▲▲つ57っ! さいかいできたんだね!よかったぁ!

 《?!あ!!!俺が先だったのに!!!待てぇ!!!》

 《〝ソード〟ぉおおお!!!!俺たちの任務は終わりだと言っただろう!早く母艦に戻るぞ!!!》

 《う、うわぁん!!〝ガント〟の意地悪ー!!!》

 「……。」

 別の通信が混じってきた。

 例の航空隊であり、若い方が参加しようと血気盛んな様子だったが。

 止められてしまい。

 ……聞いていて呆れてしまう。

 空にて、その通信をしたと思しき航空隊は、旋回し、別方向へ向かった。

 俺たちはどうしよう?ふと、皆を見た。

 何も言わないが、頷きを返してくる。

 それは、そう、このまま自分たちも続こうという意志の現われで。 

 まだ、壁を壊したに過ぎない。

 まだ、戦争は終わっていない。

 このまま、ただ傍観しておくのも癪で。

 そも、同じ船に乗った者たちがまだ。

 戦い続けているというのなら、こちらも続きたい。

 足をまた、帝国の、壁の向こうへ向け、歩き出そうとする。もちろん、皆も。

 しかし……。

 《やめときな!》

 「?!」

 通信が響く。誰だろうかと思ったが、知らない声だ。

 が、共和連邦の人だとは分かる。

 それでも、この状況において、俺たちを止めるとは、なぜだと思ってしまう。

 《俺たちの見せ場を奪うなよ!》

 《そうだ!海の奴らに、まして、民間人にだけ、美味しい所は持って行かせないぜ!それによ、十分働いただろ?》

 《この時を待っていたのさ!落城するこの時を!》

 《あんたらだけじゃ、寂しいだろ?パーティーってのは、もっと大勢で楽しむもんだろう!!》

 《ちげぇねぇ!!!》

 《それによ!あんたら、いや、ウィザード!十分だよ!後は休んどけよ!》

 「皆さん……。」

 喧しい通信ながらも、それらは、自分たちもまた加わりたく。

 かつ、責務もあり、果たすためにもというもので。

 また、懸命に働いた俺たちを労うためでもあった。

 「……。」

 そうであっても俺は、何だか心残りを感じてならない。

 自分の手を握ったり、開けたりしては。

 その中途半端な感情をどうにかしたくて、もどかしい。 

 「!」

 と、肩を誰かに優しく叩かれる。

 振り返れば、マフィンであり。何かを言いたそうだ。

 「ええと。」

 促すなら。

 「もう、十分ってことよ。それに、私たちはそもそも民間人。それに、阻んでいた、巨大な壁を破壊したのよ。……軍隊の人たちにとっては、それだけでも十分な働きよ。だから、素直に、ね?」

 マフィンは、優しく微笑みながら言ってきた。

 「……。」

 言われてもなお、心残りはあって。

 だから俺は、手を握ったなら。

 空に、沢山の機械の鳥の一群に向けて、突き出した。

 「?!大和、何を……?」

 「……スフィアと共にあらんことを!」

 「「!!」」

 マフィンは俺がそんなことするものだから、驚きながらも聞くが。

 俺は答えずに、遮る形で言葉を紡ぐ。

 それは、祈りの言葉。

 あの時、幼子が口にしたそれを、今戦いに赴かんとする人たちに捧げる。

 《……聞いたか?》

 なお、声は届いている様子。

 通信は、ずっとオンラインだったから、当然だけれども。

 《ああ。ウィザードからの〝お言葉〟だ!》 

 《連絡回せ!全機に通達しろ!ウィザードからの言葉だ!》

 《ウィザードより伝言!!〝スフィアと共にあらんことを!〟繰り返す!ウィザードより伝言!》

 《 〝スフィアと共にあらんことを!〟》

 《ウィザードが言葉を……!!》

 

 「!!!」

 俺の言葉は、ありがたがれてか。

 耳にした人は、通達し、全部の人間に伝えていくならば。

 通信機から、歓喜の雄叫びのごとく、歓声が響き渡り。

 思わず耳を塞いでしまいそうになる。

 「!」

 と思ったものの、誰かが俺に対して。

 同じように拳を突き返してきた気がしてならない。

 空の誰かが、……突き返している?

