第37話 聖騎士は繁華街へ行く
僕が迷宮を攻略して、ブラックホールに
今現在僕は、迷宮から一番に近くにあった街に来ている。
かなり距離があったけど、中級精霊に頼んだら、街のすぐそばまで送ってくれたよ。それにしても、運が良かったなぁ……。あんな砂漠の真ん中で転移魔法を使える精霊に出会えるなんて……。
どうやらここはクレーンではなく、ショードルというお隣の国らしい。町の人が教えてくれた。
この国ショードルは医療技術が恐ろしいまでに進歩しており、僕はこの街の病院――ショードル医院で治療を受けている。
お金はあったんだけど、僕が英雄ということを知った街の人たちは、
まぁ治療って言うより療養って感じだけどね。
二年前にこの世界に強制転移させられてずっと頑張ってた気もするし、まぁ自分へのご褒美みたいに考えているよ。
三雲さんのことは心配だけど、自分が死んじゃったら三雲さんのことをしんぱいできなくなっちゃうし……。
ここには二週間ほど滞在する予定なんだ。
何でも、次の街ともう一つ先の街は、砂嵐によって何もできない状態らしいんだ。
そんな砂嵐が数ヶ月に一度、何処からともなくやってきて一ヶ月間その街にとどまるらしい。
全く馬鹿馬鹿しい話だと鼻で笑おうと、次の町のある方角をみて僕は顔が引きつったのを覚えている。
いや、まさかね、ここからでも見えるなんて思ってもみなかったし……。
砂嵐をみた感想として一言。
――あれは竜巻だよ!
竜巻って呼んでも問題ないくらいに大きかった。大きいっていう言葉が小さく感じられるほどにその砂嵐は大きかった。
――全く、とんだ足止めを喰らっちゃったよ……。
このときの僕はそんなことを考えていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕がこの街に来て三日目。
今日は繁華街に行こうと思う。
療養? ああ、何もなくて暇すぎるから今から抜け出そうと思ってるよ。
まぁ大丈夫だとは思うよ。
しっかりと置き手紙も出して行くつもりだから。
「病院の方へ、繁華街の方へ行ってきます。心配しないでください。夜までには戻ります。っと」
適当に手紙を書いて、僕はその描いた手紙を僕がさっきまで寝ていた枕に置いておく。
これで看護師さんも僕の姿が見当たらずに慌てることはないだろう。
僕は隣に寝ている患者さんを起こさないように静かにベッドから抜け出し、ドアへと向かう。
その時だった。
ドアの向こうから、僕の担当の看護師さんとその他(病院の医者たち)恐らく5名の話し声が聞こえてきた。
――おいいいい!! どうするどうするどうする!?
戻ればいいだけの話だけど、テンパってて当たり前の考えが思いつかない。
僕がその場でオロオロしている間にも時間は流れていく。
――ガチャッ。
そしてドアが開く。
――あああおしまいだ抜け出そうとしてたなんて知られたら……絶対に護衛を付けられちゃう!! 本来なら僕が護衛する側なのに!!!
僕はぎゅっと固く眼を瞑る。
が、看護師さんは現れない。
どうやら、開いたドアは向かいの部屋のようだった。
――あっぶねぇぇぇえええ!!
