何か言おうとしていたことに気付けなかった。


 改めて考えた結果、思ったのは


  私たちは引き込まれている

上り坂の先を確認したくなった地点で、自分が自分ではない感じがしていた。警戒してたのに。


 甘ったるい匂いや、アライさんの様子も引き込まれかけている状態・・・



    ──もう無理だこれ。


「このまま引き返そう。間違いなくまずい」


「分かったのだ・・・ っ立ち去るように聞こえるのだ...」



 これもう "まんまる" どころではない。

なんと今度は声が聞こえるらしい。もう何が起こっても不思議ではない


 ただ、今聞こえている声は引き込もうとしてる訳では無い・・・? それどころではないけど。



   ──ガゴゴンッ....


「うぁ速っ フェネック気をつけるのだ!」


 バスてきに二人乗り、右回りでUターン。坂はかなりスピードが出るからブレーキ掛けつつ下って行く。


 本当は帰り道も怖いけど、考えがある。

ただ・・・このバスてきは置いてくかもしれない。でも一つだけ固く約束をした。


 「アライさんは絶対置いて行かない」



 その怖いものは "黒い霧" と "鳥バコ"

でも紫の向こうもダメ、かと言って道から外れて別方向へ進むのも・・・何故か絶対にしてはいけないと感じた。


  私は戻る行動を選んだけれど、


「でももし引き返すことで帰れなくなったらどうしよう・・・それだと私のせい.....」



 それなのに不安を口にしてしまった・・・だって怖いんだもん。でも下り終わった所でアライさんは言った。



「心配いらないのだ 何処へでも、アライさんはフェネックと一緒なのだっ」


 この言葉にどれほど救われたか。

ただ、アライさんはさらに言葉を続ける──



「・・・さっき聞こえた声、頭に響いて分かりづらいが何処かで聞いた感じだったのだ....」


 知ってる娘がいたってことかな・・・ いや、ありえない。イタズラだとしてももう度が過ぎている。


 それに最近会った娘ならすぐ分かる。

つまり かばんさんやサーバル、博士たち ・・・ではないはず。それにアライさんの言葉が本当なら、その声の娘って今どうしてるのだろう?


 ・・・はっきり言って、もう知らない。


  ┈┈┈

   ┈┈┈┈サァァァ.....


 立ち込める白い夜霧の中に入ると、ほとんど足元しか見えず夜なのに先の先まで真っ白な状況だった。



「くぅ とうとう入ったのだ....」


 今のところ変なものは見えないけど、地面と道を目で確認しつつ何か来ればバスてきを盾にして隠れるようアライさんに促す。


 例えばさっきの黒い霧。あれはたくさんの黒が霧の中で飛んでいた。最初に言ったけど、セミではないってアライさんから聞いた。



  黒い霧に入るとどうなるんだろう?


 分からないけどいい想像は浮かばない。

食べられてしまうのか、はたまたお化けにされるのかな・・・



  ──

  ───キコ... キコ


 漕ぐ音以外、本当に何も聞こえない。

だけど道通りに漕いで進んでいると・・・とうとう見えてきた。


    例の鳥バコ。



     ┈ | ┈┈


 私から見て左向こう、霧に霞んで木の境目に相変わらず立っている。アライさんには なるべく見せたくない

 

「アライさんいい?後ろを見張ってもらえないかな、私が前を見るからさー」


「・・・何から何までありがとうなのだ」



 さりげなく目を逸らせたかったけど、分かっていたみたい。通り抜けざま、中を見ないようハコを確認する・・・



    ──" あれ.... "


 違和感、穴がこちらを向いている・・・?

そういえば最初来た時 (アライさんが目玉を見た時) にも──


  早足に漕いで横切る。・・・通れた


 もやもやする中、アライさんには向き直ってもいいよと伝える・・・。



 「助かったのだ..後ろには何も──」


   ──ゾザザザァァァ....


 アライさんがビクッとし、言葉が途中で止まる。代わりに聞こえ、見えてきたのは変な羽音と薄黒い影。


   つい言葉を漏らしてしまう


 「.... 来ないで欲しかったのにな」



 たくさんのセミ? が夜霧の向こうから乱れ飛んでくる・・・でもあまり驚かなかった。鳥バコ通る時に予感しちゃったから。


   こうなるな って。



 「ぃぎっ ひぃ....ぎゃァぁ!!」


 アライさんが右の席でパニックを起こす。 "する" って決めてたわけじゃないけど、すかさず彼女の両肩に私は手を置き「大丈夫だよアライさん」と顔を近づけて目を合わした、大人しくさせるため。



「ふうぅ....またありがとうなのだっ...!」


 流石アライさん、すぐ落ち着いてくれた。


    ──ガガッ  タタ....


 二人で素早く降り、バスてきの後側へ回り込み屈む。  次の瞬間...



  ──バザザザアァァーーー.....!!