 「……。」

 やっぱり、応じなくてはと俺は、また拳を突き返す。

 「!」

 ちらりと見れば、皆もまた、拳を空に、戦闘機や爆撃機の一群に突き出して。

 ……誇らしく、笑みを浮かべていた。

 その光景を見送って、機械の鳥の一群は、戦へ赴いていく。


 やがて、遠くの方で砲火が上がり、そして、……終わった。


 あっという間だった、終わるのが。

 壁が崩壊したのを見つめ、空の一団が帝国へ向かうのを見届けただけで。

 あっという間だった。

 その空の一団といい、突入する地上部隊が入って来たといいで。

 とうとう帝国が降伏したんだ。

 その戦いが終わり、共和連邦の兵隊さんたちは、続々と帰って行って。

 その一団に、俺たち村の面々が加わる。

 「!」

 その帰路に用意されたのは。

 スフィア狩りの際、俺たちを迎えた航空機であり皮肉にそっと、笑ってしまう。

 乗ったなら、疲弊からか、アビーは大欠伸を見せ。

 釣られて、他の人も、俺も欠伸を出してしまう。

 終わったなら、……恥ずかしいかな、俺は眠ってしまった。

 「!!」 

 衝撃があったなら、目を覚まし。

 「!!うにゃぁ?!……じゅる。」

 「……。」

 同じくアビーもまた。涎も出ていたみたいで、すする。

 俺は呆れもするが、いつものアビーらしいや、と思い、微笑んで。

 また、他の人も、咎めやしない。

 ……他の人も、寝ていたか、少し寝ぼけ眼だ。

 後方が開いて、道ができたなら。

 降りるとそこは、アスファルト敷きの道路のように幅広い場所のようで。

 「!」

 歩み出たなら、まず感じた風と、磯の香り。

 よく見たならば、大きな飛行甲板のよう。

 空母だ。この航空機に連れられて、俺たちは乗っていたのだ。

 その飛行甲板には、作業している人間が右往左往していて。

 また、戦場で見た、戦闘機もあって。

 色々と整備中でありと、軍隊風景を見せられた。

 「!!」

 しかし、俺たちが出たその時に、作業の手は止められて。

 一斉にこちらを向き姿勢を正してくる。

 「ウィザードとその一行に、敬礼!!!」

 その掛け声と共に、全員が一斉に敬礼を見せてきた。

 「……。」

 その光景に、呆然としてしまい、何も言えない。

 「直れ!!」

 また、号令が掛かり、それを皮切りに敬礼した全員が。

 素早く持ち場に戻り、再び作業をする。

 「……。」

 呆然とした感覚はまだ続いていて、言葉が出ない。

 そうしている内に、その作業する人たちの間をぬって、歩み寄る人影がある。

 作業員の姿ではない、別の、そう、パイロットスーツといえばいいか。

 翼を模したマークの付いた服を着た、初老のビストの男だ。

 猫の耳、〝猫の人〟のようだ。

 俺たちに近寄り、そっと優しく微笑んだなら、敬礼をして。

 「君たちが、ウィザードの一行か。ふふふ。」

 第一声として、そう言ってきて。

 敬礼を直し、そっと、手を伸ばし、俺に握手を求めてきた。

 「初めまして。私は、共和連邦海軍極東方面担当強襲攻撃艦隊、通称第0艦隊飛行隊、ソラネコの隊長だ。名前は、……よそよそしくなる、ニックネームの類でよければ、〝シールド〟と呼んでくれ。よろしく。」

 「!あ、はい……。ええと、俺は大和……。よろしく、お願いします。」

 自己紹介の言葉交え、硬く手を結ぶ。

 「!」

 シールドと聞いて、皮肉を感じてしまう。盾、だ。

 よく見れば、肩の方には彼のエンブレムか、一般的な盾の紋章が描かれていて。 

 「ここ最近、君の噂で持ち切りでね。大変よく耳にしていたよ。何でも、陸軍の作戦で、多大な戦果を上げたと。我々の方でも、噂好きが色々と噂していてね。それに、だ。うちの若いのが、君にとっても興味を持っているんだ。ほぅら。」

 「……?」

 続くことには、俺の噂話であり。

 ……どうやら、陸軍の隊員さんたちが話を広めていたようだ。

 だが、最後言葉切りが気になり。

 すると、駆ける音が聞こえてきて。

 「……?!あ、アビー……か?」

 「えっ?!あたし、ここにいるよ?」

 その方を向いて見たならば。

 アビーと同じような、赤茶色の髪色の若い猫耳の男の子が向かってきていた。

 アビーと特徴が似ているからか、ついその名前を口にするものの。

 ……アビーは近くにいた。

 いきなり言われて、アビーは少し驚き気味だ。

 じゃあ、その子は?

 「来たぞ。君のこと大好きな男が。」

 シールドさんが言うと、俺を見掛けるなり。

 その子は一気に駆ける速度を上げてきた。

 「うわっはぁ!!!ウィザードだぁ!!!」

 歓喜の声上げたなら、跳躍し、俺に飛び掛かってくる。

 「?!うぉおおああ?!」

 飛び掛かるそれに、俺はつい声を上げてしまい。

 何もできず、激突しそうになるものの。

 しかし、その少年は、俺に激突することはなかった。

 「……?あれ?」

 俺は顔を上げると、その少年は、俺の眼前で制止して。……して?

 よく見るともう一人男がいて。

 その男は徐に、その少年を鷲掴みして、制止させていた。

 その男、切れ者のようで、鋭い瞳をしている。

 猫の耳をしているが、……何の種類かは分からない。

 鋭い瞳の男は、少年を睨み付けていて。

 「〝ソード〟、貴様、また命令を無視して!!!」

 「!!その名前は……。」

 その男が、少年にきつい言葉を掛けたその際に、ピンとくる。

 その名前、確か通信機から聞いたことあるような。

 この人たち、まさかあの時、戦闘機で大暴れしていた人の……?!

 「えぇー!!!いいじゃんかよ!!折角、ウィザードに会えたんだぜ?最高のイカレ野郎なんだぜ!!!ハグハグとか、なめなめとか、したいじゃんかよ!」

 「……お前はそればっかり。少しは俺のことも考えたらどうなんだ?貴様が、色々やらかしているのを、庇ってんのはどこの誰だと思っている?」

 「えー。それ〝ガント〟の仕事じゃん?」

 「よし!!!貴様をこの飛行甲板から落として、MIAにして報告してやる、いいな!!」

 「?!うぎゃぁああ!!やーめーてー!!落とすの嫌ぁ!!!」

 「……。」

 確信する、会話のやり取りといい、あの航空隊だ。

 なお、その少年は、男の気に障ったらしく、持ち上げられた挙句。

 そのまま、飛行甲板の端まで連れて行かれ、落とされそうになっていた。

 少年は悲鳴を上げ、涙する。……そのやんちゃ、元気っぷり、アビーそっくりだ。

 やり取りの最中、アビーを見るも関係なさそうな顔をしている。

 多分、違う人なのかもね、関係を考えることをやめるか。

 騒がしさといい、何といい、通信機からでも耳を塞ぎたくなったが。

 それを制する者が一人。

 シールドさんだ。好々爺とも言える、優しそうな笑みを浮かべながら。

 彼らに接近していく。

 「まぁまぁ。やめたまえ。嬉しかったんだろう、ソードも。それに、元気なことはいいことだ、特にその年頃はな。」

 「しかし、隊長。このまま空を飛んでいたら、その内死にかねない。いくら、センスがあるとしても、だ。」

 「……その内、分かるようになるさ。」 

 「……はぁ……。」

 男の肩を軽く叩き、宥めては。男は、呆れた溜息一つ漏らして、少年を開放する。

 「ふぃ~。おっかねぇ……。」

 「ほら!さっさと戻れ!デブリーフィングするぞ!」

 「へぇ~い……。あ~あ。折角ウィザードに会えたのに~。ちぇ……。」

 開放されたなら、されたで、少年は文句を言って。

 男とシールドさんと一緒に飛行甲板から、艦橋の中へ入って行った。

 「……。」

 その光景、静かに見送って。

 何だったんだろう、そう思ってしまう。

 「何だか~、大変だったね。」

 「……そうだね。大変そうだ。」

 言葉でも、彼らを見送って。

 「!」

 また、俺たちは別に呼ばれ、従い、向かった。


 それから、帰路への航海に就く。


 元の港に、戻って来たなら。

 そう、俺とアビーが、帝国へ向けて出航した、あの軍港だ。

 まだ、共和連邦の攻撃の跡が残っているものの。

 最低限使える状態ではあるみたいだ。

 「!」

 遠くで、人だかりが見えて。

 よく見るとその人だかり、それらは収容所にいた人たちのようで。

 先に、戻って来ていたのか。

 歓声もあり、再会を喜ぶ姿が見られる。

 再会……。そう言えばっ……!!その光景に俺は、ふと思い出すことがあり。

 そう、あの幼子の、母親……。

 「なぁ。」

 「?」

 俺は、ぽつりと口を動かして。

 「あそこに、行こう。」 

 呟いてみる。 

 「?なぜ?」

 「!あ、分かったぁ!」

 マフィンは首を傾げたが、アビーは気付いたみたいで、目を輝かせてきて。

 「?アビー。何が分かったの?」

 「ほらほら、マフィンちゃん。スフィア狩りの時、お母さん探していた子、いたじゃない!大和ちゃん、きっとそのことが気になったんだよ!」

 「?!」

 「……ああ。アビーの言う通りだ。」

 よく分かっていないマフィンに、アビーが説明してくれて。

 マフィンは聞いて気付き、俺に視線をやったなら、俺は頷いた。

 「……なら、行ってやらないとな!行こうぜ、ウィザード。」

 「!レオおじさん。……ウィザードじゃなくていいですよ、いつも通り、大和でいいですから。」

 レオおじさんが後ろから歩み寄って、俺の背中を押すように言ってきた。

 ただウィザード呼ばわりしなくてもいいよと、俺は付け加える。

 勝手知ったる仲なのだ、高尚な名前を呼ばなくても。

 「……行きましょう。」

 背中押されたから、俺は、そっと笑い、先頭に立って歩き出す。

 「おう!」

 レオおじさんは応じ、また、その一言に他の皆も頷いて、歩んでいく。

 桟橋の、人だかりのある場所まで歩いて行ったなら。

 歓声がそこら中から響き感涙さえ流す者もいた。

 さて、あの幼子は、と俺は見渡して探したなら。

 「!」

 すぐに見つけた。母親と思われる女性に抱かれて、泣きじゃくる姿で。

 その姿見て、そっと、安堵の表情を見せて。

 「良かったね!」

 「……ああ!」

 言葉はアビーが代弁して。また、彼女も微笑ましく見ているみたいだ。

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