[トキ] クローゼットと糸でんわ ─前編─ <中>






 


 よく来たわ、私のファン・・・むふふっ♪

先に言うわね、危ないから真似しちゃだめ。


 さて、と・・・。

こんなこと有り得ないと思うでしょうけど・・・聞いていい?


 貴方、大事に思ってる存在いるわよね。

家族であったり、友達だったり、恋人であったり・・・。


 もしその人たちと死に別れるどころか、自分以外が完全に消えちゃったら、貴方どうなっちゃうと思う?


 例えるなら、この世に一人ぼっち・・・。



 ・・・私はね。

私の場合はっきり言って、耐えかねちゃったの。求め得て、また失って・・・全部失った感覚に。

そんな私が狂った先に見つけてしまった方法。


 いい?もう一度言うわ・・・。

これから話すこと、真似しちゃだめよ......。


私の言葉、信じるかどうかはあなた次第・・・。



       ┈┈



 私はトキよ、歌が好きだったの。

でもね・・・もう歌うことはきっとない。聞いてくれる娘、ここにはいない...。もういないから。


 どうしたか・・・別にセルリアンに支配されたとかじゃない。世代交代が起こったの。

 この世代は、フレンズとしての寿命を迎えている...。


 ここは "こうざん" 、願いが余るくらいに叶った思い出の場所。

 今は朝だけど、モヤで周りが見えないわね。山の頂上に、カフェで使われていた木の建物があるけど、お客さんが滅多に来ない場所。


 もう、来ない場所。


 ここにいたアルパカもショウジョウトキも、もういない。年老いるとかじゃない、でも徐々に弱っていく感じだったわ・・・。


 此処を旅立てばきっと新しい仲間に巡り合える。けど、そうしなかった...。いつも私の帰る場所はここ。自分でも思うけどこだわりが強いのね。


 信じられないでしょうけど、この島自体にフレンズが見かけなくなったの。隠れているのかもしれないけど。


 そのうち噴火で次世代フレンズが生まれるはず。けど、火山の活動も穏やかなようで。

 もうどうでもよくなった。 "目の前で" あの二人は、フレンズの立場を降りて、原種に戻っていつの間にか姿を消した。


 私もそろそろ近いうち・・・。

でも、皮肉にもまだ時間はあるらしい。

そのうち寂しさから、あらぬことを考えてしまった。


──


 博士らがいた "としょかん" へやってきたわ。堂々と正面から入って近くを見ても、机や本も家具も、埃を被っている。次世代の博士や助手はまだいないよう。

 歩きながら前の原種たちは何処へ行ったのか、かばんも元気にしているのか考えていたその時・・・




 ──ゴンッ ゴトッ......


 誰もいないと思ったところから物音がした。としょかんの中心には大きな木があるのだけど、音がするのはその後ろ側。


 何故か、わざと立てたような物音に感じた。

・・・知らないうちに次世代の博士たちが生まれていたのかと少し期待をする。



「おぉ・・・誰かと思えばお前、か」


 声がした。

見れば、フードを被ったあの娘。いたのは──



「貴方、ツチノコね...!?・・・あの時と様子が変わったようだけど、私が分かる娘かしら・・・?」


 フレンズに会えたことで嬉しく思った。

けど彼女、前より少し大人しい。次世代の娘かもと思い少し冷静になる。



「あぁ分かるぞ・・・!鳴きたてて物陰に隠れたいところだが、オレも随分ガタ来ちまってな・・・よいしょっと」


 この娘やっぱり・・・久しぶりだわ!

木の後ろで彼女は座って本を読んでいたようで、少し重そうに腰を上げてこちらに来てくれる。

 聞けば彼女も何の気まぐれか、このとしょかんへ来ていたそう。


 今更だけど最初の質問、謝るわ。

やっぱりこの世で一人ぼっちはあり得ない・・・。



「悪い・・・実は誰か来たってのは分かってた。誰なのかは分からなかったけどな」


 前に言ってた何とか器官のことね・・・。

悲しくないのに目元が潤む、弾むような感覚で。なんでかしら・・・。

 それから、寂しかったこともあり少し二人でお話したの。



「貴方だけでも、会えてよかったわ。」

「お互い、長生きしちまったな・・・苦労するぜ」



 苦労・・・と言うことは貴方も。

そのうち、此処へ足を運んだ理由へと

─私の場合は羽を運ぶ か─ 話が進む・・・。


「ところで、何でお前はここに?オレと違って理由があるんだろ...?」


 

久しぶりにこうざんから離れ、此処へ来た理由・・・ありのまま答えた。


「逝ったあの娘たちと、お話が出来ないか調べに来たの...」


 どうかしている・・・。でも打ち明けた。

ツチノコは最初こそ首を傾げていたものの、私の話を真剣に聞いてくれた・・・。穏やかになったわね。



「まぁ、スナネコももういないしな・・・オレもその気持ち、分かるぞ」



 分かってくれた。 

ツチノコも一人で気楽にしてるとは言うけど、何だか切なそう。それから彼女は深く聞かず、あることを教えてくれた。



「ヒトのしてたことで "心当たり" がある・・・」



 そう言って、ツチノコはジャンルごとにとしょかんの本を持ってきてくれた。


"別の場所"

"おまじない"

"遠くへの連絡法"


 現実味のない内容がいくつかあるわね、当然だけど。


「ところで、字は読めるのか?」



 当たり前のように聞かれる。

実は前にかばんが教えてくれた。自分のログハウスを作ってもらって、そこで文字を教えられるようサイコロのような──


 "木の6面ブロック"


それに文字を掘って。他の娘もお世話になったそうよ。



 ──ただ、ツチノコは忠告を据えてきた。



「お前のやろうとしていること、何ていうかな・・・普通ではない方法になる。手順は自分で見つけないと行けなさそうだしな・・・。

悪いが何か起きてもオレは助けられないぜ...」



 そんなの、もう怖いとは感じてなかった。

何よりこの──


  "寂しい感覚" "虚しい気持ち"


 これこそ怖くて、仕方ない・・・何とかしてあの娘たちとお話、せめて声が聴きたかったし、できるなら早くあっちへ行きたいとさえ。


 わたし、しかめ面をしてたのかしら。

間を置いてツチノコがある提案をしてきた。



「あのな一つ...よければ、もし良ければオレと過ごさないか?一人よりはいいと思うが」



 正直・・・少し迷ってしまった。

ツチノコと過ごすことに対して ではない。


 この娘を "さばくちほー" から遠ざけ、 私のところへ連れることに対して。



 つまり私自身はこうざんから離れる気が全くなく、ツチノコを連れて行くことだけ考えていたの。ほんと、自分勝手よね・・・。


 けど、彼女もそれを見越していたのか──



「なんてな。オレも元の場所に居たい、お前を無理に縛るつもりはないさ」


 と言った。

気持ちまーるく、なったわね・・・。


 それから、集めた本を持ってこうざんへ帰ることにした。ツチノコと別れ際、握手をする。



「──じゃあ、またな。

・・・また会えるといいな」


 また会えると・・・と言うのはこうざんの二人と、ツチノコ自身のことでしょう。それとも、 "向こうで" ・・・かしら?


 さよならは言わない。大丈夫、大丈夫だから。それとも "何処か" では一緒なのかもしれないわね。むふふふ......。



 ─

 ──



 ・・・私もガタが来たようね、疲れた。

朝に出発したと思ったら、もう夜空に星もてんてん。


 閑散としたカフェのカウンターで、それからは休まず・・・というか寝ないで本をめくった。

見たけどすごいわよ、身近な所にも別の場所に通じるものはたくさんあるの...。



 ──例えば "クローゼット"。


 これ、扉を閉じると向こうは別の世界に通じやすいんですって・・・。あと、 "押入れ" とかも。

 アルパカのカフェ2階にも・・・フフ、あったクローゼット!

 左右に扉があるタイプ・・・ "観音開き" って言うのね。でもまだ足りない。


  ・・・


 2日経った、方法を調べていて。

まだ生きてる、何なら調べてる間に寿命が来てもよかった。

 ・・・ウソ、本当は寿命も怖い。だから"会う" ではなく "話す" 方法を探している私がいた。



 ──話すための物と手順を探して3日。だいぶ体力は落ちたわ、けどもまだ生きてる。


 でも物は用意できたの。


・(さっきも言った)クローゼット

・大きな丸い置き鏡

・サクランボの実

・生前の娘の髪の束


 そして・・・お話しするために作った──



  ── "糸でんわ" 。


 2つの紙コップの底を固い糸とテープで繋いだもの。

ヒトならコレ知っているんでしょうけど、調べて作るのに時間がかかっちゃった。



 こういうのは、後で聞いたのだけど大体 丑三つ時がちょうどいいそうね。

 でも、今回は私から "アルパカたちの居る所" に繋ぐ。だから明るいお昼でいいと思った。

 

 ──※午前2:00~2:30の時間帯。




  実はここまで色んな方法を試したんだけど、上手く行かなかった。上でも言ったサクランボの実を用意したときに、空気が変わったように思えた。偶然上手くいった時のお話。


 クローゼットの扉を開き、いつも通り鏡を置く。

そして髪の束・・・今回はアルパカのを使う。ショウジョウトキは後で・・・ね。ンフ_フフ...空気が変わり上手く行く気がして、ゾクゾクする。

 この髪束に、私の一部・・・自分の血をいっぱい染み込ませることにした。2人で1つに、2人で1つになる...ふふふふ!


 手を傷付けて血を出さないといけない。アルパカのカップを使おう。

カップを両手で抱えて持ち、勢いを付けて机に叩きつける。



  ──ガシャアン!



 この時もう手を切ったけど、さらに破片を握って手の平に傷をつける。ぎゅうぅって。

自分でも見事と思えるくらいに深く傷が入った。痛いけど、綺麗な色に染まって・・・



 ──ポタッ タタ...

   ──パタタ...タ...


「ふぃ、ぐずっ・・・うぅ......」


 落ちる血と一緒に涙があふれる。

痛かったから 怖くなったから とかではない。



「アルパガ..ぁぁ....大事なカップ、また割っちゃっだあぁぁ......」



 割ったことに対し後ろめたさを感じ、天井を向いて泣き出す私。わざと、自分でやったくせに・・・。


「ふぐっ うっ...ぐすっ・・・むふ ふふふ......

ウ.ウ.ウ.ウ.ウ.フ.フ.フ......🖤🖤 」



 一瞬でもう笑ってた。ショウジョウトキみたく手が朱くなって彼女らを思い出したから。

 血の付いた手でお顔を押さえたんで、顔も真っ赤だったと思う。それでも一人でニヤニヤ笑っていた。


 変な余韻に浸りつつ、 "血を含んだアルパカの髪束" を "糸でんわ" の器に入れる。念のため、もっと血で満たしておく。ムフ─フフ...フ


 そうだ、 "さくらんぼの実" も入れよう。

髪束はお話し相手、さくらんぼの実はアルパカたちがいる場所お空の象徴。


 ──ベリッ  ペタッ

  ──ペタッ......


 これらを入れた受け口の方を、クローゼット内の鏡にテープで固定する。

それで、クローゼットの扉を締めれば完成。糸は扉の間から出す、じゃないともう片方の受け口でお話出来ないからね・・・。



  ──・・・!?


 コップを口に当てようとしたとき、違和感を感じた。今までと・・・違う。

 説明が難しいけど──



 煙っぽい、スーッとするような匂いがする。

"おせんこう" って匂いらしい。



 ──ジジッ┈ヂ...チ..ブ...ブ...ちゃ...ん


 私の持つコップを通して何かが聞こえる!

クローゼットも、心なしか色が変わったように・・・?


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