第14話 黒天VS蒼炎①
「こっちは準備オーケーだぜ襲撃者。さぁ、殺り合おうか?」
蒼炎と対峙する黒天の瞳は、黒目の部分が血のように真紅に染まっていた。
制御下に置いた状態で発動した黒天の心歪能力は、両手に装着された篭手となって発現している。
雰囲気が変わった黒天を、蒼炎は舌打ちをして睨みつけた。
「てめぇ、変身型の能力者かよ。めんどくせぇなぁ。おぃ!」
「やっぱりお前、見た目ほどバカじゃないよな」
特定条件下でのみ能力が発現する変身型の能力者。制約が多い分、強力な能力を持っている事が多いタイプに、変身前に倒せなかった事を内心悔やむ蒼炎。
相対する黒天は、強気な態度を見せながらも内心では冷や汗を流していた。
(能力の発動率は十パーセントってところか……強すぎても制御できねえが、あいつを倒すには足りないだろうな)
理屈をこねくり回して能力を発動させた黒天だが、差し迫って命の危機がない状態では十全に能力を発揮することはできていなかった。
それでも生身で蒼炎と戦えば一瞬で消し炭になりかねないので、事前に少しでも能力を発現するのは必須である。
「その
「……それがどうした」
「あ゛あ゛?」
「おしゃべりはお終いじゃなかったのか?御託並べてねえでかかってこい」
粗野な見た目や言動に似合わず、蒼炎が会話から情報を引きだす事を知った黒天は、蒼炎のペースに乗らないように挑発して身構える。
剣を持っている間はズブの素人にしか見えなかったのに、素手で構えた途端に独特の風格が現れ、蒼炎はやりずらさを感じる。それでもこのままお見合いを続けるわけにはいかないので黒天へと足を進めた。
「はっ!ほざけ雑魚が。てめぇみたいな防御系能力者は、逃げ腰、弱腰、へっぴり腰と相場が決まってんだよぉ!」
「少なくともへっぴり腰は違わないか?」
手にした短刀を炎に戻し再び槍を作った蒼炎が、勢いをつけて黒天へと穂先を振り下ろす。自身を切り裂かんと迫る槍を慎重に見極めた黒天は篭手の端っこを削る様に弾いた。
パリンとガラスが割れた様な音が辺りに響くが、蒼炎の槍は黒天の篭手を切り裂く事は無かった。代わりに心歪能力同士の対消滅が起こり、黒天の中にある心歪能力発動の為のエネルギーが少し削れた。
元々黒天は九割のエネルギーを発現出来ずに溜め込んでいるので多少削れた所で問題はない。重要なのは篭手の部分で受ければ蒼炎の炎を防げる事実だけだ。
「おらおらぁ!守ってるだけじゃ勝てねぇぜぇ!」
「ふぅ……」
蒼炎はルクスにやったように、槍を回して黒天を攻め立てる。火の粉を撒き散らすその連撃は、黒天を執拗に追い詰めている様に見えたが……その実、黒天の心は冷めていた。
(この連撃は
このままでは死の実感が薄らいで能力が解除されるんじゃないかと心配になるぐらい、黒天の防御は危うげがなかった。それは当然攻めている方の蒼炎にも伝わり、一度大きく槍を凪いだ蒼炎は黒天から距離をとって仕切り直した。
「ふぅ。なんだよおぃ。意外と頑張るじゃねぇかぁ、えぇ?そっちのエセイケメン野郎より才能あんじゃねぇかぁ?」
「……いい事を教えてやろうか?」
「あ?」
「禁忌がバレない様に手札を隠す。そりゃ大切な事だ。だがな……相手の力量を見誤って、出し惜しみしてる間に死ぬのは最高にかっこ悪いぜ?」
「っ!はんっ。まさにその通りだなぁ!お望み通り、ちょっとだけ本気出してやるよぉ!」
