うぃざーど?うぃざーど!

▲▲つ38っ! やまとちゃん!じょうずじょうず!

 窓から見たら、もう地上はとうに過ぎて。皆の姿なんて、もう見えない。

 このまま空の旅路の果てに、きっと帝国へ向かうのだろう。

 そう思っている、そんな機内にて。

 「……。」

 スフィアを徐に握り締めたなら、窓から地上を。

 レオおじさんたちがいる方を向いて、また拳を突き出した。

 輝くスフィアが力強く、まるで、皆が近くにいるかのようで。

 それが、頼もしく思えた。

 「……?」

 もう、その、帝国だろうか、高度が落ち始める。

 ……しかし、何も見えない、見えるのは、木々ばかりで。

 また、降りようとしている地点は、さっき俺たちが降り立った。

 基地を奇襲する時の場所に似ているようだ。

 どうしたのだろうか、疑問に思う。

 着陸したなら、後方の扉が開いた。開いた上で、また隊員さんが顔を出す。

 「すまない。ここから先は、帝国の支配域なんだ。飛んでは行けない。」

 「……はぁ。」 

 出した上で言ってきたことには。

 ここから先は、あの基地のような状況らしく迂闊には近付けないようだ。

 生返事で、かつ、一瞬何でと不満も沸き上がったが、ピンと来て押し黙る。

 考えてみれば、帝国が支配している地域なのだろう、あの基地同様。

 そこに踏み入ったなら、危険だね。撃墜されかねない。

 その判断なら、と。

 「それに……。」

 加えて、何だか暗そうな感じだ。 

 「我々自身も、この先にまだ行けないんだ。準備不足もあってね。」

 「……。」

 続くことに、ここから先は自分たちも迂闊に行けない、とのことだ。

 俺は、何となく察しはついたが。

 「何でー?」

 ……察しの悪そうなアビーは首を傾げて。

 「……進んだら、攻撃される。我々だけでは、まだ無理なのだ。もっと、作戦を練らないと、な。そこは、考慮してくれ。」

 「ふ~ん。」

 事情を説明してくれた。

 聞いていたアビーは。

 理解しているのかしていないのかはっきりしない返事をして。

 少し間を開けたなら、理解したか、そっと微笑んで。 

 「だいじょーぶっ!あたしがやっつけちゃうんだから!」

 明るく言って、手を開いて見せる。光が集まり、爪を形成しそうな勢いだ。

 隊員さんは、そんなアビーを見て、同じく微笑んで。

 「頼もしいな。」

 その感想を漏らす。

 「だが……。」 

 その頼もしさに期待した顔は、陰り。

 「……本来は、私たち軍人がなすべきことなのに。まるで、君たちに押し付けるみたいだ。……申し訳ない。」

 申し訳ないと内包した表情で、責任を感じた言葉を紡いだ。

 聞いていたアビーは、陰ることなく。

 「へーきへーき!!あたしとうぃざーど・大和ちゃんがいるもん。困っているなら、お互い様!気にしないでっ!」

 元気な、アビーらしく言った。

 陰った隊員の顔は、それに力強さを感じたか、和らぎ。

 「やはり、頼もしいな。本当に、ウィザードなのかもしれない。」

 そう言った。

 そのやり取りそこそこに、俺とアビー、地に降り立つ。

 そのタイミングで、また隊員さんが口を開いた。

 「帝国に行くなら、おそらく船が安全だと思う。この先に、敵の軍港があるが上手くすれば、船を取れるかもしれない。これは、私からの最後のアドバイスのようなものだが……。」 

 それは、提案で。ただ、言葉が途中切れてしまう。

 「?」

 俺は首を傾げた。

 やがて、表情がまた厳しくなったなら。

 「……正直、マフィンさん……でよかったかな?彼女の言う通り、帝国へ行くのは危険だ。引き返しても、私は咎めない。君たちの仲間たちも、笑いやしないだろう。……行くのだな?」  

