第23話 元引きこもりは迷宮を攻略する①
朝になった。起きたくない。
わたしの意識はすでに覚醒してしまっている。今は……眼を瞑っているだけ、そう、寝てなどいない。
「
雪姫の声がする。無視するのも良さそうだが、私は重いまぶたを上げ、雪姫に返事をする。無視は流石に酷いからね。
「おはよう、雪姫」
私は昨日何をしてたんだっけ……。
――――っ!?
思い出そうとして、背筋に寒気が走る。
――思い出さないほうがいい。
直感的にそう思った。
私は昨日、一つの階層をクリアして、二度寝しただけ。二度寝しただ――け……? ――二度寝!?
――やっぱり何かがおかしい。
必死に何かを思い出そうとする私と、
知りたいけど知りたくない。
なんて面倒なんだ、
いつの間にか雪姫が朝食を私のところに運んでくれていた。
私は、これからのことを考え、一旦、思い出そうとしたことを考えていたことを忘れる。
もうそろそろこの迷宮も最下層にたどり着けるはず。
なにせ、私がこの迷宮に迷い込んでから、かれこれ50階は降りている。
そろそろ最下層に着いてくれないと、精神的に辛くなってくる。まぁその時はその時なんだけどね。
ん、このお肉美味しい。雪姫お肉役の上手いんだね。
私は朝食を食べ終えると、荷物の整理を始める。
モントは
胡桃ちゃんは雪姫と交代で
「じゃあ行こうか」
今日は次の階層への階段を探すところからだ。
それと、気になることが……。
「ねえモント、なんで天井に大きく穴が開いてるの?」
とりあえずモントに聞いてみればわかると思って聞いてみた。モントは物知りだからね。
するとモントは、
「わかりません……何があったんでしょうね」
と言って、また歩き始めた。
絶対わかってるでしょ……。
「茉莉ー、モントはね、ふぐっ……」
雪姫が話し始めたのをモントが邪魔する。
やっぱり何かやらかしたんだ。
となると考えられるのは、モントが何か魔法を使用したこと。
まあモントだしね、魔法を使ったらそうなっちゃうよね。
私はモントに助け舟を出してあげた。
「まあいいじゃん雪姫。それより早くここの迷宮から出ようよ」
「そうだね、茉莉。早く行こうよ」
なんとかなった……かな?
「茉莉、ありがとう」
モントが私に小声でそういった。
「全然いいよ、気にしないで」
モントにそう声をかけ、私達は迷宮を歩き始めた。
〜三時間後〜
「ねえ茉莉〜、階段無いねぇ〜、雪姫もう疲れたよ」
雪姫がそう言って座り込んでしまった。
私達は、長い時間歩き続け、疲れていた。
――その時だ。
突然、視界が揺らぎ始めた。否、いきなり空間が歪み始めたのだ。
「茉莉、『空間喰い』です!」
空間喰い……? 聞いた感じだと普通に強そうだけど……。
でもなぜこのタイミングで……?
