▲▲つ47っ! きゅうしゅつ!

 「へへへ。まあ、その内慣れる!それよりも、見てみ?」

 傍ら、サカマタさんはアドバイスを与え、加えて、指示してくる。

 その視線と指先には。

 整然と、また、地平線かと間違えるほど一直線が見えた。

 だが、近くの砂山と比べたなら高く。

 言うなれば、壁。

 あの時聞いた通り、確かに長城だ。

 「たーいちょー!いつでも出発できまっせ!」

 「!」

 さて、サカマタさんの仲間が声を上げ、手を振って見せることに。

 彼ら、出てすぐの場所にいて。

 また、その背中には。

 砂漠に合わせた色合いの、大きなトラックが数台、その存在感を示している。

 準備ができたと確信信じ、にやりと笑むサカマタさん。

 「うっしゃー!ビスト救出作戦兼通称・長城郷愁作戦!発令!!」

 吠える様に言ったなら。

 「「うぃぃいいいいいいいい!!!!」」

 怒号と共に、サカマタさんの部下たちもまた、吠えて。

 一斉にトラックに乗り込んでいく。

 「?」

 だが、不思議に思う点が。トラックの数が、隊員を運ぶ数以上に多い。

 それは一体なぜ?

 「あの、サカマタさん……。」

 「ん?」

 「何だか、トラックが多くないですかね?」

 聞いてみることにした。

 「そりゃそうさ。収容所のビストや、潜入している他の隊員のピックアップも兼ねてんよ。多くなきゃ、だめじゃん?」

 「……なるほど。」

 当然という顔で、言い出したなら。俺は、納得を示す。

 そのための備えでありというわけらしい。

 「ま、歩いたり走ったりするより、速いしね。これなら、1時間も飛ばせば、楽に脱出よ!」

 「そ、そうですね。」

 付け加えることに、徒歩を使うよりは、速いでしょ、と。確かにそうだ。

 昨日の話では、徒歩で2日と聞いていたし。

 「んじゃ、行こっか。」

 説明は以上で締め括られ、サカマタさんはトラックを指差してくる。

 その様子堅苦しさはなく、まるで、ドライブにでも行くかのようだ。

 「……ええ、分かりました。」 

 「うぅ……。目が痛いけど、分かったぁ!」

 俺とアビーは頷いて、サカマタさんに従った。


 唸りを上げて走る、トラックの一団。

 砂煙上げながら、例の巨大な壁目指して突き進んでいく。 

 「……。」

 空いているトラックに乗り込んだが。

 砂煙と巨大なエンジン音に負けず、歌が聞こえてきた。

 互いに奮起し合うそれは、らしくもあるが。

 ちらりと見た、彼ら彼女らは何だか似つかわしくない。

 そのギャップに、少し面白く思えて、笑みが浮かぶ。 

 やがて、俺たちは壁が、それも見上げきれないほど高く望む場所まで着いた。

 「!!」

 まだ近くまではない。

 にもかかわらず、ここまで高いとは。感心してしまいそうだ。

 「!」

 また、その近くに建物を見付ける。

 剥き出しで、しかし、高い柵で外界と隔たれた、広大な区画。

 まるで、家畜小屋だ、そう思わせる大きな建物がいくつか。

 収容所とは、これか、そう思わせてくる。

 また、その近くには、ボロ布で作られた、粗末なテント群。

 それら、貧民の様相を感じる。

 「……。」

 収容所を彩るそれら、悲壮を催してくる。

 ここには、もしかしたら、帝国から出て行った。