 マフィンのと似たような感じで、聞いてきた。今ならば、引き返せるだろう。

 だが、俺は引き返さない。アビーもまた。

 「……行くよ。俺は、ウィザードだ。だから、ね。」

 誉れ高き名前を称しては、その覚悟を告げる。

 「あたしも同じ!困っていたなら、助けちゃうもん。」 

 アビーもまた。

 覚悟を改めて知ったなら、隊員さんは頷く。

 「分かった。」

 静かに言ったなら、今度は航空機に一旦戻り。

 ゴソゴソと中で音を立て、何か抱えて戻って来る。

 「正直、我々が用意できるものは少ない。餞別にしては、多分良い物じゃないが、受け取ってくれ。」

 「!」

 餞別としての物らしく。

 渡された物は、水の入ったボトル。

 固形の軍用食いくつか、スフィアをいくつかであった。

 俺は、頷き受け取ったならそれらをバックパックに詰めていく。

 詰めて、また背負ったなら、それを見て隊員さんは姿勢を改め、敬礼をする。

 「スフィアと共にあらんことを。」

 敬礼と共に、祈りの言葉を告げたなら、そっと笑んだ。

 俺もまた、笑顔になり同じく口を動かして。

 「スフィアと共にあらんことを!」

 同じ言葉を紡いだ。

 アビーもまた、同じように。

 「ええと、すふぃあと共にあらんことを!」

 らしい口調で言って。

 そうして、俺とアビー二人で、帝国の軍港目指して歩き出す。

 振り返り、隊員さんを見ては、手を振って。

 それを繰り返し、とうとう見えなくなるまで遠くまで行った。

 視線を戻し、真っ直ぐ見たなら、彼方の、森の海の果ての。

 本当の海に近い場所に船着き場がある、一つの街のような場所を見つけた。

 そこには、砲塔や球状の……レーダーだっけ?を備えた船や。

 右側に寄って、大きく、真っ平な上部を持つ、船、確か、空母が見えた。

 様子から、確かに、軍港だね。

 その手前には、小さな船着き場もあり、いわゆる漁船なんかも見えた。

 まあ、確かに上手くすれば。

 船を借りれたり、何かできたりするのかもしれないね。

 目的地を見付けたと、アビーに目配せして、俺たちは歩き出す。


 「……?」

 森に入って、目指してみるが。

 隊員さんに言われたほどの危機感が、緊張感がこの森にない。

 耳を澄ましても、鳥のさえずりの音が聞こえるだけで。

 他、怪しい雰囲気も、何もない。

 危険な動物も、ここにはいなさそうで、俺は首を傾げてしまう。

 「何か、変だね。」

 ぽつりとアビーに呟いたなら。

 「?そうかなー?別に普通だと思うよ?」

 アビーはいつも通りの様子で。少し、ずれた意見が帰ってきた。

 森がこう、平和な感じは、いつもの様子だと、訴えてもいるかな。

 「……いや、さ。帝国の軍港が近くなら、もしかしたら、こう、襲われたりとかあるかなって思ってね。それがなくねさ。」

 多分、状況を理解していないかもしれない、俺は説明してみるなら。

 意外そうな顔をして。

 「おー。そうだねー!何で帝国さん、来ないんだろー。」

 「……だよね。」

 理解してくれたようだ。俺は安心して、頷いて。

 「でも。」

 「?」

 アビーは何か、続けるようで。

 「襲われないって、平和だねー?」

 「……。」

 能天気に笑ったなら、そう言った。俺は、沈黙。余計に首を傾げてしまう。

 果たしてそれは、本当に平和だと言えるのか?

 疑問が残ったまま、歩を進めていった。

 「!」

 ようやくと行ったところでだ、怪しげな音が響いてくる。

 強い風切り音で、轟音さえ、轟く。

 何事かと探るものの、顔を上げて探すものの。 

 残念ながら、道中森ゆえ、視界が悪く。

 肝心のその姿を目にすることができないでいた。

 「!」

 アビーも気づいた。

 ならばと、近くの高い木をついでに目にしては。そっと微笑んでくる。

 「木登り、しよう!」

 「……。やっぱり。」

 何を思い付いたか、木登りをしようと提案してきて。俺は、やっぱりなと思った。

 考えたアイデアを早速実行するアビーは、器用に高い木を登り詰めていく。

 登り詰めたなら、俺に手招きを見せて。

 「えへへっ!」

 笑顔も添えて。見ていた俺は、……正直自信を失った。

 だが、折角手招きしてくれているのに、それを無下にするのも癪に思えて。

 「……。」

 俺は帝国に行くって覚悟決めたんだ、これぐらいやれるだろう。

 そう心に言い聞かせて。

 木に手を付けたなら。

 「にゃ、にゃ、にゃ……。」

 まるで、アビーみたいに声を出して上がって行った。

 「ふぃ~。」

 登り切った。

 「えへへっ!大和ちゃん上手!」

 そうしたならアビーが笑顔で出迎えてくれて。さらに、褒めてもくれた。

 「……ありがとう。」

 俺も微笑みで応じて、お礼を言って。

 「?!」

 などと、微笑ましいことを尻目に、今度は発砲音と衝撃が来る。

 いきなり攻撃を受けたように驚き見たならば。

 もちろん軍港が見え、そこから空に向かって光弾が飛び交っていた。

 その光弾の先を見たなら、戦闘機が舞い。

 踊るようにかいくぐり、相手を睨み付けたなら。

 狙うように機体の下部が大きく開く。

 中から爆弾かミサイルか見えたら、光弾の明かりに煌めいて。

 まるで獣の眼光だ、捉えたと落としていった。

 こちらまで爆音と衝撃が来る。

 「……。」

 その光景を見て思うに、帝国への先制攻撃なのだろう。

 そう言えば、さっき基地を手に入れたってこともあったから。

 おそらく、攻撃が可能になって。

 「……ちょっと、急いだほうがいいかな。」

 俺は、思案したなら、ぽつりと呟いた。

 このままだと、……何だか移動手段がなくなりそうだ。

 そう想像すると、急いてしまいそうに。

 「そうだね!行こっ!」

 アビーは同意してくれた。言って、先導するように先に地上へ降りていく。

 「……。」

 それに続くものの、緊張が走る。流石に、高いや。

 けれども、悠長に待ってはいられないと、踏み出したなら。

 軽く、ステップを踏むように降りていく。

 木登り同様、降りるのも上達したようだ。

 「ほいほいほい!!」

 軽く、弾むように言葉も言って。

 降り立ったなら、アビーが拍手をくれた。

 「上手上手!大和ちゃん、できる子~!」

 「……。」

 その褒め様まるで、母親だ。何だか、照れ臭くなり、顔を赤くする。

 「……って、それはいいよ。……急ごう。」

 「うん!そうだね。」

 頭を振って、照れ臭さを消したなら、また道を向き、急ごうと足早に動く。

 ニコニコしてたアビーは、頷いて笑顔のまま、嬉しそうに跳ねながらついて来る。

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