▲▲つ42っ! おふねうごかしてあげる!

 「ええと、船はいいとして、……どうやって動かそう。」

 「……あ……。」

 ぽつりと思いついた一言に、アビーは固まる。

 《残念ながら、安全な動力は確認できません。》

 「……?」

 盾は残念そうな言葉を告げてきた。

 俺は、やけに引っ掛かるなと、首を傾げてしまう。

 安全じゃない方法はあるのかな。

 「ちょっと待って。安全じゃない方法はあるのか?」

 《シールドバッシュを用いれば可能。ですが、高い確率で失敗します。転覆し溺れる可能性、99%。》

 「……。」

 聞いてみたならば、例の盾が行う。

 シールドバッシュがあるようだが、安全性は保証できないらしい。

 聞いて後悔した。

 《では、シールドバッシュ、使いますか?》

 「……やめておくよ。」

 その上で、使用するか聞いてくる。冗談かどうか、判別はつかないが。

 やめておくことに、越したことはないよね、断る。

 「?大和ちゃん、じゃあ、どうやって動かすの?」

 「……聞いていたか……。」 

 傍で聞いていたアビーが一言言ってきた。

 「……どうやって動かそう、実は思いつかないんだ。」

 残念ながら、アイデアが思い浮かばない。そう告げ、少し俯いた。

 「大丈夫っ!あたしがいるよっ!こういう時は、後ろから泳いで押せばいいんだよ!」

 聞いていたアビーは明るく言っては、アイデアを出してきた。

 「……けど、泳げるの?」

 ……ちょっと意地悪かもしれない、つい聞いてしまった。

 聞いてしまったならアビーの顔に少し陰りが出て。

 「え、ええと、その、ええと、あの……。」

 らしくなく、言葉が上手く紡げないでいる。

 「……ええと、もしかして、泳いだことがない?」

 フォローのために、聞いてみることには。

 「……うん。だって海って、初めてだし……。」

 残念そうにアビーは答えた。

 「……ごめんよ、さっきのは聞かなかったことにするよ。」

 泳げないわけではないが、自信はない。

 聞かなかったことにすると、この話題を取りやめた。

 「う~、……どうしよう!」

 「……。」

 そうであっても、思考をやめないアビー。

 俺は心配そうにちらりと彼女を見ていた。

 「そうだ!」

 「!」

 見事、悩んだ末に閃きを見付けた。

 アビーは顔を上げて、いつもの笑顔を向けたなら。 

 俺は、その笑顔に期待を寄せる。 

 「……お祈りっ!」

 「……がくっ!」

 そのアイデアは、……祈ることだった。

 言うなりアビーは、そっと両手を結んで、祈るように目を瞑る。

 聞いていた俺は、ショックのあまり危うく海に落ちそうになった。

 「また、何てことを……。」

 「えへへっ。大和ちゃんこうやったら、助けが来たから。だからあたしも、ここでやってみようかなって。」

 突っ込みを入れようと言ったなら。

 祈りに目を瞑りながら、その根拠を述べてきた。

 それは、鉱山で閉じ込められた時に、まず俺がしたことであり。

 ……ただ、あれは偶然だっただろう。

 あまり根拠にもならないよ、そう思ってしまうものの。

 「……それしかないか……。」 

 これ以外に、できる方法がないならと、俺は諦めて、アビーのように祈った。

 すると。

 《警告!ロックオン。》

 「……ここでっ?!」

 何かの反応がある。が、いい知らせではなさそうだ。

 どうやら、願いは叶わなかったようだね。

 俺は、盾を構えて、加えて、スフィアを展開したならば。

 「と、とにかく、フォトンシールド!」

 防御のために、コマンドを口にした。

 《フォトンシールド・オービタル。》

 コマンドは反唱され、盾はスフィアにエネルギーを伝達。

 スフィアは光を伴い膜を作り上げていく。

 その上で、盾は光を集める板を展開する。

 「?!ビスト……?!」

 「?」 

 すると、どこからか誰かの声がして、俺は首を傾げる。

 その時、目の前の海面が盛り上がったなら、人影が現れた。

 「?!うわぁあ!!食べないでぇっ!!」

 「?!うにゃぁあ!食べないでぇ~!!」

 つい言葉が先走り、出てしまう。アビーもまた、同じセリフを口にして。

 「いくらあたいでも、ビストなんか食うかぁー!」

 姿はっきりしたなら、その人物が吠える。

 「ふぇ?!」

 「えっ?!」

 はっきりとした人影に、言われ、俺とアビー二人呆然として。

 その人影、姿、ウェットスーツを着て。

 シュノーケルと潜水ゴーグルを顔に付けている。

 ウェットスーツは、黒を基調としたもので、滑らかな白色の斑点が目立つ。

 何となく、シャチを思わせる。

 シュノーケルと潜水ゴーグルを外したなら。

 黒髪に短髪で、鋭い瞳の女性の顔が現れた。

 こちらに向けて構えていた、銛状の得物を下げ、意外そうな顔を向けている。

 「ええと……。」

 未だ我に帰らない俺は、どうこの状況に口を出そう。

 「あんたらビストだな。なら、同族のようなもんだ。あたいはサカマタ、まあシャチの別名。種族は〝シャチの人〟だね。いやぁ、驚かせてごめんよ。」