 貧しい人たちも、追放された人もいるに違いない、そう思えると。

 トラックを降りたなら、しかしいきなり突入することはない。

 双眼鏡片手に、皆周辺を見渡している。

 俺は、何も見れないものの。

 サカマタさんは逆に見て、ニヤニヤと笑みを零していた。

 「よ~し、よ~し。だ~れも気づいてなぁ~い。」

 呟いていた。

 「あ、ほれ。あんたも見てみ?」

 「!あ、ありがとうございます。」 

 様子を見せてあげると、サカマタさんは双眼鏡を手渡してきた。

 礼を一つ述べては、受け取って、目に当てて、その先の世界を見た。

 収容所らしい。入り口には、歩哨がいて、周辺を鋭く見据えていた。

 高い所に塔があり、そこからは内部をよく監視できるみたい。

 「?」

 また、収容所内の、外庭みたいな場所には、何か人だかりがあり。

 視線を追うとそこには。

 「!」

 ビストがいた。縛られて、貼り付けのような状態にされて。

 傍には、帝国の兵士だろうか。

 そのビストに棒をあてがっては、思いっきりその肉体をぶつのだ。 

 「うぅ!」

 見ていられない。そのぶたれた時に、苦痛の咆哮を上げている様子が伺えて。

 「!ど、どうしたの、大和ちゃん!!」

 俺が目を逸らしたのを、アビーは心配そうに見て言う。

 「!あたしも見る!」

 それが、俺の手にしていた双眼鏡の先であると察したなら。

 アビーは俺の手から双眼鏡を取り、同じように見たなら。

 「!ひっどーい!!」

 そうコメントした。

 アビーも見たなら、珍しく悲しそうな顔をして。

 「助けなきゃ、だね。」

 ぽつりと言った。俺は、何も言うことなく、アビーに従うと頷いて。

 その上でサカマタさんを見る。

 期待の視線をやるも。

 「……わりぃ。気持ちは分かんだが……。これ、奇襲作戦じゃない。あたいらは迂闊に動けんのんよ。」

 「……はぁ……。」

 「……。」

 この瞬間に、突撃の号令でも掛けるかと期待したが、裏切られ。溜息漏らす。

 けれど、立場上仕方のないことなのかもしれないな。

 「だがよ。」

 「?」

 しかし、続きはあるようで。

 「行きたいんだろ?」

 「!」

 ふと、その一言に期待が湧いて来て。

 「止めたって、あんたら行きそうだし。そこは止めない。あたいらは、命令待ちの哀れな兵士だが、あんたらは自由だ。行けよ、ウィザード。あんたらは、ここに風穴開ける、ファクターさね。あたいらは動けないが、あんたらは動ける、その自由を活かせ!」

 「!!」

 言い切って、サカマタさんは拳を突き出してきた。

 それを目にして、ふと、レオおじさんの姿とも重なって。

 レオおじさんにやったのと同じように、俺もまた拳を突き出して、重ねた。

 サカマタさんは、そっと笑い。

 もう片方の手を、ポシェットにやり、何かを手探りしたなら握り締め。 

 俺に渡してくる。

 「!」

 手渡されてきた物は、バッジのような物で。

 シャチを象ったそれは、だが、単なるバッジではなさそうだ。

 電子機器の明かりが見え。

 また、電波のマークもあることから、通信機であると理解した。

 「ちと餞別にゃ、物足りないがよ、渡すぜ。これで、あんたらもあたいの仲間共和連邦の一戦士よ!……行ってこい!そして、暴れてこい!あたいらは、あんたの一撃に続くぜ!」

