第38話 聖騎士は繁華街へ行く②
「うう―、喉痛い〜」
ガラガラになってしまった声が僕の耳に届く。
――そう、僕の声だ。
僕は、レベル1クライ(カレー)によって喉が殺られてしまった。
声を出すのも正直つらい。
じゃあなんで声を出したのかって?
気分だよ。
特に理由はない。納得してもらえたかな――って無理か。
「ごちそうさま〜」
そう言って僕はテーブルにお金を置いて店を出る。
――やっと食べ終わったなぁ……意外と時間がかかっちゃったよ……。美味しかったんだけど、ちょっと――いやすごく辛かった。舌も喉も肺も殺られちゃったよ。
時間がかかったとはいえ、まだまだ時間も余ってるし、これから何処に行こうかなぁ
僕はのんきにそんなことを考える。
道行く人やすれ違う人、お店どうしの隙間に見える砂漠の景色をなんとなく眺めながら僕は普段よりもゆっくり歩く。
そうやって少し歩いていると、なんだか豪華な建物が視えてきた。
とてもきらびやかだ。――というか、派手だ。目が痛い……。
僕はなんとなくそのきらびやかな建物に近寄ってみる。
そして中を覗いてみる。
「――カジノじゃん」
思わずそうつぶやいてしまう。
中にはパチンコは流石になかったようだけど、カードゲームやトランプなど、カード類のものばかりがあった。もちろんルーレットやその他のも大体はあるようだったよ。まあ外から確認しただけだから確実ではないけどね。
僕はまだ未成年だけど、背は高く、体格もいいし大人に視えないこともないだろう。
それにこの国には身分証明が必要ないと来た。
明らかに未成年にしか視えないような子は駄目らしいけれど、僕は大丈夫でしょ。クリフさんも子供の時(と行っても青年期)にはよく通ってたらしいからね。
やってみたかったんだよね〜
――ということで、僕はカジノへ入店する。
英雄がそんなことをしてもいいのかって?
いいんだよ。
何処に『カジノに英雄は入店できません。お帰りください』なんて書いてあるんだい? 僕がみたところどこにも書いていないんだけど……。
僕はカジノに入店して驚く。
なにここ……。
――すごく楽しそうなんですけど――!!
僕は世の中のダメおやじの気持ちがよくわかった気がした。
とりあえずそこらにあったカードゲームのところに置いてあるパックを購入する。
今流行っているのはこのカードゲームらしい。
故郷でもこんな感じのカードゲームをみた気がするぞ……?
その場でしばらく考え込む僕。
傍から見ると、どのパックを購入するか悩んでいるように視えたのか、誰も僕に声をかけるものはいなかった。
しばらく考えて、ふと思い出す。
「――あっ……遊◯王だ」
なるほど、思い出すと遊◯王にしか視えない。
ただ、カードの能力やパワーがあるくらいしかしか一致しているものはなく、名前やルールは異なるようだ。
面白そうだ。
そろそろクリフさんにもらったお金もなくなりかけてたし、ここでお金を稼ぎますかね。
ということで僕は、スターターデッキと拡張パックをいくつか購入して、自分のデッキを作る。
僕はカードゲームが得意だ。
友達に負けたことはない。勝ちすぎて誰も戦ってくれなくなってしまったくらいだ。
その友人たちいわく、
「アランは俺達がイカサマを使っても勝てねえからもうやりたくねえ」
「中盤までこっちが勝ってた試合だったのに気づいたらやられてた」
「必勝コンボをしようとしても必ずそれに気づいて自分のプレイすらさせてくれねえ!」
「酷いときは俺のターンが回ってこなくなった。あんなの楽しくない!!」
とのこと。
――もちろん、無自覚でやってるなんてことはなく、全部計算してやったんだけどね。
次のカードを予想するテクニック『カードカウンティング』を使うことで自分と相手の次のカードを予想し、戦略を立てていた。三雲さんも頭がいいし、カードカウンティングは得意そうだよね。
僕はこの方法で次のカード、またはそこにないカードを予想し、相手の伏せカードの内容や、手札などをしっかりと予想し、相手の戦術を片っ端から潰したり……まあそんなイカサマみたいな方法で勝ってきた。
当時の友人たちは僕がそんなことをしているとも知らずに、
「勝てないからやっても無駄」
なんて発想に行き着いたんだと思う。
まあしょうがない。当時友人たちは11歳。そんな11歳の子供がカードカウンティングなんて知ってるはずがないもんね。
じゃあ僕はそのカードカウンティングを何処で知ったのかって?