    ──バンッ    ゴンッ

         ガィンッ


 ハネの音やバスてきにぶつかる音と共に、上も右も左も黒い何かが通り過ぎていく。



     ──ひっ・・・!!?


  そのときに、一瞬飛ぶモノの姿が見えた。


 アレはセミでもコウモリでもなかった。

大きさや姿、ハネはセミ。だけど顔は小さなニワトリのようで、トサカや口ばしまで付いてた。

 眼は一つ。何故か生き物に見える



   セルリアンではない。



  ──ズォォォォ....


       ....ザザアァァーー



 謎生物たちが私たちを狙っているわけではないのなら、このまま通り過ぎるのを待てばいい。


  ・・・はずなのに



 「何で....戻ってくるのだぁぁ....」

 

 なんと謎セミたちがUターンしてきた。

と言うより周りを囲んでいる。アライさんは涙目でその場に屈んで動かない。本当に怖いと逃げる判断に行き着けないって、この時に分かった。


  私がやるしかないって思った



   ──ザグザグザグッ...


「穴掘るから終わったらすぐ中に入って!」


      ──ザグザグザクッ...


    ザグザグッ...


 事前に考えてなかったら、私も動けなかった。森の土はさばくと違って固いけど、野生解放してバスてき下に向かい無理やり土を掻く。


 アライさんは腰が抜けたのか、まだそこから動かない。いや動けないのか、でも大丈夫にする。



   ──ザググッ ザグザグッ....

 

 "このっ このっ このおーー!!"



  ──ザグザグッ...

       ザグッ ザグザグッ...


    ──ザババババァァーー


 謎のセミが迫る中、死に物狂いで地面にスペースを作る。


     ("よしっ....!")


 掘り終えると、腰が抜けて可愛らしい格好のアライさんを片手だけで少し乱暴に突っ込み、私もバスてきの下に滑り込む・・・



「アライさん、このまま外を塞いで!」

「ひ、ぅ分かったのだっ!」



 中の土で外は見える程度に急いで塞ぐ。

 指先が痛い 多分、爪が剥がれた。


 でもこれで黒いセミは避けて、あとは過ぎ去るのを待つか、このまま地面を掘って逃げる。さっき言ったように、バスてきは置いてくことになるけど・・・。



  ──

  ────ズゾザザザアァァ....



   ┈┈(はぁ はぁ....)


 何故か私は見栄を張り、息切れを隠す。

バスてき下の地面で一度休むけど、その間も上からは刺すような羽音が聞こえてくる。



「助かっ..のだっ 全然動けなくて うぅ....」


 アライさんは隣でしょんぼりしていた。

けど私だって、彼女がいないとここまで来れなかったから気にしなくていいのに。



    ──ザザザアァァ.... 


 狙って待ち構えてるのか、謎のセミ達がなかなか通り過ぎない。その割にとんでもないものを見れたし、イイかなって思う私。


どうかしてたのかな・・・自分でも分からない。


 このまま掘り進めばきっと帰れる。

爪が剥がれて痛いけど掘れなくはないし。外が見えないけどアライさんの鼻が役に立つ。


 でも私達はここから動こうとしない。

 具合が悪いとか、ではない。



「・・・ワガママなのは分かっているのだ。

けど置いていけない、かわいそうなのだ....」


 アライさんはバスてきを置いて行きたくはないって言う。知ってた、私も同じ考えだから。


「そうだよね、しばらく待とうよ」



 再びアライさんはお礼と謝罪を言う。

"ごめんなさいなのだ" はしばらくお腹いっぱいだなーと思う私。



  ┈┈┈ザザザァ...


「フェネック、その・・・ここまで一緒に居てくれて本当に嬉しいのだ。大好き..なのだ・・・」


 唐突に濃い目の感謝を言うアライさん。

彼女なりの素直な表現なのだろう、私も照れてしまう


「私だって、その・・・大好きさぁ。

こちらこそいつも前を進んでくれてありがとう。今度はかばんさんたちに付いてく予定だけど、また冒険するならアライさんとがいいな」


 本当に恥ずかしいから省略するけど、外のアレが過ぎるまでまた色々お話したり、交代で見張りをして地中で過ごしていた。



  ──

  ───それから時間が経ち・・・



 外からは羽音が聞こえなくなった。

穴から様子を見るが、静かで霧も晴れている。これならバスてきと一緒に帰ることができる。



「ありがとうなのだ・・・まんまるは見つけられなかったけど、次もこのバスてきを使って一緒に別の場所を探すのだ!」


 アライさんが元気な様子を見せ、外へ顔を出して周りを確認する。バスてきに愛着が沸いているみたい、私もだけど。


   ・・・だが



  「──え、なんなのだここ....」


 外に出たアライさんから驚いた声。



  ──・・・まだ終わりじゃないんだ。

     もう少しだけ付き合ってね。


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