第41話 聖騎士は取材を受ける
「じゃあ、僕と一緒に教会まで行きませんか? 僕も教会へ行くところなんです」
僕はクロネさんにそう言っていた。
クロネさんは驚いている。
「でも、アランくん、ここから教会って遠いはずなのだけれど……本当にいいの?」
何を言ってるんだこの人は。連いてきてほしいから僕に過去のことを話したんじゃないのか?
「当たり前じゃないですか。あんな話聞いちゃったら誰だって助けたくもなりますよ」
そう言ってサムズアップ。クロネさんは少し笑ってくれた。
初めて笑顔をみた気がするよ。試合中のあれは獲物を狩る時のやつだろうし。
「ありがとう、アランくん。そういえば、アランくんは今何処に住んでいるの?」
何処に住んでいる……難しい質問ですね……
「ショードル医院で療養中です。といっても、これまでの旅で疲れた体を癒やしてるだけなんですけど」
クロネさんと話しているとどうしても敬語になってしまう。
見た目的にはクロネさんは僕と大差ないけど、生きてきた年数が違う。
クロネさんがおばさんと言いたいわけではないけれど、不思議と遠慮してしまう。遠慮というよりも謙遜という言葉のほうが正しいかもしれない。
どっちも間違ってない……かな?
「なるほど、ショードル医院で療養中ね……そういえば、アランくんは何処から来たのかしら」
それはこの世界で、ということなのかな?
「聖教教会です。迷宮でいなくなってしまった三雲茉莉という人を探してここまでやってきました」
「……日本人?」
クロネさんが質問する。
「そうです。彼女は3ヶ月ほど前にこの世界にやってきて、一ヶ月もしないうちに迷宮ではぐれちゃったんです。僕は迷宮を隈無く探したんですけど見つからなくて……」
「そう……大変だったのね……」
そう言ってクロネさんは僕に同情してくれた。
そして、
「――ということはアランくん、迷宮をクリアしたってこと?」
「はい」
たしかに僕は迷宮を攻略した。でもそれは三雲さんだって同じはずだ。
というか、三雲さんのほうが先に攻略したはずだ。
最後の階層には空間喰いが発生させたと思われるような空間の歪みができていたからね。
「でも、多分、三雲さんのほうが先に攻略しているはずです」
「どうしてなの?」
「あの迷宮の最下層には、『空間喰い』が歪ませたと思われる空間の歪みがありました」
僕がそうクロネさんに伝えると、クロネさんは驚いたように、
「空間喰いって……あの?」
「はい、天災級に指定されてるヤツです」
クロネさんは驚きで声も出せないようだ。
僕も空間喰いについては学校で習ったんだけど、情報が少なくて竜のような見ためって言うこと、空間を歪ませるっていうことしかわからなかったんだよね。
固有魔法もわかっていないし、どんな耐性があるのかはもちろん、魔力保有量も知られていない。
三雲さんに会うことができたら、ぜひとも詳しく聞いてみたい。
「そっかぁ〜……三雲さん、強かったんだね〜……」
そう言ってクロネさんは手元の紅茶に視線を落とした。
そして紅茶を手に取り一口飲んで、
「きっと……きっと生きてるよ、三雲さんは」
僕に言い聞かせるように、そう言ってくれた。
こうして、僕は『鉄壁のクロネ』――クロネ・クライルさんと、旅をすることになった。
旅をすることになったはい行けれど、砂嵐のせいで、あと一ヶ月は次の町に進めない。
「どうする、クロネさん」
どう、とはこれからのことだ。
「どうするも何も、アランくんあなた、全くお金持ってないじゃない」
クロネさんとの試合に全額ベットしましたからね。
「だってクロネさんに全額むしり取られましたからね」
「むしり取ったなんて人聞きの悪いこと言わないで」
「すいません……ところで、ここのカフェでのお金って僕はどうすれば……」
ここでのお金払えなかったら僕どうなるの? ヤバイよね?
