第17話 中級精霊は杖を持つ

 おはよう。私、三雲茉莉みくもまつり迷宮ダンジョンでアランたちとはぐれて……一ヶ月位が過ぎた。なんでそんなに適当なんだって? わからないんだよ。途中でわかんなくなっちゃってさ。

 まだ朝は早い。機械人形ゴーレム雪姫ゆき胡桃くるみちゃんは静かに寝息を立てて寝ている。一度見ちゃうと目が離せなくなっちゃうくらいに可愛い。機械人形っていうのは睡眠は本来必要ないらしい。まぁ機械だもんね。じゃあなんで睡眠をしてるの? って聞いたら雪姫が、


「茉莉と一緒に寝るため! うへへへ……」


 と怪しい顔で言っていた。心の中におっさん飼ってるってどんな状況だよ。可愛いから許せるけど。

 他になにが必要なの? って聞いたら、胡桃ちゃんが、


「……魔力が必要。機械人形は、体外の魔力を取り込んでエネルギーに変換して、それで活動しているの」


 という答えが返ってきた。胡桃ちゃんが珍しく長く話していて半分くらい聞いてなかったので、雪姫に聞いたのは内緒。

 機械人形便利だなぁ……って私は思ったよ。人間もそんな感じで出来ればいいのになって思った。実際そうなると空腹感半端なさそうだけど……。


 モントは、私の『夕焼け』を使って魔力操作の練習をしている。私の魔力操作はユニークスキルだけど、中級以上の精霊なら、誰にでも使えるという。よく思うんだけど、精霊強すぎない? 精霊も魔人族と対立してるらしいし、精霊が魔人族を滅ぼせばいいのに……。モントなら一人でも8000万人くらい狩れそうなんだけどなぁ……。上級魔法も使えるみたいだし。

 モントが夕焼けを使っている間は、私が『紫陽花あじさい』を使っている。普段は力の有る雪姫と胡桃ちゃんが交代で使っているが、二人が眠っている朝方は私が振り回している。モントは杖がなくても十分に強いが、杖を持って戦ったらどうなるんだろうか。4階層ほど消してしまいそうで怖い。壊すだけでも凄いんだ。中級精霊って普通は攻撃手段を持っていないからね。

 

 ――そうだ、モントの杖を作ってあげよう。そしてもっと強くなってもらおう。


 何故こんなバカみたいな発想に至ったのかは自分でも理解できないです。はい。多分、モントの全力を私は見たかったんだろう。

 モントに「杖作ろうか?」って尋ねると、モントは顔を輝かせて、


「是非お願いします!」


 って返してくれた。

 よし、制作するか。

 モントは、魔力の流れさえ良ければ、あとは注文はありません。と言っていた。大雑把だけど、「好きに作って」と言われるよりも楽だ。

 色は明るい緑でいいだろう。緑はモントに似合うし。

 大きさは夕焼けと同じくらい。翼をイメージして装飾を付けていく。そして先端には薄い蒼色の水晶のような魔法石をはめ込んだ。魔法石が有るのと無いのとでは、魔力の扱いやすさが桁違いに変わるのだとか……。私の夕焼けは、魔力がほとんど抵抗なく流れて、使っていて気持ちいいらしい。私は夕焼けしか使ったことがないからわかんないけど。


 そんなことを考えていると、モントの杖が出来上がった特徴はさっき説明したのと同じように作ってある。

 早速モントに使ってもらおうかな。


「茉莉、どうしたん――!?」


 モントが絶句している。どうしたんだろう……。なにかまずいことでも――。


「――ふぅ。少し驚きました。昔使っていた杖にとても似ていたもので……それに、【魔素操作】の固有スキルまでこの杖の能力として付属させていたなんて……」

 

 良かった、マズいことは何もなさそうだ。

 魔素操作……? 杖の固有スキルみたいなやつか。【魔力操作】の下位互換だろう。

 それよりも……。


「……昔?」


 気になる。モントの過去を知りたい。


「いえ、こちらの話です。それより、茉莉、こんなに素晴らしいものを作れるんですね」


 そう言ってモントは杖に魔力を流し始めている。


「凄いですね……抵抗なく魔力が流れていくのが手に取るようにわかります。茉莉、この杖の名前は決めたのですか? もしよければ私が付けても構いませんか?」


 答えはイエス! もとよりそのつもりだったからね。


「もちろんだよモント。かっこいいの付けてあげてよ!」


「ありがとうございます。……えーっとぉ……あっ」


 何か思いついたっぽい。どんな名前かな……すごく気になる。


「『智慧之杖ウィズダム』なんてどうでしょうか」


「……」


「ま、茉莉……?」


「かっこいいい〜〜〜〜〜!!!!!!!」


「そうですか、茉莉も気に入ってくれてよかったです。よろしくなのです、智慧之杖ウィズダム


 智慧之杖が呼応するようにぼんやりと薄く発光する。

 かっこよすぎでしょ……名前。


 その後二人で魔力操作の練習をしていると、あくびをしながら雪姫と胡桃ちゃんが起きてきた。


「おはよぉモント、茉莉ぃ〜、相変わらず起きるの早いねぇ〜」


「雪姫が寝過ぎなのよ。早く準備して、次の階層に行くからさ」


「「(……)はぁーい」」


 いつもどおりのだらしない返事。もう慣れた。あの二人を見ると何故かお姉ちゃんになった気分になってくる。

 お姉ちゃんっていうのもつかれるんだね……。

 そんなことを考えながら私は雪姫達が準備をするのをぼんやりと眺めていると、モントが、


「やっぱり茉莉も感じますか」


 主語が抜けてるよ、モント。主語は会話するときにほぼ必ず必要なんだ。


「何を?」


「あの二人、妹みたいですよね。可愛いです」


 モントも私と同じことを考えていたらしい。

 中級精霊でもやっぱりそういうのって感じることも有るんだね。


 こちらに話しかけながらもモントは智慧之杖で魔力操作の鍛錬に励んでいる。


「おまたせー!」


 雪姫と胡桃ちゃんがこちらに歩いてくる。


「じゃぁ行こうか、モント、行くよ!」


「わかりました……オッケーです。では行きましょう」


 モントはそう言って智慧之杖を虚空に放り投げた。智慧之杖が周辺から集められた光に囲まれ虚空へと消えた。


「空間魔法ですよ。そのうち茉莉にも教えてあげます」


 空間魔法て……モントさんや、あなたはどれだけ私を驚かせば気が済むのですかな?

 ……ん? 最後教えるって……。まぁ今は無理ってことは頼んでも時間の無駄だ。

 それにここは一応迷宮ダンジョンだ。すすめるときに進んでおいたほうがいいだろう。多分。もちろん罠や魔人、魔物にも注意して進むけどね。


「出発進行!!」


「「(……)おー!」」


 私達は次の階層へと足を踏み入れた。




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 智慧之杖ウィズダム(杖):固有スキル:【魔素操作まそそうさ

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