第33話 機械人形(妹)は足止めを喰らう
茉莉が心を失って、15日ほど経過した。何かしら声をかけなければ、とは思っているんだけど、何を言えばいいのかわからない。
このまま私達が何もしなければ、茉莉はもとに戻してあげられない。
モントや雪姫が声をかけたらしっかり返事はするからまだマシなんだろうけど……。
「茉莉、雪姫、胡桃、次の町が見えてきましたよ」
そう言ってモントは町の方向を指差す。
少し目を凝らしてみると、たしかに町が見える。少し小さいかな……?
雪姫も私と同じようにして町の方をみている。
茉莉はと思い、私は茉莉の方を向いてみる
しかし、茉莉は町の方を見ようとせずに、何処までも広がっている蒼い空をボーッと眺めていた。
茉莉の苦しみを理解してあげたい。何を考えているのか知りたい。
そう思ってもなにをどうすればいいのかがわからない。
思うだけでどうすることもできない。行動に移せない。
そのことが私はとても苦しい。でも、その気持ちは雪姫やモントも同じようで、茉莉が明るかった頃に比べると、だいぶ元気がなくなったように思える。
あ゛ー、もう、イライラしてきた!! ほんとに面倒だよ私!!
そんなどうしようもないことを延々と考えていると、いつの間にか馬車は町に入っていたようだ。
馬車がゆっくりと停止する。
モントが運転席から降りてきて、茉莉の手を引いて馬車から茉莉を下ろす。
その次に雪姫、私の順番で馬車を降りる。
この街で行うことは食料の調達だ。
モントが確か、この街の医者は優秀だとかなんとか言ってた気がするし、あとで言ってみようかな。
「こんにちは、旅人さんですか?」
私たちの到着を見ていたらしい街のひとが私に聞いた。私たち、旅人に見えるのかな……?
あれ? 私たちって旅人なのかな……? まぁ深く考えないでおこう。
わからなくなった私はモントの方を見る。モントはわたしの視線に気がつくと、肯定するように頷く。
「……そうです」
「そうかそうか、いやぁ―、久しぶりの客人だなぁ……」
私が旅人だと答えると、町の人はしみじみといったふうに頷いた。
旅人がひさしぶりってどういうことなんだろう、何かあったのかな。
私が疑問に思ったことと同じことをモントも思ったようで、モントが町の人に質問をする。
「あの、旅人が久しぶりに来たとはどういうことでしょうか」
モントがそう質問すると、質問された町の人は驚いた様子でこう言った。
「……もしかして、この街のこと知らないできたの?」
なんか嫌な予感がする。機械人形の勘ってやつかな?
わたしは無意識のうちに、茉莉にもらった魔力貯蔵鉱石を強く握りしめる。
そしてわたしの勘は的中する。
「ここってさ、砂漠でしょ?」
町の人が言う。見てわかるじゃん。
「ここはね、三ヶ月に一度、大きな砂嵐がここを通るんだ」
――ん? 砂嵐ってあれだよね?
私の足が震えだす。脳が思考を無理矢理に停止させようと試みているが、無理だったらしい。もうちょっと頑張ってよ、私。
「つまり……?」
モントが先を促す。聞きたくないなぁ……。
「その砂嵐は、この街で一ヶ月間、吹き続けるんだ」
町の人は爽やかな笑顔でそういった。
なーにが、「吹き続けるんだ(キラッ)」だよ!!
もういや……。私が何をしたっていうの? 茉莉やモントがなにかやらかすわけないし……。
――あっ。雪姫がやらかしたんだ。
私は茉莉が教えてくれた消去法という方法で犯人と思われる人物を割り出す。
でも雪姫は何をやらかしたんだろう……。
「つまり、旅人さん達は、運悪く、砂嵐の吹く季節にやってきちゃったってわけ」
雪姫が慌てたようにモントに言う。
「モント、今ならまだ間に合うかもしれないし、この街はもう諦めて、次の町に行かない!?」
私も雪姫の意見には賛成だ。今のうちにここを出発しちゃえば砂嵐なんて気にしなくてもいいじゃん。最高だね雪姫! ナイスアイデアだよ!!
