[フェネック] まんまるを探してる時の出来事 ─前編─ <短>








 例えば、夕暮れ時とか・・・。

田んぼの一面広がっている場所を歩いていると、切ないような気分になったことない?


 私はあるよ、少し場面が違うけど。

これね別の次元と繋がりやすくなって、それを無意識に不安と感じているからなんだって。



 不思議だよねー・・・。


 アライさんに付いていくと、たまーにそんな場所へたどり着く。何かの拍子にズレちゃうことなんていくらでもある。



 大丈夫って事は絶対ない。

十分気を付けるんだよ、キミも。



 遅れたね、私フェネックって言うんだ。

マイペースだけどさー、ゆっくり話を聞いてくれると嬉しいな。


  ──┈┈

  ┈┈


 これは、かばんさん達が使ってたバスの


  "まんまる"


 を探しに行った時のお話。



  ──キィーコ... キーコ....

   ──キコ キコ キコ.....


 『ふうっ..ふー

   ふぅっ ふー....』



 ゆうえんちを出発して2日ほどかな。

日が落ち、 "わっせ わっせ" から静かな掛け声にアライさんと二人でバスてきを "漕いで" いた。


 まんまるの場所に心当たりがあって、そこを目指していたんだ。


 あ、そうそう・・・このバスてき

"アフリカオオコノハズク" の博士たちから借りたもの。


 二人掛けの椅子が横並びに、上に平たい屋根と耳の形、小さい旗がついている。

 それと足には──


  漕ぐための "ペダル" 。


 バスではないと思うんだよねーこれ。

 かばんさんたち漕いでなかったし。

 

 ごめん話を戻すよ 、二人である場所を目指していたの。


  ▼┈┈┈┈┈

  ┈┈┈


  ──キコ キコ キコ.....

     キコ キコ....


「アライさーん、今回は私が案内したいな」


「うぬっ? 珍しいのだフェネックが頼むなんて。分かったのだ!」


  ┈┈┈

  ┈┈┈┈┈┈▲



 アライさんが素直で嬉しい。

普段なら彼女の向かうがままだけど、期限があるし私が案内することにした。


  "みずべ" からかばんさんを二人で追い掛けてる間、 "ゆきやま"への道から反れて 偶然通った森の細道・・・あの時は結局少し進んで引き返したけど。


 そこで、物が捨てられた場所を見た。木々の向こう、でもアライさんは分からないはず。気づかず通りすぎてたし。


 そこに "まんまる" があったと思う。


 

 ──

 ───


 しばらくして夜の森に着いた。月は半分より少し欠けて見えるけど中は暗い。細道が中へ縫っていて、バスてきに乗って慎重に通る。



  ──リリリリィ....

   ヒュリリ.. リィ....


 前の日に雨が降ったのか、ひんやり涼しく草の香りや虫の声が静かに聞こえてくる。


 私達は夜行性、慣れっ子に進む。

ここまではいいけど、少し行くと道が悪かった。アライさんが何度もコケてたのは忘れない。もちろん、バスでは行けないだろうし途中で降りないと。

 

 しばらく漕いでいると・・・



「お~ここは懐かしいのだ!」

「 "ここは" アライさんも覚えてたか~」


 前に休んだ場所を見つけ、楽しそうに一度降りるアライさん。木々が小さな空間を形どり、秘密基地みたいで居心地が良い。


(他の場所は? と遠回しに聞いたんだけどねー。)


 今回も休んでよかったけど、まずはまんまるを探すことに。

(少し冷えるな~) と考えながら呑気に乗り込もうとしたとき・・・変な事が起こった。




  ──カナ カナ カナ カナ

 ──キ キッ  カナ カナ カナ....



  セミの鳴き声がする


 思った・・・おかしい。

夜中なのに、なぜか夕方に聞こえるはずの声。

それも響く感じではなく、籠って聞こえてくるような。



「──フェネック、アレなんなのだ・・・?」



 乗り込む格好で、"来た方向" を指してアライさんは尋ねる。・・・怖がっている?


 私もそちらを向くと──


 「うわ、これ・・・」



  ┈┈┈サァァ──....


 夜霧が立ち込めている。

深い・・・真っ白で来た道どころか月すら見えない。

なんだか私らを飲み込みに来ているようにも見える。



  けど、何か違和感を感じた。


 アライさんは "アレ" って言ってた。

モノを指したような伝え方。大体、霧が分からないはずが無い。


 ・・・見回すとあるモノが見えた



 なんだあれ。バスてき後ろすぐ近くの木、私たちの顔くらいの高さ、そして大きさ。



 この位置から目を凝らすと、ログハウスの形で屋根が赤く、丸く穴が空いた木製のモノが見えた。何故か霧の中にしてははっきりと。



  小さな "とりばこ" ・・・?

 変な感じがした。


 (あんなのさっきあった・・・?

それに周りの様子が少し違うかも)



  ──ガタタッ ゴトッ ガタッ


『ヒッ!!?』



   ──カナ カナ カナ.....

