▲▲つ53っ! こころがいたいの?じゃあ、だきしめてあげる!

 「!!」

 「大和ちゃん!!あたしがっ……!」

 その、反応なくした俺を、アビーが突き飛ばして。

 相手のレーセを自身の爪で受け止める。

 「うにゃぁああ?!うにゅにゅにゅにゅにゃにゃ……。」

 鍔迫り合いの閃光が、アビーを襲い。相手の力が、アビーを押していき。

 劣勢なのは変わらない。

 このままでは、至る所からスフィアのレーザーで射抜かれてしまいかねない。

 力でも押されていても、なおアビーはやめない。

 「あ、アビー!!!!!」

 この時に、反応が戻った俺は、叫んだ。

 そうであっても、アビーが退かない、それは、その意思は。

 「……えへへっ!大和ちゃん、大丈夫?あたし?うん!平気平気!大和ちゃんに何かあったら、あたしが守ってあげるもん!だからね!頑張らせて!」

 屈託のない、笑顔を向けて告げた、守りたいという意思。

 いつもそうだ。アビーは、いつも俺を守ってくれて。

 ドラゴンと対峙した時も真っ先に立ち向かって。

 ここでもまた、相手に向き直って対峙する。

 「……。」

 そんなアビー見て、俺は、頭を振る。

 戸惑いも、驚きも、掻き消すように。今に集中するために。

 俺が今見るべきは。

 俺が今やるべきは。

 ここの巨大なスフィアを止めることであり。

 サイボーグにいちいち心乱される場合ではない!

 今は、現実がどうであれ、今は、アビーと共に戦うべきなんだ。

 「……っ!」

 顔を上げ、敵を見据えたならまた、駆け出す。

 「シールドバッシュ!!」

 《了解。シールドバッシュ。》

 「左手全面に、展開!!!うおぉおおおおお!!!!」

 俺は、駆け出すエネルギーに加えて、光のエネルギーも伴って突撃する。

 先の、爪撃ではない、拳の一撃。

 もし、跳躍して爪撃を放つと、アビーまで巻き込まれかねない。

 ならば、相手を突き飛ばす形で、アビーから離す!

