第34話 機械人形(妹)は買い出しに行く

「砂嵐、面倒ですよね」


 わたしの隣を歩くモントが言った。


「ん……ほんとだよ」


 私が茉莉に機械人形ゴーレムとして作られて一ヶ月くらい経つんだけど、未だに私はまともに話すことができない。

 本当はもっとハキハキと話したいんだけどね……。

 でも茉莉は、


「それが胡桃ちゃんのいいところだから大丈夫!!」


 って言ってくれたし……。

 どうすればいいのかわかんない。モントや雪姫に聞くと恐らく、


「自分のしたいようにすればいいじゃん。何を悩んでるの?」 


 と言ってきそうだ。……どうしよう。


 無限ループの闇に引きずり込まれそうだと感じた私は思考をストップさせる。

 なんでこう、都合のいいときだけまともにストップできるんだろうね。

 と私は思った。


 「胡桃、雪姫たちから何がほしいか聞きましたか?」


 モントが私に聞いてくる。

 モント、聞いてなかったんだね。私もだけど。

 聞いてはないけどほしいと思ってそうなやつならあるし、それを伝えればいっか。


「……茉莉は女の子だし……甘いものがいいよね……? 雪姫は、あの赤くて、丸い果物が、好きじゃなかったっけ……?」


 はぁ〜、疲れたぁ……。たったこれだけを喋るのに疲れるなんて……。いや違うか、緊張したんだ。

 なんでモントに対して緊張するのかは私自身もわからないんだよね。

 茉莉に対しても緊張しちゃうからどうにかしなきゃ……。とは思ってるんだけど、何もできない。

 今の私は、茉莉の言っていた『コミュ症』ってやつだよね。


 そのまま無言で歩くことだいたい10分。店に着いた。

 私は扉を押して通るとレジの方から声が聞こえてきた。


「いらっしゃーい」


 なんてやる気のない声掛けなんだ、と私は思ったがもちろん声には出さない。そんなことして喧嘩になっちゃうと面倒だし。……けっして、声をかけるのが怖かったから、なんてしょうもない理由ではないです。断じて違います。


 私は雪姫の好きな果物を探しに店の奥へ行く。

 モントには茉莉の好きそうな甘いものを探してもらっている。

 私はまだ一ヶ月しか生きてないから甘いものなんて知らないんだよね……。

 

 歩き回ること3分、私は目当ての果物らしきものを発見した。

 聞いてた色と少し違って薄いピンク色なんだけどこれでいいのかな。

 私は周りを見回して、赤い果物を探してみたが見当たらない。


 これ買って実は違ったとか言われちゃったらどうしよう……。でもまぁ雪姫だし、食べてくれるよね。

 そんな軽い気持ちで手に取ったピンク色の果物をかごに放り込む。

 そしてちょうどモントがやってきた。手には黄色の三角の立体的な果物と調味料らしきものを持っている。

 あの黄色の果物、珍しい形だけどなんだか美味しそうだなぁ……。


「胡桃、これが茉莉が好きだと思われる甘い果物ですよ。三角錐という形で覚えやすいと思います」


 なるほど、三角錐っていう形なんだね。勉強になったよ。


「この果物は主に、酸味の強い料理に使われます」


 へぇ〜、ほんとに勉強になるなぁ……。モント先生すごいよ。


 こんな感じで雑談(と言ってもモントに喋らせてばかりだったんだけど)をしながらレジに果物と調味料を持っていく。


「全部で300銀貨だよ」


 レジにどっかりと座っていたおじさんが言う。

 怖いという私にとっては無駄な感情によって私は声が出せなかった。

 モントは、


「少しずつ慣れていけば大丈夫ですよ」


 と言ってくれた。そして懐から茉莉の作った財布を取り出し、銀貨300枚ちょうどをおじさんに渡す。

 おじさんはニッコリ微笑んで、


「はいはい、ちょうどねぇ……。オッケー、ありがとうございましたー」


 と言って買ったものを手渡してくれた。

 意外と怖くないじゃん。

 もしかして、怖いって思ってたのって私だけ……?


 ……はぁ。緊張して、怖い思いして損したよ。

 これが祭りの言っていた『ひとりずもう』ってやつかな? ちょっと違う気もするけど。


 そして私はふと、以前迷宮で茉莉が穴開きグローブがほしいと言っていたことを思い出した。


「……モント、茉莉がね、ちょっと前に、『穴あきグローブ』が、ほしいって、言ってた」


 私がそう言うと、モントは少し考え、こういった。


「防具屋にでも行ってみましょうか。いいものが見つかるかもしれませんし」


 そう言ってモントは歩く方向を変えた。私もあとに続く。


 二分ほどで防具屋に到着した。意外と近くにあったんだね。


 私とモントは店に入っていく。


 店に入るといきなり、ガッチガチのごっつい鎧が私たちを出迎える。

 心臓止まるかと思った。


 剣や盾、杖なんかがガラスケースの中に飾ってある。思わず私は剣を眺めてしまう。

 茉莉の作ってくれた『紫陽花』に比べると全然だね。

 と、適当に評価をしていると、店員らしき人が近づいてきて声を掛けられた。


「いらっしゃい、何か探してるのかな?」


 そう言って声を掛けてきたのはそばかすのあるお姉さん。

 私は勇気をだして質問した。


「あ、穴あきグローブって……どこに、ありますか……?」


 なんとか喋ることができた。良かった。やっぱり女の人だと話しやすいね

 安心してモントの方を向くと、モントはゆっくりと頷いてくれた。


「ああ、穴開きグローブね? 奥の方にあるしわかりづらいだろうから案内するよ」


 そう言ってお姉さんは歩き出す。

 助かります。

 私は心の中でお礼を言う。


「お嬢ちゃん、剣士なんじゃないの? グローブなんて持っててどうするんだい。今時いまどきの魔術師でもグローブを付けてる人はほとんどいないってのに」


 お姉さんは珍しそうにそういった。

 ん? 魔術師はグローブしないの? 他の冒険者さんをみたことがないから知らなかった。


「どうしてあまり使われて無いんですか?」


 モントが質問する。

 私も聞きたかったけどタイミングを測れなかったんだよね、ありがとうモント。


「最近は魔法石や魔力貯蔵鉱石など、魔法の発動を助けてくれる鉱石がたくさん魔人や魔物から取れますからね。そういうわけで、グローブは役に立たなくなってしまったんですよ。グローブは魔法石やその他いろんな鉱石との相性が悪いですからね」


 とお姉さんは丁寧に説明してくれた。


「でもね、一応その問題は解決できたんだよね。でもやっぱりさ、その問題を解決して研究者達は新たな問題に気づいたんだ」


 なんとなく予想はついた。


「そう、コストだよ」


 お姉さんは言った。

 やっぱり……。グローブの素材や、魔法石との釣り合いを良い感じにしようとした結果、とんでもないほど莫大なコストがかかることがわかったんだろう。


 私が思ったこととほぼ同じようなことをお姉さんは言った。


「グローブの素材になる獣の減少や、グローブに刻む魔法陣の手間、魔法石やその他の鉱石との釣り合いを研究した結果、恐ろしいほど莫大なコストが掛かってしまったんだ」


 なるほどねぇ……。

 モントも驚いたような顔をしていた。知らなかったのかな。


「こちらがグローブになります。ごゆっくりお選びください」


「ありがとう」


 お礼の言葉は意外と簡単に出てきた。

 この調子で脱、コミュ症を果たしたい。できるかな。まずは頑張らなきゃ。


 そんなことを考え、私は茉莉の好きそうなグローブはないか探し始める。

 茉莉の好きな色は赤系統の色だったはず。

 前回の町ではあかのロングコートを買ってたしね。

 茉莉、そのうち髪染めたりしそうだよね……。心が戻ってくればだけど。


 そしてついに見つけた。赤と黒の2色の穴開きグローブ。

 茉莉によると、赤と黒って中二心をくすぶられてヤバイらしいし、これがいいんだろうなぁ……。中二心が何なのかは知らないんだけど。


 ついでに私はモントが集めていた魔法石を換金しておく。お金がなくなりかけてたからね。

 もちろんモントが私に頼んだからね? 勝手に換金するわけないし。


 ということで換金してきた。

 さっきのそばかすのお姉さんがやってくれたから助かった。

 

「ありがとうございました〜」


 お姉さんがそう言って頭を下げる。



 私たちは店を出て気づいた。


「胡桃、わたしの眼には、砂嵐が視えているのですが、これ本当に砂嵐ですよね?」


 モントが私に聞いてくる。

 何言ってるの、モント。あれは何処からどうみても砂嵐じゃん――って大きい!?


 私は思わずゆっくりと、だが確実に近づいてきている砂嵐を凝視してしまう。

 大きいなんて言葉が小さく見えるほどその砂嵐は大きかった。意味分かんないねごめん。


 ――その時だった。


 町の人の悲鳴が聞こえた気がした。


「――っ!」


「胡桃!?」


 私は思わず走りだしていた。荷物はモントのそばに置いたよ。

 砂嵐が近づいてきているのはわかっていた。


 でもなぜか、見てみぬふりをするのはいけないと感じたんだ。


 何一つ根拠はないけど、何か大切なものが消える気がしたんだ。


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