▲▲つ37っ! きっとかえってくるよ!

 その様子は、そのようなこと考えていないのかも。

 マフィンや他のメンバーもさることながら。

 ここで行く選択をした俺までも、不安になった。

 「あなたねっ……!!」

 「へーきへーき!強い敵もぱっかーんしちゃうよ!」 

 「……だからっ……!!」

 能天気な様子は、逆に火に油を注ぐ行為だ、マフィンは余計怒る。

 にもかかわらず、その様子を曲げないアビーだ。

 さらには、俺を向いて、俺の両手を取ったなら、強く手を上下させて。

 「!!ちょ、ちょっと、アビー……?!」

 「だって、大和ちゃんはうぃざーどなんだよっ!絶対、大丈夫っ!!」

 いきなり俺の手を握って、挙句、勝手に上下されて、正直頭が混乱してきた。

 俺を引き合いに出したなら。

 その誉れ高き名を口にして、ある意味の根拠を指示した。

 戸惑いに俺は、声を詰まらせて。 

 その光景にマフィンは……。

 「……ああもうっ!……ああもうっ!!!」

 アビーの振る舞いに混乱し、頭を抱えていて、こちらも言葉を紡げない。

 「?」

 察しの悪いか、アビーはいつも通りで、首を傾げて。 

 「……っ!……っ!!」

 涙堪え、マフィンはずかずかと足を踏み鳴らしてアビーに近づいて。

 「あ……おい……!」

 心配される側の俺は、逆に心配してしまう。殴られるんじゃないか?!

 「バカっ!!」

 「……えぇ……。」 

 アビーに寄るなり、最初は罵声に。

 「バカバカバカバカ!!おバカのアビー!!……いつもいつも、勝手で!いつもボロボロになって!!反省しないし、考えなし!!」

 罵声を続けて、今度はアビーの胸をポカポカ叩いて。

 「っわわっ!マフィンちゃん……!」

 衝撃にアビーは目を丸くして言う。表情に困惑の色が見えた。

 「……それでも、どこまでも、ポジティブで……っ!ううっ……!う~!」

 やがてマフィンから、罵倒の言葉が消え、挙句唸り出す始末。

 言葉がもう、思いつかない様子。

 最後、頭抱えて、唸ったままだ。

 「……あ~、マフィン。ま、落ち着こうや。」

 その様子を見かねたレオおじさんが、彼女に近づいて優しく宥めてくれた。

 それでも分からずやとの怒りや。

 困惑のマフィンは、唸るのをやめられないでいる。

 「それに、だ。」

 付け加えに、レオおじさんはアビーに視線を向けたなら。

 そっと笑い、また、マフィンに視線を戻して。

 「……いつものアビーだぜ。能天気で、ムードメーカー。無謀で、無鉄砲で、危なっかしい所もあるが、案外しっかりしている所は、しっかりしているんだ、信じてやりな。」 

 言い聞かせるように紡いで、頭を撫でていた。

 そうされたマフィンに、アビーは寄ってきて。

 「えへへっ!大丈夫大丈夫!いつものスフィア狩りみたいな感じだよ!あたしの自慢の爪で、やっつけちゃうもん!」

 こちらも、言い聞かせるように紡いだなら、自信満々に。

 両手を広げ、空をも持ち上げるような姿をとって。

 マフィンや、他のメンバーにも見せつけるように。

 俺にも……。

 罵倒さえ、彼女は退けて。言われても、怒って言い返すこともしない。

 無謀か無鉄砲か、怖いもの知らずの、ポジティブシンク。

 「……。」

 そんなアビーの姿に、最も知ったるであろうマフィンは、涙を拭い捨て。

 口元に笑みを浮かべたなら、呆れながらも顔を上げて。

 「呆れた。」

 ぽつりと漏らす。

 「にひっ!」

 褒められてはいないはずだが、アビーは嬉しそうに笑うのだ、自分の牙を見せて。

 「……褒めてないわよ。全く。呆れた。心配しているのがバカバカしくなってきたわ。」

 それはマフィンからも突っ込まれ。

 ただし、マフィンもまた、アビーらしいやと顔も、声も戻って。

 「……そうね。そうよね。アビーはそんなんだもの。」

 また、自分自身に、アビーのことを反芻させて。

 「……アビー。さっきはごめんなさいね。つい、怒ってしまったわ。」 

 それがアビーだと、思い起こしたなら、頭を下げて。

 「でもね、行くなら行くで、気をつけなさい!あなたは、危なっかしい所があるから。いい?」

 続くには、了承してくれたようだ。いや、諦めもあるのだろう。

 「えへへっ!大丈夫!大和ちゃんもいるし!」

 アビーは返事に、その言葉が紡がれて、さらに、笑顔も添えて。

 「……。」 

 らしいね、とマフィンは微笑んだなら。

 そっと、自分の胸元をまさぐり、何かを握り締めたなら。

 アビーに差し出してくる。

 「!」

 アビーが受け取ったなら、それは光り輝く水晶で。

 一段と強く輝く、スフィアだった。

 アビーが持っているスフィアとは違う輝きで。

 ……おそらくマフィンが扱う、強い物の可能性がある。

 「持って行きなさい!そして、帰ってきなさい!それは、約束の手向けのようなものよ。私が使い込んで、鍛え上げたのよ。」

 加えることには、マフィンのスフィアで、つまりは、旅の安全を祈るもの。

 「うん!ありがとう、マフィンちゃん!」

 言ってアビーは、にっこりと笑い。

 受け取ったスフィアを同じように、胸元に入れる。

 「……行ってらっしゃい!」

 それを見届けて、マフィンはその言葉で締め括る。

 「……行ってきます。……それと、必ず連れて帰って来るよ。」

 「行ってくるねー!」

 その挨拶への返答に、俺は頭を下げて。

 さらに、帰還への祈りとして、その言葉を付け加えて。

 アビーは言ったなら、手を振った。

 俺は、近くにいた隊員さんに向き直ったなら。

 「連れて行ってください、帝国まで。」

 そう告げる。

 「……!!」

 隊員さんは、終始見ていただろうが、改めて言われて、戸惑いを見せて。

 「……分かった。」 

 少し考えた後、小さく言う。

 そうしたなら、踵を返して、また、俺たちを輸送してきた航空機に先導する。

 俺とアビーは、付き従う。

 「……アビー!大和!」

 後方から、マフィンが声を掛けた。

 「!」

 「?」

 振り返ったなら。

 「……スフィアと共にあらんことを。」

 「!」

 マフィンは笑顔で、その祈りの言葉を言った。

 俺は、聞いていて、つい胸が熱くなる。

 「大和!」

 今度は、レオおじさんからだ。呼んだなら、拳を突き出してきた。

 応じて俺は同じように拳を突き出したなら。

 空を突いたが、しかし、その延長線上にレオおじさんの拳と重なる。

 そうしたなら、にやりとレオおじさんは笑い。 

 「俺も、駆け付けるぜ!待ってろよ!」

 約束を言って。

 「!」

 それは、心強いもので。胸が余計熱くなった。

 「待って!」

 「!」

 またまた、止められる。見れば、幼子で。

 ようやく、我に返ったか、何か言いたそうだ。

 「……スフィアと共にあらんことを……。」

 彼女もまた、祈りの言葉を言って。

 ……泣き顔とは打って変わって、笑顔を手向けてきた。

 そのタイミングで、航空機のエンジン音が、響き渡る。

 風圧が地を凪ぎ、音は掻き消されて。

 幸いか、言葉はそこになく。

 俺はまた、足を航空機の方に向けたなら、足早に動く。

 アビーは、いつもの屈託ない笑顔を見せて、俺に追従した。

 航空機の後方の扉をくぐったなら、俺はまた振り返り、また拳を突き出す。

 気付いたレオおじさんもまた、同じように拳を向けて。

 扉が閉まる。見えなくなるその時まで、俺は向け続けた。

 閉まって、しばらくして、航空機は飛び立った。 

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