第5話 心歪能力の暴走

「キハハハハハハハハハハッ!!」


 一人で居るところを《獣形》に襲われ、重症を負って屋上から墜落した黒天。

 その黒天に変化が起きていた。

 落下中に意識を消失した黒天には意識が無く、肺を切り裂かれている筈なのに高笑いを上げながら地面へと激突し……しかし、何事もなく立ち上がった。


「キヒッ。キハハッ!」


 否。何事もなくと言うには、黒天の姿は異形に過ぎるだろう。

 立ち上がった黒天は、服を含めた全身が漆黒に染まっており、目だけが怪しい赤い光をギラギラと放っている。


「キハハハハハハハハハハ!」


 赤い眼光を真上に、落ちてきたビルの屋上へと向けた黒天は、垂直に何メートルも跳躍してビルの外壁へと取り付いた。いつの間にか黒天の両手足からは三本の長い爪が生え、その四足を使ってビルの壁を破壊しながら駆け上がる。


「キハァッ!」

「グルルアァ!!」


 勢い余って屋上から空へと飛び出した黒天が、屋上へと落下しながら《獣形》の一体へと爪を振るった。

 飛び上がった黒天を視認した《獣形》は後ろに下がることで爪の一撃を躱し、《獣形》の代わりに天井が三本の線を描いて大きく抉れた。


「「「ガァァ!」」」

「キハハハハッ!」


 三体の《獣形》が同時に黒天へと飛びかかってくる。黒天はそのうちの一体に左腕を突き出すと、その腕に噛み付いた《獣形》を振り回して地面へと叩きつけ、右腕で《獣形》の頭を叩き割ってトドメを刺す。


「ガァ……」

「キハハハハッ!」

「「グルルルルル!」」


 一体を倒している間も残りの二体は黒天へと噛み付いているのだが、黒天に気にした様子は一切なく、脇腹に喰らいついている《獣形》を両手で真っ二つに引き裂き、足に喰らいついている《獣形》は引き剥がして逆に首筋を噛みちぎって殺した。

 噛みついている《獣形》を無理やり引き剥がしているので、傷口から派手に出血しているのだが、黒天の肉片と一緒に引きちぎられた漆黒が再び傷口を覆うと出血は止まり、黒天の動きは止まらない。


「キハハハハハハハハハハ!!」

「うぅむ。完全に暴走しておるな。わしがおらん間に禁忌に触れたか?」

「キハァ……?」


 三体全ての《獣形》を始末した黒天が天へと高笑いをしていると、その背後へと時香が降り立った。


「キハハハハ!」

「やれやれ。さっき言ったばかりじゃと言うのに……」


 首だけで後ろを向いたシャフ度黒天が時香を視認すると、即座に身を翻して三本の鋭い爪と牙を伸ばして時香へと飛びかかった。


「わしに抱きつこうとするなら―――」


 黒天の爪が時香を貫く寸前。時香の姿がブレて消え、直後に空中で体を伸ばしきって無防備な黒天の真横に現れる。


「―――返り討ちじゃ」

「キハッ!?」


 高々と掲げられた時香の右足。その踵が、黒天の背骨をへし折らんばかりの速度で振り下ろされ、勢いよく地面に叩きつけられてバウンドした黒天の後頭部を流れるように掴んだ時香が、もう一度黒天を顔面から床へと叩きつけた。


「『発勁』」

「キハ―――」


 後頭部を地面へと押さえつけた状態からダメ押しの発勁が放たれ、黒天の顔面が屋上にクレーターを作ったところで、やっと黒天は止まった。

 黒天の全身を包んでいた漆黒は薄れる様に徐々に消えてゆき、血に塗れた服があちこち破れたり噛みちぎられたりしているものの、意識を失っている以外は無傷の黒天が残された。


「少々予定とは違うが……得るものもあったから良しとするかの」

「理事長……彼がそうなのですか?」

「うわ〜。ボロボロだねぇ〜」


 パンパンと手を払いながら黒天を見下ろす時香の後ろに、二人の男女が降り立った。

 輝く金髪と真っ赤なスカーズの二人組は、時香が『ピカピカ光っとる奴』と『スカーフの奴』と呼んでいた二人だ。


「……」

「この辺りの歪みは収まりました……わわっ!大変!大丈夫ですか!?」


 少し遅れて、屋上に大きなウサギが着陸し、その背から『デカい兎に乗っ取る奴』と『祈っとる奴』が降りてきた。

『祈っとる奴』は、黒天がボロ雑巾状態で顔面から屋上に埋まってるのを見ると、パタパタと慌てて黒天に駆け寄る。


「うむ。こやつが前に話しとった転入生じゃ。能力が暴走したのを無理やり止めたからの。明日にならんと起きんじゃろう。見たところ外傷は全て治っておるようじゃが、一応見てやってくれ。終わったらわしが学園まで運んでおくでな。他の者は撤収準備を頼むぞ」

「「「はい」」」

「(コクリ)」


 時香が指示を飛ばすと、三人は返事を返して一人は頷いた。

 それからすぐに撤収準備は完了し、時香達五人は学園へと帰っていった。

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