▲▲つ56っ! かべがこわれたよ!やったね!

 「ええと、アビー?……この人、どうしたいか分かってる?」

 呆然とした自分を振り払って、冷静に。

 その盾の人が何を言ったかをアビーに確認してみる。 

 「え?だって、止めるんでしょ?止めたら終わりでしょ?じゃあ、危険じゃなくなる、そうしたら、このおじさんも連れて行こうよ!」

 「……?」

 何か、違う。

 「アビー、あのね、この人、自分で盾になって、俺たちやレオおじさん、他、色んな人を守るために、破壊するんだよ?犠牲になるんだよ?」

 一応、かいつまんで説明した。

 だが、アビーは。

 「ううん。犠牲にならないと、あたし思うんだ。だって、おっきなおっきな、あたしが見た中で一番おっきなスフィアがあるんだよ?だったら、大丈夫だと思うんだ!だって、こんなにおっきなスフィアなら、誰も犠牲にならない、素敵なスフィアの導きがあると思うんだ!!えへへっ!どうかな?」

 「……!!」

 にっこりと、彼女らしい笑顔を作っては、言ってみせるのだ。

 俺は、突拍子もない彼女の思考に。

 自分の思考が吹っ飛んでしまう感じを得て呆然として、かつ、愕然としてしまう。

 《ははははっ!実に愉快だ。そこの、ええと、アビーちゃんだっけ?面白い子だね!……ありがとう。こんな私にでさえも、言ってくれるんだ。嬉しいよ。》

 その人は、愉快だと笑い、嬉しそうにしていて。

 《そうだね。……ここでお別れも、何だか悲しいや。これが終わったら、私を探しておくれよ。……スフィアと共に、あらんこを。》

 続け、締め括りには、祈りの言葉乗せて。

 「うん!スフィアと共にあらんことを!あたしたちも、頑張るね!」

 祈りを返して、アビーはなお笑顔を続ける。

 「……。」

 俺は、まだ愕然としたままだが。

 その人のおかげで、次第にアビーの考えが分かり。

 やがて、そっと頬が緩んできて。

 ……確かに、悲しいや、このまま、こんな人と別れるのも。

 なら、再会を祈るため、その言葉告げても、構わない。

 「……スフィアと共にあらんことを。……その、色々とありがとうございます俺のこと、そして、元の肉体の、こと。……。」

 《礼はいい。気にせず、行きたまえ。》

 俺も祈りの言葉告げたなら、その人はそっと、微笑んで、見送る。

 その見送り、無駄にしたくない。 

 俺とアビー、二人並んだなら、駆け出す。

 「!」

 その時、俺は振り返り、俺の骸へと視線を移す。……込み上げるものあって。

 辛かっただろう。悲しかっただろう、あの時も、この時も。

 だが、もう、感じることはない。 

 もう……。

 さようなら、俺。

 「……さようなら、……。」

 ふと口にする、思考と言葉、重なって。

 「……!」

 その骸だが、わずかに動く、まだも生を求めるように。

 希望に微かな涙、溢れ来るが、しかれども。

 時間は俺たちを急かし、追及することはかなわない。

 それら、振り返り、急ぐ際の凪に散る。

 《警告!警告!!エネルギーラインに逆流発生!至急点検せよ!》

 「……本当にしているんだ……。」

 駆け出し、塔が背になった時、警告が全体に響き渡り。安堵も、漏れる。

 嘘ではないようで、あの人は、あの盾は、行動してくれている。

 また、その警告に、周囲は余計に慌ただしくなる。

 俺たちに構っている暇はないみたいで。

 いくつも足音はするが、俺たちを追っているものではない。

 別の、例えば、制御する場所目掛けてのようで。

 「ええい!!エネルギーライン切らんか!!!」

 「無茶ですよ!!!もうコンデンサに行ってんです!!切ったら大事に!」

 「構わん!!!やれ!!」

 「待ってください!!逆流どころか、正流が漏れて、大爆発しますよ!」

 「やれって言ったら、やれ!!」

 「わ、分かりました……。切断しま……ぎゃぁあああ!!!」

 「どうし、ぐぉおあおあああああああ?!?!」

 そこから漏れる会話耳にして。だが、途中、感電の音を耳にして。

 「……。」

 駆けながらも俺は、静かに手を合わせた。

 多分、無理矢理切断しようとして、電撃をもろに受けたんだ。

 ……場合によっては、助からない。

 駆け抜けたなら、皆が守っている退路まで来て。

 そこでは、防戦している姿を見る。

 しかし、その警告音声の後に、相手が退くのを見て。

 首を傾げている様子もあって。

 「皆!!」 

 俺は、何よりもレオおじさんや皆に声を掛けた。

 「みんな、たいじょーぶ?」

 「お!大和、アビー!!」

 「無事ですか?」

 「当ったり前よ!!俺と母ちゃんがいれば、千人力よ!がはははっ!」

 「……つって、あたしの陰に隠れていたのは、どこの誰だい?」

 アビーも続けて、レオおじさんが振り返り、歓喜の様子を見せて。

 ただ、その言葉に重ねるように、呆れたような顔のエルザおばさんが一言。

 「……よかった。」

 その呆れといい、何といいは置いておいて。

 安堵の言葉を俺は続けて、胸を撫で下ろす。

 「なぁに!ほっとすんのはあたしらの方さね!やったんだね?」

 「!……はい。一応は。」

 エルザおばさんもまた、旦那さんとのいつものやり取りさておいて。

 同じように安堵し、言ってきた。

 俺は、終わったと頷き。

 「流石!ウィザード!がはははっ!……っで、この後どうすんだっけ?」

 耳にしてまず、レオおじさんが嬉しそうに言う。

 言った後で、この後、どうすんだろうと疑問を呈して来て。

 「逃げましょう。……ここも、危ないかもしれないから。」

 その答えは、逃げるで。俺は、言って、皆の先頭に立ち。

 「何ぼさっとしてんだい!大和ちゃんが言ったんだったら、ほら、さっさと動く!それとも、溶けてライオンバターになりたいん?」

 「?!お、おわぁ?!ちょ、そ、それだけは、勘弁!分かったからぁ。母ちゃんごめんよ!」

 エルザおばさんが続けて、一瞬ぼさっとしていたレオおじさんの頭を小突く。 

 我に帰ったレオおじさんは謝り、俺に続く。

 他の人たちも、続き、急ぎここから脱出する。

 来た道を引き返し、壁の外へ出たなら、まだ、戦火の音は響いていて。

 衝撃も圧力も、所々から感じていた。

 《!!例のウィザード組が出てきたぞ!!破壊が成功したのか?》

 隊員の一人が、多分、空にいるだろうけれど、気付き、言ってくる。

 俺は、胸元の通信機に手を伸ばし、口に近づけたなら、スイッチを入れて。

 「離れろ!!!……爆発する!!!!」

 言った。

 《!!了解。全軍、壁より離脱せよ!繰り返す、全軍、壁より離脱せよ!》

 聞き届けた隊員さんは、通信を繰り返し、全員に通達してくれた。 

 《離脱?!終わったのか!!》

 《ウィザード?!ウィザードがやったんか?!いぇい!!!》

 《いぇえええええい!!俺っちたちのウィザードがやったんだい!!!》

 

 「……ぐぁあ……。耳が痛い。」

 通達したはいいんだけれども、返ってくることには、歓喜の声ばかりであり。

 残念ながら、皆さん危機感がないようで。

 またその喧しさに、耳が痛くなり軽く呻いた。

 《ええい!この血の気の多いシャチどもが!!!離脱しろ!……何か起きても知らんぞ。》

 「……サカマタさんたちだったか……。」

 そんな連中に、司令官が檄を飛ばして。

 聞いていて俺は、騒いでいるのは、どうやらサカマタさんたちの部隊のようで。

 呆れてしまう。

 「大和!ちょっと……。」

 「!」

 後ろにいたマフィンが、軽く肩を叩いて合図してくる。

 振り返り見れば、壁が異常なほど発光していて。

 また、熱を感じもする。

 「いや~な予感……。」

 口にした、予感のこと。俺は、冷や汗が出てきて。

 「!」

 咄嗟に、腕の盾を構えたなら。

 「フォトンシールド!!!」

 《了解。フォトンシールド。オービタルレンジで展開します。》

 「ああ。ありったけのスフィア、使っていい!!」

 《了解。スフィアをサーチ。半径500メートル以内の全スフィアを利用いたします。》

 「?!ちょ、ちょっと私のスフィアが……っ?!」

 俺は、コマンドを実行する。

 すると盾は、スフィアをリンクさせ。

 また、足りないだろうから、俺が許可したなら。

 至る所の、扱えるスフィアを使うみたいで。

 その対象に、近くにいたマフィンがされてしまう。

 「!ご、ごめんマフィン。失くしたりしないから。」

 「……全く、もう。勝手ね、あなたといいアビーといい。いいわ、使いなさいな。」

 謝ると、すんなり許してくれたが、呆れもしている。

 そのおかげか、大量の光る水晶たちで形成される光の膜は広く大きく。 

 「!」 

 展開した下にいる俺は、輝くスフィアたちが、空彩る星のように見えて。

 この時つい、見入ってしまった。

 だが、その感傷も、途端起こる衝撃に掻き消されて。

 壁がついに、爆発した。

 「!!ぐっ!!!」

 「うにゃぁ?!」

 閃光と衝撃に目を瞑り、伴う爆音に、耳を伏せる。

 その衝撃とかは、俺が展開した光の膜に妨げられて。

 「?」

 なお、不思議なことに、衝撃波が迫ったなら、引きずり込まれるように。

 つまりは、逆方向にも向かい。

 やがて遠退いたなら、ゆっくりと目を開くと。

 ……眼前にあった広く高く存在した壁が、瓦解していた。

 「!」

 また、遠くから爆発音が。

 思うに、連鎖して爆発しているみたいで。

 確か、円環状に壁は形成されていたから逆流させると。

 連鎖的になってしまったのかもしれない。

 《!!壁が崩壊した……!》

 《司令部に通達!壁が崩壊した!繰り返す、壁が崩壊した!》

 《了解。では、被害状況知らせ!》

 《我が軍の被害、ありません。……司令官、命令あれば、我々はいつでも突撃できます。》

 《確認した。では、全軍に通達。帝国攻略を開始する。動ける奴は、槍を持て!繰り返す、動ける奴は、槍を持て!》

 その様子、共和連邦軍は見ていて、また通信をして、状況を知らせて。

 状況が分かったなら、司令官は攻略を命じてきた。

 《!!!帝国をやるって?!くぅうううう!!!来たぁぁああああ!!》

 

 「ぐぁああ……。また……。」

 それを皮切りに、隊員さんたちが一気に奮起し、声を上げて。

 俺は、耳がまた痛くなる。

 見上げれば、空の様子も変わり。

 戦闘機たちが追い払っていたりした様子が。

 一転、一気に相手を叩き潰すような勢いになり、やがて整列する。

 加えて、新たな航空部隊が来る。

 戦闘機だけじゃない、巨大な航空機もあり。

 胴体が開いて、中身を見せつけて来て。

 爆弾。

 それだけじゃなく、マキナの入っているコンテナも、見えて。

 大気を切る轟音も轟く。

 それは、あの隊員さんが乗って、操縦するマキナが来たような形であり。

 展開され、壁があった向こうにて着陸したならば。

 帝国へ向かって駆け出して行った。

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