第40話 聖騎士は『鉄壁のクロネ』の過去について知る
「……わたしのターンね」
そう言ってクロネさんはカードを引く。
「――ねえ」
唐突にクロネさんが僕に声をかける。
「……何でしょうか」
「あなたは何のために戦うの?」
――意味がわからない。
周りで観戦していた男たちの声が一瞬で消えて、僕達の周囲は時間がとまったかのように静かになった。
「ちょっと言ってる意味が――」
僕はそう答えようとしたが、クロネさんに声を被された。
「あなたは何故戦うの?」
再度クロネさんが僕に問う。
何のためってそれは――
「わたしの予想だけど……あなた、――英雄として強制転移させられてきたんじゃない?」
――正解だ。
でもなんで……
今の僕は鎧を身に着けていない。聖剣以外は全て病院――ショードル医院に置いてきた。
「正解のようね」
クロネさんは僕の沈黙を肯定と受け取ったようだ。
「……どうして、わかったんですか」
僕はなんとか声を絞り、クロネさんに質問する。
クロネさんはカードを僕に見せながら、
「――私も同じようなヤツだからよ」
と言った。
そして僕に見せたカード、『
「
そう言ってクロネさんは暗黒騎士を墓地へと送る。
「相手の場の永続魔法一枚を墓地に送り、その後モンスターを好きな数選択肢、除外できる。除外したモンスターの数×500のライフポイントを私は失う。私はあなたの場に居るモンスター全てを選択するわ」
僕の永続魔法、『護竜結界』が墓地に送られる。
これで僕の
僕はカードの指示通りに自分の場にあるモンスター6匹全てを除外する。
これでクロネさんのライフは2100。
――勝てない。
駄目だ。切り札を失った僕に勝ち目はない。
ここは潔く負けを認めよう。無意味な抵抗は時間の無駄だ。
「――降参します……」
僕はクロネさんにそう宣言した。
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
周りで観戦していた男たちが騒ぎ出す。
――本当に、最初から最後までうるさい人たちだったなあ。
そんなことを考えた。
――久しぶりにカードゲームで負けた。
小学生の頃、初めてカードゲームをやった時以来だ。
カードカウンティングがほぼ意味をなさなかったとはいえ、初めてにしてはよく戦えたほうじゃないかな。
そして僕はあることが気になった。
気になるのはクロネさんの過去。彼女は僕のことを『似ている』
と言った。
あれはどういう意味だったんだろうか。
僕はベットした金貨20枚をクロネさんに渡す。
これで僕は無一文となった。
「はい確かに。またいつかやりましょう」
そう言ってクロネさんは席を立ち上がり、店の外へと歩き出す。
「――あの!」
僕は、さっきの言葉の意味が知りたくて思わずクロネさんを呼び止めてしまう。
「さっきの言葉の意味って――」
僕の言葉を遮ってクロネさんは言った。
「お茶でもいかが? あなたとはゆっくり話してみたいし」
「――お茶?」
思わず聞き返してしまう。
「近くにカフェがあるから一緒にいかが?」
クロネさんは気にした様子はなく、もう一度そういった。
話したいこと……?
それなら試合中に――
そんなことを考えていた僕だったが、口は正直で勝手に動いてしまう。
「――喜んで」
クロネさんが一瞬笑顔になった気がしたが気のせいだろう。
そして僕は失敗に気づく。
――やっべ、お金どうしよ。今の僕は一文無しじゃん。
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「私は紅茶を。あなたは?」
そう言って僕に尋ねてくる。僕はメニューをみてみる――が、お茶の種類なんてわかるはずがない。
「僕も紅茶で」
「かしこまりました」
そう言ってウエイトレスさんは下がっていく。
僕とクロネさんは、カジノがあった繁華街ではなく、この街の外れにある、小さな喫茶店に来ている。
近くって言ってたはずなんだけど、聞き間違いかな。それとも、この街の人たちにとってこの程度の距離は『近く』なのかな。
「……さっき言っていた、『私と同じようなヤツ』ってどういう意味なんですか?」
重すぎる沈黙に耐えきれずに、思わずそう質問してしまう。
クロネさんは僕の眼をみてこういった。
「まずは自己紹介からにしましょう。お先にどうぞ」
そう言って僕から名乗れと言ってくる。
やりにくいなぁ。
「僕はアラン・フォード。クロネさんの言うとおり僕は英雄召喚術で二年ほど前にこの世界に強制転移でやってきました。年齢は……覚えてないです。でもまだ二十歳にはなってないです」
僕は目をそらし、半ば早口になりながらもなんとか自己紹介を済ませた。
三雲さんほどじゃないにしても、クロネさんはなかなかに綺麗だから、緊張しちゃってもしょうがないと思うんだ。
自分に言い聞かせてクロエさんの自己紹介を聞く。
「私はクロネ。さっきのカジノの人たちは『鉄壁のクロネ』って言う二つ名で私のことを呼んでいる――のは知ってるわね。私はクロネ・クライル。あなたとは違って、私は……」
クロネさんはそこで言葉を切ったあと、少し間をあけて、こういった。
「――私は、転生してきたの」
――転生? 転生ってあの、生まれ変わるっていう意味の……?
