第16話 元引きこもりは色々考える

 私、三雲茉莉みくもまつりが2つの階層を消し飛ばして数日が経った。

 今現在私は、あのアホの魔人族の男と対峙した階層から、4つほど降りたところを歩いている。

 モントは最下層のちょっと上に飛ばされて、私の居るところまで登ってきたらしい。モントにあとどのくらいでモントが飛ばされた階層につくのか尋ねると、


「次ですよ、茉莉」


 という言葉が返ってきた。

 もうちょっとかぁ……アランはどうしてるかなぁ。私のことは忘れてそうだなぁ……。ほとんど話さなかったし。

 聖教教会のクリフたちも私のことはどうせ、『事故死』みたいな適当な死に方で処理されてるんだろうなぁ。そう考えると憂鬱になってきた。

 アランとはぐれてから転移罠で飛ばされて、そこからさらに30階層は下りている。

 仲間もできた。雪姫ゆき胡桃くるみちゃん、そしてモント。

 何処にいても一人だった私はもう居ない。人を信用することができるようになった。コミュニケーションもしっかり取れる、守りたいものも有る。守りたいって思えるってことは私は力が有る。


「私、頑張ったんだなぁ……」


 もう随分日の光を浴びてないけど、そんなのどうでもいい。日本でもめったに外に出なかったんだから。

 何処に居ても一人だった元の世界より、大切な仲間が居るこの世界のほうが私は好きだ。


 ……あれ? 私……この世界のこと好き……? 来たばっかりのときはあんなに帰りたい帰りたいって行ってたのに……? そもそも返って何をしようとしていたの……? 


 ――だめ。これ以上考えたらだめ。おかしくなる。


 私は首を降って思考を無理やり停止させた。


「茉莉ー。今日は何するのー?」


 雪姫がそんなことを聞いてくる。


「何って、迷宮の最下層を目指すんだよ?」


「じゃあ、迷宮から出たら何するのー?」


「――えっ?」


 ここから……出たあと……? 考えもしなかった。家に帰るってことばっかり考えてたくせに、そのための方法をさがさないなんて馬鹿なのかな? 


「茉莉ー、考えてなかったのー?」


 ジト目で雪姫がこっちを見てくる。うん、可愛い。120点。


「あはは……ごめんごめん。ここから出るのに必死で考えてなかったや」


 つまり現実逃避である。


「っま、別にいいんだけどねー。そういうことも茉莉と一緒に考えられるなら雪姫は嬉しいし! 茉莉のことをもっと知れるかもしれないし」


 ……なんて嬉しいんだろう。こんなにも嬉しい気持ちになったのは初めてかもしれない。


「ありがとう、雪姫」


 そして私達はまた迷宮を歩き始める。




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 おかしい。クリフは頭を抱えて唸る。

 何故ユニークスキルを持っている英雄が召喚されないんだ?

 過去に一人だけユニークスキルを持っていない英雄が居たが、クリフはもう忘れてしまっている。なぜならもう、「過去に一人」ではないからだ。

 召喚を行うたびに改善点を洗い出し、確実に改善している。

 足りないものは無いはずだ。なのに何故……?


 これまでに召喚した英雄は全く働かない、赤坂の言っていた『ニート』そのものではないか。

 まともに生きているのは、私が名前を覚えているだけでも二人。

 

 赤坂とアランだけだ。

 赤坂は司書、アランは学生として働いている。

 赤坂は戦闘向きのスキルではないために司書として働いている。

 アランは戦闘向きのスキルを所持していた。しかし、まだ人間として未熟なところがあり、英雄になるために足りない部分を補うために学園に通わせている。


 茉莉はもう死んでしまっている。迷宮で仲間とはぐれて事故死と片付けられた。

 クラスメイトは皆口を揃えて「暗い子」や「地味な子」、「でも人気な子」と言っていた。

 しかしアランは、「人一倍頑張っていた」と評した。

 そんな人間が死んでしまっても良かったのか。いやよくない。そう思ったからこそ、アランは一人で何度も迷宮に潜っていたのだろう。最近はもう行っていないようだが……。きっとアランも諦めたのだろう。


 さて、このままユニークスキル、「魔力保有量」、「魔力抵抗値」、「身体能力」の4つに優れた英雄の召喚に成功しないと、我々人間族の未来は無いだろう。


「どうしたものか……」


 なんとなく声に出してみるが意味はない。

 せめて茉莉が生きていれば……。そう思うクリフだったが、思っただけでは過去は変えられない。


「――はぁ……」


 クリフのため息が、夜の闇にとけ、消えた。



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「ねぇモント、なんで人間族と魔人族は争っているの?」


 なんとなく気になった。


「茉莉、知らなかったのですか?」


「うん、この世界の名前とか、人口とか、常識もわからないよ」


 モントの顔が引きつる。雪姫と胡桃ちゃんはスースーと寝息を立てて寝ている。


「簡単にでいいなら説明しましょうか、茉莉。長く話すのは得意ではないので……」


 そう言ってモントはこの世界や外の国、人口、お金の単位など、色々教えてくれた。

 今私が居る迷宮を管理している国が「クレーン」、そして聖教教会のあたりは、何処の国にも所属していないらしい。

 そしてクレーンの人口。なんと500万人ちょっとらしい。意外と少ないことがわかった。というかピンチじゃん。そりゃムキになって英雄召喚しだすのもわかるわ。クリフたちも必死なんだなぁと他人事のように私は考えた。

 そして魔人族の人口。これは予測だが、軽く5億を超えているらしい。これだけの数が居てなんで攻めてこないか不思議だよ。やっぱりアホなのが多いのかな。と私は勝手に考える。

 そして人間族の領土。まぁ土地だね。

 1:9で別れているとのこと。もちろん1が人間族の土地。


「無理ゲーじゃない?」


 思わず声に出して言ってしまう。

 するとモントは笑顔で、


「ええ、茉莉の言うとおり無理ゲーです」


 と、とてもいい笑顔で返す。


「茉莉、まさか一人でもどうにかなるって考えてませんでしたか?」


「……ソンナコトナイヨ」


「バレバレですよ、茉莉。それと、嘘はつかないほうがいいですよ。嘘をつく相手はしっかり選ばないと命を落とすことも有るのですから。」


 なんでモントには嘘がバレるんだろう。不思議だよ。

 ていうか、嘘付いて命落とすとか怖いし、正直に生きよう。もともと正直に生きてたけど。異論? 認めないです。はい。


「わかった、気をつけるよ。おやすみ、モント」


「おやすみなさい、茉莉」


 私は明日に備えて体力を回復させることに専念しようと思う。

 次の階層への階段は見つけてある。

 明日はモントの飛ばされた階層だ。モントはそれほど強い魔人や魔物は居ないと言っていたが油断はいけない。


 この世界はゲームなんかと全く違うのだから。

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