 「!」

 一方で、ウェットスーツの人、サカマタさんは、俺たちがビストと分かるや。

 そっと笑って、自己紹介を始めてきた。

 はっとここで、我に帰った。

 「ええと、俺は……。」

 「んとね、あたしはアビー!猫だよ!」

 「……同じく猫の、大和。」

 我に帰ったなら、言葉を紡ぐ。

 どうやら、アビーも我に帰ったようで。

 重ねる形になったが、自分のことを話した。

 「!〝大和〟っ……!」 

 「?」

 名前を告げたなら、俺の名前にサカマタさんは驚いたような表情を示す。

 どうしたのだろう、俺は首を傾げたなら。

 「あの、〝ウィザード〟のかっ?!」

 「!」

 サカマタさんが続けることには、例の誉れ高き名前で。

 俺はなぜ知っているのだろうかと、気になってしまう。

 「な、なぜ、それを?」

 口にしたなら。

 「知っているも何も、もうあたいら、〝共和連邦海軍極東方面部隊〟の皆、噂で持ち切りよ!自分でウィザードと言って、しかも、それに違わない実力を持つとさ。ふぅぅむ……。」

 「?!」

 理由はどうやら、噂のようで。

 また、サカマタさんは、言葉を区切っては俺をじろじろと見だした。

 その行為に、つい顔を赤くしてしまう。

 「……複数のスフィアを使って、バリアを形成しているし……。噂通り、並みの使い手じゃない、ってことは確かだね。」

 呟いて、確信の顔をした。 

 「いやいや、すっげーな!よっしゃ、握手してもらお!」

 「?!」

 確信したならしたで、まるで有名人にあったような様子で喜び。

 挙句、握手まで求めてきた。

 その行動に、俺は目を丸くしてしまって。

 サカマタさんは、得物を背中に収めたなら。

 両手を出して、俺の手をがっしりと握ってきた。

 「くぅ~!!さいこー!」 

 歓喜の声を上げ、手を上下させた。

 「?!わ、わ?!お、落ちる!落ちる?!」

 力強さに、今俺たちが乗っているボートは、グラグラ揺れて。

 また、その震源たる俺は、今にもバランスを崩して落ちそうだった。

 「っとと。すまねぇ。つい調子に乗ってしまって。いやさ、うちら海軍中に噂が広まっててね、ついつい。へへへっ。」

 「……ほっ。」

 ぎりぎりの所で離してくれた。

 頭を掻いて、すまないと言って笑う。悪意はなさそうだ。

 「さて、と。ここで何しているんだい……と聞きたいところだけど、大体見れば分かるわな。」

 「!」

 自己紹介といい、やれ、噂がどうのといいはさておいてと。

 サカマタさんは切り替えて、状況を把握してくる。

 俺たちが乗っている物を見て、理解してくれたみたいだ。

 「大方、艦載されたマキナに乗って、脱出して、うちら海軍の飛行隊に撃墜された、って感じかな。」

 「!よ、よく分かりましたね。」

 「あたいら散々煮え湯を飲まされたからねぇ。そりゃ、意趣返しもしたくなるわな。その、何だ、申し訳ない、巻き込んじまったなぁ。」

 その通りに、語っては、俺を落としてしまって。

 そのため、謝罪の一言を付け加えてきた。

 自分が落としたわけじゃないのにも関わらず。

 「!い、いえ、気にしてませんよ。それに、俺やアビーも、例の空母の中でバレそうになって、逃げて……。ちょっと必死だったから。」

 「……あんた、優しいね。」 

 その謝罪に、気にしていないと言ったなら、申し訳なさそうな顔はそっと笑んで。

 「……ま、何だ、詫びじゃないが、どっか連れて行ってやるよ。どの道、その状態じゃなにもできないだろ?」

 「!そ、そこまでしなくても……。ん?!」

 そのお詫びとして。

 自分たちにできることは、っとサカマタさんが言うことには。

 どこかに運ぶとのことで。

 俺は、最初そこまでしなくてもと断ろうと思ったが、ピンとくる。

 合わせてアビーも、キラキラと顔を輝かせていて。

 そう、これは、渡りに船というやつだ。

 これは、救いなのかもしれない。

 今現在、どこへ行こうにも、ほとんどできないのだ、これは本当に助かる。

 ……案外、お祈りも役に立つんだね。アビーのその輝いた顔を見て思う。

 また、思うことも。

 ……お願い、叶ったね。皮肉にも思う。

 「ええと、その、よろしければ、だけども。」

 「おう!」

 「……帝国に行きたい。」

 「!……。」 

 渡りに船だと、ならば、願いはと口にしたなら。

 最初、何でも来いという表情だったサカマタさんは、告げたなら固まる。

 ……まずかったかも。

 「……ええと、無理でしたら、どこか、安全な場所に移動させてもらえたら助かります。」

 ビストである以上、帝国はやはり行きにくいのかもしれない。

 ならば、と願いを訂正したならば。

 「いいぜ!丁度、ほんと、丁度いいぜ!!!」

 「?!」

 固まった表情が一気に綻び、サカマタさんは俺の願いを聞き入れた。

 その変わり様に、俺は引いてしまって。

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