▲▲つ58っ! うぃざーど?うぃざーど!

 「!あ、あの時のお兄ちゃんたち!!!」

 「!!」

 なお、アビーの元気な声が聞こえたか、幼子は気付いて。

 母親から離れて、こちらに走ってくる。

 母親は、微笑ましそうに見送って。

 走ってくる幼子に、合わせるように俺はしゃがんだ。

 走り寄って来た幼子、顔をよく見せてくれて。

 嬉し泣きに、濡れた顔でいて。

 それでも恥ずかしがることなく、俺を見据えてくる。

 「お兄ちゃんたち!!あの……!あの……っ!!ありがとう!!ええと、あとええと……。」

 「……。」

 「……わっ?!」

 見据えた上で、紡ぐは感謝の言葉であり。

 他に伝えたいこ、まだあるのだろうが、幼いがために上手く紡げないでいる。

 俺は、そっと笑い、頭に手をやって、撫でる。

 いきなりのことで、驚いてはいたが、すぐに顔を赤くして、嬉しそうにして。

 言葉ないが、……伝わってくる。 

 ありがとう、その言葉に全てあり。

 俺が、俺たちがして、収容所を破壊して。

 母親を連れだしてくれた、それへの感謝。

 スフィアたちが導いたことへの、感謝。

 アビーにも伝わり、アビーも同じようにしゃがんだなら、微笑んで。

 「良かったね!!お母さん、帰って来たね!」

 「うん!!」

 言ったなら、幼子も頷いて。

 「ささ!お嬢ちゃん、早く戻っておやり。あたしらのことは、その言葉で十分さね。お母さん、心配してるかもしれないだろ?」

 「!」

 エルザおばさんが俺の傍に来て、座ったなら優しくそう言って来て。

 見知らぬ女性から声を掛けられ、少し驚いてはいるが。

 幼子はまたすぐ、笑顔になって。

 「うん!!!分かったぁ!ありがとー!!」

 手を振って、自分の母親の元へ駆け戻って行った。

 「ま、俺たちの所より、母親に会わせた方がいいもんな。んじゃ、俺たちも帰ろうかね!」

 レオおじさんが言ってくる。

 「……そうだね。」

 俺は立ち上がり、頷いて。

 また遠くから見ることになる、母と子の再会情景、見届けて。

 俺たちは、桟橋から帰路に就くように歩みだしたなら。

 「うぉおおおお!!!ウィザードぉおお!!!」

 「?!」

 「「うぃいいいいいいいいいい!!!!」」

 遠くから、誉れ高き名前を言われ、振り返ったなら。

 土煙上げながら、こちらに向かってくる集団が。 

 シャチを思わせる風合いの集団、……サカマタさんたちだ……。

 「……何か、いや~な予感が……。」

 速力といい、集団の圧力といい、嫌な予感がする。

 若干、後退ったが。

 「?!わぁあああ?!」

 遅かった。

 嫌な予感的中かもしれず、襲われるように、シャチの集団に囲まれてしまい。

 ……嫌な予感的中ではなかった。

 すぐに俺は、体を持ち上げられ、宙に飛ばされてしまう。

 胴上げだ。思わぬそれに、つい声を上げ。

 「「ウィザード!!ウィザード!!ウィザード!!!」」

 集団で、声高に、誉れ高き名前を言うのだ。

 そのせいか、他の集団も混じり、特に、軍隊の人たちの。

 同じ言葉が言われ、増幅し、軍港全体にまで広がっていった。

 俺は、その圧迫といい、胴上げといいで。

 ……恥ずかしながら、目を回してしまった。

 目を回しながら、フラフラ状態であり。 

 アビーに支えられながらも、しかし立ち。

 胴上げをしてくれた人々を見ては。

 「ねねね!こうしようよ!」

 アビーは、歓喜に笑みを浮かべながらも、言ってきたことは。

 腕を空に振り上げる。

 そう、さっき俺たちがしたそのことをまた、ここでやれと。

 「!」

 気付いたなら、俺は頷いて。

 言われた通り、拳を空に振り上げた。

 「「ウィザード!!!いぇええええええええええええええい!!!」」

 軍港中に響き渡らんと言わんばかりの大歓声が、響き渡った。


 その後のことは、なかなか忙しいばかりで。 

 あの勢いのまま、司令部みたいな、軍の施設に俺と一緒に他の皆も呼ばれ。

 ガタガタのため、急遽修理した感満載の、講堂にて。

 司令官だろうか、要するに軍のお偉いさんが、労いのために演説をして。

 その演説に、素早く礼装した軍関係者が立ち合い。