  ──ガ ガタ...



 突然の音に二人で声を上げてしまった・・・。


 鳥バコが少し揺れ、暴れる音とさっきの籠る鳴き声。どうやらセミが中にいるようだ。



「ふー 何だ びっくりしたねアライさん



  ・・・アライさん?」



 「・・・」


 なぜかアライさんは乗りこむ格好のまま目を見開き、口も半開きに固まっている。私の声も聞こえていない・・・?


 見る先を目で追う....鳥バコ前面の穴を見ているようだ。確かにアライさんの角度が一番見えやすい気はする。

 

 と、思った瞬間──


   ゴトッ



「 ──ヒッ!!」


 箱から短い物音とほぼ同時

アライさんが短く鋭い悲鳴をあげた。



「フェネック!ここを抜けるのだ!!

 乗って、早く乗るのだあぁ!!!」


  ──ガゴォッ


 毛が逆立つような驚きよう・・・。

 例えではなくアライさんは


   "乗る" "座る" "漕ぐ"


 を、この時ほぼ同時に行なっていた。


  ──ガギッ ギャギギ ギギィッ



「ちょ・・・ちょアライさん!? うわっ」


 ペダルにすごい力が加わっているのか、聞きなれない音が立つ。私も動作が遅れ、乗り込む前にアライさんはバスてきを漕ぎだしてしまった。



(うわ、っこ.. ぎぃ・・・!) ┈┈パシッ


 アライさんが狂ったように漕ぐ中、ギリギリでバスの横棒を掴む。体を宙に浮かせつつどうにか乗り込んだ・・・。



  ギッ ギィッ ギコ ギゴッ

   ギィ  ギィ  ギゴッ ギコ


「もー、アライさん危ないじゃ──」


   ┈┈ズゾザザザァ──ッ



 何とか乗り込み彼女に文句を言おうとして、バスの金属音に混じり変な音が後ろから聞こえた。

耳には自信がある、風の音とかではない。


 振り向いて驚いた。「何アレ・・・」



 多分ハコがあった場所から物凄い数のセミが夜霧の中、空を飛び交っていた。


  黒い霧みたい・・・。

 

 当然追いかけてはこないけど、私らの両手足の指の本数でも数えられないほどの量。


 これ "おぞましい" って言ったはず、寒気がひどかった。



 さっきの場所から十分離れたのを見て、改めてアライさんに話しかける。


「くぅ...あれはびっくりした、ね──」


 けれど彼女は

 とんでもないことを言いだす。



「はっ..はぁ..違うのだフェネック・・・

 セミじゃないのだっ!」



 アライさんは汗びっしょりで、言葉が纏まっていなかった。整理するに──



 何と箱の中で、 "目" が飛んでいたという。

そのうち裂けて、白い虫みたいなものが出てきたらしい。



 ・・・ワケが分からなかった。

目が合ってしまい、だから取り乱したという。

私には中が見えなかったし、見間違いにしか聞こえなかった。


 あの箱には別の何かがいた・・・?


 アライさんの様子からはっきり見えた様子だし、冗談を言う娘でもない。見間違いでこんな慌てるわけもない・・・。


 ただ、ちょっとおかしいと思った。

彼女は原種の性質上、鼻と手の感覚は鋭いけど目は良くない。なのに霧が張っている中、私より見えていた気がする。


 また後ろを見る、何もいない。

セミは霧の向こうへ飛んで行ったようだ。

引き返さなくて良かったかも・・・多分行くのは良くない。


 何より私も嫌な予感がしていた。


 空気が変わったような・・・寒気もした。霧へ入ると、もうパークに戻ってこれない気すら。



   ┈─はぁ... はぁ....


 少し進み、バスてきに乗ったまま休む。

どうしてアライさんには見えたのか考える。けど落ち着くにつれ、申し訳なく思えて


「アライさんごめんね・・・こんな事になるなんて」


 掠れた声で謝る。パートナーを酷い目に合わせた感覚が強くて。

 でも彼女は事も無げに



「いいやっ フェネックがいないとまんまるは見つからないのだ!それより──


 アライさんこそごめんなさいなのだ・・・。

やってはいけない、フェネックを置き去りにするところだったのだっ・・・」



 私を責めるどころか、自分の行動を反省し謝ってくれるアライさん。驚いた、かばんさんと巡り会ってから彼女は本当に成長したと思う。



「ううん、怖かったんだよね。このまま進んでまんまるを見つけよう、なかったら抜けて "みずべ" へ向かおうよ」


「りょーかいなのだっ!

もうフェネックは絶対置いて行かないし、ずっと付いていくのだっ」



 嬉しかった、この会話は今も覚えている。

アライさんも「やっと笑ってくれたのだ!」と私を励ましてくれた。



 ┈┈┈──


 後は一息整えて出発。

無事にまんまるも見つけて、森を抜けた。




 ・・・ってなればよかったんだけどね。

  実際すんなり行かない。 


 少し、休憩しよっか。

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