 「アビー、避けろっ!!!」

 「!!大和ちゃん!うん、分かったぁ!!!えいっ!」

 咄嗟に避けろと叫んだなら、アビーは顔を向けて頷いたなら。

 相手に向き直り渾身の力込めて刃を弾き、反動を伴って後方に跳躍する。

 「い、一挙入魂!!!!!」

 その刹那に、拳に光を収束させ。

 また、盾からの光の膜も集めて放とうと、突き出した。

 不意に重なる、俺とレオおじさんとの影。

 これは、レオおじさんの真似だ。

 拳を放った瞬間、獅子の咆哮が聞こえたような気がして。

 強大なエネルギーのうねりは、疾走する獅子のように駆け。

 サイボーグを直撃、考えた通り、相手を突き飛ばしてみせた。

 「?!あぎゃぁああああ!!!こっちに来るなぁ!!!ぐぇ?!」

 「!」

 吹き飛ばした相手は、ついでに狂人も巻き込んだようで。

 そんな声が聞こえてきた。

 「?!」

 ならば相手も倒れたかと思ったが、しかしサイボーグはそれでも立ち上がり。

 大量に体中から血を流しながらも、立ち上がり、対峙して。

 だけれども、大量の出血に、とうとう体を崩して。

 虚ろになりゆく瞳を見せつける。

 《生体維持……不能……システム……ブート不能……。》

 言葉やがて、消え行きそうで。

 また、壊れた機械の電撃に、時折跳ねながらもその動き、緩慢になっていき。

 「?!!ぁああああああああ?!!!」

 その姿見て、感じた激痛。発狂に近い声を上げて。

 レオおじさんほどの力のない腕で放った、一撃の反動にか?それもある。

 心が、激痛する。

 前世の自分が現世の自分と対峙して、痛々しい姿を晒していて。

 その姿が、かつて苦しんだ自分と重なって。

 苦しんで崖から身を投げた自分と重なって。

 苦痛。鬱屈を越え、殺す苦痛。

 殴りつけ、相手を見据えたその時から、心に溢れてきて。

 苦痛。記憶が歌う苦痛。

 フラッシュバックして、何度も繰り返す、今まで感じた苦痛。吐き気と共に。

 それら脳の処理を上回るショック。発狂と共に、自らを保とうとするものの。

 できはしない。

 込み上げてくる苦痛に、吐き出そうとするものの、出るわけもなく。

 故に苦痛、体を巡り、毒のように蝕んでいき。

 苦痛避けたくて、嘔吐し、のたうち回る果てに俺は。

 その息絶えたサイボーグのように、体を崩して倒れ込んでしまう。

 「?!や、大和ちゃん!!!!」

 「……!」

 それを押さえてきたのは、アビーであり。

 俺の名前を呼んで、倒れそうになる直前に、俺を腕に抱えた。

 伝わる彼女の温もりに、少し癒されかける。

 「ねぇ……。大丈夫?や、大和ちゃん、その……痛む?」

 「……。」

 この状況にも関わらず、優しい声掛けが成されて。

 けれど、答えられない、あまりに痛み過ぎて。

 「腕が、痛いの?」

 「……。」

 辛うじて、首が動かせて。俺は、微かに首を縦に振った。

 だが、それだけじゃない、心までも、痛む。 

 ショックに口が利けないでいる中、伝えるのは難しく。

 「よぅし!おまじない掛けてあげる!痛い痛いの、とんでけ~!」

 「……!」

 アビーは、そっと。

 俺の、レオおじさんと同じ技を放った腕に手をあてがったなら。

 優しく撫でるように動かす。

 スフィアを器用に扱えたなら、多分治癒の方法を使えただろうが。

 残念ながらアビーには扱えなかったようで、直接撫でてくる。

 痛みにか、涙が零れて。

 「!や、大和ちゃん?!だ、大丈夫?!い、痛かった?!ご、ごめんね!」

 「……いいや……違う。」

 アビーは痛くしてしまったと勘違いして、不安そうな顔を見せ。

 また、謝ってくるものの、俺は違うと首を横に振り。

 また、ようやく口が利けたか、言葉も交えて。

 「心が……、痛い!!」

 苦悶ながら言葉を紡ぐ。

 最も痛む場所を、口にする。

 「!むぐぅ?!」

 したならば、アビーは俺を抱き締めて。丁度その時、アビーの胸が眼前に広がり。

 そうなると、顔も、体全体も、温もりに包まれて。

 零れる涙が、不意に温かいものに変わり。

 「よ~しよ~し!えへへっ!こうすると、心が痛くても大丈夫なんだよ?ねぇどうしたの?あたしに話して?」

 温かく、柔らかい口調で言ってきた。

 「……あれは、あの機械兵、いいや、サイボーグは……。」

 その温もりに柔軟になった口は、きちんと動き、言葉を紡いでいき。

 震えながらも、彼女に伝わるように紡いでいき。

 「……俺だったんだ……!!!過去の、前の、前世の、転生する前の俺だったんだ!!!ぐ、うぅう……。」

 伝えたなら、嗚咽した。

 「……。」

 静かに聞いていたアビーは、優しく俺の頭を撫でるだけで。

 自分は、俺の涙で濡れていくにも関わらず。

 「……えへへっ!よく分かんないや。」

 「え……?」

 撫でる様な声で、ぽつりと言ってくることには。

 どこか、的を得ないことに、俺はつい呆然としてしまい。

 「でも、あたし思うんだ。大和ちゃんは、大和ちゃんだよ。昔の姿って言われても、よく分かんないし。でもね、大和ちゃん!大和ちゃんは、あたしの腕の中にいる、大和ちゃんじゃないの?大和ちゃんは、死んでないよ?大和ちゃんは、あたしの胸の中で、赤ちゃんみたいに、泣いているじゃない!ねっ!見て!」

 「……あ、アビー……。」

 それは、アビーだからこそ出た言葉。

 よく考えない、無鉄砲、でも、素直で、優しくて。

 俺を、手助けする、手助けしてきたアビーだからこそ、出せた言葉。

 顔を上げて、アビーを見たなら。

 スフィアの発光と合わさって、神々しく思えてきて。

 聖母。形容するに、その言葉がまず浮かび。

 俺が、アビーを見たなら。

 顔を上げたと気づいたアビーは、母親のようににっこり笑顔を見せてきた。

 それが、その神々しさに、余計に涙が溢れてしまい。

 また彼女の胸に顔を埋めてしまった。

 アビーはそんな俺でさえ、優しく抱き留めて、頭を撫でて。

 「えへへっ!今度は大和ちゃんだったね。こんなに泣いちゃって。」

 「!」

 優しく声を掛ける。その時はっとなり、顔を上げて思い出すことには。

 あの、鉱山での一幕。俺が、ウィザードとして初めて活躍した場面。

 怖さに、美しさに、アビーは涙していた。

 今度は、耐えられない痛みに、俺が涙する。

 皮肉と、アビーの見せた、柔らかい笑顔に、こちらの頬も緩んできた。

 「うん!元気になったね!!」

 「……。」

 まだ、元気戻らないながらも、アビーに応えるために、俺は頷き、笑顔を見せた。

 「大和ちゃん、それに、皆、待っているよ?皆、大和ちゃんが、止めるのを、待っているんだよ?ほら、目を瞑ってみて。」

 「……。」

 続けることには、要望で。

 未だ戻らない元気ながらも、言われるがまま目を瞑ってみたならば。

 皆の姿が瞼の裏に見えてきて。

 外ではサカマタさんや、あの隊員さんたちが戦って。

 空では戦闘機たちが舞い踊り。

 この壁の中では、マフィンやレオおじさんが戦っていて。

 そう、俺に、俺とアビーに託されている。

 成さなければ。

 この巨大な壁から発生するシールドバッシュに、弾き飛ばされてしまい。

 皆が、やられてしまう。 

 そのイメージまで見えたなら、俺は目を見開いた。

 その時、苦痛が退いて。

 「!大和ちゃん!」

 「……アビー。……ありがとう。」 

 自らを奮い立たせて、合わせて。

 アビーに介抱されながらも、俺は立ち上がってみせた。

 みせた上で、巨大なスフィアを向いて、見据える。

 「!」

 ふとその時、動く影を見た。俺とアビー以外に、動ける者はさて。

 ……それは、狂人で。打撃を喰らいながらも、まだ動けるみたいで。

 「くっ!!くそぉ!!!や、役立たず!役立たず役立たず役立たず!!ゴミ、ゴミゴミゴミゴミ!!スクラップ!!冷凍保存され過ぎたゴミ!守れ、守れよ、せめてせめてせめて!!!あああああ!!!」

 「……。」

 サイボーグ、重たかっただろう。

 それが直撃してもなお、元気に喋るな、と感心し。

 また、ここにおいてもなお、狂人として振舞えるなと、呆れもする。

 戦えるものじゃない、それでもなお、諦めず抗おうとするのは、性質なのか。

 あまり、抵抗力のない相手をするのは、気が進まないが。

 相手がそうするならやむを得ない。

 それに、降参し、大人しく言うことを聞いてくれるなら別で。

 それなら、これから不快な思いもしなくて済むかもしれないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る