▲▲つ45っ! ていこくへのみちしるべ!

 「……あの、何か……。」

 気になって来る。ぽつりと聞いてみたなら。

 サカマタさんは何か思いついたか顔を上げて。

 「……ちょっと待ってろ。色々と説明してやりたい。」

 「?」

 何か持ってくるために、言って奥へ引っ込んだ。

 「!」

 ゴソゴソと物音を立てた後、地図を丸めたような物を持って来た。

 大きく広げたなら、ほぼ真っ平な地形だけが描かれた物で。

 ……地図……なのだろうが、あまりにも情報がなさ過ぎた。

 「……?」

 初見で俺は、疑問に首を傾げてしまう。

 「あちゃ~。そう反応されるかぁ。」

 「?」

 俺が見せた反応に、サカマタさんは困ったような表情をして。

 「ええと、それはまた、何で……?」

 「いやさ~。帝国ってね、真っ平な地形しかないんよ、基本。もうね、山も川も森も、なくてさ。……もうね、何もない不毛、砂漠ばっかり。」

 「……えぇ……。」

 聞くなり、帝国の現状を伝えてくる。

 現状を知って、言葉を詰まらせかけた。

 「ええとね、ここは、帝国の端っこの、海岸線辺りなんだけど……。」

 「……は、はぁ。」

 そうは言ってもと、続けるなら。

 より詳しく、知ってもらうために、現在位置を示して。

 確かに、端っこの海岸線だ。

 サカマタさんはまた、ペンを取り出しては。

 印をして、より分かりやすくするしてくれる。

 「んでよ、こっから南以外のどの方角を行っても、砂漠ばっかり。何もないんよね。」 

 「はぁ。」 

 あちこち矢印を付けて、経路を伸ばしても、どこにも他の表示はなく。

 例えば、地図記号や、等圧線何かは、見受けられない。

 完全に、何もない、無の空間ばかり。

 「分かった?」

 「ええ、分かりました。」

 「よ~し。帝国が砂漠まみれの、ひっどい世界だってのが、これで分かってもらえて良かったよ。さて、こっから本題だな。」

 「!」

 まずは、地理の概略であって。

 その段階は過ぎたとサカマタさんは次に移りそうだ。

 俺は、話を追うために集中して。

 「帝国ってのは、この砂漠、いや、この大陸一帯だが、いわゆる首都とか、中心地ってのも、この砂漠を突っ切った先よ。」

 「……はい。」 

 サカマタさんは言って、示した現在位置より、真っ直ぐ長く。

 丁度砂漠の中心に当たる場所まで線を引っ張っていく。

 首都……帝国の中心のようだ。

 「帝国をぶっ飛ばしたいなら、ここだね。あ、でも、直接、それも何事もなくぶっ通しで歩いて一週間、色々あったら10日かかるけどね。」 

 「……はい。……うぇ?!」

 そこまでの距離は、一週間ほど歩いた距離だが。

 砂漠だ、何があってもおかしくはないようで。

 その距離は長く、聞いて俺は変な声を上げてしまった。

 けど、それは、あくまで首都を。

 つまりは帝国をぶっ飛ばしたいなら、って話だろうけれど。

 俺は、何よりの目的は。

 あの幼子の母親を探しているのであってそれではない……はず。

 「ま、多分それが目的ではないだろうけれど。あたいらが調べた情報だと、多分ビストたちを収容している施設だろうね。」

 「え、ええ。」

 帝国攻略が目的ではない、汲み取ってくれた。

 では、考えられるのはと、提示してくれる。

 有難く思い、頷いた。

 で、その施設とは?続けられることに。

 「……帝国の中央より、大分手前の場所、ここから、まあ2日も掛ければ行ける所に、剥き出しのままある、……う~ん刑務所っぽい所?かな。」

 「!」

 悩みながらも、サカマタさんは言って、帝国の首都までの直線状にて。

 ここからかなり近い所に、大きく丸を描いて見せた。

 「ここ、ここ。ここだろうね。あたいらの偵察だったら、ビストが今収容されている場所。推測だけどさ、ここから領土内の研究所みたいな所に連れて行かれて、実験とかされるんだと思うよ。」

