第22話 元引きこもりはGには勝てない
私、
あの階層から私達はすでに10ほど下に降りている。何故そんなに早いのかと言うと、――あまり言いたくはないけど――魔法で破壊しちゃったんだ。
あれは、ボーナスステージを出た私達がのんびり歩いていたときのこと……。
「茉莉ー、ここの階層は何も居なくていいね〜。
「雪姫、ちょ、フラグ――」
――キシャアァァァァァアアア!!
雪姫が立てたフラグに反応したかのように、とてつもなく気持ちの悪い鳴き声みたいなのが聞こえてきたんだ。
次の瞬間、何処かから流れてきた異臭に私は鼻を抑えた。
横を見ると、
モントは少し余裕がありそうだ。
「……雪姫が、フラグ、立てる、からっ……もうっ」
胡桃ちゃんが雪姫に怒っている。フラグの意味わかってて使ってるのかな……?
――キシャアァァァァァアアア!!
さっきの気持ちの悪い鳴き声がまた聞こえた。さっきよりも近づいてる気がする……。気のせいであってほしいな……あはははは。
「……どうしようか、茉莉」
雪姫が私に聞いた。
どうするも何も、何もできないんじゃないかな……。何をすればいいんだ……。
「茉莉、魔法で牽制してみてはどうでしょう」
モントが私に言う。いいかもね。焼き払う?
「私でいいならやろうか?」
別に断る理由も無いしね。断ろうとも思わないし。
「ほんと!? お願い、茉莉!」
「はいはい、任されました」
うーん、何を撃とうか……。
少し考えると私はある結論に至った。
――よし、爆炎を撃とう。ストレス発散じゃあ!
そんな感じの軽いノリだった。
「『――火の精霊、風の精霊、破壊の精霊たちよ、我に全てを飲み込む力を与えよ――!!』」
少しだけ弱めに……。
「『爆炎・一式』!!」
私は魔法を発動した。軽いノリで爆炎を撃った。
――次の瞬間、床が崩壊し、私達のいた階層は崩壊した。
モントと胡桃ちゃんが慌てて魔力結界を張る。
そしてわたしの身体は落下を始めた。
10秒ほどすると、私達は地面に着地した。あ、私が着地したんじゃないよ? 流石に私でも足が
モントが重力魔法で、ゆっくりおろしてくれたんだよ。
――あ、これあかんやつや……。
わたしは思わず関西弁でそんなことを考えてしまうほどに思考が止まってしまっていた。
着地すると同時に私はあるものを見て、気を失った。
そこにはなんと……。
――ゴキブリ(みたいな)魔物が私達を囲むように、たくさん集まっていた。
そりゃ気も失いますよ、ええ。私が気を失う直前に雪姫はすでに気を失っていたから、このときは、モントと胡桃ちゃんが私達を背負って切り抜けたんだろう。
私が気を取り戻したのは、半日後だった。
日本にも居るくせになんでここにも居るんだよおい。どんだけ生命力強いんだよ……。繁殖力か? イヤそんなことはどうでもいい。何処の世界ならお前はいないんだよ。
――で最初に戻る。
なんと、私が気を失っている間にモントたちが、8階層ほど降りたらしい。かなり頑張ってくれたよね。あとでお礼言わなきゃ。
私よりも早く意識を取り戻していた雪姫によると、「モントがね、一回『爆炎・一式』を撃っただけで、この階層に来たんだよー」とのこと。
モント強すぎませんか……。モントのほうが私よりも英雄じゃん。
「……でも、ね、この階層、広すぎて……次の階段、見つからなかった……」
胡桃ちゃんが残念といった感じでそう言った。
なんと、もうすでにこの階層に来て4時間以上経過しているらしい。
広すぎるよ。縦にも横にも大きいとか、何考えてこの
――こんなに広いとやる気なんて湧いてこないので、とりあえず私は眠ることにした。
なーに、時間はたっぷりある(はずだ)。ゆっくり行けばいいじゃないか。
ということで今日はここで休むことにした。
休むことも大事だからね!
私が眼を瞑る直前、モントがこちらを見ていた気がしたが何だったのだろうか……。気のせいだと思いたい。
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――マズい、茉莉が気を失った。
それは絶対にあのゴキブリのせいだ。許さない。
そんなことをわたしは考えたが、気を失いかけたのは私も同じなので声には出さない。第一、茉莉たちの中のわたしが崩壊してしまう。きっと混乱するだろう。
本当はもっと好戦的な性格のこと。
本当はもっと言葉遣いが悪いこと。
昔は私も人間だったこと。
昔は私も転移者だったこと。
このことを知ったら茉莉はなんて言うだろうか。
わたしのことを罵るだろうか。わたしのことを嘲るだろうか。わたしのことを捨てるのだろうか――。
……おっと、わたしとしたことが……。たかがゴキブリ。G。今のわたしにとっては敵ですら無い。仲間でもないのだけれど……。
わたしはあの日とは違う。
仲間を失ったあの日から、わたしは努力した。仲間を失わないように、捨てられないように……。
ゴキブリ如きに全滅など論外だ。
強い意思でわたしは意識を保った。
そうしてわたしは、爆炎・一式を撃った。もっと強い魔法もあった。もっと殲滅性に優れた魔法もあった。
『――火の精霊、風の精霊、破壊の精霊たちよ、我に全てを飲み込む力を与えよ――!!』
――しかし、迷宮が崩れることは避けたかった。
不思議だ。何故こんなことを思ったのかわたしにもわからない。
「『爆炎・一式』!!」
わたしの魔法が、大量のゴキブリどもに襲いかかった。
ゴキブリは悲鳴すら上げさせてもらえずに、塵となっていく。
――異臭が凄い。
わたしがそう思った。
――次の瞬間、わたしのいた階層の床が抜け落ちた。
それに伴い、わたしの身体は重力に逆らえずに落下を始める。
わたしは慌てて茉莉を抱えた。
雪姫は胡桃が抱えてくれた。
わたしは急いで重力魔法を発動した。
それと同時に、落下速度が落ちる。
何分かすると、地面に着いた。
軽く7階層ほど壊してしまっただろう……。
「あーあ、モントやっちゃったねぇ〜」
いつの間にか起きていた雪姫がわたしに言う。
「ちょっと力加減を間違えてしまいました」
そう言って私はおどけてみせる。
「……モント、すごい顔、してる」
胡桃がわたしに言う。
自分ではなんとなくしかわからないのですが、きっと怖い顔だったのでしょう。でなきゃ胡桃はわたしに怯えませんから。怯えられたこともないのですが……。
昔のことを思い出すとどうしても表情が歪んでしまいます。
気をつけなければ……。
「ごめんなさい、胡桃」
「ん……いいよ」
わたしが笑顔を向けると、胡桃も笑顔をこちらに向けてくれた。
その後、わたしは茉莉を背負って雪姫と胡桃で、半日ほど歩き回った。が、しかし、次の階層への階段は見つからなかった。
仕方が無いのでわたしたちは休憩を取った。
30分ほどして茉莉が意識を取り戻した。
「なーに、時間はたっぷりある(はずだ)。ゆっくり行けばいいじゃないか」
そう言って茉莉は寝始めた。
独り言のつもりでしょうけれども、ダダ漏れですよ……。
兎に角、今日は休もうってことでしょう。
そう考えた私は、雪姫と胡桃にそのことを伝えた。
「雪姫、胡桃、茉莉が二度寝を始めたので今日は恐らく終わりです」
……茉莉、ゴキブリで気を失うなんて、あなたも普通の女の子なんですね……。安心しました。最近は「帰りたい」って言わなくなりましたからね。
むしろ、「新しい魔法を試したい!」なんて言ってますし大丈夫でしょうか。
そんなことを考えながらわたしは眠りについた。
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