[レッサーパンダ] 夕闇に立つあの少女 <中>
誰だって、本当は気づいて欲しいこととか分かって欲しいって思っていること・・・ありますよね。たとえどんな状態であっても、意識があるなら...。
少し考えるようになりました...。お互い、もっと役に立てそうな気がするから。
私の経験、少しお話しますね。
・・・う~ん。その前にやっぱり...敬語、解いていいかな。貴方とは、仲良くできそうだから。ね...!
それじゃ・・・うん、難しい言葉は教えてね。
信じるか信じないかは貴方次第だよ・・・。
改めて...私、レッサーパンダだよ。
普段は "アヅアエン" って言うちほーで、緑のツルツルした木がいっぱいあるところにいるの...。広いちほーなんだよ。高い山や崖もあるし、まだ私も全部は歩いたことない。
だから、キュルルさんたちの時も目的地の場所が分からなくて、無駄に歩かせちゃったんだよね・・・うぅ...。 あ、ごめんね。話がそれちゃった・・・。
そのこともあったから、まずは道案内で役に立てるように、このちほーに何があるのか歩いて覚えることにしたの。
木登りも得意だから、高いところから場所を見たりして。
2日してからだったかな・・・。
夕暮れ、今日もそろそろ疲れちゃって住処へ帰ることにしたの。周りの木は赤く照らされて、人のように黒く見える。これが、少し怖いんだよね・・・。
──カァー
──カァー...
向こうへ飛ぶカラスの声がする。
この日何故か、私は皆で作った遊び道具のある場所へ行こうと思い、そして向かった。
──キィーコ キィーコ...
広場の先から、高音で擦れる音が聞こえる。
"ブランコ" かな...木の陰になっていてまだここからは見えない。"ジャイアントパンダ" ちゃんが起きて遊んでいるのかも...。そう思い歩いて行く。
──キィー... キィー...
着いたけど、誰も見当たらない。
でも2つあるブランコのうち、右にある木の板のブランコが重そうに前後へ揺れている。
誰か乗っていたのか・・・って思いつつ、周りに誰もいないし帰るため歩こうとした。
──┈┈『┈┈こんにちは。』
──ヒッ!?
全身が逆立つかと思った。後ろから静かな声がきこえる。
恐る恐る振り向くが・・・
とうとう心臓が止まるかと思った。
──血を被ったような真っ赤な姿が目の前にいる。
真っ赤な夕焼け空、だったからね。
・・・ごめんなさい..。
よく見たら小さな...私の胸元くらいの身長しかない小さな少女がいた。 "
何故か向こうも驚いていた。
近くで見たその娘は、
・青い羽と花飾りがついたヘアバンド
・肩くらいまで伸びた薄茶色の髪
・白いシャツ
・ワンピースなピンクのスカート
・ "サーバルさん" の顔によく似た
小さな・・・ポシェット
・・・という恰好。その娘はさらに口を開く。
『┈┈えっとね・・・驚いた?ごめんね・・・一緒にお話したいと、思って。』
その娘は消え入りそうな、少し寂しげな目をして私にお願いする。日が落ちて暗くなってきたけども、何だかこの娘を放っておきたくなかった。
「分かったよ、あそこへ行こう」
この間作った椅子に2人並んで腰を駆ける。
聞くに、自分の名前を憶えていないらしい。
生まれたばかりのフレンズかな...そう思った。
見ると、フレンズとしての特徴は少ない気がする。あのキュルルさんやかばんさん、ゴリラさんの種類に近い感じかな。
何にしろ、博士さんたちを訪ねるべきだと思う。
もう暗くなってきているし、私は夜目が利かないから明日一緒に行こうと提案する。
正直、役に立てそうで少し嬉しい。あれから歩き回って場所を覚えたかいがあった。
けどその娘は私の提案に答えず、少し妙なことを言いだした。
『┈┈わたし、ずっとここにいたんだ。
"このまんま" で、ずーっと。おねえちゃんが見つけてくれて嬉しかった。何でだろうね』
寂し気な少女は、小さな見た目によらず難しいことを言う。何でと言われてもよく分からない。でも向こうも嬉しそうだから良かった。
日が沈み、周りも私たちも青黒く染まり始める。私もパッとしないとか、特徴がないことを打ち明けることで、少し話が弾んでいた。
その合間・・・私は話を交わしながら、先ほどのかみ合ってなさそうな言葉のことを考えていた。
・・・ずっといた、 見つけてもらえず・・・?
『┈┈暗くなってきたからここまでにしよっか。よかったら、明日も今日みたいな夕方にここでお話しよ。』
時間分からないけど、少しして少女の方から急ぎ目に切り上げてきた。確かにもう日も落ちているから、ここまでにしてまた明日にと考える。
"バイバイ" とお互い挨拶して、住処へ足を進めようとする。
『┈┈ありがとう、レッサーおねえちゃん。』
途中、少女が後ろから声を掛けてくれた。それに答えようと振り返ったんだけど・・・もう少女は居なかった。
──ミィーン ─ミーン......
暗い中、セミさんの小さな鳴き声だけ響いていた・・・。
そういえば、博士さんを訪ねることもすっかり忘れていた。夕方じゃとても時間ないな・・・と、私は少し困ってしまった。
次の日も、その次の日も私は昼に "アヅアエン" を歩き回った後、夕方にその少女のところへ会いに行った。
昼もそこを通ったりするんだけど、彼女は居らず夕方にだけいた。結構歩き回ったけど、遊び場所以外で見かけることは無かった。
何故か、会うころには博士さんを訪ねること、いや・・・博士さん自体を忘れていたのかも。
そのうち私も 、呼び方がないと不便だと思い
"フウちゃん"
と呼んで話をしていた。
名乗られたわけでなく、私の中でその名前が浮かんだから。
4日か、会って5回目。ある拍子に博士さんを訪ねることをやっと思い出した。今日も赤い夕焼け、滑り台を二人で登りつつも忘れないうち・・・暗くなってしまう前に言う。
「あのね・・・あれから少し経つけどフウちゃん。明日こそ博士さんの所へ訪ねてみよう?何か分かるかもしれないから」
でも、 彼女は変なことを言い出した。その顔は、何だか "もういいかな" と言った印象。
『┈┈わたしね、だめなんだ・・・ここから行けないの。この場所に "貼り付いちゃって" 、離れられないの。』
意味が分からなかった。
「え、貼り付く?・・・シールみたいに?」
『┈┈レッサーおねえちゃんは私を見つけて、お話し相手になってくれたから教えてあげるね・・・。』
私がフウちゃんと呼ぶその娘は、自分に何が起こったのか話しだす。
当時いつ、どう生まれ、どんな名前なのかは本当に思い出せないけど──
『┈┈前もここでフレンズたちと遊んでいたことと、とても楽しかったのは覚えている。』
だから、大人になんかならないでずっと皆とここで遊べれば・・・と、考えたらしい。
子供らしい願い。
1か月くらいしても相変わらず同じように考えて皆と遊んでいたんだけど、この日に自分の体調がおかしくなったと言う。
もう帰ろうと皆、散り散りに別れた瞬間──
いつの間にか意識が飛び、気がつくと近くの池で仰向けに浮かんでいたという。
ちょうど夕闇が迫っていた時。私と初めて会ったときのような。
それからずっとこのまま。
大きくならないままだと言う。
『┈┈それとね、はい。
これを持ってこっち、私の隣に座って。』
そう言い、今度はサーバルさんの顔したポシェットからあるものを手渡してきた。柄が付いて、上は丸い形。そこを持つと、夕焼けでオレンジ掛かった自分の顔が見えた。
うん、 "手鏡"って言うんだって。
これを持ち、言われた通りフウちゃんの左側へと腰かける。
『この手鏡をね──
「あぁ~、レッサーちゃんここにいたんだね~」
彼女が話そうとした瞬間、ゆったりとした声が前から聞こえた。
白黒が特徴の、ジャイアントパンダちゃんだ。よく寝ていて、話し方まですごいゆったり。
『┈┈ちょうどいいね。
3人の方がよく分かると思うよ。』
フウちゃんが何かを提案する中、ジャイアントパンダちゃんは私の左側に腰を掛けた。
・・・?
ジャイアントパンダちゃん、フウちゃんのことを気にしていない様子だ。左からジャイアントパンダちゃん、私、フウちゃんの順番で座る。
「おぉ~、それなに~!?」
丁度、私は貸してもらった手鏡を持っていてジャイアントパンダちゃんが覗き込む。
『┈┈この鏡を見よう、3人でね。
ほら、見てみて・・・。』
皆で鏡を見る。
・・・え って声が出た、私から。
フウちゃんが右側に映っていない。
どう傾けても映らない。
私と、左にジャイアントパンダちゃんが映っているのに。右肩は触れて、彼女は確かにいるのに。
ジャイアントパンダちゃんは言う。
「ん、どうしたの~?これすごいね、私たちが映ってる~!」
・・・映ってないよ、見えていないんだ。
この時やっと分かった。気づいてもらえないって言うのは・・・フウちゃんは見えない娘なんだ。驚いたけど、何故か怖くはなかった。
彼女は言う。
『──おねえちゃんたち、ここで遊び道具作ってたよね。その時もわたしはここで見ていた、でも誰も気づいてくれなかった。
──寂しいよ、気づいて・・・ほしかった。』
・・・さらに分かってしまった。
初めて会ったとき、向こうも驚いてたけど・・・私の "気づいたこと" に驚いていたんだ。
彼女も、まさか呼んで振り向くと思ってなかったのか。
少しして、ジャイアントパンダちゃんは "滑り台" のところで眠っちゃった。フウちゃんのことは結局伝えなかった。
太陽が半分ほど沈んでいる。私とフウちゃんはまた二人で向かい合い、黙ったまま座っていた。
その静けさの中、とうとう彼女が口を開く。
『┈┈やっぱり、もう..会うの辞めよっか。』
「え・・・?」
ビリビリと寒気を感じた。初めて会った時のビックリよりずっとひどい感覚。
『┈┈わたしね、きっとお化けになっちゃった。
何でか分からないけど......。』
彼女は、子供のままならいいのにと思っただけ。それだけなのに、見えなくなって気づかれないままなんてあんまりだ。
あんまりであんまりで・・・
「何で会うの辞めるなんて言うの!?それこそ私も寂しいよ!」
『┈┈おねえちゃんをいつも来させるのは迷惑だし、何よりお化けは・・・近くに居ると他の子を不幸にしちゃうんだって・・・。』
このフウちゃんとお話しているとき、楽しかった。私が彼女の支えになれているんだ、役に立てているんだと実感できて嬉しかった。
でも、そこまでで・・・いいのかな、友達って。 フウちゃんはきっと今も切なく、ずーっと何処にも行けず、気づいてもらえずずーっと・・・。
「・・・もっと。」 『┈┈・・・?』
ほとんど無意識につぶやいた。彼女もきょとんとしている。
「もっと・・・役に立てることないかな?私は地味で役立たずで、力はないし泣き虫だけど、でもここから出られるくらいのことは出来ないかな!」
このまま別れると、何だか彼女にはもう会えない気がした。 ずっと後悔する気もしていた。
──少し間を置いて彼女は言う。
『┈┈お化けって、憑りつくんだって・・・。そしたらここ出て一緒にいられるかも。さっきも不幸にしちゃうって言ったけど、憑いたらもうどうなっちゃうか分からない。
おねえちゃんは、どうする?』
フウちゃんはおもむろに立ち上がり、夕日を背後に少し距離を取ってこちらに振り向く。彼女は後ろの陽射しで、真っ黒に見える。
でも目元ははっきり映り、私をじっと見ている。
とても、怖い。
何が怖いって、とても儚く寂しげで。
放っておいたらボロボロに壊れちゃいそう。・・・迷惑掛けたくないとも言ってるような。
でも・・・私も聞く。
「フウちゃんこそ、私をどうしたい?悪いことしちゃいたい?」
彼女は俯きながら答える。
『┈┈したくないよ・・・せっかく気づいてくれて、ただ・・・一緒にいたいって思ったの。』
役に立ちたいと思ったこともそうだけど、何よりこの娘は悪いようにするとは見えなかった。