 「なるほど。そこを目指せば、いいんですね。」

 俺たちが目指すべき場所は、決まった。その、収容所だ。

 そこにきっと、あの幼子の母親が、いるに違いない、ふと期待が溢れる。 

 「あとさ、う~ん。」

 「?」

 ただし、と何か続きそうだ、サカマタさんは悩み唸る。

 「収容所自体には問題ないんだけどさ、その近くがねぇ……。」

 「??」

 唸った後に。

 その収容所を示した部分に接する、帝国の首都を中心とした円を描き始めた。

 「これがねぇ~……。」

 「?これは?」

 何だか、深刻そうに続ける。俺は、何だろうと覗き込むと。

 「帝国の、防衛ライン、陥落不可能の要塞、その長く広大にある様子から、長城とも呼ばれるんよ。帝国の中心以上に、厳しい防衛ライン。ここだけで、この大陸全土をカバーしとるん。厄介なもんよ。」

 「……はぁ。」

 城壁……と形容できるが、もっと違う。

 長城のようなもので、帝国と外界を隔てているもののようだ。

 それも、巨大な。

 サカマタさんは、あまりよろしくない顔のようで。

 「ここから収容所含む周辺は丸見えでね、迂闊に踏み込むと、大ケガよ~。」

 「……。」

 危険地帯であり、近付こうにも困難だと、言わんばかりだ。

 加えて、不安がよぎる。

 このままでは、あの幼子の母親さえ取り戻すことができずに。

 敗走みたく帰ることになるのでは?