僕は溜め息を吐く。
寿命が縮まった気がする――って、僕はこの世界に連れてこられた時点で寿命という概念がなくなってるのか。
でも人間の脳って140年分までしか記憶できなかった気がするんだけど……。
――うん、深く考えるのは止めておこう。
看護師さんたちが向かいの部屋に入っていったことを確認した僕は、抜け出したときと同様に、音をたてないように部屋を出る。
廊下には誰も居ない、よし――。
僕は廊下を歩き始める。時々この病院の患者さんとすれ違うけど、今の僕は鎧を着ていない。誰も僕が英雄だなんて気づかないだろう。
受付までやってきた。僕は堂々と前を通り過ぎる。
受付の女の人と目があった気がするけど、気のせいだと思いたい。
そして僕は病院を脱出することに成功した。
叫びたくなるのを我慢して僕は繁華街の方へ……繁華街の方へ……。
「――み、道が……わかんない……ははは」
思わず乾いた笑いが浮かぶ。
……僕ってアホなんじゃないかな。いやでもそんなはずはない。
だって僕は二年で、たった二年で聖教魔法学園を卒業したんだよ? アホなわけがない。……何処か抜けてるところはあるかもしれないけど……。
こんなところで時間を失ってしまうのは流石に辛い。
そう考えた僕はちょうど目の前を通った老紳士に聞いてみる。
「――繁華街ですか?」
そう言って老紳士は少し考えるように空を見上げたあとこういった。
「あちらの砂嵐の方へ進めば繁華街へはいけるはずですよ」
「ありがとうございます」
そう言って親切な老紳士にお礼を述べる。
なるほど、これだけわかりやすいなら迷子にならないよね。僕は方向音痴じゃないからそんなことはどうでもいいんだけど。……むしろ心配なのは三雲さんで、あの人も僕と同じで頭がいいのに何処か抜けてるからね……。
――いや待って、僕は何処も抜けてない。
のんきにそんなことを考えながら僕は砂嵐の暴れている方向へと足をすすめる。
10分ほど歩くと、たしかに見えてきた。何やら賑やかで楽しそうだ。
お腹が空いた僕は近くにあった飲食店に入る。
学園で習ったような気がする……。
確かこの国、ショードルには辛い食べ物を好む人が多いって。
僕の背中を冷や汗が伝う。
確かこの国での伝統料理は――。
「いらっしゃいませー♪ ご注文はいかがなさいますか?」
そう言って店員さんが近づいてきて、僕にメニューを見せる。
――肉野菜クライ、肉肉クライ、クライ――。
何だこれは。他にもたくさんあるけど、全部クライじゃないか……。
僕は『肉肉クライ』という年頃の男子が注文しそうな料理を口にしかけ、慌てて他のものをチョイスする。
だって、このクライって言う料理、辛いんだよ?
見た目はただのカレーなのに味がおかしいんだよ?
よくわからないものなんて食べたくはないね。
一瞬考え僕は注文する。
「普通のクライください」
「かしこまりました。では辛さのレベルはどうなさいますか?」
店員さんが僕にそう言った。
――辛さのレベル……!? 何だそれは……!
そう思って僕はメニューをみてみる。
よく見ると、料理名の隣に小さく、『辛さのレベル』と書いてある。
1から4まであるのか……。
僕が悩んでいると、店員さんは、
「ちなみにですけれど、レベル4を注文なさった方があちらでお食事なさっています」
と言って、少し離れたベンチで食事をしている男性客を示す。
みてみると、その男性客は、クライを食べては水を呑み、食べては水を呑み……と繰り返している。
一瞬見ただけでもわかった。
――これは1でも相当に危険だ、と。
「レベル1でお願いします」
自分でもわかるくらいに声が震えていたはずだけど、あんなものをみてしまってはしょうがないと思うんだ。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
そう言って店員さんは去っていく。
僕の心臓がやたらうるさく鳴り響く。
処刑される人の気持ちがわかった気がするよ。いや罪を犯したことは無いんだけどね。
自分の気を落ち着かせつつ、待つこと数分。
さっきの店員さんが僕の注文したクライを持ってやってきた。
「お待たせいたしました。レベル1クライになります。大変お熱くなっておりますのでお気をつけてお召し上がりください」
――ついに来てしまった。
「ありがとう」
僕は店員さんにお礼を言い、僕が注文したクライと対峙する。
僕は死地に向かう兵士のような気持ちでクライを口に運ぶ。
その瞬間、やってくる痛いほど伝わる辛さ。
僕は思わず吐き出しそうになったが、流石にそれはマズいとそのまま飲み込み、盛大にむせる。
――焼ける!!!
叫ぼうとしたが声が出ない。
喉がじんじん痛む。
僕の左手が水を探してさまよう――が。水はテーブルになかった。
――準備していればよかった。
そう考えても後の祭りだ。どうしようもない。
僕は急いで席を立ち、半ば走るようにして水を注ぎに行く。
幸運にも並んでいる人はおらず、水が確保できた。本当に良かった。さすが僕の運!!
僕は席に戻るまでに我慢できずに水を飲む。
「――死ぬかと思った」
比喩表現ではない。
本当にそう思った。
あ有り前の話だけど、僕は生まれてこの方、肺が焼けるような痛みを味わたことはなかった。
――が。
今日初めてその痛みを味わって思った。
――これ駄目なやつ……。
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます