▲▲つ54っ! もうひとつのたて?

 「ええと……。降参して……。」

 「ちっがぁあああああう!!!」

 「?!」

 穏便に、済ませようと声を掛けたが、逆に発狂のごとき叫びに掻き消され。

 俺は思わず目を丸くしてしまう。

 「違う違う違う!!断じて違う!!我々は負けない!!何よりも強い!どんな生物も、存在も、我々を越えることはない!!!はははははは、我々はそう、この星にて最強!!」

 発狂のまま続く、講演、力強く。

 痛む体を引きずりながら、先の骸に歩み寄り徐にその骸に手を当てて。

 「はは!!ははははは!!!使えないなら、私に使わせろ!!動け!〝アイギス・レプリカ〟!!!動け動け動け動け!!!!!」

 何かよく分からない言葉を述べたなら、当てられた骸の一部が開閉して。

 呼応するように、何か骸から光を発しながら浮遊してきた。

 「?!」

 それは、本様にて、厚みのある物で、かつ、見覚えのある物。

 そう、浮遊してきたのは、俺が腕にしている、盾と同じ物だった。

 なぜ?と、真っ先に疑問が浮かんだが。

 狂人は、その時さも勝ったかのように、にんまりと笑ったなら。

 「これは、〝アイギス・レプリカ〟!!!これはな、無敵にして、あらゆる物を通さない〝アイギス〟のレプリカ!!!!貴様ら獣に使うには、勿体のない代物よ!!!!」

 ご丁寧に、説明してくれたようで。

 ……レプリカらしいが、じゃあ本物はと聞きたくなるものの。

 状況が状況なだけに、叶いそうもない。

 「ひひ!!ははははははは!!!!」

 勝ち誇り、歓喜し、高らかに笑い声を漏らす。

 歓喜を表すように、体全体逸らしながら。

 「これでっ!!これでっ!!」

 「!」

 手にしようとしている。ならば、何か攻撃がと二人身構えたなら。

 「あぎゃぁあああああああああ?!?!??!」

 「うっ?!」

 強い発光が相手の盾から生じ、手にしようとした狂人は。

 光と共に発生する電撃に肉体を焼かれてしまう。

 また、どうやら、骸と回路がまだ繋がっているかのようで。

 それによって、感電していた。

 悲しいかな、相手は成す前に、自分で自分を殺してしまっている。

 走る電撃は、光だけに留まらず、空間全体に、電気が通り抜ける音も生じて。

 そうして狂人は、やがて肉体を焼かれてしまう。

 口は半開きに、泡も吹いて、目は白くなり。

 立つことさえできずに、だらりと崩れる。

 「……。」

 「……何だったのかなぁ?」

  途端に静かになって、二人奇妙な情景に首を傾げて。

 生死確認のために、二人近寄って。

 「……息がない……。心音も……。」

 俺は、相手に歩み寄り、耳を立て、呼吸音を確認。

 胸に手を当てて、鼓動を確認してみるも、どちらもなく。

 結果として、狂人の死を確認してしまった。

 一方のアビーは、未だ浮遊し続ける、盾に目をやり。

 そっと、触ろうと手を伸ばしていた。

 「みぎゃぁ?!」

 「うわぁ?!」

 途端走る、電撃と閃光。

 ……ふとデジャヴを感じる。

 そう言えば、俺の持っている盾に触った時も、こうじゃなかったっけ?

 ただ、今回は俺の所持品じゃないってだけで。

 その電撃と閃光に、思わず俺とアビー、飛び上がってしまい。

 二人して倒れ込む姿勢になってしまう。

 倒れた上で、半球面を仰ぎ。

 「!」

 すると、その半球面をスクリーンとして、映像が投影されて。

 なお、その映像の元は、例の盾のよう。

 何事かと、見ると。

 「!!」

 映像に、なんと、先ほど死んだ狂人が映っているではないか。

 あまりのことに驚いてしまう。 

 だが、狂人のようだが、雰囲気が違う。

 何だか、話ができそうな、そんな雰囲気を見せていて。

 「!!何これー!!!」

 アビーもまた、この光景に思わず声を上げて。興味津々のよう。

 ふっと、俺たちのこの光景を感知してか、映像の狂人はそっと笑う。

 《……これはこれは。驚かせてすまない。》

 「!」

 続くことに、詫びから始まって。

 その態度、先の狂人とは思えないものであり。

 ここで俺は、この寝転んだままでは失礼だ。

 そう思い、我を取り戻し、起き上がり、姿勢を正して向き直る。

 アビーももそもそ動いて、向き直ったなら聞き入って。


 《……ははは。こんな私でも、いいや、先程まで無礼を働いた〝私〟にでも、そう改まって話を聞いてくれようとするなんてな。……さて、なら、どこから話をしようか?》

 俺たちのその態度見て、襟を正して相手も話をし始めようと応じてくれた。

 「……ええと、じゃあ……。」

 「じゃあね、ええと、おじさん?って何者ー?」

 「……アビー。……そうだね。」 

 何を聞こうかとしたならば、アビーが先に言葉を紡いで。

 同じ意見だったので俺は同意を見せた。

 《そう聞くと、予想はしていたよ。いきなりだからね驚いているかもしれないからね。では、言うとしようかな。私は、もう名前はない、誰であるかも、存在しないが、そこに転がる、もう一人の〝私〟と同じ、いいや、オリジナルであるといったところか。》

 「……?」

 「……?わっかんないや!」

 ならば語りだす、……が、よく理解できない。

 俺は、故に首を傾げ、アビーは加えて、素直に言う。

 《そうだね、理解できないだろうね。致し方ない。君たちが理解できるか、私は自信がない。だが、事実だ。……簡単に言うとだね、私は、もう魂だけの存在で、この盾、あるいは他のサーバーみたいな場所に、〝情報〟として保存され、また、代わりに現実では、私のクローンが作られ、研究に、他色々と雑務をやらされてきた。》

 「……?」

 なお続く、その人の話。

 けれども、話の通り、俺とアビー未だに理解できなくて。首を傾げる。

 《……。》

 その様子に、その人は、やっぱりか、と小さく呟いて。

 映像内で頭を掻いて、困ったようにしていて。目を瞑り、悩みだす。

 決意したか、目を開いて、ゆっくりと口を動かしてくる。

 《……では、私の研究から話そうか。……。》

 始まりに、息を吸うなら。

 《私の研究は、ある意味不老不死の研究だった。人間の魂が解析され、それを電子データ化し、外部記憶などに保存できる方法を見出した。こうすると、人は永遠に生きられるのだ。》

 「……?」

 紡ぎ出すものの、流石に複雑なようで、よく理解できないが。

 相槌は、打っておく。

 《さらには、肉体を新たに作って、そこに魂を移し入れる、新しい生を満喫できる、ということだ。……上手くいけば、ね。だが、そう簡単に上手くは行かなかったよ。現に、私のクローンが、断片的で、狂人的なのが証拠だよ。結局、上手くいかない代わりに、私は、肉体の冷凍保存をする研究もした。これは、非常に評判が良くてね、何せ、自殺した直後の人間を保存して、未来で蘇生させて、新しく生を与える、何て、神様にでもなったようなものだったよ。》

 理解はできないでいるが、話は続けていて。

 自分の研究テーマをつらつらと話している。

 「!」

 聞き入ってはいたが、アビーをチラ見すれば、すぐに船を漕ぎだしていて。

 「……。」

 らしいやと、思う反面、失礼だなとも思ってしまう。

 《だがね、やがて帝国に悪用された。沢山保存された肉体は、兵器として使用されるとなって、ね。》

 そうであっても、気にせず話は続けて。

 《酷い話だろ?新しい生を与えると、肉体を保存していたのに、待っていたのは兵器転用されるという運命なんて。反対はしたさ、私はね。だがね、もはや肉人形のような私の模造品は、能力を利用されて、ひたすら研究に没頭していったよ。沢山の肉体が放棄され、残ったのが、君たちが倒したサイボーグだったさ。正直、ダメージの酷い肉体で、まともに動かすことは非常に難しいものだったが、生命維持のための機械を組み込んで、無理矢理にね。》

 「!」

 続きには、俺のことを述べられる。

 耳にすると、不意に唾を飲み込んでしまい。

 《不思議なことに、にもかかわらずその肉体はよく動いたよ。よっぽど、働き者だったんだね。……もし、世界が違ったなら、その肉体は、その人物は、素晴らしい人間だったかもね。けれど、時代も世界も違う。兵器として悪用され、そのために、この盾をも組み込まれて利用されてきた。今はもう、それは終わった。》

 「……。」

 やがては、終わったとして。

 その言葉に、ふと先ほどのことを思い出し、心が微かに痛む。

 《……感謝しているよ、君たちには。彼を、救ってくれた。でも、不思議なんだ。なぜ、サイボーグには、いいや、『大空 大和』には、魂がないのか、ってね。》

 「……。」

 長く話し切り、最後、疑問を呈した。

 俺は、黙って聞いていて。そっと、見上げて、口を開く。

 自分の、名前を、本当の名前を言われて、だから。

 「……それは、俺だからです。俺が、『大空 大和』だからです。……どうして、この肉体に入っているのか、分かりませんが。」

 大和であるから、その肉体の大本だったから、その魂として、言葉を紡ぐ。

 なお、本体たる肉体は、今近くに骸となっていて。

 けれど、魂たる俺は、未だここにあって。

 不可思議。

 《なんと?!不完全でしか、成功しなかったことが、完全にか?!》

 「……はい。俺は、俺自身が大和であると、認識しています。だから、その、そこのサイボーグに驚いて、壊して、自分自身が今度は壊れそうになって。何だかよく分かりませんが……。」

 俺が、そのサイボーグ、骸の、本来の魂と告げたなら。

 画面のその人は驚きを隠せないようで。

 俺は、繰り返し、自分がそうであると言った。

 《驚いたな。成功するとは……。だが、何らかのアクシデントで、だろう。ううむ、もし私にも肉体があったなら、調べたくなるよ。》

 繰り返された言葉聞いて、その人は画面の中で口元に手を当て。

 悩み、さらに興味津々な様子も見せてきた。

 が、すぐに神妙な顔に戻ったなら。

 《……いや、迂闊に実験の何だの、口にできる立場でもないな。私は、なおさら君に詫びねばならない。君の肉体を、こんな風に改装して、挙句、魂は、アクシデントながら、別の肉体に移ってしまったことに。……本当は、皆、そう、自殺してしまった皆、助けたかったのに……。》

 詫びを入れてきて。区切り、何だか悲しそうにして。

 「……。」

 聞いていて、俺は、……責める言葉を示さずに、一時黙して。

 そっと、笑った。それは、彼が持つ、純水の清き使命に。想像する。

 きっと、その人は、画面の向こうのその人は、救おうとしたんだ。

 その時、フラッシュバックする最初の一幕。

 生命維持装置につなぎならがらも。

 死なせてくれと自ら願ったそれを蹴って、救おうとした。

 諦めはしなかった。助けたくて。

 けれど、結果は散々で。 

 挙句、肉体は兵器として拵えられてしまい、挙句、魂に破壊される。

 それでも俺は、責めない。

 責められるだろう、けれど、責めない。

 アビーをちらりと見て、思う。

 どんな形であれ、俺は、俺なのだ。

 どんな姿であれ、俺は、俺なのだ。

 大和なのだ、皆が言う、ウィザードを垣間見せる、大和ちゃんなのだ。

 「……どうであれ、責めませんよ、俺は。もう、いいんです。」

 故に責めない、俺は、清らかなる使命への称賛に、笑顔を交え、言った。 

 画面のその人は、俺のその様子にはっとなり、悲しみから一転。

 まるで、報われたように安らかな顔となった。

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