 「ちょいちょい。」

 「?」

 何か、密に話すために、俺に耳を貸してと手招いてきた。

 何だろうかと耳を傾けたなら。

 「やっぱり、帰った方がいいぜ……。送ってやんよ。」

 「え~……。」

 心配そうに、悲しそうに言ってきた。

 それも、やはりなことで。

 なお、決して、俺が弱すぎて、足手まといだからとか、ではなく。

 本気で心配して。

 言葉は返せないが、それは受け入れられないと、唸り。 

 「……いやさ、勇敢なのもいいけどよ、命まで賭けることじゃないぜ?それによ、責められんさ、相手らを考えたら。な?」

 「う~……。」

 諭されるように話される。悩みに軽く唸るものの、だが、心変わりはない。

 「……ええと、その。見ず知らずの俺を心配してくれて、ありがとうございます。ですが……。」

 「?」

 その悩ましさも、諭しも振り払ったなら。

 あの時決めたことを、嘘にしたくないと言い出す。

 もちろん、最初に俺への心配をしてくれたことに感謝をして。

 しかし、ここで逃げ帰るわけにもいかず。

 何よりそれは、あの時見送った。

 あの時、俺を〝ウィザード〟と慕ったあの幼子へ示しがつかない。

 脳裏によぎる、その信頼、再会した先の未来、俺は裏切れない。

 「……今更、帰るなんて言えませんよ、皆の場所に。」

 そっと、笑顔を向けて言い切った。

 「……。」

 その笑顔に、覚悟見抜いたか、サカマタさんは心配の顔をやめて。

 真剣な眼差しを向けたなら。

 「ま、覚悟あって来てんもんな。わりぃ、変なことを聞いて。んじゃ、止めないよ、もう。」

 「……ありがとうございます、理解してくれて。」

 さっきまでのことはもういいと、差し置いてきた。俺は、礼を言って。

 「……覚悟あんならな、よく聞けよ。」

 「?」

 ならば、とサカマタさんは続けて。広げた地図にペンを立てたなら。

 「べらべら言いたかないが、作戦があるんよ。」

 「……。」

 言って合わせて書き出したなら、太い矢印を引き、収容所にバツ印を描き。

 そこから太い矢印を動かし、今度は例の防衛ライン、長城の一部に近づけ。

 そこにも同じほどのバツ印を付けた。

 最後、その太い矢印は、帝国の首都へ向かう。

 「収容所のビスト奪還と、長城の攻略を同時並行に行う。なぁに、長城の一部でも突破できれば、後は空軍、陸軍が総出で殴り込みよ。」

 「はぁ……。」

 作戦があるようで、簡単に言うと、同時に攻略するというもの。

 生返事一つ返すだけだが、聞き入って。

 「……上手くいけば、その娘の母親、見つけられるかもな。」

 「……ですかね……。」

 この作戦が上手くいくなら、俺の目的も達成できる、といった具合。

 俺は、そうならばと、軽く頷いた。

 なのだが、サカマタさんの懸念がそこから見え隠れしていた。

 「……。」

 「……?」

 不意の押し黙りに、首を傾げ。

 「なあ……。」

 「?」

 何か決めて、口を動かしてくる。

 「……ひょっとしてあんたらとあたいら、目的同じじゃね?」

 「……考えようによっては……。」

 紡ぐことには、目的はほとんど同じ気がして。

 俺も、何だかそういう気がしてきた。

 「……。」

 目的が一致した瞬間、また押し黙った。

 だが、すぐに向き直ったなら、いきなり拝み手を見せてくる。

 「……なぁ、頼む!」

 「?!」

 「……協力してくり?」

 「……えっ?!」

 それは願いであり、いきなりのそれに俺は、思考が停まり。

 言葉を詰まらせてしまった。

 「この通りだ。……あたいは、あんた見て思ったんよ。ウィザードってんならこの状況にでかい風穴開ける、そんな存在だって。あんたの登場、正直、予見していない。なら、賭けてみたいんよ、そのウィザードたらしめる、あんたの使命か何かによ……。」

 重ね掛けされる、願い、俺は圧倒されてしまい。

 「……。」

 言葉は詰まらせたが、しかし、思考は回る。

 悩むことはない、どの道、一緒なら協力してもいいかな、思えてきた。

 「……ええと、その、待ってください……。」

 だが、結論出すのを早めなくてもいい。

 ワンクッション置くために待ったを掛けて。アビーを見つめて。

 「……。」

 しかしアビーは、俺とサカマタさんが何か話しているのもつゆ知らず。

 寝息立てて、その場に寝そべっていた。

 ……アビーらしいや。まずそう思う。

 「……アビー……。ちょっと相談が……。」

 「うにゃぁ?!」

 そっと体を揺すって言ってみることに、アビーははっと起き上がって。

 「あ、え、えへへっ。あたし、寝ちゃってた……。ごめんね。」

 「……いや、いいよ。夜も遅いし。」

 寝ていたことをまず謝罪したものの、俺はいいよと制して。

 「……っと、大和ちゃん、なぁに?」

 眠い目こすりながらも、俺の要件を反芻してくれたようで。

 「……ええとさ、相談があって。サカマタさんが、あの娘、ほら、帝国に出掛ける前に会った幼子、その母親の場所を知っているんだけど、そこで、作戦があるらしいんだ。協力できないかなって。」

 相談内容を、関係ながら言うと。

 「!お手伝い?いいよっ!」

 「……即断だね。」 

 言うと思っていたが、元気よく、悩むことなく了承してくれた。

 やっぱりそこはアビーらしいや。

 こちらは結論出たと、サカマタさんに向き直ったなら。

 「俺もアビーも、大丈夫です。手伝わせてください。」

 「!!」

 拝み手に、ずっと願い続けるために顔を伏せていたサカマタさんは。

 その一言を聞いて顔を上げて、喜びの色合いに染まり。

 「ありがて~!!!」

 まるで、神様に感謝でもするかのように言っては。

 深々と地に、頭を擦り付けるように下げた。

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