嘘だと思ったが、なぜだかクロネさんの言葉には不思議と説得力があった。
「あなたの考えている転生で間違いないわ」
そう言ってクロネさんは足を組む。
つまりクロネさんは転生してこの世界に来たってことかな?
「私はね、転生する前の世界――地球では、日本で暮らしてたの」
それがどうしたら日本人とは思えないような肌や顔になるのだろうか。
――あ、転生したんだったね。生まれ変わったら顔が変わるのもおかしくないか。むしろあたりまえのことだろう。
「どんな生活を送っていたんですか?」
僕は無意識のうちにそう質問していた。
心が、クロネさんのことを知りたいって言ってる気がした。
「転生してくる前の私はね、友達はそれなりにいて、顔は……あんまりだったけど、優しい家族がいた。その時の名前は……」
そう言って考え込むクロネさん。
日本って言ったら、三雲さんの出身地じゃ無かったっけ?
「お待たせいたしました。紅茶でございます」
突然現れたウエイトレスさんが、僕とクロネさんの前に紅茶を置く。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言って綺麗に一礼し、ウエイトレスさんは去っていった。
クロネさんは考えることを止めたのか、思い出せなかったのかわからないが、これ以上考えようとせずに紅茶を口につける。
僕もなんとなく紅茶を飲んでみる。
「美味しい」
思わずそうつぶやいてしまう。
この世界に来て初めての紅茶だ。
教会や学園ではそんな暇はなかったし、もし飲む機会があったとしても、そんな心の余裕は無かったと思う。
「えーっと……名前だったよね。――忘れたわ」
彼女は先程と変わらぬ態度でそういった。
「そうですか……」
そう返すことしかできない。
だがクロネさんは話を再開する。
「私はね、高校の入学式の日……もう20年ほど経ったと思う。その日に、交通事故に巻き込まれたの」
つまり、クロネさんはその交通事故で死んでしまった。ということだろう。
「そして私はあっけなく死んだ。死ぬ直前……誰かの声が聞こえたのだけれど、もう詳しく覚えてないわ。私が嫌な記憶とともに無理やり忘れてしまっただけかもしれないけれど」
誰かの声……気になるけど先に進んでもらおう。
「私は生きることを諦め、眼を閉じた。でも心の奥底では、『生きたい』って願ってた。今になって思うと、それが間違いだったんでしょうね……」
生きたいって願うことの何が間違いなんだ。
僕はそう質問しようとしたが、声が出ない。
「次に意識が覚醒した瞬間、私はこの世界にいた。――赤ん坊の姿でね。それを理解するのに時間は少し掛かってしまったけれど、自我……前世の記憶があったおかげで、日本での知識を使って上手く生きて来れた。私が6歳になった翌日、この世界で私を産んだ両親は死んでしまった。いや――殺された」
そのとき、(15+)6歳のクロネさんは何を考えたんだろう。
僕だったら壊れてしまうんだろうな、と僕は考える。
「でも私は折れなかった。前を向いて、必死で生きようと足掻いた。足掻いて足掻いて足掻きまくった。6歳までとはいえ、しっかりと愛情を注いでくれた両親に天国――もしくは別世界で私のことを知ったときに辛い思いをさせたくなかったから」
「クロネさんは……家族思いなんですね」
「そして10歳のある日、私の脳に直接声が響いてきた。不快感はなくて、むしろ心地良いくらいに綺麗な声だったわ。その声は、『聖教教会へ向かいなさい』って私に言ったの。それから今に至るわ。これまでの10年では声は聞こえなかったわ」
なるほど、クロネさんは教会に向かっている途中だったのか。
じゃあ僕と同じ――と言っても2つめの目的だけど――なんだね。
1つめはもちろん、三雲さんを探すことだけど。
さらに、教会へ行く道は多分同じだろう。
そう考えた僕は――
「じゃあ、僕と一緒に教会まで行きませんか? 僕も教会へ行くところなんです」
僕はクロネさんにそう言っていた。
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