「天災級の魔物です! 逃げましょう!」
と言っても何処にどう逃げればいいのかも、そもそも走れないんですが……。なにせ空間が歪んでいて、しかも、その『空間喰い』とやらの姿が見えないもので……。
「モント、走れない! 空間を曲げられちゃってるよ!」
雪姫が叫ぶ。
「……んっ」
胡桃ちゃんが雪姫を背負った。
「モント、こいつには勝てないの?」
「今のわたしたちでは無理です!」
モントが叫ぶ。
「――でもっ」
――倒せるかもしれない。
そう続けようとしたわたしの言葉はモントに遮られた。
「わかっています、ここを攻略できないと迷宮は攻略できません。しかし、それは命がある前提の話でしょう?」
たしかにそのとおりだ。
「……しょうがない」
引けるときに引いておかないとあとで引けなくなって困るのは自分たちだ。
「雪姫、胡桃ちゃん、撤退! モントは時間を稼いで!」
わたしの声を聞いて、雪姫と胡桃ちゃんが走り出す。
モントは何やら大きな結界を張り始めた。魔力結界と違って白い光を放っている。
モントが
――モントさん……? 余裕ありますよね……。
「モント、先に行ってるからね!」
そういって私は元に戻りかけている空間につまずかないように、注意して走り出す。
「任せてください」
その言葉を聞いて、私は雪姫たちが走った方へと向かった。
「――はぁ〜〜〜〜怖かったぁぁああ〜〜〜」
雪姫がそう言って溜め息を吐いた。
そんなに怖いのかなぁ……。
「どんなふうに怖いの? さっきの『空間喰い』って」
雪姫に聞いてみる。
雪姫は空間喰いの特徴、外見、その他さまざまなことに付いて教えてくれた。
空間喰いは、竜の姿をしている魔物らしい。と言っても、ファンタジーモノでよく聞く乱暴な性格ではないとのこと。似ているのは外見だけらしい。稀にではあるが、乱暴な性格の空間喰いも、居るには居るらしい……。
そのため、縄張りに入ったりしなければ、基本的に何もしてこないらしいので、今回は恐らく、縄張りに踏み込んだせいだと私は考えた。
次に戦闘時の特徴。
戦闘時には背中の大きな翼で空を飛び回り、固有スキル、
どんな感じで攻撃してくるのかは、実際に見てみないとわからないだろうが、警戒しておくだけでも随分変わるだろう。
そして空間喰いと呼ばれるようになった理由。
空間喰いは姿を表すとき、攻撃を行うとき、防御をするとき、兎に角行動するたびに、空間を歪ませるという。ただ、空間喰い自身も歪ませたくてやっているわけでは無く、無意識なのだと雪姫は教えてくれた。いや、意識できるならやめようぜ、空間喰いさん……。
そして私に見えなかった理由。これは単純だった。
近すぎてわからなかったのだ。
大きすぎませんかね……? いや、
「はぁ〜〜〜」
無意識のうちに溜め息が出てしまった。
――だめだ、まだこの世界どころか生まれてから一回も痛い目に――それこそ命を落とすような危機敵状況に――あったことがないからイメージが湧かない……。
「危なかったですね」
そう言いながら、モントが戻ってきた。
「空間喰いのことは誰かに聞きましたか?」
「うん、雪姫にざっくりとだけど聞いたよ」
雪姫が胸を張っている。偉い偉い。
モントが話を再開する。
「実はですね、茉莉……。あの空間喰い……色々とおかしかったんです……」
おかしい? あれが普通じゃないの……? あれって言っても私には見えなかったんだけども。見てみたい気持ちとみたくない気持ちが私の中でぶつかり合う。
「サイズがですね、通常の約3倍、魔力保有量が約10倍でした」
――ボスじゃん。
確信した。天災級でしょ? じゃあここに居ても何もおかしくないわけで……?
「ボスだよね、あの空間喰い」
単刀直入に質問した。
モントは私の眼をしっかりと見つめて、
「間違いないと思います」
ハッキリとそう言い切った。
雪姫と胡桃ちゃんの顔が明るくなる。
――やっとここから出られるかもしれない。
そう考えるとわたしの顔が自然と笑顔になるのがわかる。
モントもわたしにつられて笑顔になる。
「作戦会議をしましょう」
モントが言った。
「賛成!」「ん……賛成」
雪姫と胡桃ちゃんが賛成する。
「私も」
私も賛成した。
兎に角、今日はもう遅いので、明日一日まるごと使って作戦会議と特訓、そして明後日、空間喰いと対峙するということに決まった。
――ワクワクしてきた。
私の心はいつの間にかそんな感情で満たされていた。
――特訓って何するの……? まあいいか、寝よう。
「おやすみ」
「茉莉、おやすみ〜」「……おやすみ」
「おやすみなさい」
しばらくは興奮や期待のせいか寝れなかったが、気づいたら私は眠っていた。
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