黒天の挑発に乗った蒼炎は、振り回していた槍を短刀の二刀流に持ち変えるとその刃を盛大に燃え上がらせた。轟々と燃え盛る青い火炎は生物の根源的な火への恐怖を煽るが……黒天は小首を傾げてそれを見た。
「いや、それになんの意味があるんだ?最初から触れれば炭になるだけの火力はあったのに、それ以上火力を上げても力の無駄遣いじゃね?」
「カー!てめぇなんにも分かってねぇなぁ!てめぇも男なら、この燃え盛る刀のカッコ良さが分かんねぇのかぁ!?どんだけ枯れた感性してんだよ!ジジイかぁ!」
「なん……だと……?そんなバカな……」
蒼炎と戦闘を初めてから一番のショックを受ける黒天。
確かに言われてみれば青い炎で作られた燃え上がる剣は、男の子のロマンの結晶みたいな物である。改めて剣を見ればカッコイイとも思う。しかし、やっぱり無駄だと思ってしまうのは、どこぞの効率主義のロリババアの影響が大きいだろう。まさか、二人っきりで訓練を続けるうちに枯れた感性まで移ってしまったのかと恐怖した黒天は、人の心を無くさない内に時香から距離をとろうと心の中で誓った。
「カッコ良さってのはバカにできねぇ要素なんだぜぇ?心歪能力ってのはなぁ。心が弱えほど強い力が得られる。だがよぉ、能力を制御するには心が強くなきゃいけねぇ。存在から矛盾してんだよ。心歪能力者はぁ。例え強え能力を持ってたとしても、心が負けたら負けなんだぁ。そこで転がってるエセイケメン野郎みてぇになぁ!その点カッコ良さは分かりやすいぜぇ?なにせ、カッケェ方が強そうだもんなぁ!」
「……なるほどな。大体見えてきたぞ」
「へぇ?何が見えたってんだぁ?てめぇが灰になる未来かぁ?」
「いや、お前の禁忌がな」
「……」
黒天はルクスが地に倒れて以降、蒼炎の禁忌とはなにかを考え続けていた。青い炎を武器の形にする事で解決できるトラウマ。それは結局思い浮かばなかったが、蒼炎の語り口には引っかかる物を見つけていた。
「お前は無駄に説明したがる。後は俺の挑発には即座に反発し、デカい声と横暴な態度でこちらを押さえ付けにかかる。戦い方もそうだ。お前……自分の方が立場が上だと示して優越感に浸りたいのか?」
黒天の質問に蒼炎は答えなかった。ただ、初めてその顔に友好的な表情を浮かべ黒天へと問い返す。
「てめぇ……やっぱ融和派なんぞにしておくには惜しい奴だなぁ。んな息苦しいところ抜けて、自由になる気はねぇかぁ?」
「お誘いは有難いが、今はまだあそこで学ぶことがあるんでね。むしろお前がこっちに来たらどうだ?世界が滅べば自由もクソもないぞ?」
「ハッ。冗談キツイぜ。世界は俺様を助けなかったのに、なんで俺様が世界を助けなきゃならねぇ。折角心歪能力者になってしがらみから解放されて自由になったってのに、また絡まりに行くのはごめんだぜぇ。
てめぇらだってそうだろぉ?社会の中で生きようとして失敗したから心歪能力者なんざやってんのに、なんで同じ事を繰り返してんだ。殺して壊して犯して奪う!この能力はその為にあるんだぜぇ!」
蒼炎の心に反応したのか、両手に持つ短刀の炎が更に荒々しく燃え上がる。
二人が歩む道は交わらない。互いがそれを確認した事で既に言葉は尽きていた。
「これで終いだぁ!次は決着が着くまで止まらねぇぜぇ?」
「望むところだ。来いよ襲撃者!」
「ふんっ。俺様の名前は蒼炎だぁ。それだけ覚えて灰と消えなぁ!」
駆ける蒼炎と構える黒天。二人の最後の衝突が始まった。
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