 言って、にやりと笑った。

 「……。」

 俺は、こっくりと頷いたなら、それを胸に付けて。

 「アビー、行こうっ!」

 「!うん!」 

 アビーに目をやって、手を差し出した。

 アビーは自信満々の、いつもの笑顔で頷いたなら、その手を取った。 

 サカマタさんは、動けないが、見捨てるわけじゃない。

 そう、俺が、俺たちが風穴を開ける。

 その瞬間を待っているのだ。

 ならばと、その期待に応えるならばと。

 サカマタさんに、信頼を込めた一礼をして、駆け出した。

 ボロ布の村をひたすらに真っ直ぐ、疾走して。

 スフィアを輝かせて、俺たち二人、輝いて。

 「……!あれは……?!」

 途中、俺とアビーの、そんな、流星のような疾走を見て。

 ぽつりと呟く言葉を聞く。

 構ってはいられない俺とアビーは、立ち止まらずに駆け抜けて。

 やがて、外界隔てる、有刺鉄線の収容所へ辿り着いた。

 「!」

 眼前に望む、私刑の現場。

 先ほど、双眼鏡から見えた光景の続きで、そのビストは、何度も殴られていた。

 そのビスト、猫の人のようで。現に、猫の耳がその証明だ。

 その人物は、何度も、力強く、棒で殴られて。

 衝撃に至る所が痣に、あるいは破けて血を流していた。

 荒い息ながらも、生きてはいる様子で。

 ここまで、歯を食いしばって耐えてきたか。

 「……助けなきゃ……っ!」

 アビーがぽつりと呟く。俺は否定せずに同意して。

 「サカマタさん……。」

 胸に手をやり、こちらも呟いた。

 心に誰かを思い描いて、進もうとする風に見えなくもないが。

 手は、胸に付けた、例のバッジにやっており。すると、雑音が聞こえて。

 《おう!到着したか!》

 「!」

 サカマタさんが、声を出して。つい、はっとなるものの、安心して。

 《やれよ!ド派手によ!》

 「……はい。」

 その一言に、同じく頷いたなら。

 励ましの言葉に、頷いたなら、柵を、柵の先の、私刑の場を見たならば、構える。

 呼応し、浮遊するスフィア多数。

 「行けっ!」

 その言葉掛け、手をやったなら。

 スフィアたちは代わりに、光を伴って飛行していく。

 清らかな高い音色が聞こえたなら、光弾が走り。

 また、俺とアビー、それを合図に突入する。

 アビーは自分の手に、光の刃を走らせて。

 俺はレーセを手に取り、光の刃を走らせて。 

 柵を焼き切り裂いて、突入した。

 途端鳴る、数々の警報。

 「な、何だ?!」

 「侵入者か?!」

 途端響く、怒号。

 その時に俺たちは、私刑の現場にあった。

 磔にされたビストを救出していた。

 「ええと、だ、大丈夫ですか?」

 その人、貼り付けにされていた男の人を支えたなら。

 荒い息を吐きながら、口が動くのを目にする。

 〝大丈夫〟そう呟いているように見えるが、それだけではない。

 何か他に、呟いているみたいで。

 そっと耳を澄ましたなら。

 「……攻撃……開始……。プラン……B。」

 「……?」

 何か、意味の分からない言葉が聞こえた。首を傾げてしまう。

 すると、胸元の通信機からまた、独特のノイズ音が走り。

 《……了解。攻撃プランB。猫!猫!猫!魔術師来たり。》

 「?!」

 サカマタさんとは違う、別の通信が。

 なぜと思って周囲を見渡したなら、収容所に入れられて。

 囚人服を着せられたビストの一人が、こちらを見て、時折目線を外して。

 ぼそぼそと何かに向けて喋っている。

 まさかと思ったなら、そのビストは、徐に背中に手をやったなら。

 レーセを握り、光の刃を走らせた。

 また、先の通信を皮切りに、収容所の至る所からも。

 外にある、ボロ布のテント群からも、光の刃が見えた。

 囚人服は脱ぎ捨てられ、下の服が丸見えに。

 その腕に描かれたエンブレムは、共和連邦のそれであり。

 そう、サカマタさんの言った、海兵隊だ。

 ボロ布は光に焼き払われ、露になったことには、数多もの重火器で。

 一部には戦車さえ見えた。

 《うぉっしゃー!!でっかい花火ぶち上げっぜぇええ!!》

 

 「?!さ、サカマタさん……。」

 あの合図は、どうやら後方のサカマタさんにも伝わっており。

 これ幸いと、歓喜の声を上げ。 

 また、サカマタさんの一同も、同じく、通信に凄まじい雑音をたなびかせていく。

 どうやら、全速力で移動しているらしい。

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