なんかそれだけで十分だった。
「ずっとここに居るよりは、支えられた方がいいよ!一緒に行こう、ジャイアントパンダちゃんにも紹介するから!」
『──レッサーおねえちゃんは優しくていい子だね、役立たずなんかじゃない・・・本当にありがとう。』
彼女は落ち着いているけど、とてもうれしそうだった。最後にフウちゃんは、ある言葉を教えてくれた。
『┈┈でもそれね・・・ヒトの言葉で──
── "おひとよし" って言うんだよ。』
──ボゥンッ
話し終えた瞬間、全身が硬い空気にぶつかったような感覚に襲われ、意識が途切れた。
──チュン チュンッ
耳が鳥の鳴き声を捉える。滑り台の真ん中のところで仰向けに眠っていた・・・。青空が出ていて、ジャイアントパンダちゃんは昨日と同じ場所、私の下側で眠っていた。
なんだか今までのやり取りが夢での出来事だった感じだ。もしかして、私がこの場所から出られなく──
なんてことはなかった、ごめんね。
あれから、また夕方ごろに来たけどもう "フウちゃん" は現れなかった。でもやっぱり夢だとは思えない。次の日とうとう私は遠い道のり、博士さんたちを訪ねることにした。
私の様子を見越したのか、ジャイアントパンダちゃんが後ろからすぐ現れ呼び止める。
「昨日何かあったんでしょぉ、私も一緒に連れてって~」
眠ってばかりと思ったら、意外と鋭いね。
体力でも難がある私は、途中で身体を預けさせてもらったりもした。・・・えっと、おんぶ。
フウちゃんも紹介した、もういないけど。
長い道のりを歩き、着いた先でそこにいた "かばんさん" がお茶を出しつつ私の話を聞いてくれた。何故かかばんさん、私を見たときハッとしていた。
「二人ともわざわざここまでお疲れ様、私からもありがとう。レッサーさんも、ジャイアントパンダさんも本当に友達思いだよ」
少し照れる・・・。かばんさんは私の話を真摯に聞いてくれた。ジャイアントパンダちゃんは、やはりあの時見えていなかったのでキョトンとしている。
それから、ヒトのフレンズにはある "特性" があることを教えてくれた。
「ヒトのフレンズは、少しもろい部分がある。私も危なかったことは何度かあるよ。
あとね・・・成長を拒んだりすると何でか分からないけど一気に弱っちゃうことがある」
成長を拒む、か・・・でも腑に落ちない。
私が会ったフウちゃんは少し違う。拒むと言うより・・・
「 "ずっとこうありたい"って自分の今を強く願ったんだね彼女は。 ・・・"サンドスター"は知っているよね 」
うんと頷き、かばんさんはそれを見てお茶を飲み一息入れつつ話す。
「フレンズを構成してるだけじゃなく、願いを叶えてくれる作用もあるんだ。きっと、夕方に願ったことと現状のままという願いを叶えて・・・でもヒトの特性で──」
つまり一部の願いは叶ったけど、消滅したってことなんだ。でも・・・
そんなのってあんまりだよ・・・新しい友達みつけたと思ったのに。
けど、かばんさんは言葉を続ける。
「そんな落ち込むことは無いよ。さっきレッサーさん見たとき、もう一人誰かいるように見えたんだ」
あの日の最後、空気がぶつかるような感じがしたけどそれで一つになれたのでは、とかばんさんは言う。
「そのうちお話も出来るようになると思うよ。見えなくても、間違いなく大事な友達だから」
夢ではない、何だか少し安心した。
私が少しでも役に立てたのならそれだけでも嬉しかった。
・・・ジャイアントパンダちゃんは寝ていた。
あぁもう夕闇だ、あの時見たく。今日はかばんさんのお世話になることにしよう・・・。
あの彼女にもどうか
"次"
がありますように。
┈┈┈┈
『──おねえちゃんはお人よしだし、困りがちだから少しでも支えになれれば嬉しいな。
役に立てますように。』
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