「それは私が払うから大丈夫よ。だってここには私が誘ったんだもの」
「ありがとうございます」
僕は流れるよな動作でクロネさんに頭を下げる。
さすがクロネさん、たよりになるね。
「金貨を五枚、アランくんに貸しておいてあげる。そこから増やして金貨八枚にして返すのよ」
つまり、僕に金貨五枚を貸してやるから、その五枚を増やして自分の金を稼げ。ただし、八枚にして返せと言うことらしい。
まあ理にかなっていると思う。
クロネさんは僕の前に金貨五枚を置いて言った。
「じゃあ砂嵐が去った次の日に、この街の外れに集合ね」
そう言ってクロネさんは紅茶のお金を置いて、去っていった。何処の宿で寝ているんだろう。まあ僕には関係ないか。
ふと空を見ると、少し暗くなっている気がした。
――もう夕方か。さっきのカジノに戻って、少しだけ金貨を増やして帰ろうかな。
ということで僕はカジノのある方へと歩いていく。
数分ほど歩くとカジノに着いたが、人だかりができている。
なんだか嫌な予感がしたが、予感は予感だ。絶対に当たるわけではない。
そう思った僕は「すいません」と誤りつつ人混みをかき分けカジノへと入る。
やっとのことでカジノへと入ることができた僕は、さっきの僕とクロネさんの試合を観戦していた男の人に何があったのか尋ねる。
「あの人だかり、何があったんですか?」
「ああ? 何だお前そんなことも知らない――でぇっ!?」
と、男の人は僕を振り返って驚く。
僕、何かしたのかなぁ。
「どうしたんですか?」
流石にその驚き方は気になってしまう。
「いや、済まねえ。あそこに居る奴らは新聞記者だよ」
新聞記者と僕にどんなつながりがあるというのだろうか。
「お前と『鉄壁のクロネ』の試合をみていた奴らが新聞記者たちに情報をわたしたんだ」
なるほど、それでゴシップが好きな新聞記者たちがその噂が本当かどうかを確かめるためにやってきたってわけか。
「……僕への取材ですか?」
「そうだよ。お前のさっきの戦い方から、外の国では二つ名持ちだったんじゃないかって噂され始めてる。まあ俺はそんなことどうでもいいけどな! 俺はクロネ推しだしよ」
おいおい、僕がカジノに来てからまだ一日目だぞ? 僕の何処に見どころがあるっていうんだ。
「でよ、その新聞記者と一緒に四天王の一人、『氷雪のカナ』まで来やがった」
四天王? 『鉄壁のクロネ』と『氷雪のカナ』で二人。残りの二人は誰なんだろう。
四天王が一緒に来たってことは僕と勝負するために来たってことかな?
「で、どうする? 取材を受けてくるのか?」
男が僕に聞いてくる。
顔が少しにやけてるの自覚してますか?
なんて言いそうになったが僕は口を抑えて耐える。
口は災いの元。触らぬ神に祟りなし。
余計なことを言うのは止めたがいいと僕は知っている。
だが、僕を探してきてくれた人が居るなら、誠意を持って接しなきゃいけないと思う。
「もちろんさ」
僕はニヤニヤしていた男に答える。
男は、
「そう来なくっちゃ!!」
みたいなことを言い、僕の肩を叩く。少し痛かったがまあ気にしない。
「頑張れよ!!」
男はそう言ってカジノの入り口で騒いでいる新聞記者たちのところへと走っていく。
僕は深呼吸して気持ちを整える。そして、新聞記者たちのところへと歩き出す。
新聞記者たちは歩いてきた僕に気がつくと、
「あなたが今日『鉄壁のクロネ』と試合を行った方ですか?」
と尋ねてくる。
「はい、負けてしまいましたけどね(笑)」
と、少し笑って僕は答える。
「いえいえ、負けたとはいえ、クロネさんを追い詰めたと聞きましたよ?」
追い詰めた? ああ、僕が追い詰めた気になっていただけだ。
やっぱり観客の眼にも僕がクロネさんを追い詰めたように映ったのかな。
「いえ、僕が追い詰めた気になっていただけですよ」
「ははは、ご謙遜を。あなたと『鉄壁のクロネ』の試合をみていた人は皆、口を揃えてこう言いましたよ。「あいつは化物だ。あの『鉄壁のクロネ』が追い詰められていたんだからな」と」
僕は深海よりも遥かに深いであろう溜め息を吐く。
「あの『鉄壁のクロネ』と五角以上に試合をしたあなたにお願いがあるのです」
そこで新聞記者は深呼吸し、こう言った。
「四天王の一人、『氷雪のカナ』と試合を行っていただきたいのです」
――ああ、面倒なことになった。
僕はさっきの深海より深い溜め息を遥かに超えるような、それこそこの世界を貫通してしまうような深く、重い溜め息を吐く。
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