 しかし、ありがたい言葉だったのかもしれないが、俺たちは呆然としていて。

 よく分からないや。

 やがては、勲章が授与されて、村から来たメンバー全員に。

 その瞬間に、講堂を埋め尽くす拍手に、一部の人間からは、歓声まで上がる。

 その後は、勲章胸に付け、今度は戦没者の慰霊に赴く。

 悲しみに包まれる風もあったが、それ以上に、安堵があった。

 先頭にいた軍関係者は、涙ぐむ者もいて。

 マフィンは、静かに涙する。

 それは、帝国への戦いに赴いた、人たちを思い起こして。

 その慰霊の際に、さも報告のように言葉が述べられて。 

 後は、献花だ。

 共和連邦を表すかのような、輪に彩られた花束を。

 代表として俺とアビーが行う。

 俺は、あんまり実感とか悲壮を感じていなく、やや呆然としていたが。

 アビーは、相変わらず。

 献花したならば、号令が掛かり。

 一同が、一斉に敬礼を示した。

 追討に、鐘がなる。

 俺は目を瞑り、冥福を祈る。

 祈ったその瞬間。

 ―ウィザード……!!ウィザード!!ウィザード!!

 「?!」

 歓声が聞こえ、号令が掛かるよりも前に目を開く。 

 丁度皆も目を開き、何事と見るなら。

 しかし、誰も歓声を上げていない。ならこれは、幻聴?

 風邪もたなびくなら。

 さも、自然まで、歓声を上げて。

 「……。」

 何事と、呆然としていたなら。

 「うぃ、ウィザード……!!っ!!っ!!!!」

 「!」

 歓声ではない。

 嗚咽しながらも、誉れ高き名前を告げる。

 言ったのは、マフィン。

 とうとう、泣き崩れながらも。

 泣き晴らす顔であっても、見据える。

 俺を。

 俺の、何を……? 

 視線に移るのは、俺の姿をした……何だろう?

 分からないや。

 「英霊が、誉れ高くその名を告げるか……。」

 先頭に立ち、慰霊の言葉を述べていた人が呟くなら。 

 「そうだ!この者こそ!!」

 「この、我々を導く者こそ!!」


 「「ウィザード!!!」」

 ―ウィザード!!!


 「!!」

 幻聴、幻想?違う。

 慰霊の悲壮さえ、打ち砕く、希望の名前。

 どこかの英霊さえ、追従して述べる。

 その誰かが述べた掛け声に、皆は追従して。

 「「ウィザード!!ウィザード!!ウィザード!!」」

 ―ウィザード!!ウィザード!!ウィザード!!

 悲壮打ち砕く、希望の名前。

 連呼されて慰霊の場は、希望の場へと変わる。

 この場の者たち全て呼称し。

 この場に眠る英霊たち全て、呼称する。

 そう、この時俺は〝ウィザード〟になれたのだ。

 慰霊の後は、戦勝パレードだ。

 当然、俺たち村のメンバーも、全員参加。

 規律正しく行進する軍団のすぐ後ろから。

 オープンカーに乗りながら、摩天楼の底を、進む。

 息を呑んだが、空にさえ届く摩天楼を、クサバさんから聞いたが。

 それが、実現しようとは思ってもいない。

 その摩天楼の頂上から、紙吹雪が舞い。

 鳥たちが祝福するように歌う。 

 いや、それだけじゃない。

 その街中の人たちは、一様にスフィアを握り締め掲げるそれも。

 祝福に光り輝く。

 「「ウィザード!!ウィザード!!ウィザード!!」」

 そうして、また、誉れ高き名前を、一様に口にしていくのだ。

 その言葉、やがて広まる。

 メディアもまた、注目して世界中に発信するなら、当然で。

 俺の姿もまた、名前もまた、響かせていく。

 広まるなら、よく聞くとこんな言葉もあった。

 〝猫耳勇者(ウィザード)〟と。

 そうして、共和連邦中、知らぬ者はいなくなる。

 

 ……そんなお祭り騒ぎも、いつまでも続くまいて……。


 時間はどうだろう。

 よく分からないが。

 俺の名前が、そのウィザードという呼称が普遍になった時だと思う。

 けど、年単位で過ぎてはいない。

 その頃には、街も村も、落ち着きを取り戻していて。

 皆、それぞれ日常に戻りつつあり。

 まあ、伝説のような俺の行いは謳われ続けていたけどね。

 そんな折、俺は、アビーたちが暮らす村に戻っていた。

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