――秘密です。というか、説明が面倒だからいつか話すよ。ごめんね。
そうやって、昔のことを思い出しながらデッキを組んでいた僕は気づく。
――懐かしいな、このカードはあのカードに似ている。たしかさっきの……。
そう考え、僕はカードの山から目当てのカードを探す。
2分ほど明後日ようやく見つけた。
「――あった、この三枚」
この四枚を使えば、相手のターンは永遠に来なくなる。
僕の故郷では二枚くらいでできてたんだけど、そう簡単には行かないか。しかもうろ覚えだからよくわかんないけど。
このカードを元に、相手の妨害に特化したデッキを作成しようかな。
スターターデッキと、拡張パックを開封して当たったカードを眺め、そんなことを考える。
「――手札破壊にデッキ破壊……モンスター除外、破壊に手札戻し。そして最後は墓地除外……!!」
そんな物騒なことを呟きながら僕は黙々とデッキを組んでいく。
試行錯誤すること1時間。
――僕のデッキがようやく完成した。
僕はカードを堂々と持ち、対戦相手を探してフラフラとカジノの中を歩き回る。
ざっとみた感じ、僕の考えた戦術を使っている人はいないようだ。
――良かった。この戦術はこの世界で、まだ僕だけが知っているんだ……。
数分ほどカジノで勝負している客を眺めて歩いていると、唐突に誰かに話しかけられる。
「――ちょっといいかしら」
話しかけてきたのは若い女性。恐らく、ぎりぎり二十歳だと思う。予想だけど。
僕に話しかけてきたということは――。
「あなたにこのゲームの勝負を申し込みたいの」
そう言って彼女は僕にデッキを見せ付けてくる。
――やっぱりか。対戦相手が見つかってよかった。
「おお!! 『鉄壁のクロネ』じゃんかよ!! 試合やんのか!? おいお前ら!! ゲームは中止でいいよな!?」
やたらハイテンションでそんなことを言う男の人。
なんだよ『鉄壁のクロネ』って……。
「もちろんだ!! 『鉄壁のクロネ』の試合が見れるならその日一日飯が食えなくても俺は試合を見るぜ!!」
そう言ってどんどん見学者を増やしていく男たち。
……『鉄壁のクロネ』、恐ろしい……。
断るに断れない状況になり、僕は溜め息をつく。
「しょうがないですね、じゃあやりましょう」
僕がそう答えると、さっき騒いでいた男たちは謎の歓声を上げる。
「そういえば、『鉄壁のクロネ』ってなんですか? あなたのとおりなですか?」
ずっと気になっていたことを僕は『鉄壁のクロネ』――恐らく名前はクロネ――に聞いてみる。
「ええ、そうよ! わたしの鉄壁の防御の前ではどんな攻撃も意味をなさないわ!」
――おぉ……これが三雲さんの行っていた『中二病』ってやつなのかな……。
確かに痛い。
「さあ、席について」
そういってクロネさんは椅子を指差す。
僕が示された席に腰を下ろすと、クロネさんがあとから席について、こう言った。
「私が賭けるのは『金貨10まい』あなたはいくら賭けても構わないわ」
そう言ってその言葉通り金華10枚をベットする。
おいおいおい、金貨10枚ってかなりの額だよ? 大丈夫?
「了解です。では僕は金貨20枚を賭けますね」
そう言って僕は金貨20枚を堂々とベットする。
僕が堂々と20枚賭けたことにクロネさんは驚いている。
僕のことを貧乏だとでも思ったのだろうか。実際にはそうなんだけども。もっと言うと、これが全財産なんだけども。
「――そんなに賭けられて私はこのままなんて不公平だし、追加で10枚賭けることにするわ」
そう言ってクロネさんは更に10枚の金貨をベットする。
「あなたはもう賭け足さなくてもいいのかしら」
「ははは、そうしたいところですが、あいにくこの20枚が僕の全財産でして」
僕がそうおどけて言うと、周りの男たちが大声で笑い出す。
「コイツ、ぶっ飛んでやがる!!!」
「『鉄壁のクロネ』に喧嘩売ったぞコイツ!!!」
「終わったな!!」
男たちは口々にそんなことを言う。
「それは残念ですね。では始めましょうか」
そう言ってクロネさんは僕にデッキをわたしてくる。
僕もクロネさんに自分のデッキを渡し、クロネさんのデッキをシャッフルする。
一応、クロネさんがイカサマをしないかこっそり視線を伺うが、クロネさんはそんなことはせずシャッフルを終わらせて、切ったカードを僕に手渡してくる。
僕もシャッフルを中断し、カードをクロネさんの元へ戻す。
観客の目もあることだし、恐らく僕にできるのはカードカウンティングくらいだろう。
そして手札を引き、エクストラデッキを配置して。僕とクロネさんは声を揃えてこういった。
「対戦よろしく」「よろしくお願いします」
――こうして僕、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます