第39話 聖騎士は繁華街へ行く③
「対戦よろしく」「よろしくお願いします」
こうして、僕、アラン・フォードVS鉄壁のクロネの試合が始まった。
ちなみに種目はトレーディングカードゲーム。故郷にあったものに似ているけど、全く同じわけではないようだ。
僕は序盤、発動コストの低い妨害カードでクロネさんの手札、山札、墓地、モンスターなどを破壊・除外していき自分に有利な対面を作ることができた。
ちなみにこのゲーム、自分のライフが0になるか、山札が尽きた瞬間に負けという超単純なルールである。勿論イカサマは駄目だよ? カードカウンティングは……グレーだね。
僕が有利対面を作ったと言うのにクロネさんは感情を全く表に出さない。
有利にゲームを運べているのは理解できたが本当に有利なのかは確かめる方法がない。
とはいえ、何をしてくるかわからないからと言って、僕が引く理由にはならない。
ということで、僕はクロネさんに向けて
クロネさんは『鉄壁』と呼ばれるだけあり、僕がどれだけ妨害をしても全く慌てず、こちらの隙を伺って攻めてくる。
相手のデッキは恐らく速さに特化したデッキだ。となると、確実に『精霊の加護』と言う定番カードや、『爆炎・弐式』は確実に入っているはずだ。しかも二つ名持ちだ。確実に最高枚数の4枚は入れていると見ていいと思う。
もし初手で『精霊の加護』、『爆炎・弐式』の二枚を引いていたらと思うとゾッとする。
――早い鉄壁って何なんだよ……。
「ターンエンドです」
心の中で苦笑しながら、僕は自分のターンを終わらせる。
現在僕のライフは3800。クロネさんは4500だ。速くて硬くて回復できる壁って強すぎないかな。
「――あと3……」
「何の話ですか?」
無意識のうちに喋ってしまっていたようだ、気をつけなければ。
「こっちの話です、気にしないでください」
「そう……。わたしのターンね」
クロネさんは納得行かなかったようだが試合に戻ってくれた。良かった。
そしてクロネさんは山札に一番上のカードに手を乗せる。
――予言しよう。クロネさんが次に引くカードはクロネさんの切り札となるカードだ。
僕はこの試合が始まって数ターンでクロネさんの弱点を見つけた。
クロネさんの弱点は――。
――足元だ。
このテーブルはガラスで作ってあって相手の足元がよく見える。恐らくイカサマ防止のためだろう。
クロネさんは切り札となりうるカードを引いた時、足を組み替える癖がある。
クロネさん本人は無意識のうちにやっていると思うけどね。
そして、その日いたカードを僕に除外されないように必ず伏せる。恐らくだがこれも癖だと思う。伏せてさえ於けば、カードが選ばれるときに相手はその伏せてあるカードを選べないからだ。
更に、速さ特化のクロネさんのデッキは伏せカードが重要となる。
何枚か本物の伏せカードがあるかもとクロネさんがカードを引くときに足元に注目していたのだが、組み替えることはなかったので恐らくクロネさんの伏せカードには切り札が伏せられているはずだ。
伏せカードを潰せる魔法カードは次の僕のターンで使えるから、次のターンで一気に処分しよう。地味に面倒なんだよね、伏せカード。
そしてクロネさんはカードを引いた。
カードを引き、クロネさんは足を組み替えた。
――よし。
ここまでは読み通り。
クロネさんの残り山札は15枚。伏せカード――クロネさんの切り札――4枚。普通、切り札となりうるカードは一つのデッキに12枚(四枚×三種類)。除外したり、墓地に送ったカードの中に、恐らく切り札となるカードは一枚もなかった。
クロネさんの切り札となるカードが12枚と仮定すると、山札15枚中8枚が切り札。つまり約二分の1の確率で切り札を引くことになるということだ。
――いやいや、こんなことはどうでもいい。次に重要なのはクロネさんの出方。それ次第で僕の動きは大きく変わってくる。
――そしてクロネさんは今引いたカードを伏せ無かった。
そしてクロネさんは今引いたカードのイラストのほうを僕に見せつけ、こう言った。
「魔法カード、『天ノ裁キ』」
クロネさんが魔法カードを発動する。
僕は無表情を貫く――が。心拍数はこれまでにないほど上昇している。
――ヤバイヤバイヤバイヤバイ――――!!!
僕の記憶が正しければあのカードは――。
「随分と余裕があるみたいですけれど、このカードは知っているかしら? あなたと私は、手札、山札、墓地、バトルゾーン、伏せカードの中から好きなものを一つ以上選んでその選んだゾーンにあるカードを全て除外する。さあ、選びなさい」
――そう言ってクロネさんはにやりと笑う。
何故か、エクストラデッキは選択肢に入っていない。
「私は手札を除外するわ。あなたは?」
僕は少し考え、こう答える。
「僕も手札で」
こうして、僕とクロネさんの手札は除外された。
伏せカード処分のためのあのカード、伏せといてよかった……!
僕にはクロネさんのカードを予想している余裕なんて無かったんだ。
僕は自分の脳をフル回転させ、必死で突破口を探す。
「わたしのターンはまだ終わらないわ」
そう言ってクロネさんは不敵な笑みを浮かべ、必死で突破口を模索している僕にこう告げる。
「魔法カード『天ノ裁キ』によって今、手札から除外された『
――なるほど。
つまり、僕がクロネさんに仕掛けていた妨害工作の数々はほとんど無意味だったというわけだ。
「出たぞ!! 鉄壁のクロネの初見殺しコンボだ――!!」
僕とクロネさんお試合を周囲で観戦していた男たちが騒ぎ出す。
――なんだよ初見殺しって。初見殺しっていうか、妨害殺しじゃないか。
それにしてもクロネさんのデッキ……速さ特化偽装の全く違う型だったなんて……。こんなの読めないよ。
よく『精霊の加護』や『爆炎・弐式』を隠して経って信じさせてたよね。
――なんてのんきに考えてる場合じゃない。
本当に特化偽装型なら、クロネさんの伏せカードは全て――。
「私は伏せていたモンスターカード、『
――マズいマズいマズい!!
僕の場にはモンスターが二体。パワーはその二体ともがクロネさんの特殊召喚したモンスターに負けている。
このままでは貫通ダメージを喰らって勝負は終わってしまう。
「来た――!!! 鉄壁のクロネの無限鉄壁!! 久しぶりにみたぜ!!」
「俺もだよ! 使うのはいつ以来だっけ」
などと、観戦していた男たちは騒いでいる。
「『
これで僕のライフは2300。今ので1500もライフを削られたことになる。攻撃力の高いモンスターを残したのが祟ったか……。
対するクロネさんは2600のライフを追加され、合計で7100。
開始直後は僕もクロネさんも4000だったんだけど、何処で僕は間違えたんだろう。
「ターン終了時、『大魔法使い クラウン』の能力で、自身の墓地にあるカードを好きな数デッキへと戻すことができる。私は墓地にある全てのカードをデッキに戻すわ」
そう言ってクロネさんは墓地のカードを全てデッキに戻し、僕にデッキをわたしてくる。
僕は受け取ったデッキをシャッフルしてクロネさんへと戻す。
「ターンエンドよ」
――あれ……? いま、トドメ……刺せてたよね……?
相手の判断ミスか……?
いや、それはないと思考を切り替える。
――とりあえず一ターンもらえた。
「僕のターン、ドロー。僕は自分の場にあるモンスター二体を守備表示に」
僕が引いたのは妨害に特化したカード。二つの能力があり、二つ目の方は、発動するための条件があるんだけどね。
でもこのカードは、エクストラデッキと組み合わせることによって、何倍も強くなる。
僕は今引いたカードをクロネさんに向けて、こう告げる。
「魔法、『暴竜召喚術』。エクストラデッキから『竜』と名の付くモンスターを好きな数召喚し、特殊召喚した数×500のライフポイントを自分は失う」
このカード、『暴竜召喚術』は二つの能力がある。
一つは妨害。相手の山札の上から4枚を墓地に送ることができる。
でもこの能力は『大魔法使い クラウン』によって無効化されたも同然だ。だから当然、使わない。
2つ目の能力は特殊召喚。前のターンに相手プレイヤーが3体以上の特殊召喚を行った次のターンにのみ発動できる。
召喚術と名付けられるだけあり、このカードはエクストラデッキのモンスターの特殊召喚もできる。まあそれと引き換えにライフを大量に失うんだけどね。
「――僕は、エクストラデッキから、『暴風竜』、『火山竜』、『黒竜』、『ミニドラ』の四体を特殊召喚する!」
このカードゲームには、バトルゾーンにおけるカードの枚数に限度はない。
これで僕の場にはモンスターが6体になった。
そして僕は伏せカードをオープンし、クロネさんに言う。
「永続魔法、『護竜結界』。僕の場にあるドラゴンはこのカードがある限り場を離れない。更に貫通ダメージも無効だ」
『護竜結界』と『暴竜召喚術』。この二枚は、僕が大量に買った拡張パックのあたり中の当たりだった。
「もし売るとしたら、とんでもない金額になりますよ」
と店員さんは言っていた。
二つの効果を持ってるなんて僕もみたときは驚いたよ。
「僕は、火山竜で大魔法使い クラウンにこうげ――」
僕の声が遮られる。
「大魔法使い クラウンの効果発動。自分のライフ2000を消費し、このターンあなたは攻撃宣言をできない」
――防がれたか……。
でももうクロネさんは何もできなはずだ。
次の僕のターンの初めには、クロネさんは『黒竜』の能力で手札を全て除外され、『暴風竜』の攻撃時にはクロネさんの墓地を除外される。
そして防御は『火山竜』と『ミニドラ』、最初に守備表示にした二体が行ってくれる。
――さあ、どう出る、クロネさん。
と、どちらが鉄壁なのかわからないようなことを考えながら、次の行動を予想した。
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クロネ ライフ5100
アラン ライフ300
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