私は心の中で雪姫を褒める。
――が。
「無駄だよ。『大きい砂嵐』って言ったのを忘れちゃったのかい?」
町の人は雪姫にそういった。
……無駄?
だってまだ来てないんでしょ? じゃあ今のうちに出発すれば間に合いそうだけど……。
その時だった。
轟々と凄まじい音を立て、竜巻のようなものが近づいてくるのが確認できた。できてしまった。
「あーほら、ちょうどいいタイミングで砂嵐がやってきたよ」
なにがちょうどいいタイミングですか!
と、町の人の脳天をかち割ってやりたい衝動に駆られたが、隣で雪姫が私と同じようなことをしようとして、モントに捕まっていたのを見てわたしの心は落ち着いた。
改めて砂嵐を見る。
なるほど確かに大きいのがいやでもわかる。
この街など、軽々と飲み込んでしまえるくらいに大きな砂嵐だった。
これもう、砂嵐じゃなくて『竜巻』じゃん。と思ったが砂嵐の音がうるさすぎてわたしの小さな声なんて届かないと思ったので心の中に今思ったことを封印した。
「この砂嵐はね、半端な建物だと軽々と壊されちゃうから気をつけてね」
恐ろしいですね、砂嵐って呼ばれてるこの街の『竜巻』は。
私は溜め息を吐く。
この砂嵐、速度遅くない……?
それで一ヶ月もこの街にとどまるんだね。なんて迷惑なんだこの砂嵐。
モントは町の人が去ったあとしばらくの間、風の魔法で砂嵐を押し返そうとしていたが、自然の力には勝てず、諦めてしまった。
「魔力が枯渇しかけました。どうやらこの砂嵐、魔力を分散させてしまうようです」
私は心の中で再度叫ぶ。
なんて迷惑なんだこの砂嵐!!
このままここにいても、砂嵐の餌食になってしまうだけなので、私たちは大急ぎで旅館を探しに街を歩いた。ちなみに茉莉はモントにおんぶしてもらっている。
何時間歩いたかはわからないが、なんとか旅館を見つけて部屋を取ることができた。安くてよかったよ。
それにしても……旅館が一軒しか無いってどういうことなんですか。今までの街にはたくさんあったのに……。
――あ、ここ、なかなか旅人が来ないんだったね。
なぜだか申し訳ない気持ちになってきた。
私たちは旅館に荷物を預け、食料を買いに行く。
三人で話し合った結果、茉莉と雪姫が宿で留守番をすることに決まった。
私は雪姫に、
「絶対に何もやらかさないでね」
と圧をかけて注意しておいた。何かやらかすとしたら茉莉が居ない今、雪悲鳴外に居るわけがないからね。
私の圧にビビったのかそうでないかは定かではないが雪姫は、
「お。おう……わかったよ」
と返事をした。半ば脅しのようになってしまったが仕方ない。
雪姫の好きな果物を買ってきてあげよう。
雪姫だし、案外それで許してくれると思う。
茉莉は……何がいいのかな……? 茉莉は魔人や魔物の肉を食べていた記憶しか無いので食べ物の好みがわからない。どうしようかな……。
女の子だし、甘いものを買ってきてあげよう。
と、私は茉莉が美味しく買ってきたものを食べる姿を想像する。
うん、いいかも。
それから、以前から欲しいと言っていた、『穴あきグローブ』という指先に穴の空いた手袋を探してみるのもいいかもしれない。
茉莉、喜んでくれるかな、と期待して、茉莉の今の状態を思い出し、私は気を落としてしまう。
とにかく急がなきゃ。砂嵐がこっちまで来ちゃう。
面倒なことになるのはなんとなくだけど予想できるし、それだけは避けなければ……。
私は食料などの買い込みのために立ち上がる。
茉莉と雪姫はいつの間にか寝てしまっている。疲れていたのかな? と考えた。いつもはお姉ちゃんのようにしっかりしているのに、無防備に寝ている姿はとても可愛く感じられた。
――いや、いつも可愛いんだけどね。
「じゃあ行きましょうか、胡桃」
モントが立ち上がった私にいう。
「そうだね」
――そうだ、医者も探さなきゃな。
と適当に考え、
――砂嵐の中じゃ無理だよね……。
と思考をストップする。
そして私とモントは食料の調達に出かけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます