夕立
夏休みだった。午後から学校のプールに行って、帰ってきたら家には誰もいなかった。いつもなら母親がいる時間だけれど、買い物にでも行っているんだろうと思って、気にしなかった。
和室の掃き出し窓を開け、畳の上に寝転ぶ。古い家だ。日に焼けた畳はずっと替えてないから柔らかい。プラスチックでできた色あせた水色のすだれがかすかに揺れている。外は明るく室内は暗い。寝返りを打って窓に背を向けると何も見えなくなった。
そのまま寝てしまったのか、誰かの声で目が覚めた。すだれを上げる音がする。さっと風が通る。湿った匂いがした。
「夕立がくるよ」
そう聞こえた。私は何か返事をしたと思う。でもよほど眠かったのか、振り返ったり目を開けたりはしなかった。
気が付くと、雨の音がしていた。土の匂い。夕立だ。起き上がると足元に洗濯物が取り込んであった。
がらがらと玄関の引き戸が開く音がして、母の声がした。
「ただいまー、いる? もう大変。すごい雨だから。タオル持ってきて。ねー? いるのー?」
「いるー」
私は大声で返事をした。洗濯物の中からタオルを取って玄関まで持って行く。
「今帰ってきたの?」
「そう。途中で降られちゃって、雨宿りするより走った方が早いと思ったんだけどねー」
買い物袋を持った母はずぶ濡れだった。
「良かった。洗濯物取り込んでくれたのね」
母にそう言われて、私は首を振る。
「私じゃないよ。たぶんおばあちゃん」
「何言ってんの」
母は笑った。
「お盆にはまだ早いわよ」
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2011年8月 発行「東京グルタミン」
テーマ「お昼寝」
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